銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 かぐやは言葉を続けた。
「かぐやはその月の都で、数十万歳前の前世の自分の親に偶然に巡り合い、愛しく思いなし、他の方に配るよう割り当てられていた、音楽を奏でる石をつい差し上げたのです。
 その前世の親は、これは他人に配るものではないのか、と尋ねてくれたのに、私は違いますと嘘まで申しました。
 そのため私は月の大神の司直に捕らわれたのです。」
「たったそれだけのことでか?」
「はい。月の律法は厳しいのです。
 そして、私は罰として、こちらの地でもっとも寂しい夫婦を慰め、もっとも凶悪な悪人を改心させるように言いつかって、赤子の姿に戻され、なすべき務めは、しかと覚えたまま、この地に降ろされたのです。」
「な、なんだとお、」
 叫んだ口を開いたまま、天空の月を一瞥すると、広忠は胸の縮みゆく思いで虫の音のように呟いた。
「俺の妻になったのは、そのためだったか?」
 かぐやは懸命に首を左右に振った。
「いいえ、そのためだけではありません。
 正直に申しますと、確かに最初は広忠様のことを恐ろしいとも思いました。
 なれど、この地に体を持ち生きるということは、様々の愚かな、しかしそれ故に強く激しい情を持つということです。
 それは律法ばかり気にする月の民がとっくに忘れておる心なのです。
 かぐやが広忠様のためにひたむきになれたのは、まっことに広忠様のくださる情を嬉しく思い、心底お幕い申した恋のカのおかげです。
 それだけは決して疑ってくださいますな。」
 かぐやが答えると、広忠はその言葉尻を掴んだ。
「そうであるなら俺の元に留まってくれ。
 俺はかぐやなしには、もはや生きた心地せん。
 お願いじゃ、行かないでくれ。」
「そう言われると、もう胸裂く心地がいたします。
 広忠様が改心された時に、私が激しく泣いたのは嬉しいからではございません、別れるのが辛すぎて泣いたのです。
 しかし広忠様が見事に改心なされたからには、かぐやは月の都に帰らねばならないのです。勝手に地上に留まることはなりません。」
 かぐやはそう言うと袖に顔を埋めて号泣した。
「いやじゃ、かぐやは渡さん、絶対、月になど帰さんぞ、」
 広忠は姫を強く抱き寄せようとしたが、かぐやははっと空を振り向いた。
「広忠様、かぐやはそろそろ月の司直に引き戻されるようです。」

 広忠はかぐやを押さえようと思ったが、不思議な力が働いて、指一本動かすことができない。
「いかん、かぐや。
 俺の傍にいてくれ、なあ、思い留まれ。」
 童子のようにねだる広忠に、かぐやが月を指差す。
「もう留まれません、あれが迎えです。」
 見ると、月に純白の光の塊が生まれ、こちらに向けて一筋の光を伸ばす。
 広忠はかぐやを失う恐怖に身の毛をよだて身震いした。
「来るなあ、かぐやは渡さんぞ。」
 広忠は一筋の光を眈みつけ大声で叫んだ。
 その光は滑るように降りて、空に残る少ない雲を突き抜けて、地上へ地上へと向かって眩しさを増してくる。
 すると風もないのに庭の木の葉は渦を巻いて舞い上がりだす。
 広忠は一筋の光の眩しさに目を細めつつかぐやに懇願した。
「かぐや、行くな、
 俺はまだまだ悪党だ。明日にも悪さをするかもしれんぞ。
 お願いだ、この世に留まってくれ。」
「広忠様こそ、多くの徳を積まれて、早う月の都においでください。
 そこでお逢いしたあかつきは、辛い物語も楽しい思い出も心ゆくまで言いかわしましょうぞ。」
 かぐやが言う間にも一筋の光はどんどん近づいて釆る。
「この世の数え方では遠い先かもしれませぬが、またお逢いできる時は必ずまいります。」
「必ずか?」
 吹き上げる強風の中で、広忠が涙を流しつつ聞ぎ返すと、かぐやは屋根の上まで迫っている一筋の光を袖で遮り、強い調子で頷いた。
「はい、きっと月で一緒になりましょう。
 今度は私が広忠様に約束いたします。」
 広忠はかぐやを見つめたが、すぐに首を横に振った。
「……いいや、そんなのは当てのないのと同じだ。
 俺はずっとかぐやを離したくないんじゃあ。」
 叫びながら広忠はありったけの力を奮って、かぐやの手を掴んだ。

 しかし、次の瞬間、眩しい光がかぐやの頭上に降りた。
 そしてかぐやのまわりに緑に輝く五尺ほどのひと形の光が降り立った。
「さあ、参ろうぞ。」
 緑に輝く者の声が響いた。
「かぐや、行っては駄目じゃ。俺はかぐやなしには生きてゆけん。」
 広忠のみっともない言葉に、かぐやが緑に輝く者に問いかける。
「司直さま、私がこの地に留まることはなりませぬか?」
 かぐやが尋ねると、緑の光に黄色い光が混ざった。
「何を愚かなことを言う。
 このような野蛮な地に留まってなんとする。」
「私はこの方に添い遂げたいのでございます。」
「これは、この地でも最も恐ろしい人間、最も卑しき人間じゃぞ。」
「それが見事に改心なされたのです。この方がこれから歩む行方を間違わぬよう、一緒について差し上げたいのでございます。」
 かぐやが言うと、緑の光に赤い光が混ざった。
「よいか。そなたが月に帰れる機会はこの夜限り。これを逃せば、あとはこの地の卑しき者どもと同じように、一千万歳生まれ変わり、一から功徳を積まねばならぬのだぞ。
 すでに十分に積まれた功徳を無にするなど月の大神が許すと思うか。
 それ以上、逆らうと言うなら、月にて新たな裁きを致すしかないぞ。
 月の大神の命に従うのだ!」
 そう言われるとかぐやはうつむいて覚悟を決めるようだった。
 しかし、広忠が叫んだ。
「どうしてもかぐやを連れてゆくならば、」
 広忠が太刀を抜くと、かぐやは大声で制した。
「広忠様、おやめくだされ、月の大神様ご直参の司直様です、畏れ多いこと。」
 広忠は咄嗟に考えて、太刀の刃を自分の胸に向けた。
「かぐやを連れてゆくならば、俺は生きていても意味もない。
 もともとかぐやが認めてくれなければ、まともな心もない、人の形をしたただの獣じゃ。 ここで俺とかぐやと、二人突き通して果てて見せるわ。」
 司直は吐き捨てる。
「け、汚らわしい、吐く言葉の全てが忌まわしいわ、さ、姫、参るぞ。」
 司直の言葉だが、かぐやは従おうとしない。
「お待ち下さい。」
「なんじゃ?」
「私は月に帰るより、この男の刃にて共に死ぬることを選びます。」
 緑の光が紫に点滅した。
「ゆ、許さんぞ、今の忌まわしき言葉、月に帰りても大神様もお許しにならんぞ。そのような言い様、心の芯まで汚れて腐り果てたか。」
 しかし、かぐやは司直から広忠に向き直る。
「広忠様、どうぞ、私の覚悟はなりましたぞ。」
「おお、かぐや、よいのだな?」
 広忠がそっと太刀を自分の胸に突き立てようとし、切っ先から血がわずかばかりぴゅっと噴き出し、緑の光の方へ飛んだ。
「グゥゲッ」
 月の司直は吐き出すような声を上げ、かぐやは急いで広忠の手がそれ以上進まぬよう止めた。
 緑の光はかぐやの頭上の光に吸い込まれると、大きな白い光は逃げるように空を昇り、天に引き返した。 
「かぐや?」
 広忠は予想外のなりゆきに目をまばたいた。
「ようございました。司直様には広忠様の血の汚れがよほど恐ろしかったのです。」
「では、かぐやはずっと俺の傍にいてくれるのか?」
「はい、約束いたします。
 広忠様、私が添い遂げますゆえ、これからはいかなる悪さも許しませぬぞ。」
 かぐやが笑みを浮かべ見つめると、広忠はにやにやとして頭を掻いた。

 仰ぎ見れば仲秋の満月、実に静かな夜空である。



 f_02.gif プログ村

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コメント

あら~ほんとの話だったんだわ。
いや良かった良かった。
それにしてもかぐやは罰としてこの地に降ろされて来たんですねえ。そのへんで二人の結びつきに納得しました。

  • 2007/12/18(火) 23:06:00 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つるさま ありがとうございます。

竹取物語で月の迎えが、姫は罪を犯して地に降ろされたと述べるんですよね。しかし、どういう罪かは知らされない。そこが今回の発想の始まりでした。

  • 2007/12/19(水) 00:25:33 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

姫サイドの裏事情あっての広忠との蜜月だったんですね。
悪人を改心させるミッションを秘めていたとは…。
その為だけに妻になったのか、と広忠に問いつめられて答えた
姫の言葉が素敵でした。
月の使者の色が移り変わる様が、ビジュアル的に浮かんで印象的でした。

  • 2008/03/13(木) 20:50:12 |
  • URL |
  • みふみ #5sh.85gk
  • [編集]

◆みふみさま ありがとうございます。

悪人を改心させるミッション、私なりの想像ですけれどね。
月の使いが逃げ帰るのが呆気ない感じですが、それほど地球の人間の穢れを怖れていたということで^^

  • 2008/03/13(木) 23:29:09 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #DhVq6Ht6
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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