銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 皇子が父と夕餉を共にして、すっかけ打ち解けた様子で談笑する隣で、かぐやは震えていた。広忠だけにと誓った身をまもなく皇子に任せなければならないのかと考えると気が気ではなかったのだ。
 やがて母が勧める。
「おふたりはそろそろ寝所に入られたらどうです。」
 広忠が来るのはもっと遅い時刻だ。できればそれまで引き伸ばしたい。
 かぐやはなんとか抵抗を試みる。
「まだ早うございます。」
 かぐやが言うと、母が言い返す。
「もう、よい頃ですよ。
 姫は男女の道をよく知らぬのですから、優しい皇子さまによく教えてもらいなさいませ。」
 かぐやはさらに抵抗を試みる。
「皇子さまは一度ご自分のお屋敷に戻られてから来るべきではございませんか。」
 本来なら、皇子はいったん帰って、かぐやの室に三日間、通うのが普通の手順なのだ。
 そして、父母は三日間、それに気付かないふりをした後で所顕し(ところあらわし)の宴会を催す。
「かぐや、めでたいことなのだから、そのように形に捉われなくてもよいではないか。」
 ほろ酔い加減のかぐやの父が言うと、皇子も「では、父殿のお言葉に甘えるとしましょうか」とご機嫌である。
「さ、かぐや姫。」
 皇子に明かした名を呼ばれ、かぐやは涙を流しながら手を引かれて寝所に入った。

「かぐや姫、そなたは、ほんに麗しいのう。」
 そう誉めて皇子が抱き寄せようとする腕を、かぐやはするりとかいくぐって几帳の陰にまわる。
「そのように恥ずかしがらずともよい。
 さあ、おとなしく側においでなさい。」
 皇子が捕まえにかかると、かぐやはさらに逃げた。
 しばらく几帳や燈台のまわりでのんびりした追いかけっこが繰り広げられた後、ようやく皇子はかぐやの袖を握って捕まえた。
「はは、妻が夫の気持ちに背いてはいけませぬぞ。」
 そこで皇子がやさしく肩を胞き寄せる。
 すると、かぐやはそれを力を込めて突き放した。
 そうなると、さすがの皇子も真っ赤になってかぐやを叱りつける。
「そなたは余を侮辱するつもりか?」
 それから皇子は気を取り直して、ひとしきりかぐやに男女の仲を諭して聞かせた。

「なにも恐がらずともよいのじゃ、余が優しう手ほどきするゆえの。」 
 皇子は笑みを浮かべながら、今度は逃げられないよう力を込めて強引にかぐやにのしかかってきた。
 表衣を取られ衵(あこめ)を剥がされ、汗袗(かざみ)一枚となったかぐやは覚悟の涙をこぼした。
 そして、みっつ瞬きするほどの間があって、急にのしかかっているはずの皇子の重さがなくなった。
 かぐやが不思議に思って目を開いて見た。
 そこには、いつの間にか広忠が皇子を組み敷いて姫に徴笑みを送っている。
「だ、誰じゃ、放せ。」
 皇子は足をばたつかせて喚いた。
 かぐやは嬉しさを満面に広げると、素早く頭を勧かせて、広忠に黙っているよう、自分の口を手で押さえて目くばせした。
 そしてさりげなく皇子に聞く。
「皇子さま、どうされました?」
「誰かが余の体を締めつけておるのじゃ、」
「私には見えませんが、もしや、何か出ましたか。」
 かぐやが怯えたふりをして言うと、皇子は聞き返す。
「出たとは、なんじゃ?」
「はい、実を言いますと、私は、三年ほど昔、殿方を迎えたことがあったのですが、その時、鬼が出たそうで。
 いえ、私の目には何も見えなかったのですが。
 ちょうど今、皇子さまと同じことを今は亡き殿方が申してたのでございます。」
「なんじゃと!」
「最初の晩は鬼はほどなく消えたそうでございますが、すぐれた大徳の調伏も効果なく、ひと月後の晩、殿方はとうとう取り殺されてしまったのです。」
 かぐやが打ち明けると、皇子は恐怖に声を引き攣らせて言った。
「ひ、卑怯ぞ、
 そんな怖ろしい話を隠して余を迎えるとは卑怯ぞ、」
「しかし、私には一向に心当りはなかったものですから。」
「心当りもなく鬼が出るものか、あ、痛っ。」
 広忠はここぞとばかり皇子を締めあげた。
「鬼よ、許せ。
 どうか、命ばかりは助けてたもれ。」
 皇子が懇願すると、広忠は、ことさら低い声を作って皇子を脅かした。
「よおし、二度と姫に近づくんじゃねえぞ、
 その時は手足をもいで、胴を鍋で煮て食ってやるからな。」
 広忠に背中を蹴飛ばされた皇子はかぐやを振り返りもせず、這う這うの体で部屋から逃げ出した。
「広忠様の乱暴も役に立つことがあるのですね。」
 かぐやはそう言って広忠に笑いかけた。
 まもなく、父が驚いた声で室の外から聞く。
「かぐや、皇子さまが慌てて帰られたぞ、何があったのだ?」
「さあ、なんでも鬼を見たとか申されて。」
 かぐやが言うと、広忠は口を押さえて笑った。


 f_02.gif プログ村

【故事メモ 所顕し(ところあらわし) 】
 この時代、神仏に結婚を誓うという儀式は一般になかった。通い三日目に開かれる所顕しが、親戚への結婚披露宴となっていた。

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コメント

そうか~さすがかぐや姫。
グッドタイミングで助けが来てくれて
それを鬼のせいにするなんて(爆)
頭良すぎじゃないですか~v-391

あと3人どうかわすか楽しみにしています。

それにしても親に床入りを勧められるなんて・・・v-356

  • 2007/12/08(土) 22:33:41 |
  • URL |
  • 舞 #mQop/nM.
  • [編集]

◆舞さま ありがとうございます。

でも、舞さんに、なかなか結婚したがらない娘がいて、どこかの皇太子が求婚に来たら、娘の気持ちを忘れて、こりゃ絶対お得だからと勧めませんかね?勧めないか?

  • 2007/12/08(土) 22:58:29 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

どうでもいい人に助けられても嬉しいのにそれが思いを寄せる人なら最高でしょうね。
それにしても女性がいやがっているのにっていうこういうシーンは苦手。男性にはわからないでしょうが女性はほんとに怖い思いをしているんですよ。
事がすめばなんとでもなるという考えも嫌いです。映画・TV・小説etcでこういうのがなくならないのは圧倒的に書き手が男性だからなんだよなあ。感想からずれてごめんなさい。

  • 2007/12/08(土) 23:21:38 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つるさま ありがとうございます。

いやな思いをされた方、つるさんの他にもいらしたかもしれないですね。すみませんでした。
短編の「万華鏡」では冒頭にイジメシーンのお断り入れましたが、読んでいただいた方から、市販されている小説や雑誌での連載はどうなのか?と疑問をいただきました。
そこらへんから意識が変わらないといけないかと思います。

  • 2007/12/09(日) 11:35:23 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

一朗さん。気をつかわせてごめんなさい。
苦手なシーンではあるけどここでは必要なシーンだし平安時代を思わせる「のんびりした追いかけっこ」というように一朗さんははんなりとした表現を使ってます。コメントで小説の感想ではなく自分の意見を述べるのはいけませんね。一朗さんを責めたわけではありません。

  • 2007/12/10(月) 00:09:29 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つるさま ありがとうございます。

そうでしたか。少しホッとしました。強い方はいいんですが、中には感受性の敏感な方もいるし、時代もよりジェントルになってゆくだろうし。課題ですね。

  • 2007/12/10(月) 10:18:32 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

お~間一髪!!
広忠ナイスです。

しかし、養父も養母もかぐや姫の気持ちを大事にしてくれないところが、ちょっと悲しいですね;;

応援ポチット

  • 2007/12/17(月) 21:31:21 |
  • URL |
  • 奈緒 #-
  • [編集]

◆奈緒さま ありがとうございます。

間一髪でしたね。親も年を取ってかぐやを一人にしておくのが心配なのではないかと思います。

  • 2007/12/17(月) 21:55:08 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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