銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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八 蓬莱の玉の枝

 その夜、かぐやから右大臣の話を聞かされた広忠は声を上げて笑ってしまい、すぐに、かぐやにたしなめられた。
「声を下げてくだされ、父上、母上が起きます。」
 広忠は小さい声であやまる。
「すまんすまん、しかし、それは見ものだったのう、わしのいる時に来てくれればよいものを。」
「ええ、見せとうございました。」
「なあ、かぐやよ、この家を出て俺と二人きりで暮らさないか?」
「急にどうしたと言うのです?」
 かぐやは広忠を見上げた。
 広忠はかぐやの肩を強く抱きしめて続ける。
「こう声をこらえておるのも疲れる、それにかぐやと一時も離れたくないんじゃ、よいだろう?」
 かぐやは顔を嚇らめながら言う。
「お気持ちは嬉しうございます。なれど、かぐやは父上母上を悲しませるわけには参りません。
 娘はいつまでも親の元で暮らすのがこの世の習わし、
 まして血の繋がりもないかぐやを我が子以上に大切に育ててくれた父上母上です。
 裏切ることはできませぬ。」
「ふむ、そうか」
 広忠は相槌を打ちながらも、かぐやと二人で暮らす家を探そうと決めた。
 広忠はいまだ強盗から足を洗ってなかった。猪や鹿を売ってえる稼ぎなどたかが知れている。ちょっと酒をたらふく飲み、小遣いを手にしようとすれば、強盗の方がはるかに手っ取り早い。確かに空海の予言は気にかかったが、その後、何ヶ月すぎてもかぐやとの仲が裂かれる兆しはどこにもない。となると、気が大きくなって昔の悪癖が頭をもたげてきたのだ。そして少しずつ蓄えもできてきたのである。
「広忠殿、悪事はおやめくだされ。」
「な、なんじゃ、急に、」
「時々、小遣い稼ぎに悪さをしておるでしょう?」
 広忠は慌てて心に呟いた。まったくかぐやの勘の鋭いこと、神通力のようだわい。
「いや、もう殆どないも一緒じゃ。
 それより、かぐや、赤子はまだできんか?」
 すると、かぐやは寂しそうな顔になり、
「まだでございます。
 こればかりは、私や広忠様の気持ちだけではどうにもなりませぬ。」
「まあ、焦らずともよいわ。
 わしは赤子を合図にきっぱり悪事をやめるとの誓い忘れておらぬぞ。」
 広忠が言うと、かぐやはうなづいた。


 それからひと月ほどしたある日、かぐやと広忠の平穏な日々にまたもや暗雲が垂れ込めた。
 牛車三台に従者を十数人引き連れて葛原皇子が、かぐやの家を訪れたのだ。
「父殿、例の品を手に入れたゆえまかりこした。」
 皇子が言うと、かぐやの父がかしこまる。
「これはこれは、御足路、恐悦にございます。」
「うむ、まずはささやかな貢ぎ物を受け取ってくれ。」
 引き出されたのは、黄金の仏像が一体、目にも鮮やかな反物が二十本あまり。砂金が五袋、金銀紅白の糸数十束、酒が三樽、ニ尺もありそうな鯛が一尾、米が五俵、そして見事な焼き物の壷や、向こうの透けて見える不思議な水差しなどがずらりと並べられ、父は貢ぎ物のあまりの多さに目を白黒させた。
 最後に葛原皇子は綾織錦繍(あやおりきんしゅう)の布を掛けた長櫃(ながびつ)を、父の前に置かせ、紐を解かせた。
 すると中にひと抱えほどの大きさの鉢に、白金に輝く枝が三本差してあった。
 父はその目眩ゆい輝きに感嘆した。
「なんともまあ、この世の物とも思えぬ美しさでございますなあ!」
「これが蓬莱の玉の枝よ」
「噂には皇子様自ら船に乗られて蓬莱を目指されたと聞いておりますが。」
「うむ、おかげでずいぷんと難儀な目に遭うたぞ。
 早く手ずから姫に見せてやりたいが。」
「はっ、ただ今、呼びます。」
 母に従い、そろりそろりと扇で顔を隠したかぐやが入ってくると、葛原皇子は微笑みかけた。
 皇子は鉢をかぐやの前にずらすと目信たっぷりに言う
「姫、御覧なされ、
 これぞ、そなたの言われた蓬莱の玉の枝。」
 かぐやは一瞥するなり疑いをかける。
「まことの品と言い切れますか?」
「もろろんのことじゃ。」
 皇子は山羊鬚をつまんでうなづいた。
 皇子は右大臣が偽物の火鼠の皮衣を見抜かれたことは既に知っていた。しかし、皇子の難題は白金の枝である、本当に白金で作れば偽物とされるはずがなかった。もちろん唐土の細工師を捕らえて白状でもさせれば別だが、そのようなことはまず無理だ。
 皇子は自信たっぷりに言う。
「さて、今度は姫が私に約束を果たす番ですぞ。」
 かぐやは扇で顔を隠したまま言う。
「まことに、蓬莱の玉の枝とお聞きして安堵いたしました。
 このように霊験あらたかな不死の薬を私ごときが持ちては不遜となりましょう。
 この蓬莱の玉の枝は天子様に献上いたすことといたします。
 よろしいですね?」
 そう言われると皇子は急に困りはてた。
 天子、つまり今の嵯峨帝に、自分が手に入れた不死の薬を献上するということは、嵯峨帝に不死を献上し、自分は永久に帝になるつもりはないと公言したと取られても文句が言えないのだ。それは困る。
 さらに、蓬莱の玉の枝が不死の薬でないことはいずれ知れてしまう。その時、先立って兄帝と争い、これを破ったという気の強い嵯峨帝が、自分にどんな罰を与えるか想像するだに恐ろしい。
 思わず皇子は言う。
「姫よ、何も帝に献上せずともよいではないか。」
「なぜ、そのように言われますか?」
「……。」
「献上できぬのは、この蓬莱の玉の枝が偽物だという証しでございますな。」
「ううむ。」
 葛原皇子はかぐやの機転の前に、すっかり言葉を失った。

 しかし、そこへ思いがけない助け船が現れた。
 父が強い調子でかぐやを叱りつけたのである。
「姫。いい加減になされ。
 そのように尊い方をやりこめて、貴方には畏まるという心がないのですか?」
「しかし、約束は約束でごさいます。」
「約束と言われるが、最初から無理な難題を押しつけいるではないですか。
 尊い方々の心を弄ぷようなことをして恥ずかしくないのですか?」

 思いがけない事の成り行きに、かぐやは蒼ざめて言う。
「しかし、まことでないものをまことと偽る方に嫁ぐなど……。」
「姫はもう婿を迎えるべきお年なのですよ。
 たとえ偽物だとわかっていても、相手が自分のためになされた苦労の並み並みならぬことを思い知れば、次第に惹かれる気持ちの起きてくるのが、人の心というものです。
 それを、いつまでも聞き分けのない童女のごとき有り様で、父も胸つぶれる心地です。
 いい加減になされよ。」
「そ、それは。」
 かぐやがなんとか言い訳を始めようとする。
 と、父は床を平手で鋭く叩き、かぐやは雷に遭ったように息を詰めた。
「姫も今は聞き分けのないことは控えて、皇子との結婚を承知しなければなりません。」
 かぐやは必死に断る方策を思案したが名案は見当らない。
 葛原皇子は余裕の笑みを取り戻して言う。
「父上、そのように責められては姫が可哀想ですぞ。
 姫とて、あまたの男から婿一人を選ぶに困りはてた末に、かくなる難題を出されたのですから、姫の心根が悪いのではありますまい。
 強いて言えば姫が美しすぎることが罪なのですから、きついことを言われるな。
 私は、姫に納得いただけるまで、時間をかけて説得しましょう。」
 父は「それには及びませぬ」と平伏する。
 そして上げた顔をかぐやに向けると言い放った。
「姫よ、もうお断りはできませんぞ。
 身分も志もこれほど立派な皇子を夫にお迎えできるとは、おめでたいかぎりです。
 今宵こそ、そなたは皇子と結ばれるのです。」
 かぐやは、もはや皇子を断れない成り行きに追い詰められてしまった。



 f_02.gif プログ村

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コメント

えっ!あっさりかわせなかったんだ。どうしたんだろう。そしてどうなるのかしらん。これが連載のじれったいところね。

  • 2007/12/08(土) 13:23:57 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つるさま ありがとうございます。

かぐやも父に強く出られると、弱いようであります。

  • 2007/12/08(土) 15:51:57 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

かぐや、危うし!
続きを読んできまーす。

  • 2007/12/08(土) 22:26:41 |
  • URL |
  • 舞 #mQop/nM.
  • [編集]

◆舞さま ありがとうございます。

たぶんあーなって、こうなるんじゃないかな(笑)よろしくお願いします!

  • 2007/12/08(土) 22:47:45 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

むむむ。雲行きが怪しくなってきましたね~。
かぐや姫まさかの四面楚歌。

続きが気になりつつも、今晩はここまで~。

応援ポチット

  • 2007/12/16(日) 22:55:20 |
  • URL |
  • 奈緒 #-
  • [編集]

◆奈緒さま ありがとうございます。

そう、大ピンチなのであります。さて、どうなりますか。

  • 2007/12/16(日) 23:02:15 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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