銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 三日後、歌の返事をもらうため、再び、かぐやの家に五人の貴びとが集まった。
 かぐやは扇で顔を隠したまま、父の隣に座り、二人は深々とお辞儀した。
 父が言う。
「わざわざおいでいただいて恐悦至極にございます。
 さて、五人のやんごとない方々に想いのこもった歌をいただいて、娘もたいそう感激しておりましたが、この中から夫一人を選ぶのははなはだ難しいと申します。
 そこで、娘の方から皆様に手に入れていただきたき物を申し上げ、それを手に入れた方を夫としてお迎えしたいなどと、心得違いを申します。
 父の私から見ても生意気この上ない態度で、これはもう私が娘の躾けを誤ったために相違なく、申し開きもございません。
 こんな田舎者の娘の世迷言に気を悪くなさった方がいましたら、どうぞ、すぐにもお帰りいただき、娘のことはお忘れいただいた方がよろしいかと思われます。
 さような方はおられましょうや?」
 かぐやの父の問いかけに、五人はしんと静まり返った。
 大伴皇子が、静寂を破り、ほほっと笑って言う。
「心配めさるな、我ら、おなごに物をねだられるのは馴れておるゆえ、いささかも心苦しうないぞ、のう皆もそうであろう?」
 大伴皇子が横を向いて同意を求めると、四人は同時にうなづいた。
「まったくでございます、心配めさるな」
 それを受けて大伴皇子が言う。
「聞き及んだであろう、苦しうない、姫、ねだりたきものを申してみよ。」
 するとかぐやは父に目配せして、自ら言う。
「お心遣いありがとうございます。
 それでは私より申し上げます。

 大伴皇子さまには、仏の御石の鉢をお願いいたします。
 これはお釈迦様が四天王の奉じた鉢を重ねてつくった鉢だそうです。

 葛原皇子さまには、蓬莱(ほうらい)の玉の枝をお願いいたします。
 これは蓬莱山に生える白金に輝く枝で、不死の薬の材料だそうです。

 右大臣藤原園人さまには、火鼠の皮衣を、お願いいたします。
 これは唐土の伝説の火鼠からつくった衣だそうです。

 大納言春日御行さまには、龍の頸の玉を、お願いいたします。
 これは龍の頸の中にあり、口を開くと牙のところへ現れる五色の玉だそうです。

 中納言菅原麻呂さまには、燕の子安貝を、お願いいたします。
 燕が誰も見ていない時にだけ産むという黄金の子安貝だそうです。

 わがままな願い、叶えていただけたら幸いに思います。」
 かぐやは深くお辞儀して、麗しい黒髪をたっぷりと見せた。
 五人の貴びとはかぐやの黒髪に嘆息しつつも、思いがけない難問に考え込む。
 どうみても手に入れるのが難しそうな物ばかり、いや、そもそもこの世にあるかさえ疑わしい物ばかりなのである。
 しばらく沈黙の間が流れた。
 しかし、右大臣の藤原園人が他の四人を出し抜いて言った。
「あいわかった。きっと姫を喜ばせてみせよう」
 すると、「待て」と声がかかる。負けてはならじと大伴皇子、葛原皇子、春日御行、菅原麻呂も同じように繰り返した。
「では、姫、一番早くに品物を持ちよった者が夫でよいな?」
 大伴皇子が念を押すと、かぐやは頷いた。
「はい、その時は必ず夫にお迎えいたしましょう。」
 「おお」と五人からどよめきのような感嘆が洩れた。
 
 部屋に戻ったかぐやに、広忠が小声で尋ねた。
「どうだ、うまくいったか?」
「はい、五人の貴びとにそれぞれ難題の品をお願いいたしました。
 皆、呆れた様子でしたが、一人が『きっと姫を喜ばせてみせよう』と言い出すと、他の四人も必ずと約束して帰られました。
 しかし、いずれも元よりこの世にないもの、これであきらめてくださるでしょう、」
 かぐやが言うと、広忠は「うんうん」と領き、続いて、にやにやして懐に手を入れ探ると櫛を取り出した。
 と、途端にかぐや迦具夜は厳しい目つきになって叱った。
「広忠様、また悪事を働きましたね?」
 かぐやは、広忠が悪事をはたらくと、たいてい鋭い勘で見抜くのであった。
 広忠はいつものように苦しい言い逃れを始める。
「い、いやいや、この櫛はだな、猪を十頭ばかり獲って、売った代金で買うたのじゃ。
 坊様の書いた珍品とはいかぬが、どうだ?
 なかなか不思議な木地の櫛であろう。」
 広忠が笑いながら言うと、かぐやは立って厨子から簪(かんざし)を取り出して見せた。
「これはどうです?」
「棒みたいな詰まらぬ簪だな。
 もう少し細工のしようはないかのう。」
 広忠は知ったかぶりにけちをつけた。
「それは先ほどの殿上人の一人がこの前、土産に置いて行ったものですが、同じ材で出来ているでしょう?」
「ああ、そうだな。」
「それは象という天竺の大きな動物の牙で作ったもので、銀五貫もするそうです。」
「げっ、そんなにするのかよ。」
「ですから、その櫛の方は銀十貫以上します。猪など百頭売っても買えませぬ。」
 かぐやが断定してみせると、広忠は慌てて姫の手を握りしめて謝った。
「すまん、かぐや、わしが悪かった。」
「どうしてそんなに悪事ばかりなさいます。」
「ただ、かぐやを喜ぱせたかっただけなんじゃ。
 家司に騒がれたが、かぐやの言葉を思い出し一人も殺めていない。
 どうか今回は許してくれ、のう?」
「情けない、他人様から盗んだ物など貰って、かぐやが嬉しいとお思いですか?
 そろそろ悪事からきっぱり手を引いてくだされ。」
 かぐやが涙を浮かべて頼むのを見ると、広忠は空海の予言を思い出した。
 予言の通り、かぐやに惚れながら生き別れするとしたら、その原因は広忠の悪事の為に違いない。そう思うと広忠は家司を張り倒して物を奪った時の楽しみが急に失せてしまうのを感じた。
 ここはかぐやの言う通り、そろそろ思い切ろうかと考えた。
 そして広忠はかぐやを喜ばせようと言葉を選んで誓った。
「そうだな、俺たちに可愛い赤子が出来たら、それを合図にきっぱりと悪事から足を洗ってみせる、本当だ、八百万の神にかけて誓うぞ。」
 広忠は笑みを浮かべてかぐやの顔を見詰めた。
 姫はびっくりして広忠を見つめた。
「かぐや、どうじゃ?」
「は、恥ずかしいこと、けど嬉しゅうございます、」
 かぐやは遅ればせに笑みを返した。
「そうか、でも嘘ではない、誓ったぞ。」
 広忠はそう言うと、かぐやの唇を吸って、二人はひとしきり睦み合った。


 f_02.gif プログ村


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コメント

あらあら~こんなにラブラブなのに
別れる事になるのかしら?
なんだか単純な広忠が可哀想な気もします。

それにしても無理難題な・・・
でも誰か持ってきちゃったらどうしましょv-12

  • 2007/12/05(水) 23:44:43 |
  • URL |
  • 舞 #mQop/nM.
  • [編集]

たった一人の人に蔑まれることの恐さ。よくわかります。今の幸せを描くと言うことはこのあとの展開が思いやられて少しせつないですよ。

  • 2007/12/06(木) 00:42:57 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆舞さま ありがとうございます。

別れないで済むように広忠はがんばると思いますよ。

◆つるさま ありがとうございます。

たしかに空海は予言しましたが、絶対そうなるとは限らない、広忠の努力を応援してやって下さい。

  • 2007/12/06(木) 10:54:11 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]

まだ悪事を止められないとはいえ、少しずつ広忠の心境にも変化が現れてきましたね~。

ただ、今までおかしてきた犯罪の報い。
それが怖いところです。
かなりの"おたずね者"でしょうから。

応援ポチット

  • 2007/12/14(金) 22:53:05 |
  • URL |
  • 奈緒 #-
  • [編集]

◆奈緒さま ありがとうございます。

そうですね、スパッと切り替えできるかどうか。過去はどこかで清算を求められるのかもしれませんね。

  • 2007/12/15(土) 12:45:36 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #-
  • [編集]
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    飛べなくても頭が悪くても
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