とはいえ、父母は折りにふれてかぐやに熱心に縁談を勧めるようになった。
しかし、密かに広忠と契っているかぐやはその都度、にべもなく父母の願いを断る。
そんなやりとりが幾度か繰り返されるうち、いよいよかぐやの美貌の噂が高まり、色好みの都の殿上人までが次々と求婚に訪れるようになっていた。
雪のちらつく昼下がり、広忠はかぐやの家に向かう途中、道で牛車にすれ違った。
牛車の中からは振られた殿上人なのだろうか、憤慨の声がする。
「まろが文も受け取らぬとはたいした礼儀よ。
どれほど美しいかは知らぬが、たかが思い上がった田舎娘ではないか」
そう言うと、なぜか節をつけて歌い出す。
「くたびれ損とは丹波のかぐやよ」
殿上人の牛車をしり目に、広忠はかぐやの家にたどり着いた。
すると広忠は家の垣から数十歩離れた茂みに向かう。
そして、巨体の広忠でもひと抱えある大きな岩を持ち上げてずらした。
姫を案じる老父母や、熱心に垣に貼りついている男達に見つからずに通うため、広忠は怪力にものを言わせ、その岩の下からかぐやの部屋の床下まで地下道を掘って、そこからかぐやの部屋に出入りしていたのだ。
広忠がいつものように床板を上げ忍び込むと、かぐやは蔀戸(しとみど)を固く閉ざした部屋で紙燭の明かりを灯して眩ゆい鏡を眺めていた。
「かぐや、また鏡を見ているのか。」
「まあ、広忠様、いつの間に?」
「たった今さ。
床板を外す音にも気付かねえとは、よっぽど物思いに耽っていたんだな。」
広忠が言うと、かぐやはうなづいた。
「ええ、ちょっと」
「それにしても見事な鏡だ、
紙燭の僅かな光を朝日の如く変えるのだからな。
ちょいと見せてくれ。」
広忠はかぐやから鏡を借りると己れの髭面を映してみる。
かぐやの美しさの対極にある、己のいかつい凶悪な顔を眺めていると、今まで何度もかぐやにぶつけてみた疑問をまた持ち出した。
「かぐやよ、どうしてお前は俺のようなひどい悪党に身を許す気になったのだ?」
広忠が問いかけるとかぐやは頬を染め微笑んで答える。
「当の男女に恋の理由などわからぬものです。
宿縁と言うより他はないでしょう。
それに広忠様は御自分で思われるよりずっと良い方です、かぐやが言うのですから嘘ではありません。」
そう言われると広忠は決まって嬉しいような、それでいて恐いような不思議な気持ちになるのだった。
それ以上問うこともないから、広忠は鏡をかぐやに返した。
かぐやは黙って眩しい鏡を巾着袋にしまう、そのいつになく沈んだ様子を見て広忠は尋ねる。
「で、かぐやの気にしてるのは、どんな心配ごとだ?」
「はい、実は都の貴ぴとが何人か求婚してきて、父上も母上もたいそう乗り気なのです。」
「そういやこの寒さの中、牛車が数台止まっていたな。」
「今、その五人の貴ぴとが揃ってしまい、向こうで父母と話をしているのです。」
姫が言うと、広忠はどんな奴らか見たくなった。
「ちょっと覗いてよいか?」
「覗くだけならよいですが、決して飛び出たり、怒ったりしてはなりませんよ。
もしなさったら、広忠様とのこと考え直しますよ。」
「心配するな、こう見えてもわしはかぐやの言いつけは守るでの。」
広忠が戸板を指一本分だけ開くと、老父母の背中と、その向こうにあでやかな着物の貴公子が五人座っているのが見えた。

五 求婚者たち 後編へ
姫盗り物語 目次へ
ホーム トップへ
しかし、密かに広忠と契っているかぐやはその都度、にべもなく父母の願いを断る。
そんなやりとりが幾度か繰り返されるうち、いよいよかぐやの美貌の噂が高まり、色好みの都の殿上人までが次々と求婚に訪れるようになっていた。
雪のちらつく昼下がり、広忠はかぐやの家に向かう途中、道で牛車にすれ違った。
牛車の中からは振られた殿上人なのだろうか、憤慨の声がする。
「まろが文も受け取らぬとはたいした礼儀よ。
どれほど美しいかは知らぬが、たかが思い上がった田舎娘ではないか」
そう言うと、なぜか節をつけて歌い出す。
「くたびれ損とは丹波のかぐやよ」
殿上人の牛車をしり目に、広忠はかぐやの家にたどり着いた。
すると広忠は家の垣から数十歩離れた茂みに向かう。
そして、巨体の広忠でもひと抱えある大きな岩を持ち上げてずらした。
姫を案じる老父母や、熱心に垣に貼りついている男達に見つからずに通うため、広忠は怪力にものを言わせ、その岩の下からかぐやの部屋の床下まで地下道を掘って、そこからかぐやの部屋に出入りしていたのだ。
広忠がいつものように床板を上げ忍び込むと、かぐやは蔀戸(しとみど)を固く閉ざした部屋で紙燭の明かりを灯して眩ゆい鏡を眺めていた。
「かぐや、また鏡を見ているのか。」
「まあ、広忠様、いつの間に?」
「たった今さ。
床板を外す音にも気付かねえとは、よっぽど物思いに耽っていたんだな。」
広忠が言うと、かぐやはうなづいた。
「ええ、ちょっと」
「それにしても見事な鏡だ、
紙燭の僅かな光を朝日の如く変えるのだからな。
ちょいと見せてくれ。」
広忠はかぐやから鏡を借りると己れの髭面を映してみる。
かぐやの美しさの対極にある、己のいかつい凶悪な顔を眺めていると、今まで何度もかぐやにぶつけてみた疑問をまた持ち出した。
「かぐやよ、どうしてお前は俺のようなひどい悪党に身を許す気になったのだ?」
広忠が問いかけるとかぐやは頬を染め微笑んで答える。
「当の男女に恋の理由などわからぬものです。
宿縁と言うより他はないでしょう。
それに広忠様は御自分で思われるよりずっと良い方です、かぐやが言うのですから嘘ではありません。」
そう言われると広忠は決まって嬉しいような、それでいて恐いような不思議な気持ちになるのだった。
それ以上問うこともないから、広忠は鏡をかぐやに返した。
かぐやは黙って眩しい鏡を巾着袋にしまう、そのいつになく沈んだ様子を見て広忠は尋ねる。
「で、かぐやの気にしてるのは、どんな心配ごとだ?」
「はい、実は都の貴ぴとが何人か求婚してきて、父上も母上もたいそう乗り気なのです。」
「そういやこの寒さの中、牛車が数台止まっていたな。」
「今、その五人の貴ぴとが揃ってしまい、向こうで父母と話をしているのです。」
姫が言うと、広忠はどんな奴らか見たくなった。
「ちょっと覗いてよいか?」
「覗くだけならよいですが、決して飛び出たり、怒ったりしてはなりませんよ。
もしなさったら、広忠様とのこと考え直しますよ。」
「心配するな、こう見えてもわしはかぐやの言いつけは守るでの。」
広忠が戸板を指一本分だけ開くと、老父母の背中と、その向こうにあでやかな着物の貴公子が五人座っているのが見えた。
五 求婚者たち 後編へ
姫盗り物語 目次へ
ホーム トップへ
コメント
ああ〜もしかして、恒例の無理難題は、広忠の入れ知恵だったという・・・・・・。
いえいえ。ただの妄想です(笑)
応援ぽちっと
◆奈緒さま ありがとうございます。
うん、いい線ですね。でも入れ知恵ならもっと適任の人物が、最初の方に出ていたような……。
- 2007/12/03(月) 23:05:21 |
- URL |
- 銀河系一朗 #-
- [編集]
そうなのよね。月へ帰るだけで無理難題を唱えるのは不自然なのよ。犯罪の影に女あり。我儘の裏に男ありですよ。
◆つるさま ありがとうございます。
無理難題不自然説いただきました。うまいこと言いますね(笑)
- 2007/12/04(火) 00:14:15 |
- URL |
- 銀河系一朗 #-
- [編集]


