銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ
 街の裏通りにあるさびれた駐車場に忍び笑いの声が響いていた。。
 黒っぽいヘルメットを被った小学生が、さまざまな色の服を着た同級生達に
ぐるりと取り囲まれていた。
「おい忍者、その汚いヘルメット取ってみろよ。過保護な親だ」
 その子はいるかいないか気配がしないことから忍者とあだ名されていた。
「許してくれよ」
 忍者がそう言って逃げようとするが囲みには隙がなく、その子は突き飛ば
されて後退する。
「お前、さっきから何、やってんだよ、はあ?」
 ヘルメットで相手が誰かも見えない忍者は無駄と知りつつ聞く。
「なんで僕をいじめるの?」
「忍者さ、勉強もスポーツもできねえだけじゃなく掃除もできねえんだもの、
親も嘆くぜ、あ、もちろん忍術もな」
「何の役にも立たないってこと」
「マジむかつくんだよな」
 いじめっ子達の円陣が狭まり、蹴りがあちこちから飛び出してくる。

 忍者はその場にうずくまって動けなくなった。

 一瞬、いじめっ子達に緊張が走ったが、すぐに誰かが薄ら笑いを浴びせた。
「死んだふりなんかしてもバレバレだ。鼻息で雑草の切れ端が揺れてるぜ」
「忍者失格じゃん、使えないなあ」
 どっと哄笑が上がりまた誰かが蹴ってきた。
 忍者は地面に突っ伏したまま昔見た夜明けの記憶を思い起こしていた。
 真っ黒な空が紺色に変わり東の空がピンクに染みてくる。
 やがて水平線にガラスがオレンジ色に溶けたような塊が現れる。
 朝靄が熱に吹き飛ぶと黄金のレーザービームが三百六十度に放たれた。
「ほうら太陽だぞ」
 忍者は「うん」と頷いて父を振り返った。
 そうなのだ、あの時は父がいたのだ。
 どこで父とはぐれてしまったのか忍者は覚えていなかった。 
 いじめっ子達に蹴られてついさっき記憶をなくしたのかもしれない。
 その時、誰かが笑いながら言った。
「お前、親に捨てられたんじゃないの?」
 忍者は咄嗟に「違うよ」と反論した。
 しかしもしかしたら父に捨てられたのが真実なのではないのか。
 それを自分に偽る防御のために無意識に記憶を無くしたと思い込んでいるのかもしれないと気づいた。
「そんなことないよ」
 忍者は必死で叫んでいた。


  ◇


 商店街を小走りしていた小学生が向こうから駆けて来る婦警を呼び止めた。
「裏の駐車場で忍者て呼ばれる子がいじめられてるんだ。すぐ行って助けて」
 婦警は困った顔で言った。
「今すぐ商工会議所に行かなきゃならないの。代わりの人をすぐ呼ぶから」
 婦警が携帯を取り出そうとすると。小学生が露骨に非難した。
「へー、おまわりさんのくせにいじめを無視するんだ。失望した~」
「私は格好は婦警だけど県警広報課だから仕事の担当が違うの……」
 小学生は度の強い眼鏡を指でキリッと持ち上げた。
「ますます失望。担当が違っても人間としていじめを看過ごしてはいけないでしょ」
 すると婦警は携帯をピシャと閉じて宣言した。
「行くわ。行けばいいんでしょう」
 眼鏡の小学生は嬉しそうに頷くと婦警の手を引っ張って走り出した。

「でもどうして忍者なんだろ?」
 走りながら婦警が呟くと眼鏡の小学生は呆れた顔をして答えた。
「いじめでつけるネーミングなら、いるかいないかわからない奴て意味でしょ」
「ああ、なーるほど」
 婦警が感心すると眼鏡の小学生は返した。
「お姉さんね、もっと現場に出て世の中を学ばないと」
 婦警は思わず「すみません」と小学生に謝っていた。


  ◇


「見えてきた。ほら、あの汚い駐車場だよ」 
 ひび割れたアスファルトにコンクリートのタイや止めがある。
 そこに放置されたタイヤがぽつぽつと並んでいるだけのスペースを見渡した婦警は呟いた。
「いじめっ子はいないね」
「いるじゃん、あれだよ」
 眼鏡の小学生は指に力を込めてタイヤ達を差し示した。
「ここはルンバの墓場なんだ。次々と型落ちのルンバを捨てるようになって、
噂を聞きつけて家出したルンバも集まるようになって……」
 眼鏡の小学生に解説されて婦警が近づくと、さっきまでタイヤと見えていたのはほこりで煤けたルンバだとわかった。
「ほら、円陣を作って真ん中の子を小突いていじめてるだろう」
 婦警は子供の妄想に苦笑した。
「じゃあ眼鏡君はルンバの心がわかるのね?」
「家電の心をわからずして家電を使うべからず。うちの家訓だよ」
「歴史のなさそうな家訓だけど」
「とにかく円の真ん中の忍者って子を助けてよ」

 婦警は笑いながら「任せといて」と言って駐車場に踏み込んだ。
 薄汚れたルンバたちは動いていた。
 婦警が電源はどうしてるんだろと見渡すと片隅に屋根のついたスペースがあり、そこに充電器があって納得した。
 婦警は眼鏡の小学生に聞こえるように声を上げながら円陣の中に進んでゆく。
「警察よ、友達をいじめちゃだめでしょ」
 もっともルンバたちは婦警を気にするでもなく小さく動き続けている。
 ルンバに小突かれている忍者は一人だけ筒形の角が取れて丸みがかっていた。
 婦警はその形に見覚えがある気がした。
「わかった。取っ手の取れたフライパンがひっくり返って本体に被さってるんだ」
 眼鏡の小学生もおそるおそる近寄って見た。
「お姉さん、フライパンを取ってあげて、そしたら忍者は普通のルンバに戻れるよ」
 婦警は「きっとそうだね」と微笑んだ。

「さ、忍者君、その重いフライパンを取ってあげるよ」
 忍者は自分に投げかけられた優しい声の方角に目を向けた。
 視界はまだ真っ暗だ。 
 婦警はかがんで忍者君のヘルメットみたいなフライパンを取り除いた。

「わっ!」「えっ!」

 忍者は婦警と小学生とルンバ達の姿を見回した。
 フライパンから解放された忍者君は小学生と婦警の予想を超えた存在だった。
 円形の骨組みの中に四分の一の小さな円形の骨組みが四つあり、それぞれにプロペラがついて回転しているのだ。
 もしかしたらルンバ達は忍者が異物だと知って本当にいじめてたのかもしれない。
 忍者はブーンと唸りを上げて、二メートルほどの高さに舞い上がった。

 体が浮いている!
 忍者はそのことに驚きながら婦警と小学生とルンバ達を見下ろした。
 その高さでホバリングしながら忍者のレンズは小学生と婦警の顔をしばらく映していた。
「見つけたぞ、戻っておいで」 
 お父さんからの無線が忍者の耳に届いた。
「うん」
 忍者は再び上昇を始めるとあっという間に街の建物より高くなり、青い空の点となってしまった。
 
「ねえ、こんなこと言っていいかな?」
 婦警がこらえきれずに小学生に話しかけた。
「なんだか知らないけどお手柄の婦警さんに発言を許可するよ」
 婦警は照れ笑いして言った。
「忍者だけにドローン! なんちゃって」
「おやじギャグかッ」
「とにかく忍者君は『みにくいルンバの子』だったのよね」 
 小学生と婦警は頬に風を感じながらしばらく空を見上げていた。   了





久しぶりの小話です(笑)
婦警はドラマ「64」美雲巡査長のイメージでどうだろ?



 ↓ おひとつ、お好みを、ポチお願いします
 プログ村


ホーム トップへ



このページのトップへ

コメント

こんばんは。
忍者くんの正体は今話題のアレだったんですね。
騙されたw(゚o゚)w

そして婦警さん、まさかのおやじギャグwww
空に還っていくラストだけに、
スカッ…イ、としました(^▽^;)

おちゃめな婦警さんと生意気盛りの小学生の掛け合いが楽しいですね。
忍者くんもパパに合えてよかった。
なんだか癒されました(。◠‿◠。)

  • 2015/11/15(日) 02:37:33 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

★ia. 様、ありがとうございます!

>忍者くんの正体は今話題のアレだったんですね。

そう、今、話題のあれなんです。
形がなんとなく似てるんで、これは「みにくいあひるの子」にするしかない? とひらめいて書いてしまいました(笑)

>空に還っていくラストだけに、
スカッ…イ、としました(^▽^;)

素晴らしい! 渋いおやじギャグ! 
但し、笑点だと座布団を取られてしまいそうです…

>なんだか癒されました(。◠‿◠。)

そう言っていただけると私も嬉しいです!

  • 2015/11/15(日) 21:07:19 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]
このページのトップへ

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

このページのトップへ

トラックバック

FC2Ad

Information

gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

    ↓よろしければ、おひとつ、ポチお願いします

Calendar

04月 « 2017年05月 » 06月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

 

新着はこちら!New!

全小説 ツリーリスト

最近いただいたコメントなど

アクセスカウンター

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter小説

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

最近のトラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。