銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 スマホがブルルッと震えて加奈はメールを開いてみた。
 吹奏楽部の顧問である宇治家雅音(うじいえまさお)先生からだ。
 もっとも顧問といいつつ宇治家先生は他の学校の指揮も掛け持ちしていて、受け持ってる中で地区大会の成績が最も悪い桐壺女子学園の扱いが一番軽いのは明らかだった。
「一体何やろ、まさかクリスマスのデートの誘いやろか」
 そう口に出しつつも加奈は「ないない」と自分突っ込みを入れた。
 宇治家先生はイケメンだし世界コンクールで三位に入った新進気鋭の指揮者だ。桐壺女子学園などの学校の指揮は半分社会奉仕としてしてくれているのだ。宇治家先生に憧れる部員はいるもののアタックするような無謀はせず身の程をわきまえている。

『お前ら、今日の午後2時、淀川泪橋ホールのリハーサル室に集合しろ。裏の警備室で言えばわかるようになってる。遅刻厳禁。ピンチヒッターとしてクリスマスコンサートをやるぞ』

「何言うてるの? 今日はクリスマスイブイブやん。あかんて。デートの約束があるやろ、普通」
 そう呟いて加奈は「うちはないけどな」と自分突っ込みを入れ溜め息を吐いた。
 そこにメールを見たらしいトランペットの夕美から電話がかかって来た。
『何なん、ピンチヒッターのコンサートて?』
『うちも今メール見たばかりやねん』
『なんや部長も知らんのん』
『それで夕美はどうするん?』
『今日はイブイブの休日やん、うちはデートに決まってるやん、アホなセンセやな』
『デート言うて、ペットのゴンタとスーパー行くデートやろ』
『バレてた? しゃあない行くか。でも、うちらって学校外でコンサートしたことないし淀川泪橋ホールって、えらい興奮やね?』
『そうやね。定期演奏会でやった曲ならそこそこ演奏できるやろし楽しみやわ』
 加奈は次々と舞い込むメンバーからの電話やメールの応対をして、昼食もそこそこに制服に着替えサックスのケースを抱えて街に出かけた。

 ◇

 宇治家先生が泪橋ホールのリハーサル室に入って来た。
「さすが桐壺女子だな、全員揃ったようじゃないか」
 宇治家先生の言葉に(お前らならイブイブでも暇だろ)と言われてるのを感じて部長の加奈はムッとしながら反論した。
「ピッコロの2年川岸が来てません。それ以外はみんな予定があったんのんをうちが説得して皆、無理して来てくれよったんです。なあ?」
 メンバーはそうやという目をしたが声にまで出す嘘つき者はなかった。
 フルートの美里が手を上げて聞いた。
「ピンチヒッターていうんはどういうことです?」
「うん。お前らもニュースで知ってるかもしれないが北九州が昨日から大雪なんだ。それで新幹線も飛行機も止まって予定していた福岡の星華女子高が来れなくなった。そこで急遽、主催者がいろんな団体に声をかけたんだが、大阪の有力校は自前のコンサートをしてるし、その次レベルの高校は星華女子の代わりなんて絶対嫌だと断るし。そこで俺にも連絡が来て怖いもの知らずのお前らだけが残った」
 加奈は眩暈がした。
 星華女子吹奏楽部といえば毎年全国大会で金賞を獲得しているトップレベルの高校だ。それも『華麗なる舞曲』『フェスティヴァル・ヴァリエーション』『ルイ・ブルジョワの賛歌による変奏曲』といった難曲中の難曲を完璧に演奏しての金賞だ。超高校級といっていい。
 加奈が宇治家先生に反論する。
「いや、残ってませんて。うちらかてアホじゃないです。フェス・ヴァリが軍楽隊の首席ホルン奏者を困らそうと書かれたのは知ってるし、それを毎年いとも簡単に吹きまくるあの星華女子の代役だなんて。地区で銀賞が取れれば上出来のうちらには千年たっても無理ですやん」
「別に星華の前座で星華と比べられるわけじゃないんだから気にするな。そもそも真の星華ファンは星華が来れない時点で聴きに来ない。桐壺に交代したと聞いてもホールに入って来るのは音が出ればなんでもいい程度のファンだろ。しかし、お前らからしたら、こんなにちゃんとしたホールで演奏できるなんて滅多にないチャンスだぞ。これを逃す手はないやろ」
「そう言われても星華の代わりなんてあきませんって」
 宇治家先生はパンと手を鳴らした。
「じゃあ多数決取ろうや。ここで演奏してみたくないもの、手を挙げてみぃ」
 そう聞かれては手を挙げるものはいない。
「決まったな。じゃあ次は曲を決めるぞ」

 ◇

 千三百席が完売してた筈なのにホールに入った客は親子連れを中心に百人ぐらい。
 それでもこれほどの立派なホールで演奏できるとなれば桐壺女子学園の吹奏楽部にしたらモティベーションは上がりまくりだ。

 最初はありきたりだが、ディズニーメドレーだ。

「ミッキーマウス・マーチ」
「ハイ・ホー」
「いつか王子様が」
「星に願いを」

 なんだろう、すごくいい感じ。
 音響のちゃんとしたホールは吹いていてもいい感じで音が返ってくるのですごく気持ちがいい。それに今日の演奏はいつもより金管のメロディラインがしっかり取れてるような気がする。金管に引き連れられて木管もパーカッションも自信を持って演奏してるのがわかる。
 加奈は嬉しくなってきた。
 うちらもいつもこういうホールで練習してたらそこそこ鳴らせるんちゃうんやろか? そうや、大阪桐院がうまいんはいつもいい設備で練習してるからや。差はそこにあったんや。うちらの学校もいい設備作ってくれたら金賞取れるんや。
 加奈はにやにやしながらサックスを鳴らした。

 続いてジブリのメドレーで
「千と千尋の神隠し」
「魔女の宅急便」
「天空の城ラピュタ」
「となりのトトロ」

 続いてコンクールの課題曲と自由曲
「勇者のマズルカ」
「ローマの噴水」

 最後はもちろんクリスマスメドレー
「ジングルベル」
「赤鼻のトナカイ」
「ホワイトクリスマス」

 百名ほどのお客さんから暖かい拍手が起きた。
 学校でやる演奏会で拍手を貰ってもそれには義理が含まれている。しかし、今日のお客さんは純粋に加奈たちの演奏に拍手をくれたのだ。
 アンコールに「サンタが街にやって来る」を演奏し締めくくり、起立してお客さんにお辞儀して舞台袖に退出する。加奈は今までで最高の演奏が出来たと感じた。メンバーの顔も満ち足りた表情だ。

 ただ宇治家先生は腕組みしてちょっと怖い顔だ。
 褒めてくれてもいいぐらいなのに、どうしたというんだろう。
 加奈は文句を言うように聞いた。
「うちら、今までになくうまく吹けたと思いますけど。先生はなんでそない怖い顔してはるんです?」
「お前、気付かなかったのか? あのフルート」
「へっ、フルートに何かありましたん?」
「鈍感なやっちゃな。さすがにピッコロには気付いただろう?」
「うまく吹けてましたやん」
「アホか。今日川岸はおらんからフルートの藤井にやれ言うたらできん言うてピッコロはあきらめたんじゃないか」
「あっ、そうや! ピッコロおらんかった。けどいつもよりうまく聞こえてましたけど」
 加奈は言いながら寒イボでぞくぞくと震えた。
 フルートの美里が叫んだ。
「まさか、川岸がどこぞで死んで亡霊が」
 メンバーが一斉に「キャアアア」と悲鳴を上げた。

「黙れ。お前ら想像が飛躍しすぎだ」
 宇治家先生はそう言うとお客さんがいなくなったのを確かめ舞台袖からステージに出てステージ後方の壁を睨みつけた。
「客はもうおらんよ。怒らんから出て来い」
 すると壁と思われた一部が前進した。反響板が置いてあったのだ。その影からジャージ姿の高校生ぐらいの三つ編みの女の子が現れた。手にはフルートとピッコロのケースを持っている。
 宇治家先生が近づき、加奈たちもびっくりしながら取り巻いた。
「君、名前は?」
 女の子は小さく答えた。
「木津紗枝」
「木津君は星華女子の演奏に加わりたくてそこに隠れてたんか?」
 宇治家先生が尋ねると木津は首を横に振った。

「ぶち壊してやりたかったん」
 木津は顔を上げて告白した。
「うち、星華女子を受験したんやけど落ちてんねん。それからずっと引きこもりやねん。だから変な音出してコンサートぶち壊して星華女子に復讐しようと思うて、昨日から反響板の後ろに隠れとったんや」
 加奈はとんでもない問題児やと思いながら夕美や美里と目を見合わせた。
「そやけど演奏してるんが星華女子やないのは最初のひと吹きでわかったわ。どこぞの中学やろが、これは聞かされる客の身になったらしんどい思うて。それでうちも手伝わなあかんな思うて手伝ったったんや」
 中学と言われて加奈たちは恥ずかしさで真っ赤になった。

 宇治家先生が頷いて言った。
「なるほど、そういうことか。木津君の演奏は素晴らしかった。こいつらは桐壺女子高の吹奏楽部だが、木津君が演奏をリードしてくれたおかげで、こいつらは今までで最高の演奏が出来たんだ。指揮者として礼を言わせてもらう」
 宇治家先生は小さく頭を下げたが、すぐに声を荒げた。
「だが星華女子に復讐しようなんてのはとんでもない思い違いやな。たぶん君は星華女子のブランドでなきゃいい音楽ができんと勘違いしてるんだ」
 木津は口を尖らせて言った。
「だってそうやないですか? 周りのメンバーもハイレベルやからハイレベルの演奏が出来るんや。それは星華女子に入らなできませんやん」
「それは思い上がりや。仮に木津君が星華女子に入ったとしてもが歪んだ性格のまんまではレベルの高い55名のAチームに入るのはムズイで。性格は音に出るからな。Aチームに落ちて木津君はそこでも復讐を始めることになるのは見え見えや」
 木津は叫んだ。
「そんなことないっ。うちなら星華女子で首席フルート奏者になれるんや」
「未練たらしいやっちゃな。それはもうできんのやろが」
 宇治家先生が一喝すると木津はうなだれた。
「だがな、今日の君は実にええ音出してたで。それはこいつらを助けよういう気持ちがあったからや。
 それが音楽の素晴らしさやで。下手なやつとでも心をひとつにして美しい音を出してたらな演奏してる皆が楽しぃなる。聴いてるお客さんも楽しぃなる。すると皆が自信持ってどんどんいい音が出て素晴らしい音楽になる。
 それが音楽ちゅう生きもんの正体なんや。だから君が音楽をあきらめることはないんやで」
 宇治家先生が手を握ると木津は顔を上げた。
「音楽が好きなんやろ? その音楽をまたやろうや。なんならかけあって編入できるよう手配したる。とびきり才能のあるええ子がいます言うてな」
 加奈も木津の手を取った。
「是非、うちらの学校に来てくれへん。あんたがいてたらうちらもきっと金賞取れる。なっ、頼むわっ」
 木津は微笑んだ。
「冷静に考えてダメ金ならなんとかいけると思いますっ」
 一同は一斉に笑った。新しい仲間が増えたことが加奈たちにとってかけがえのないクリスマスプレゼントになった。   了





話中、主人公の在籍する桐壺女子高は架空のものです。
星華女子のモデルは精華女子高等学校、大阪桐院のモデルは大阪桐蔭高等学校です。話中では大阪桐蔭は設備のおかげなんて言わせましたが、大阪桐蔭はあの野球部より吹奏楽部の方が練習してるそうで正に努力の賜物です。
ダメ金とは全国大会には進めない、地方支部大会止まりの金賞です。






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コメント

意外なところにサンタが潜んでいたんですね(笑)

それにしても宇治家先生はなかなかの策士ですね。
口の達者な女子高生たちを言いくるめてしまうなんて。
その上イケメンのインテリなら、ゴンタとのデートは諦めざるを得ませんね(笑)

女子高生のクリスマス演奏会というテーマそのものも華やかでかわいらしくて良いですねえ。
女の子たちが張り切って演奏している様子が目に浮かびます。
楽しくて心が浮き立ちました。

  • 2013/12/18(水) 02:04:49 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

★ ia. 様 ありがとうございます!

>意外なところにサンタが潜んでいたんですね(笑)

多目的ホールだとコンサート用に反響板がある場合も。煙突はなさそうですが(笑)

>女の子たちが張り切って演奏している様子が目に浮かびます。
>楽しくて心が浮き立ちました。

楽しんでもらえてよかったです!
丁度、イブイブは精華女子高が福岡国際センターでクリスマスコンサートするみたいです。マーチングも座奏も見たいけど行けません。暇はあるんですが遠くて(笑)

  • 2013/12/18(水) 10:19:51 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

軽快に、楽しく読ませていただきました。
すごく面白かった!
中盤は、ステージ上の高揚感も一緒に味わわせてもらいました。

それが、まさかの後半の展開。
それにしても、木津さん、前日から隠れていたとは...(笑)
加奈さん達部員も、木津さんも、今後は一緒に楽しく素敵な演奏が出来そうで良かった。
宇治家先生もいい人ですね。

クリスマスプレゼントに素敵なお話に出会った気分です。
ありがとうございます!

  • 2013/12/23(月) 22:06:39 |
  • URL |
  • air #DEh53EN.
  • [編集]

★ air 様、ありがとうございます!

>それが、まさかの後半の展開。
それにしても、木津さん、前日から隠れていたとは...(笑)

後から何も前日でなくてもよかったなと気付いたんですが、そのままにしました(笑)

>クリスマスプレゼントに素敵なお話に出会った気分です。

楽しんでいただけてよかったです!

丁度、今年の全国大会金賞のDVDが届いたばかりですが、高校生達の熱演が素晴らしかったです!

  • 2013/12/24(火) 01:00:20 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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