銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 その日、サトシは立て続けに嫌な事に遭っていた。
 まず昼に携帯の電池が切れてしまった。
 部屋に帰ってからは、カセットコンロでレトルトの中華丼を温めようとした。マンション備え付けの電気コンロは火力が弱いのでボンベ式のコンロを上に置いて使ってたのだが、そのガスボンベが点火してまもなく切れてしまった。
 仕方なく冷蔵庫にあった唐揚げをチンしたところ、今度はブレーカーが落ちて停電だ。
「今度は停電かよ」
 急に暗くなった室内を玄関の方に歩きながら、サトシは思ったよりも大きく開いていたドアに向こう脛を打ちつけて叫んだ。
「痛っ。たくっひどいな」
 手探りで下駄箱の上のブレーカーを入れたところで間髪を入れずにピンポンとチャイムが鳴ってサトシは思わず「ワッ」と声を上げてのけ反った。

 するとドアの向こうから女の声がした。
「サトシ、私、開けて」
 どうやらアカネの声のようだ。
「なんだ、アカネか、今、開けるよ」  
 サトシとアカネは徳心大学文学部の3年生で和歌のゼミで一緒なのだ。サトシは真実はともかく、アカネを「女」にしたのは自分だと思っている。

 ドアを開けると黄色いワンピースのアカネが泣きそうな顔で立っていた。
「どうしたんだ?」
「携帯落としちゃった」
「場所はわかってんのか?」
 サトシが聞くとアカネは頷いて説明した。
「ユッコと大学の図書館横の喫茶室で喋ってたら遅くなって、でもユッコが夕焼けがきれいだからちょっと寄り道しようよって言って、旧道の方から帰ったの」
 キャンパスは山を切り開いた高台にぽつんとあり、学生たちの住む町に帰るには新道か旧道を降りるのだが、旧道は曲がりくねって時間が倍以上かかるので学生はまず誰も利用しないのだ。
「でね、烏沢て看板に差し掛かったところに小さなトンネルがあって、ユッコがここってなんか出るらしいよとか変な噂を言うから私も怖くなってびくびくして歩いたんだけど、トンネルの真ん中を過ぎたところで」
 アカネはそこで思い出したように言葉を切りごくりと唾を飲んだ。

「見たの。切断された人の足」

「マジ?」
 サトシも思わず訊き返した。
「うん。足だよ。私もユッコもキャアーッて声を上げて走ったんだけど、その時に一度転んだはずみに携帯落として、でも取りに戻るのも怖くて、そのまま走って降りてきたんだけど、ユッコには追いつけずにはぐれちゃって」
「それでここまで歩いて来たのか。公衆電話でも見つけて電話すればよかったのに」
「うん、悪いけど一緒に携帯探してくれない」
「え、これからか?」
 時刻は午後7時半を過ぎて落し物を探すには暗い。
「だって、携帯ないと不便だし、明日探して見つかったとしても、きっと車に轢かれて壊れた後だよ」
 たしかにあの旧道もたまには車が通るからな。
 サトシは「仕方ないな」と呟いた。 

 ◇

 懐中電灯が登り道の路肩を照らし出していた。
 サトシは怪奇ものなんて信じない質だ。もし切断した足が本物なら警察に通報しなければいけないよなと冷静に考えながら歩いた。怖がるアカネはずっとサトシの左手をきつく握っている。
 旧道を登り始めて40分ほどで烏沢の看板がありトンネルが見えてきた。

 アカネは怖かった体験を思い出したと見えてサトシを掴んだ手がまた小刻みに震え出している。
「大丈夫だって。ただの足が人を襲ったりはしないよ」
 サトシがそう言い聞かせてもアカネは引き攣った顔のままだ。
「ねえサトシ、誓ってよ。絶対、絶対、永久に私の手を離さないって」
 アカネが手に力を込めてくるので、サトシもこいつはまだ子供みたいに可愛いところがあるんだなと思い、力を入れて握って言った。
「絶対、永久にアカネを離さないよ」
 もちろん本当に永久とまでの気はないが、この瞬間のサトシの気持ちはアカネへの愛しさに満ちていた。

 どこか遠くでカラスの声がカアカアと鳴って生ぬるい風が吹いた。
 サトシは懐中電灯を照らしてトンネルの中に入った。
 急に空気がひんやりとした。
 アカネはいよいよサトシの手をきつく握ってくる。
 サトシも緊張して道路の隅々を注意深く懐中電灯で照らしながら前に進んだ。
 すると20メートルほど進んだところで白っぽいものが路上にあった。
「キャーアッ」
「大丈夫だ、落ち着けって」
「イヤーッ」
 サトシは嫌がるアカネを引っ張ってさらに白っぽいものに近づいた。
 そして懐中電灯をあてて白っぽいものを凝視した。

 膝下と足首上で切断されたのだろうか、膝や甲の起伏はない。
 切断面は赤い血らしきもので覆われていたが、側面には膝側の端近くには緑がかったグラデーションがついている。そして側面の一箇所が小さな髭のように変形している。
 なんだ、この髭みたいなのは?

 まもなくサトシは思い当たって、一気に緊張を解いて笑い出した。
「ハハハッ、これは大根だよ。きっと誰かが大根の切り口を赤いペンキで塗って悪戯したんだ」
「だ、大根なのッ? なあんだ」
 アカネもやっと安心したようで笑った。

「さてと、後は携帯だな」
 サトシはアカネと手を繋いだまま先に進んだ。
「あ、あれかな」
 トンネルを出たところで懐中電灯が路面に落ちているピンクのものを照らした。
 サトシはピンクの携帯電話を拾い上げて開いてみた。するとプリクラで撮った、サトシとアカネが並ぶ待ち受け画面が正常に灯った。
「大丈夫、壊れてないよ」
「よかったあ」
 そう言いつつもアカネはサトシの左手を両手できつく握ったままだ。  
「もう離せよ」
「だって、約束したじゃない。絶対、永久に離さないって」
「ふっ、まるで子供だな」
 サトシは笑いながらアカネの手を引いて数歩進んだ。 
 トンネルを出たその地点で道はカーブし始めてガードレールが迫ってくるのだが、約5メートル先でガードレールの端60センチほどが完全に錆び落ちていて、ガードレールのない状態になってる。

 そこからサトシはそっと下を覗いてみた。
 谷底の小さな渓流まで30メートルほどあるようだ。
 目を凝らしたサトシはハッとなった。
 暗くてはっきりと見えないが、どうやら谷底に人らしき形が横たわっているのだ。服の色はわからないが雰囲気からすると女性かもしれない。

 瞬間、ぞぞっ、ゾーッ、と首から腕に鳥肌が駆け立った。
「まさか!」
 サトシはアカネを振り向いて叫んでいた。
「さっきユッコとはぐれたと言ったよな! あれはもしかして!」

「えっ、まさか!」
 アカネも一緒に身を乗り出して下を覗き込んだ。
 闇夜の底でカラスの声がカアカアと響いて、人の形にたかっているようだ。
「あれはユッコじゃないのか?」
 サトシは谷底の人の形を指差して怖ろしい推理を口にした。
 しかは、アカネはサトシを見詰めて大きな声で、
「あれは違うよ!」
 と、首を左右に振る。
「ユッコじゃない」

 即座に否定するアカネにサトシは疑問が湧いた。
「じゃあ誰だよ?」
 次の瞬間、ハッと嫌な直感が閃いた。
 ユッコじゃないのならまさかアカネ?
 じゃあこの目の前のアカネは、まさか幽霊?
 サトシは慌ててアカネの手を放そうとした。
 が、手が剥がせない。
 アカネの両手は一瞬で氷のように冷たくなりサトシの手に張り付いているのだ。

「あれは私だよ!」

 サトシを引っ張りながらアカネは微笑んでいた。
 ゾーッと鳥肌が全身を包む。
「ウワーッ」
 落下しながらサトシは全身が氷に包まれるように感じた。
「私、幸せだよ、サトシが永久に離さないって誓ってくれたから」
 風を切りながら、サトシは凄まじい速度で目の前に迫る死の恐怖とともに、しまったと後悔した。あの約束はアカネのささやかな呪いだったのだ。 

 ◇

 谷底に転がるアカネの携帯に、突然、ユッコからの着メロが鳴り響き、死体を啄ばんでいたカラスたちはびっくりして一斉に飛び上がった。
 大きな岩に激突し即死だった筈のサトシの手は、それより3時間も前に死んだアカネの手を、なぜか、しっかりと握っていた。   
 










徳心学園というのが神奈川にあるようですが、この話はフィクションです。
教訓 トンネル内の大根に注意。怖くても目をつぶったまま走らないこと。

舞さんの『怪談』競作リンクに参加してます。現在のエントリーは以下の作品

『怪談』 By ヴァッキーノさん
『夏休み』 By レイバックさん
『怖そうで怖くない少しも怖くない怪談』 By 矢菱虎犇 (ヤビシ・トラビシ)さん
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『本当にあった怖い話』 By 舞さん
『ケータイぷち怪談 3編』 By ia. さん

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コメント

こわーい!

なんつー本格的な恐怖なんでしょうねえ!
怖いなあ。
トンネルも怖いし、鳥沢っていう地名もなんかリアルで怖いです。
あー怖い!
カラスについばまれるのも嫌です!

  • 2010/07/26(月) 19:45:50 |
  • URL |
  • ヴァッキーノ #-
  • [編集]

◆ヴァッキーノ様 ありがとうございます。

オーソドックスに書いてみました。
トンネルなんて定番すぎですから、あえてそこだけ大根で緊張を緩めてみましたが。

  • 2010/07/27(火) 00:19:40 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

タイトルだけで既に怖そう。
ビビリまくりながら読みました。
赤い大根で笑わせておいて、最後にもうひとひねり。
何度かツイストするのが、怖くて面白かったです。
でも何気にセクハラ発言?
大根と間違えられたせいで、彼女の恨みは増幅したのでしょうか?(笑)

  • 2010/07/27(火) 00:20:25 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

うわあああああ。ぞぞぞときましたよー(泣)
冒頭のトラブルはみなサインだったんですかね。
テリーマンのブーツのひも的な。
まさかの大根で一瞬張り詰めた空気を抜くのがいいですね。
ホラー映画でもよく使われる手法のような気がします。
その辺りの緩急は僕の今後の課題だなー。
メモメモ。

  • 2010/07/27(火) 00:47:35 |
  • URL |
  • レイバック #-
  • [編集]

◆ia. 様 ありがとうございます。

>ビビリまくりながら読みました

そんな疲れる読み方をさせてしまい、申し訳ない(^^;

ひねりが気に入っていただけたようでよかったです!

◆レイバック様 ありがとうございます。

>テリーマンのブーツのひも的な

そうですね(笑) あれで次に現れたアカネが怪しいと予想ついたかも

>ホラー映画でもよく使われる手法のような気がします

言われて映画的かと気づく(^^; ショートならなしでもいいですね。長くなると読者が疲れるからいいかもしれません。

  • 2010/07/27(火) 09:04:36 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

舞さんのところからきました。
みなさんの競作を楽しませていただいてます。
実は深夜にきたんですが、怖くて出直してきました( ;^^)ヘ..
旧道のトンネルは怖いですね。いかにも出そうで・・・。
そこに切断された足、ときて大根?ときて本物の死体、うわぁぁ なんて本格的なホラーでしょう。
最後の死ぬ瞬間の表現が「呪い」なんですね。女は怖いゾ~。
怖かったけど楽しかったです。
ありがとうございました。

  • 2010/07/27(火) 17:52:13 |
  • URL |
  • もぐら #8tY9vXl2
  • [編集]

◆もぐら様 ありがとうございます。

トンネルはマイナーな道の短い方が照明とか整ってなくて怖いですね。
楽しんで頂けてよかったです^^
矢菱さんのコメ欄で知りました、もぐらさんは「さとる文庫」で朗読サイトをされてるんですね。拝聴しました、楽しかったです!

  • 2010/07/27(火) 21:39:46 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

こんばんは♪

うう、ここ三日間、矢鱈長かったり、暗かったりのトンネルに悩まされ、やっと片がついたと思ったら、ここ迄(>_<)
あ、大根はありませんでしたが(^^;

  • 2010/07/27(火) 23:42:04 |
  • URL |
  • 巽 #jdMQ17Ic
  • [編集]

そうきたか(><)

サトシが妙に冷静で、すごいなと思って読んでました。足が大根だったときはホッとしたけど、まさかの展開。
最後まで読んでから、最初に戻ると、いろんな嫌なことは、前兆だったことがわかります。
怖いですね。
夜道歩きたくないです。

  • 2010/07/28(水) 00:04:09 |
  • URL |
  • りんさん #-
  • [編集]

◆巽様 お疲れ様でした。

あ、そうか、気が効かず申し訳ないです。
大根なくてよかったですね。ゆるゆると復帰してください!

◆りんさん ありがとうございます。

大根で油断させて、結局、幽霊と一緒に落とすなんて、書き手が意地悪なのか(^^;
前兆もいい兆しなら嬉しいですが

  • 2010/07/28(水) 00:49:16 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

呪いのダイコン

ひぃえぇぇぇ
怖い怖い怖い!
ダイコンを人の足に見立てて寂しいトンネルに置いておくって悪戯、ひどいです!絶対びびるなぁ。
そのダイコンに驚いて谷底に落ちた女。
かわいそうだけど、
男を巻き添えにするなんてぇ!!
それがいちばん怖かったです~
助けて~(泣)

  • 2010/07/28(水) 10:22:26 |
  • URL |
  • 矢菱虎犇 #-
  • [編集]

◆矢菱虎犇様 ありがとうございます。

>ダイコンを人の足に見立てて寂しいトンネルに置いておくって悪戯

絶対、やめてほしいです。
驚いてパンツ濡らしそう。いや、あ、汗で濡らしそうなんですよ(笑)

  • 2010/07/28(水) 13:04:10 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

大根~!ってほっとしてたのにぃ(^_^;)
トンネル通れなくなったら銀河径一郎さんのせいだからねっ(__;)
まあ、徒歩で通ることはないと思うけど(笑)
夜間トンネル運転注意。。。(大汗

  • 2010/07/29(木) 07:45:35 |
  • URL |
  • つきみぃ #UyDaNXrA
  • [編集]

◆つきみぃ様 ありがとうございます。

車で携帯探しに行くのも考えたんですよ。
ただサッと過ぎちゃいそうだし、何よりアカネが手をつなぎにくいから徒歩にしました(^^;

  • 2010/07/29(木) 08:50:05 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

ありがとうございます。
「さとる文庫」聴いてくださったのですね。
うれしいです。
みなさんの作品も次々に狙っております。
「もぐら立ち入り禁止令」が発令されないように
がんばりますので よろしくお願いいたします。

  • 2010/07/29(木) 15:35:46 |
  • URL |
  • もぐら #8tY9vXl2
  • [編集]

うわあ、怖いですね。でも最後の三時間も前に死んだ彼女の手を……って、なんかとても良い感じがしました。できちゃった婚じゃなくて死んじゃった婚しそうな気がする。天国でお幸せに。

本当は自分を犠牲にしてでも愛する人には幸せになってほしいというのが、純粋な愛なのかもしれませんが、なかなかそうはいかないのかもしれませんね。

  • 2010/07/29(木) 21:41:51 |
  • URL |
  • 七花 #-
  • [編集]

◆もぐら様 ありがとうございます。

うちのはちと長くて朗読に不向きっぽいですが(^^;
魔がさしたらどうぞお願いします。

◆七花様 ありがとうございます。

>死んじゃった婚しそうな気がする

凄いネーミングですね、インパクトありすぎ~!

大半は愛したいのではなく、愛されたいのだという真実ですね、うーむ。

  • 2010/07/29(木) 22:01:09 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

はじめまして

当方のおはなしにコメントありがとうございます<(_ _)>
これはほんとうにゾッとするおはなしですね。
私は...最近、へなちょこなのしか書けません(;´Д`A ```

これからも、おひまときに遊びに来てくださいまし<(_ _)>

  • 2010/07/30(金) 15:41:33 |
  • URL |
  • 佳(Kei) #SFo5/nok
  • [編集]

◆佳(Kei)様 はじめまして。

ご訪問&コメントありがとうございます。
佳(Kei)さんのプログは面白い、素敵な話でいいですね!
また寄らせてもらいます!
どうぞよろしく!

  • 2010/07/30(金) 20:25:32 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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