銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 この時代の小学校は土曜日も午前中授業があった。その授業が終わって、カイワレ君と猫じゃらし君は一緒に下校した。

 道を歩きながら猫じゃらし君が尋ねた。
「それで、どうだ、沢内にやるプレゼントは考えたか?」
 カイワレ君は俯き加減で答える。
「うーん、考えたけどわからないんだよ」
「素人はこれだ。しょうがないなあ」
「猫じゃらし君の案は?」
 カイワレ君が尋ねると、猫じゃらし君は言い返した。
「馬鹿、俺のプレゼントじゃないんだぞ。俺はお前の言った案をそれいいぞとか、だめだめとか判定する係だよ」
「えー、この前、猫じゃらし君も『俺も考える』って言ってたよ」
 カイワレ君が非難すると、猫じゃらし君はとぼけた。
「そうだったかなあ。それよりカイワレはひとつぐらい思い浮かんだだろ?」
「うーん。テレビでさ、花束をプレゼントして喜んでたからそれはどう?」
 カイワレ君が言うと、猫じゃらし君はフンと鼻を鳴らした。
「悪くはないけど補欠だな。ちゃんと告白できればいいけど、カイワレはポンと渡して帰って来そうだ」
「うーん」
 カイワレ君は猫じゃらし君の想像がぴったり当たりそうな気がして唸った。
「そしたらただ誕生日に花をくれた男子だけで終わってしまうじゃん」
「じゃあ何がいいの?」
「まだ日にちはあるんだからよく考えろよ。明日、またいつもの広場で会おうぜ」
「わかった」
「じゃあな」

 ところが家に帰るとまもなく猫じゃらし君から電話がかかってきた。
「俺だよ、真岡。実は明日、家におばあちゃんが来ることになったんだ。それを迎えに行くから明日はカイワレに会いに行けないんだ」
 カイワレ君は慌てた。
「ちょっとぐらい会えるだろ?」
「朝、迎えに行ってそのまま皆で温泉とか入って、帰って来るのは夜になるから会えないな」
「そんな、プレゼントの相談する約束だろ?」
「ごめんな。そういう事情だから、またプレゼントはまた月曜話そうぜ。まだ日にちはあるから焦るなって」
 カイワレ君はハアと溜め息を吐いて電話を切った。

 ◇

 月曜日の放課後、猫じゃらし君はカイワレ君に尋ねた。
「さっきもう買ったって言ってたけど、どんなプレゼントを買ったんだ?」
「うん。スーパーマルカクに花屋があるだろ。あそこに行ってどんな花があるか聞いたんだよ。そしたら店のお姉さんがいくら予算があるかって聞いてきたから二千円て答えたんだ。そしたらお姉さんがあちこちから花を抜いてまとめて見せてくれた。赤やピンクに黄色が混ざってよく見えたんだ」
 猫じゃらし君は「あーあ」というように口を開けた。
「それからお姉さんが彼女にプレゼントするんでしょ。きっと気に入ってもらえるよって言ってくれて」
「それでもう買ったのか?」
「うん」
「生ものなのに?」
「え、生ものって?」
「だって渡すのは水曜なのにもう買ったらぎりぎりかもしれないぞ」
「そうなの?」
「根っこから切ってあるんだからだんだん萎れてくるんだよ」
「どうしよう?」
「どうしようもないよ。まさか水に重曹なんて入れてないだろな?」
「何、ジューソーって?」
「それを水に加えた方が長持ちするって噂があるけど、ウソなんだよ」
「大丈夫、水なんかに入れてないから」
 カイワレ君の言葉に猫じゃらし君はびっくりして叱った。
「お前、花は水につけなきゃ枯れるだろ」
「……そうなの、どうしよう?」
「とにかく様子を見に行こう」
 猫じゃらし君とカイワレ君は駆け出した。猫じゃらし君には四歳上の姉がいるから花のことも知っていたが、カイワレ君は男兄弟の長男でその方面には疎かったのだ。

 二人はマンションのカイワレ君の部屋に入った。
「どれだよ」
 猫じゃらし君が言うと、カイワレ君は壁際の引き戸を開いた。そして中からガンダムのプラモデルの大きな箱を取り出す。
「この中だよ」
 箱の蓋をそっと開けると、中に透明のセロハンシートに包まれた花が現れた。
 その花は色褪せて無残にしぼみ、葉も茎も緑の生気を失い萎れていた。 

 重苦しい沈黙がしばらく流れ、猫じゃらし君が励ますように言った。
「枯れたものは仕方ないよ。また別のプレゼントを考えよう」
「う、うん。でもお金がもう4百円ちょっとしかないよ」
 そう言うと猫じゃらし君はポケットから百円玉をひとつ出しカイワレ君に手渡した。
「ありがと」
「もっと助けてやりたいけど、俺んちもケチだからお年玉もみんな銀行に預けられて、自分で使えないんだ、わるいな」
「ううん、5百円で買えるものもあるよね」
 カイワレ君が言うと猫じゃらし君は小さく唸った。

 ◇

 火曜日の昼休み、大胆にもカイワレ君と猫じゃらし君は学校を抜け出して、スーパーマルカクに向かった。
「早く、早く」
 スーパーの入り口に辿り着いてカイワレ君が急かすが、猫じゃらし君は脇腹を押さえて歩くペースだ。猫じゃらし君は足が遅い、というか持久走が苦手なのだ。
「慌てるなよ」
「慌てろよ」
「なんだ、TVSラジオの車が止まってるぞ」

 猫じゃらし君は急に元気を回復してスーパーに駆け込むと、スペースに二十人ほどの主婦たちが集まっていた。
 その中にホームベースのような形の顔をした毒ハブ四太夫がマイクを持って下駄を履いて立っていた。
「こっちのお母さんね、顔が火照って真っ赤だぜ。焼き場の帰りかい?」
 その場に爆笑が起こり、言われた主婦は毒ハブにいじられて「やだあ」と手を振り下ろす。
「友達の骨拾って勝ったと思ってんだろ」
「そんなの違うったら」
「お母さんにいい言葉、教えてやるよ、美人薄命。友達の勝ちだ、ガハハハ」
 主婦は毒ハブの肩を叩いた。
「痛えよ、このババア、どいつもこいつもダボハゼみたいな顔しやがって」
 それにまた皆が爆笑する。

 そこで毒ハブは主婦たちの後ろから覗いているカイワレ君と猫じゃらし君を見つけた。
「あらら、こんな時間にガキがいやがるよ」
 毒ハブはカイワレ君と猫じゃらし君に二三歩近寄って言った。
「おい、学校はどうした?」
「ちょっ、ちょっと急用」
 猫じゃらし君が答えた。
「くそガキめ。おおかたこの辺のババアの失敗作だろ、ガハハハ」
 場に湧く爆笑から逃げるように、カイワレ君と猫じゃらし君は売り場に入った。
 
 それからしばらく売り場を早足で見てまわったが、5百円という予算ではなかなか買えるプレゼントは見当たらなかった。
 カイワレ君は文房具のコーナーで商品を眺めるうちに鉛筆に目を止めた。
「鉛筆はどう?」
 カイワレ君が言うと、猫じゃらし君は鼻を鳴らした。
「フン、鉛筆なんて喜ぶはずないだろ。皆たいていシャーペン持ってるよ。沢内だってたしかそうだ。今時鉛筆なんて嬉しがらないよ。他の物にしろよ」
「そうか、でも時間もないからこれでいいや」
 カイワレ君が言うと、猫じゃらし君はへそを曲げた。
「人が親切で教えてやってるのに。勝手にしろ」
 カイワレ君は1ダースの鉛筆の箱をひとつ手にしてレジに向かった。

カイワレ 4恋文 につづく



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コメント

>俺はお前の言った案をそれいいぞとか、だめだめとか判定する係

イヤな作戦参謀ですね(笑)
うまくいくとは思えない二人の企み、でも応援してます♪

毒ハブ四太夫さん、すごい毒舌キャラですね。
昔テレビで観たことがあると思うのですが、そのときはこんな壮絶なキャラではなかったような。

  • 2010/06/08(火) 22:57:43 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

こんばんは♪

花は……直前に買おうよ(^^;)
果たして鉛筆1ダースは、功を奏するのか否か!?

  • 2010/06/08(火) 23:31:21 |
  • URL |
  • 巽 #jdMQ17Ic
  • [編集]

◆ia. 様 ありがとうございます。

>イヤな作戦参謀ですね(笑)
手は汚さず口だけ出す小学生です(笑)

毒蝮さんのラジオはネットで聴く方法がありました。平日の10時半からですが、機会があればお試しを。
こちらのKeyHoleTVをインストールすると登録された各地のテレビやラジオが見れます。
http://www.v2p.jp/video/

◆巽様 ありがとうございます。

>花は……直前に買おうよ
小さい時に失敗しておいてよかったと考えましょう(^^;

>果たして鉛筆1ダースは、功を奏するのか否か!?
たしかに。どちらにせよ、ポイントですね!

  • 2010/06/09(水) 00:32:32 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]

切り花をガンプラの箱に入れてしまっておくのは(^_^;)
いっそのことドライフラワーに… ←おいおいw

さて、鉛筆のプレゼントはどんな効果をもたらすのか
今から楽しみにしてます♪

  • 2010/06/09(水) 20:51:14 |
  • URL |
  • つきみぃ #UyDaNXrA
  • [編集]

◆つきみぃ様 ありがとうございます。

>いっそのことドライフラワーに…
あ、その手があったか(笑)

たかが鉛筆ですからね。彼女の心を掴むには役者不足の感はありますが、どうなるか。

  • 2010/06/09(水) 23:05:24 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
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    飛べなくても頭が悪くても
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