銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 1940年、オスカーは水兵としてドイツ海軍の戦艦ビスマルクに乗り込んだ。

 読者の中に、またまた、本当は猫でしたってオチじゃないのと、斜に構えて目線の方がいるかもしれないから早めに打ち明けておこう。
 その通り、オスカーはオスの黒猫である。
 しかも、歴とした、実在したドイツ海軍水兵なのである。
 彼の任務内容は容易に想像できると思うが、ちょっぴり回転が鈍い方のためにはっきりさせておくと、軍艦に積み込まれた食糧を食い荒らすネズミ捕獲が彼の任務であった。

 その日もオスカーは食糧倉庫の通路を、威風堂々と尻尾を立てて歩いていた。
 そして、ふと何かがいそうな気配を感じ取ると、ひょいとジャンプし、麻袋を積み上げたてっぺんに乗って、おたずね者のネズミどもがいないかと、周囲を見回す。
 ふふっ、俺の慧眼に怖れおののいて、ネズミどもも姿を現せないようだな。
 麻袋の上をすりすりと進むうちにオスカーは歩みを止めた。

「ふーっ、任務とはいえ、ここは埃っぽくてたまらないな」
 オスカーは呟くと、そこに横すわりになって、右腕を顔に運び、ヒゲにかかった埃を肉球で拭い落とす。それが済むと、今度は肉球を舐めてきれいにした。 

 ふと、麻袋の列の行き止まりあたりで、チュウという声がした。
 オスカーは声に出さずに自分に言う。
「方位12時、敵の機関音探知、ステルスモードで全速接近」
 オスカーは極力爪を立てずに、麻袋の上を駆け抜けた。
「停止、ステルスモード維持、速やかに降下」
 行き止まりですみやかに停止すると、するすると下に降下してゆく。
 と、間抜けなネズミが麻袋をかじっているのを見つけた。
「第一5インチ砲発射!」
 オスカーの左腕がネズミの首に炸裂し、ネズミは20センチほど弾き飛ばされた。
「第二5インチ砲発射!」
 今度は左腕がネズミの頭を抑え込み、オスカーは勝ち誇った。
「どうだ、参ったか?」

 するとネズミは細い声で言い返す。
「これはこれは猫どん、いいところで私に会えたなっちゅ」
「何がいいんだ?」
「俺はな、予知能力を持った予知鼠グラハムなんだちゅ」
「ふん、死ぬのが怖くて戯言をほざくか?」
「いやいや、俺の予知を聞いたら、猫どんも考え直すこと必定だちゅ」
「ふん、どんなことだ」
「この船はまもなく沈むっちゅ」
 その言葉はオスカーの胸をかきむしった。
 オスカーは思わず「う、嘘だ」と叫んでいた。
「この戦艦はドイツ第三帝国の科学の粋を集めた不沈戦艦なんだぞ。
 絶対沈まないとみんなが言ってるぞ。
 この前も英国の魚雷が当たったけど、びくともしなかったんだぞ」
 しかし、グラハムはチッチッチッと舌打ちした。
「絶対なんて人間の作ったものにはないんだちゅ。
 どんなチーズだって、保存が悪けりゃ腐るんだちゅ」
 グラハムが大好物を賭けて例えを出すと、オスカーはびびった。
「俺は泳げないのに、どうすりゃいいんだ?」
「俺を食べないと約束するなら、お前に助かる方法を教えてやろう」
「や、約束だぞ、嘘ついたら化け猫になって、お前を眠れなくするぞ。
 俺も眠れなくなって大変だけど、きっとお前を眠れなくしてやるからな」
「嘘つかないから手を離せっちゅ」

 オスカーの手から開放されたグラハムは手を差し出して挨拶する。
「グラハムだちゅ」
 グラハムの小さな手とオスカーの肉球が合体して上下に振れた。
「俺はオスカー、よろしくにゃ、で、どうすればいい?」
「人間どもが騒ぎ出したら、なるべく早く、海に飛び込むんだちゅ。
 飛び込んだら急いで船から離れろよ、沈む船体に頭を打たれたらゾウでもイチコロだちゅ」
「俺は泳げないんだぞ」
「大丈夫、その頃には船が傾いていろんな物が先に海に落ちてるから、浮いてる板とか椅子とか樽に乗ればいいんだちゅ」
「そうか、わかった」
「喉が渇いても海の水は飲んじゃだめだちゅ。
 塩分の摂りすぎで、脳卒中になっちゃうっちゅ」
「ふうーん」
「ソルティードッグてのは、ウォッカとグレープフルーツジュースを混ぜたカクテルのグラスのまわりに、そういう塩分摂りすぎ犬の耳垢をつけるんだ、すると微妙にしょっぱくてうまいんだなっちゅ、これマメな(*1)」
「へえー、物知りなんだね」
 オスカーはすっかりグラハムを尊敬の目で見詰めた。
 その時、ドーンという大音響とともに船が揺れて、人間どもが騒ぎ出した。
「さあ、猫どん、行くぞ」
 グラハムが駆け出すとオスカーも遅れてはいけないと追いかけた。

 そして海に飛び込んだオスカーはグラハムと一緒に、そばに浮いていた将軍愛用の木製葉巻ケースに乗って軍艦から離れた。
 軍艦はまもなくゴーという音を立てて海に沈んだ。
 オスカーは怖ろしい光景に震えながらグラハムに言った。
「ありがとう、グラハムのおかげで助かったよ」

 漂流していたオスカーは女王陛下の英国海軍駆逐艦コサックに引き上げてもらえた。
「ありがとう、僕はオスカー、こっちのネズミはグラハム」
 オスカーが助けてくれた英国の水兵に紹介しようとしたが、人間たちはネズミを追い返そうとする。しかし、グラハムは人間たちの手をかいくぐり、艦の中に逃げ込んだ。
「おい、ネズミが潜り込んだぞ」
 艦の中から誰かが喚くと、オスカーを抱いた水兵が怒鳴り返した。
「大丈夫だ、猫も一匹捕まえたから」


 駆逐艦コサックは輸送船護衛のため地中海へ移動した。
 オスカーは食糧倉庫付きの鼠捕獲水兵になったが、もちろんグラハムを見つけても本気で捕まえたりしない。
 しかし、平和な航海は長く続かなかった。
「おい、猫どん、もうじきこの船も沈みそうだちゅ」
 グラハムの警告にオスカーは驚く。
「え、また沈むのか?」
「今度はドイツの潜水艦の魚雷にやられるぞっちゅ」
「なんてことだ、俺はもともとドイツ海軍の水兵だったのに」
「いつも我々は人間の争いの被害者なのだっちゅ」
 予知通り、駆逐艦コサックは沈没し、オスカーとグラハムは近くの船に助けられてジブラルタル島に上陸した。

 その島の港に出入りする英国の軍艦を眺めながらオスカーはグラハムに言った。
「俺は船に乗りたい。もとの国に帰りたいんだ」
 グラハムはピンと来た。
「ははあ、女がいるんだろ?」
 そう言われたオスカーはしどろもどろだ。
「いや、そういうわけでは、つまり、その、なんだな」
「じゃあ俺もつきあうよ」
「え、いいのか?」
「ああ、ヒゲ触れ合うも他生の縁てやつだ。オスカーを放っておいたら、万が一、また沈む時、一人じゃうまく逃げられないだろう」
「へへへ、実は心細かったんだ。助かるよ、グラハム」

 こうしてオスカーは英国海軍空母アーク・ロイヤルに乗り込んだ。
 もちろんグラハムも夜陰に乗じてこっそりと乗り込んだ。
 
 しかし、またしてもオスカーとグラハムを乗せた空母アーク・ロイヤルはドイツの潜水艦の攻撃で大破、沈んでしまった。
 オスカーとグラハムは運良く救難ボートの水兵に助けられた。
 駆逐艦コサックにも乗ってた水兵はオスカーのことを覚えていた。
「こいつとっても運がいい猫だぜ、三度も船が沈没して助かったんだからな」
 すると、もうひとりの水兵が言った。
「いや、乗ってる艦が三度も沈没するなんて最悪の猫だぜ」
「うむ、そう言われるとそうだがな」
 そうなのだ、強運といわれるのは実は凶運だったりする。
 ジブラルタル島に再び上陸したオスカーは不運な猫として有名になってしまい、もはやオスカーを乗せてやろうという船はなくなった。

 失意のうちに、港で暮らしていたオスカーが再び勇気ある船に乗れたのは、戦争が終わって三年後だった。しかもオスカーとグラハムが乗った貨物船が辿り着いた先は意図と違いアイルランドだった。
 それでも猫オスカーと鼠グラハムが道を行けば微笑をもって眺められ、みんなから声をかけられたそうな。 
「仲良く喧嘩しな」     めでたしめでたし(*2)



(*1)あくまでも鼠さん本人による解説です。鵜呑み推奨せず。
(*2)あくまでも作者による強引なオチです。というか設定から強引だが(^_^;

オスカーの実際の肖像画が、英国グリニッジの国立海事博物館にあるそうです。

強運猫?凶運猫?オスカー公式?ページ

本文と関係ありませんが、猫と鼠が仲良く喧嘩する「トムとジェリー」の動画です。
アニメ「トムとジェリー」はオスカーが軍艦に乗る頃に初公開されています。



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コメント

おお!なんか凛々しい小説ですね。
戦禍をものともせず、知恵を使って海を渡り歩く二匹の冒険譚が楽しかったです。
オスカーは実在する猫なんですね。
公式ページを読もうとgoogleで翻訳したのですが、意味不明の日本語に変換されて笑っちゃいました(笑)
「にゃ」「ちゅ」という語尾も可愛いくて、ベタなオチも面白かったです♪
ソルティードッグは嫌いになりそうですけど(笑)

  • 2009/09/26(土) 00:41:45 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

◆ia. 様 ありがとうございます。

翻訳はいつもエキサイトの変な訳見てますが、google翻訳はさらにひどい赤点ですね。特に彼の人生が「終わった」が「完成」、sagaがサガではドン引きだよ。
'9 - lives'は9回助かった説もあるってことなのか。
公式ページの肖像画見ると、口と首が白っぽくてハンサムな猫みたいですね。

  • 2009/09/26(土) 01:11:56 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

オスカー、冒頭からネタバレさせちゃったからどんなオチかと思いました(笑)
読み進むうちにわたしも「トムとジェリー」がよぎりました。そういう年代よ。
はじめの一行が簡潔なだけに、すぐ物語に入れました。なんだか上等な翻訳ものの児童絵本をめくっていく楽しさがありましたよ。
きちんとした史実を追っているのに、会話の軽妙さがそう思わせたんですね。きっと。

動物ものっていいな。動物もので思い出したけど、「よだかの星」はよかった。久しぶりに読み返して泣きました。秋だわ。

>ソルティードック
うわ、バーに行きたくなりました。バーに。
はじめに頼むのはジントニック。カンケイナイカ

  • 2009/09/30(水) 23:45:44 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つる様 ありがとうございます。

ネタないな~てネットサーフしてたら、偶然、この強運の猫の記事にぶつかって、早速いただきました。
動物モノって余計な感情抜きでシンプルに訴えるからいいのかもしれませんね。

つるさんはジントニック派なんですね!

  • 2009/10/01(木) 00:44:02 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
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