銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 ブライト・ハウスはその地方で自社設計建築を販売している中堅メーカーである。
 その展示場のひとつ、緑沼町モデルハウスで、最近、妙なことが起きていた。
 売れ行きが急に伸びたのだ。
 普通、こういったモデルハウスは金額が張るだけに成約率はよくない。しかし、この数ヶ月、緑沼町モデルハウスでは成約率が異様に伸びているのである。

 担当の営業たちは社長賞を貰い、大喜びで今日も笑顔でお客を迎えていた。

 営業の津野優実は玄関脇にある応接室兼事務室の開いてるドアを形だけノックして言う。
「主任、お客様のご案内、お願いできますか?」
 テーブルで契約書類に目を通していた永沢浩は角ばった顔に笑みを浮かべた。
「喜んで。津野君、この書類完了だから片付けといてくれるか」と答え、エントランスで吹き抜けを見上げていた親子4人の客を迎えた。

 永沢はニ十分ほどかけてお客にひと通り家の中を案内してまわり、もとのエントランスホールに戻った。
「一生のお買い物ですから、お時間があれば、もうひとまわり、ご家族だけでチェックなさってみてください。
 ご質問があれば、私か近くにいる社員にお気軽になさってください」
 そう伝えて、自分はまた応接間兼事務室に引き下がった。
 以前はひとまわりすると応接室に引きずり込み、客が帰る玄関までしつこく勧誘していたのだが、思い切ってそれをやめて、後は女子社員のソフトな接客に任せたのが成約率アップにつながっているのかもしれない。
 永沢はそう考えていた。


 二階の階段を上がったスペースで、営業の井田麻維は、二歳ぐらいの幼児を抱いた三十歳ぐらいの母親に声をかけられた。
「2階も床暖房になるのかしら?」
「はい、オプションで承ってます」
「でも、そうなると電気代も気になるわ」
「そうですね、このタイプですと、冬は暖まった空気を逃がさず循環させる断熱サーキュレート方式を採用してますので、2階の床暖房まではいいという方もかなりいらっしゃいますよ」
「あ、そうなの」
「ええ」
 ショートヘアーの井田が目を細めてにこやかに笑うと、母親は安堵したように頷いた。
「カタログに出てるとつけた方がいいみたいな気分になるけど、お金はかかるしね。
 それで、オール電化って実際いいものなの?」
「そうですね、いいところも悪いところもあるのでどっちと決めるのは難しいですね。
 最終的にはお客様のお気持ちです。
 たとえば夜間に沸かす給湯は安くてとても便利なんですけど、その備蓄量を超えた給湯やIHクッキングの料金は割高になってしまいます。
 あと、全てが電気任せになるので停電になるとお料理できないのも困りますね」
「あ、そうよね、そこもあるのよね。
 で、ちょっと意地悪な質問だけど、この家が他社よりいいところはなんなの?」
 母親がじっと見詰めると、井田はボールペンを持つ手の甲でこめかみを撫でて考え込むようだった。
「他社よりですか、うーん、難しいですね。
 他社がいいところもいろいろあるし、うちがいいところも少しはあるし。
 私が思うに、ものすごい技術や品質は必要なくて、適度の明るさと、清潔な水回り、広すぎないリビング、そして小さくても庭があればそれで十分だと思うんですよ。
 お客様が、ここがこれからの未来、思い出を作ってゆく場所だと想像して、そこがホッと落ち着けそうならいい家だし、逆にどうも落ち着かないとなれば、どんなに大きく立派な家でも不満が出るんじゃないでしょうか。
 なんか答えになってなくて申し訳ありません」 
 井田は頭を下げたが、母親は合格点を与えたようだ。
「あんた感じいいわね。
 主人とよく相談してみるわ」
「ありがとうございます。
 またご質問ありましたらどうぞお気軽に」
 井田はそういって微笑んだ。

 □

 もうすぐ午後7時半、モデルハウスを閉店する時間だ。
 井田は1階のリビングに降りた。
 すると、小学校4年生ぐらいの男の子がドアのところまで来てニッと笑った。半袖のポロシャツにグレーの半ズボンという格好だが、デザインがかなり古くさく見える。男の子は毎日、この時間帯にやってくるのだが、たぶんこのモデルハウスの近所に住んでいるのだろう。親の帰りが遅くてここに来るのかもしれない。
「いらっしゃい」
 井田が声をかけると、男の子は「うん」と頷いた。
 井田は男の子をリビングに招き入れて、
「お菓子は好きなだけ取っていいよ」
 テーブルの大きなトレイを指差した。
 男の子はキャンディーとキャラメルをつかめるだけつかんで笑った。
「また明日もお菓子もらいに来てもいい?」
 どう見ても男の子はお客にはなりそうもないから、正確には内規に触れるが、子供のお菓子ぐらいで目くじらを立てるのもおかしい。
「うん、いいわよ」
 井田は笑顔で答えた。

 そこへ二階から三十代の夫婦が喋りながら降りてきた。今日の最後のお客である。
「あの、この部屋の写真も、撮っていいですか?」
 夫がデジカメを顔の高さに掲げて言うと、井田は微笑んだ。
「ええ、どうぞ」
 夫はリビングの様子をカメラに収めると、男の子は笑って両手でピースサインをして見せた。
 
 □

 その日、ブライト・ハウス本社では会議のため各地区のモデルハウスの主任たちが集められていた。
 自分のデスクで会議の準備資料に目を通していた永沢に、隣のデスクの渡河島が声をかける。
「今週も、永沢班の緑沼町は絶好調らしいじゃない」
「うん、まあな」
「お前んとこのモデルハウスさ、なんか憑いてるんじゃないの?」
「なんだよ」
「だからさ、きっと座敷わらしみたいなのがいるんだよ」
 渡河島は羨望の眼差しを向けたまま、おどけて言う。
「まさか」
 永沢は一笑に付そうとするが、内心は自分でも不思議に思ってる。
「だって、おかしいじゃん。
 ちょっと前までは同じような成約率だったのに、最近は四、五倍も差がつくなんて。別に大きく変えた点はないんだろ?」
「うん、せいぜいクロージングをしつこくしないぐらいだな」
「納得いかねえな。
 ああ、俺も座敷わらしをニ、三人欲しいな」
「はははっ、そんなのが本当にいるなら俺だってほしいよ」

 笑ってる永沢を、営業事務の増前久美が呼んだ。
「永沢さん、桑本さんてお客さんなんですけど、電話に出てもらえます」
「あ、ありがと」
 永沢は受話器を取ると一段高い口調で話し始めた。

《お待たせしました。
 先日夕方にいらした桑本様ですね。
 どうも、わざわざお電話ありがとうございます。
 何かご質問でしょうか?》
《いや、そちらで写真を撮らせてもらったんだけど。
 その中のリビングの写真にちょっと気になる点があって》
《と言いますと?》
《たいしたことないと思うけど、ちょっと変な白い影が映っててね。
 さっき、画像を添付してメールしたから》
《はい、あ、届いてます》
 お客は《じゃあ》と言って素っ気なく電話を切った。

 永沢はメールに添付されていた画像をクリックした。
 画像ビュウワーが起動して、リビングの画像が液晶モニタいっぱいに映し出される。

 その瞬間、「アッ」と永沢は声を上げた。

 そこにはテーブルの前でピースサインする男の子と、微笑む井田麻維の姿があり、その空中に奇妙な白い影が浮いていた。
 
「どうした?」「どうしたんです?」
 永沢のパソコンを覗き込んで、渡河島が絶句し、増前は悲鳴を上げた。
「キャーッ、こんな!」
 数瞬あって、ようやく永沢は体を小刻みに震わせながら言葉を搾り出した。
「バッカ野郎、いまだに仕事してるなんて、
 責任感強すぎだ」
 永沢の目から涙が一筋流れ、デスクに落ちた。
 
 永沢の部下の井田麻維は四ヶ月前、モデルハウスに出社する途中の交差点で大型トレーラーの暴走に巻き込まれてしまった。
 信号待ちしていたところを斜め背後から突然に跳ね飛ばされたのだ。
 即死だった。

 おそらく彼女は自分が死んだこともわからず、ずっとモデルハウスに現れて仕事をしてくれていたのだろう。

「最近、成績が上がってたのは、みんな井田のおかげだったんだな」

 永沢は井田麻維の明るい笑顔をいつまでも、いつまでも眺めていた。   了






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コメント

そっち系のオチでしたか。
怖い話かと思いきや、温かいストーリーでほっこりしました。
お得感を感じてもらいながらお客さんに物を売る、営業さんは大変だ~。
井田さんはとっても素敵な女性ですね。
こんな優しい笑顔の座敷わらしなら、私も会ってみたいです。

  • 2009/09/21(月) 00:23:46 |
  • URL |
  • ia. #DQukzmQA
  • [編集]

◆ia. 様 ありがとうございます。

ええ、さすがに男の子が座敷わらしというのはストレートすぎるので(笑)
「外壁断熱」を使ってもよかったんだけど、後のお題は消化できそうにないのでやめときました(^_^;

  • 2009/09/21(月) 01:53:19 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

読みましたw

そうでしたか~
私は井田さんが座敷童に変身して
店を繁盛させているのかと思いました。

そう来ましたか(^_^)
責任感もそうですけど上司の永沢さんのことを
慕っていたかもしれないですね。
と感じました。

  • 2009/09/21(月) 07:31:30 |
  • URL |
  • 舞 #mQop/nM.
  • [編集]

◆舞様 ありがとうございます。

そうです。永沢主任が井田に恋愛感情を持ってたことも書こうとも考えました。ただそうなるとショートの枚数では収まりがよくないなと断念です(^_^;

  • 2009/09/21(月) 11:27:37 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

井田さん、ナニゲに出てきてたから騙されちゃいました。
モデルハウスを訪れる時のワクワク感とその裏事情の両方を楽しみました。
ラストの、写真を眺め続けて終わるシーンは、しんみりさせられました。

  • 2009/09/23(水) 02:21:29 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つる様 ありがとうございます。

ちょっとズルい設定でしたが、よくよく考えると、現実では目の前の人物はいつも本物だと信じきっている。確かめず、その前提で行動する。こういうのを確証のバイアスというらしいです。

  • 2009/09/23(水) 10:16:12 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

確証のバイアスて面白いですね。思い込みはオバサンの専売特許だわ。
聞いた話です。霊感を持った人がコンビニのレジに並んで、自分の前に人がいるのに、店員がその人を相手にしないのを見て、「ああ、この人、霊なんだ」って思ったそうです。店員には見えないんですね、その人が。そんなふうに霊はフツーにいるんだそうです。
井田さんもそんなかんじだったのかなと。
それを前コメで書き損ないました。てかコメが「ました、ました、ました」で終わっていて、小学生かよ、と自分に突っこみました。オハズカシイ

  • 2009/09/24(木) 02:08:22 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つる様 ありがとうございます。

聞いた話って知り合いですか、すごいですね。
自分は見てないと思ってたけど既に見てるのかもしということですね。
「ました」は、つるさんが素直な証拠ですね。言われないと気づかなかったし!
日本語は欧州言語より語尾の形が豊富かもしれないですね。

  • 2009/09/24(木) 10:36:14 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

家の話を聞くと、おいらの妹は家を持ってるのに、おいらはまだ持ってないのが情けなくなってしまう。頑張ろうって思う。
あ、全然関係ないねw

でも、あれですよね。
正直な気持ちとしては、井田さんをこのまま成仏させたくないですよね。と、おいらは思ってしまったwっww
まぁ、給料はらえ~~ってとりつかれて言われたら成仏していいかもだけど(おぃ

  • 2010/01/21(木) 22:15:05 |
  • URL |
  • 見習猫シンΨ #ap6q.jK2
  • [編集]

家の話を聞くと、おいらの妹は家を持ってるのに、おいらはまだ持ってないのが情けなくなってしまう。頑張ろうって思う。
あ、全然関係ないねw

でも、あれですよね。
正直な気持ちとしては、井田さんをこのまま成仏させたくないですよね。と、おいらは思ってしまったwっw
まぁ、給料はらえ~~ってとりつかれて言われたら成仏していいかもだけど(おぃ

  • 2010/01/21(木) 22:15:40 |
  • URL |
  • 見習猫シンΨ #ap6q.jK2
  • [編集]

◆見習猫シンΨ様 ありがとうございます。

家は持とうとするまでが面白いんですよ。楽しみましょう!
たしかに!井田さんは稀有なスタッフですからねえ(笑)


  • 2010/01/22(金) 00:04:28 |
  • URL |
  • 銀河径一郎 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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