銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 †††

 天野助教授が弁護士を伴って、逮捕拘留されている芥川に面会しに警視庁を訪れたのは、翌日の夕方であった。
 特殊ガラス越しの面会室などない時代である。
 鳶松に先導されて、取調べ室の扉をくぐると、机に向かって静かに目を閉じている芥川がいた。
 鳶松は林田と容疑者を逃がさぬよう唯一の扉に立った。

 天野助教授は山高帽を脱いで挨拶する。
「芥川君、こんな形で会うのは大変気が引けます。
 こちらは漆原宮家の専属弁護士橘さんです。あなたの弁護にあたります」
 ポマード油で固めた髪に、丸眼鏡、鼻の下に髯をたくわえた橘が「どうぞよろしく」と挨拶した。
「助教授にしては手回しが早い」
 芥川はふっと笑みを浮かべかけたが、すぐ不機嫌そうに言った。
「しかし、私が取り調べを受けるのも不当だが、あなたが面会に来られるというのも法令違反でしょう」
「流石にどんな時でも冷静ですな」
 椅子に腰掛けた天野助教授が苦笑すると、橘弁護士がすかさず解説した。
「確かに天野教授が君に面会する権限はありませんが、漆原宮成親氏が真実を明らかにするには、弁護士が必要だと、私に弁護にあたるように命じられたのです。
 つまり、本日、天野教授は私の事務所のオブザーバーという立場とすれば違法ではありません。
 もちろん君が漆原宮成親氏の好意を受けてくれなければ意味はありませんが。
 私を君の弁護士とするに同意いただけますか?」
「そうですね」
 芥川は髪を掻いて、ひと呼吸おいて答えた。
「せっかく先輩にお越しいただいたのだから、好意はありがたく受けます。
 どうも警察は法律ではなくて、伝統的取調べ技法にのみ走っていて、僕の正当たる論理に耳を貸さぬのですよ。
 橘さん、そのあたりのあしらい方を伝授してもらえますか」
 その言葉に扉の内側に立っていた林田が「お前な」と叫んだが、鳶松が肩を叩いて抑える。

 天野助教授はおもむろに訊ねた。
「芥川君、あなたは犯人じゃないんですね?」
「もちろん私は犯人ではありません。
 犯人の心理を想像することに興味があっても、ひとつでもそれを実行して逮捕され死刑にでもなったら、まだまだ沢山ある他の犯罪の心理を想像する楽しみを永久に奪われるのですから。
 助教授まで私を疑ってるのですか?」
 芥川が睨むと、天野助教授は笑みを返した。
「疑ってません。
 ただ、君のその言葉を聞いてみたかったのです」
「ふむ、物理学の助教授が言葉にこだわるのですか?」
「私は波動物理というものを研究しておるのです。
 言葉は波動ですから、物質にすら作用することあり得ると考えています。
 聖書について私は宗教的に中立ですが、ヤーウェが《光あれ》と言うと光が満ちたとありますが、あれは必ずしもお話ではなくて、真実にあった現象の隠喩かもしれません」
 すると芥川は声を出して笑った。
「ハハハッ、これは愉快だ。
 そんなことを真顔で言う物理学の専門家がいるとは、ハハハッ。
 こんな愉快な学説は初めてです。
 助教授は案外、僕の友人になれるかもしれません」
 芥川はひとしきり笑い、鳶松と林田も首を傾げた。
 天野助教授は何事もなかったかのように話を継いだ。
「それで、芥川君はこの連続殺人について、どう考えているのです?」
 すると芥川は顎を指で支えるようにしてうなづき、過去に見せていた態度とは違い素直に天野助教授の問いに答えた。
「犯人はなぜ二人の女性を殺したか。
 そこに大変重要な理由がある筈だと思うのです。
 犯人は己を吸血鬼だと思い込んでいる。だからといって簡単にひとを殺しうるのか?
 その吸血鬼という存在の属性と、即座にひとを殺すという行為の間には、いまだ論理的な大きなCrackがありますから。
 きっと、特別な理由が付加されてるに相違ないのです」
「なるほど」
「真犯人が二人を殺した理由をよくよく考察してみろと、そこの刑事たちには指導してるのですが、私を犯人と決め付けて、まったく他の可能性を考えようとしないのだから閉口します」
 芥川はそう言って林田をさらに苛立たせた。

 面会を終えた天野助教授は廊下で、別れの挨拶を済まそうとする鳶松を呼び止めた。

「鳶松さん、ひとつお願いがあるのですが」
「なんですか?」
「被害者木野みすずの日記など押収していたら見せてほしいのですが」
「無理です。
 …という建前なのですが、刑事局長じきじきの指示捜査の手前、そうもいきませんな。
 特別に許可しますから、閲覧して下さい」
 鳶松は部屋に残っていた林田を呼び、証拠の閲覧に立会うよう言いつけた。

 漆原宮家に戻った天野助教授は、応接室で輸入した亜米利加の雑誌を広げていた貴子に切り出した。
「実は、山口まで旅をしようと思うのです」
 貴子は大きく目を開いて訊き返した。
「まあ、いつですの?」
「明日は大学で事情を説明するとして、早くて明後日出発です。帰りは土曜になるかもしれません」
「山口というと、たしか五棟さまと木野みすずさんの故郷でしたわね。
 何か手がかりを掴んだのですか?」
「ええ、みすずさんの日記に、周防の椿姫として生まれ変わりたいとあったのです」
「椿姫?どういう人なのですか?」
「さあ、わからないから調べに行くのですよ」
「わざわざ調べに行かなければならないことなのですか?」
「もしかしたら、事件の真相に連関あるやもしれません」
 天野助教授が言うと、貴子は深く頷いた。
「わかりました、許可いたします」
「あはは、旅に出るのに貴子さまの許可がいるのですか?」
「私たち、将来を約束してましてよ。
 あなたが私から遠く離れて何事かあったら心配ですもの」
「ふふ、心配いりません、浮気などしませんよ」
 天野助教授が笑うと、貴子は頬を染めた。
「嫌ですわ、そういう意味ではありません」
「それより一緒に行きませんか?」
 天野助教授が思い切って言うと、貴子はさらに頬を染めて首を横に振った。
「貴方が五棟様に何かしてあげろとおっしゃるから、金曜日は五棟様を舞踏会に誘ったと申し上げたでしょう」
「あ、五棟さんを慰めようと、そうだった、聞いてました」
「貴方は頭が良いのに、時々、物忘れするから可愛いですわ」
 そう言われて、今度は天野助教授が頬を染めた。

(吸血鬼ドラキュラ11につづく)





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コメント

お待ちかね~♪
芥川の研究する犯罪心理や天野助教授の波動物理にも心惹かれますね。
そのあたりをもっと読みたい気もします。
早く真相を知りたい気持ちもありながら、作中のエピソードが面白くて全然飽きないです。
「椿姫」かぁ。
たぶんあの人が犯人だと思うんですけど(笑)
早く続きが読みたいです~!

  • 2009/04/22(水) 21:21:09 |
  • URL |
  • ia. #-
  • [編集]

◆ia. 様 ありがとうございます。

放っておいてすまんです。ようやく結末を考え付いたってのもあるんだけど(笑)
そう、たぶん犯人はバレバレですね。


  • 2009/04/23(木) 01:12:22 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

意外。
舞台を山口に移すのね。興味あるなあ、山口。職場の若い同僚が山口出身なんです。標準語に混じるお国訛りが、すごく心地いいですよ。山口に絡んでどんな展開になるのかしらん。
わたしもia.さんと同じく、波動物理に惹かれました。色もそうですってよ。赤い部屋に入ると、目の不自由な方でも、色が出す波長に熱を感じるのだそうです。脱線した。

>ようやく結末を
え~!銀河系一朗さん、太っ腹。わたし、着地点が見えなかったら、書けないです。皆さん、そうなのかしら。つくづく思う。自分てチキンだなって。

  • 2009/04/23(木) 01:42:32 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つる様 ありがとうございます。

そうなんですか、特に山口地域限定の部分は少ないのですが、努力します。
赤い部屋、そうですよね、赤い方があったかいし、貪欲な気がする。だから私はゴールへの気迫が足りない日本代表のユニホームは赤にしろと言ってるんです!日の丸だって赤メインだし。

一応犯人は最初に決めてたんだけど、動機が今ひとつだったのが、ようやく収まりが見えたということなんです。

  • 2009/04/23(木) 15:01:32 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

なんだ。そうか。そうだったのか。安心しちゃった。みなさんアドリブきくんだなあと、その柔らか頭に嫉妬しました。
コメレスを、サッカーにふるとこなんて、憎いなあ。赤じゃなくて、青でいいのよ。古田のミットじゃないけど、青は集中力がを高めますからね。でね、こども部屋のカーテンをブルーにしたの。お勉強に集中するように。その効果は得られませんでしたが。ああ、これじゃ雑談だわ。ゴメン

  • 2009/04/24(金) 23:44:17 |
  • URL |
  • つる #-
  • [編集]

◆つる様 ありがとうございます。

そうなんです、昔はもう少しノートに書いてから書き始めてたのに、手抜きを覚えました(^^;

  • 2009/04/26(日) 13:20:14 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

こんばんわ

こんばんわ。
ご無沙汰していました。

芥川、おもしろいですね。
実際はかなり常識人だったらしいですが、御作のイメージ、まさに秀才で自尊心の高い芥川ですね。
トリックはおもしろかったです。
だんだん謎も決まってきたようですね。
また読ませていただきます。

いつもコメント大変ありがとうございます。
レスを書いていますのでいつかご覧になってください。
中島敦、ほんとに夭折で惜しかったですね。

  • 2009/06/25(木) 22:00:49 |
  • URL |
  • KOZOU #-
  • [編集]

◆KOZOU様 ありがとうございます。

芥川像は勝手な想像がふくらみますね。本人が生きてたら叱られそうですが(汗)
トリック、面白かったですか、よかったです。

また、そちらにお邪魔します!

  • 2009/06/26(金) 00:50:53 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]

◆なみぽむ様 ありがとうございます。

これからも、よろしくです!

  • 2009/08/02(日) 00:46:58 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #7VZ5bVfM
  • [編集]
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gingak
  • Author: gingak
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    『地球人も宇宙人』。
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