銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

鯨さん(鯨井祥瑚さん)主催のお題小説企画に参加しました。
冒頭は《それは道の向こうからやって来た。》で始まり、結語は《今日も世はこともなし。》で終り。キーワードは「やさしい」「厳しい」「タモさん」。30枚以内



 一休とんち話


 それは道の向こうからやって来た。

「好きっ、好きっ、好きっ、好きっ、好きっ好き~♪」

 蜜柑色の着物を着た、齢十に満たないほどの少女さよが歌を歌い、器用に右足でふたつ跳ね、左足でひとつ蹴りながら、橋にさしかかった。
 その橋の手前には桔梗屋の旦那の利兵と娘の弥生が腕組みをして立っていた。

 弥生は橋を渡ろうとするさよに声をかけてくる。
「ああ、だめよ、この橋は渡れないの」
 弥生さんのちょっときれいだけど、うんと意地悪な顔から意地悪な声が責め立てるように降ってきた。
「どうしてえ?」
 さよが聞き返すと、弥生さんが言う。
「ほら、張り紙があるでしょ」

 見ると橋の渡り口に立て札があり、「この橋渡るべからず」と書いてある。

 すると桔梗屋利兵が得意そうに言った。
「今日は、この橋を渡ってうちの店に、将軍さまがお見えになるんだよ。
 だから、汚らしい子供や大人は来ちゃだめだ、シッシッ」
「ひど~い、桔梗屋さんて本当に意地悪ね。
 覚えときなさいよ!
 一休さんに言いつけて懲らしめてやるんだから」
「ふん、さあ行った、行った、シッシッ」
 さよは一休の寺に一目散に駆け出した。

「一休さあ~ん」
 寺の裏庭で薪割りをしていた一休は、手を止めて、駆け寄るさよを振り向いた。
「さよちゃん、そんなに慌てて、どうしたの?」
「ちょっと聞いてよ」
 さよは自分の頬を引っ張ったり、両脇からつぶしたりしながら、桔梗屋さんたちが橋を通さない意地悪をしていることを訴えた。
 一休はさよちゃんの顔がおかしくてたまらなかったが、修行の甲斐あって、それを表情に出さずに聞き終えた。
「ひどいでしょ?懲らしめてよ」
「うーん、どうしたもんかなあ」
 一休はあぐらをかいて座り込み、こめかみの上を撫で、その手をあぐらの上で組むと考え始めた。
 本堂からは木魚のポクポクポクという音が響いてくる。
 おりんがチーンと鳴るのと、一休さんが目を開くのが同時だった。
「さよちゃん、その橋に行こうか」
「名案が沸いたのね」
「まあね、やさしいとんちだよ」
 一休さんは本堂に行って和尚様に断ると、さよと一緒に京の町に出かけた。

 例の橋のたもとに来ると、相変わらず桔梗屋利兵と弥生が渡ろうとする人々を止めている。
 一休がやって来たのに気付いた桔梗屋利兵は睨みつけた。
「だめだめ、この橋は渡れないよ。
 立て看板に書いてあるだろう。」
 すると一休はさよに向かって言った。
「さよちゃん、そこの大きめの石をふたつ拾ってくれる?」
「石を拾うのね、これと、これ、はい」
 石を受け取った一休は懐から糸を取り出すと、その端を石にくくりつけて橋を渡った向こうに放り投げた。
 そして、片方の石を足元に置くと、その糸の上を歩き始めた。
「あっ、だめだめ、この橋、渡るべからずが読めないのか?」
 桔梗屋利兵が怒ると、一休はにこりと微笑んだ。
「え、橋なんか渡ってませんよ。
 私は糸を渡ってるんです。
 さあ、さよちゃんも、みなさんも糸の上を渡ってください」
 桔梗屋利兵と弥生が歯ぎしりして悔しがった。
「ヒィー、そんなの屁理屈だあ」
 すると一休がやり返す。
「元々、みんなの橋に桔梗屋さんが意地悪するのがいけないんですよ」
 一休がさらに糸を何本も渡すと、足止めされてた人々は喜んで渡り始めた。
「あーあ、これじゃあ、また掃除しなきゃならんわい」
 桔梗屋さんはがっかりして橋のたもとに膝まづいた。

  ○ 

「ほー、ほっほっほっ」

 将軍足利義満の笑い声が桔梗屋さんの座敷に響いた。
「将軍様、笑いごとじゃないですよ。
 私と一緒に、一休さんをギャフンと言わせようって約束したのをお忘れですか?
 将軍様がそのように私の失態を喜んでは、私は身も蓋もないじゃないですか?」
「それはないのう、身も蓋も、さんざんな目に遭うた桔梗屋を、わしが喜んではいかんのう」
 そう言いつつ、将軍義満の笑いは止まらない。
「ほー、ほっほっほっ」
 桔梗屋利兵はしばらく将軍義満の笑い声を耐えてから切り出した。
「それでですね、将軍様、一休さんをやりこめるよい手を思いついたのです」
「ほお、一休をやりこめるとな?」
 将軍義満の顔が真剣になった。
「お耳を拝借」
 桔梗屋利兵は将軍義満ににじり寄り、ひそひそと策を披露した。 
「うーむ、それはよい手かもしれんのう」
「えへへ、是非、お買い上げのほどをお願いいたします。」

  ○ 

 数日後、一頭の馬が安国寺の境内に飛び込んできた。
 馬から飛び降りた新右衛門が大声を上げて一休を呼ぶ。
「一休さーん、一大事でござるーっ」
「どうしたんです?」
「将軍様がお召しでござる、来ていただけますか?」
「どうせ、またつまらない自慢話をしたいだけでしょ」
「まあ、つまらないだけかもしれませんが、
 とにかくおいで下さい」
 新右衛門が拝むように手を合わすと一休は頷いた。
「もちろん行きますよ、
 断ったら新右衛門さんが困りますからね」
「おお、ありがたい、恩に着るでござる」
 一休は新右衛門と将軍義満の屋敷に向かった。

  ○ 

「これなのじゃ、夜な夜な、この屏風の虎が、屏風から抜け出して走り回り、屋敷の中が荒らされ、庭の草花までなぎ倒されて、ほとほと困り果てておるのじゃ。
 一休ほどの知恵者ならば、虎を捕まえる名案があろう?」

 そう言って将軍はあごひげをつまんで一休を眺めた。

「もし、おぬしに名案がないなら『一休は将軍様のお役に立てません、参りました』と一筆記してくれればそれでよい。
 他の知恵者をあたるわ」
 将軍義満はにんまりとして一休を眺めおろした。
 丁度、その時、隣の部屋では桔梗屋利兵が一休が詫び状を入れることを想像して溢れ出そうな笑い声をこらえていた。

「どうじゃ、一休」

 将軍は勝ち誇るようにあごひげを撫でた。
 横に控える新右衛門も、この難問はさすがの一休さんでも解けまいと思った。
 一休は、こめかみの上を撫で、その手をあぐらの上で組むと考え始める。
 どこか近所の寺からか木魚のポクポクポクという音が響いてくる。
 おりんがチーンと鳴るのと、一休さんが目を開くのが同時だった。

「やってみましょう」
 一休の声は明るかった。
「なんと、この虎を捕まえると申すか?」
 将軍義満は声が震えるのを隠せなかった。
 いかに一休といえども、絵の中の虎を捕まえるなど、できるはずがない。
 その筈で出した難問である。

 しかし、一休の答えは、
「はい、きっと捕まえて差し上げます」

 これには隣の部屋の桔梗屋利兵も一体何が起きるかと襖を少しだけ開けて様子を窺った。
「新右衛門さん、筆と墨をお願いします」
 言われて、新右衛門は笑顔を隠しながら筆と墨を用意した。

 将軍義満は呪文でも書くのかと見守った。
 すると、一休は墨をつけた筆であっという間に、屏風の虎の口が開かぬように口輪を描き、首と四つの脚に鉄の枷を描き、足枷に鎖をつけて重りまで描いた。
「はい、出来ました」
 一休は微笑んで将軍義満を見た。
「何をふざけたこと、これはただの絵ではないか?」
「お言葉ですが、将軍様、絵の中のものが絵の外へ出るから私を呼んだのではないのですか?」
「う、うぬう」
 一休は目を輝かせて続ける。
「私は和尚様に叱られて本堂の太い柱にくくりつけられたことがありました。
 あまりの寒さに涙まで流したのですが、その時、ふと蟹を描くことを思いついたのです。
 そうやって涙で蟹を描くうちに、うとうとして眠ってしまい、目が覚めたら、描いた筈の蟹はいつの間にか姿を消して、私をくくっていた縄は切られていたのです。
 もっとも、おかげで、私は和尚様に『反省せずにずるで縄抜けするとはけしからん』とますます怒られてしまいましたけどね」
 将軍義満は顔を蒼白にして怒鳴った。
「嘘じゃ」
 一休は涼しい顔だ。
「嘘かどうかは、今夜、虎が屏風を抜け出れば、明らかになりますよ。
 あらかじめ力自慢のつわものたちを屏風のそばに控えさせておいて下さい。
 やがて虎が屏風から抜け出たら、虎の口と首と手足についている鉄の枷の長い鎖を、つわものたちに掴まえさせて下さい。
 首と脚を何人ものつわものに引っ張られては、獰猛な虎といえども身動きならず、たちまち捕まえられますよ」
 将軍義満は今度は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「おのれー、虎が屏風から抜け出る筈がないであろう」
 一休は目をつぶって言った。
「将軍様、今の台詞は将軍様の名誉のために聞かなかったことにしときます」
「うぬぬ、いや、これはみんな桔梗屋が悪いんじゃ、誰かある、桔梗屋を引っ立てい」
 家来の手で、次の間から桔梗屋が突き出された。
「あ、あんまりです、将軍様」
「何を言う、お前の浅はかな入れ知恵がいかんのじゃ」
「そんなあ」
「余を惑わした罰にしばらく牢屋に入っておれ」
「ひー、ひどすぎますよ。牢屋に入れられても屏風の代金の方はちゃんと払っていただきますよ!」
「何を言う。それは一休をギャフンと言わせた時のことだ。
 わしがギャフンと言わされて誰が払うものか」
「厳しい、厳しすぎますよ、将軍様~っ」
「うるさい、新右衛門、桔梗屋を引っ立てい」
「ああ、高い屏風を悪戯書きで台無しにされて、びた一文貰えないなんて」
 新右衛門は嘆く桔梗屋の肩を押しながら、一休さんに目配せした。

  ○ 

 お堂で横になっていた一休がむっくりと上半身を起こした。
「はあ~い。面白かった?じゃあ~ね~」
 誰に挨拶してるとかは考えないでほしい。それはお約束なのだから。
「おい、和尚さまが来たぞ」
 秀念のひとことでごろごろしていた一休はじめ坊主たちはさっと文机の経典に向かった。

 今日も世はこともなし。          了





禅問答のかけあいの「そもさん」をタモさんにしようと思ったけど、聞き間違いはどこかで使ったから、今回は別の手を採用(笑)

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コメント

祭り作品、早速読ませていただきました。
「一休さん」なんて、嬉しすぎ(^^
テンションあがりましたよ~!

  • 2008/08/02(土) 14:34:15 |
  • URL |
  • ia. #-
  • [編集]

◆ia. さま ありがとうございます。

そうだ、イチローが3000本安打達成したから、一弓をもじって一休を書いたと説明しようと思ってたのに、それを忘れて本当のことを書いてしまった(^^;
盛り上がってよかったです!

  • 2008/08/02(土) 16:25:41 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #DhVq6Ht6
  • [編集]

一休さん、面白かった!
しかし、あれだけ漫画の一休さんに詳しいとなると、やっぱ同世代?
う~む。銀河さんはなんでも知ってるからなぁ。

さて、祭りにいったことだし、
シンもなにか書くかなぁ。。。と思ったけど
シンの小説にならないからやめときます(汗

一休ファブィ!

  • 2008/08/04(月) 11:59:10 |
  • URL |
  • 見習猫シンΨ #ap6q.jK2
  • [編集]

◆見習い猫シンΨさま ありがとうございます。

世代は少し上かも。精神年齢はかなり若い、というかガキ(爆)
新米と熟練を登場させて、展開すれば面白いのができると思いますよ!

  • 2008/08/04(月) 22:38:48 |
  • URL |
  • 銀河系一朗 #DhVq6Ht6
  • [編集]
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gingak
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    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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