もう逃げるわけにはいかない。
朝の面会時間になった途端、お母さんが入って来てくれて、ホッとした。
「先生も言ってたでしょ。
今回は前の治療より、さらに免疫力が落ちるんだから、クリーンルームの決まりをちゃんと守るのよ」
「わかってるって、うるさいな」
なんて、いつもと同じ口答えが妙に心地よかったりする。
「大変だろうけど、がんばってね」
「うん、心配しないで。私はお母さんの子だから頑張れるよ」
お母さんは目頭を押さえて後ろを向いた。
「私、美容室行ってくるね」
私はそう言って病院の中にある美容室に向かった。
今回は、枕元に落ちる髪を取るのも大変なので、抜ける前に髪を剃ってしまうのだ。
つるつる頭をバンダナで覆って病室に帰ると、ちょうど佐藤先生と看護士のアカネさんも来てて、母と一緒に迎えてくれた。
「準備万端だな」
「まあね」
「お、えらいな、余裕だね」
佐藤先生が言い、アカネさんがクリヤーホルダーに挟んだ書類を渡してくれる。
「じゃあ、これを持って放射線科に行って、帰りはそのまま、クリーンルーム病棟に行ってもうひとつの書類を渡してね」
「はい、行ってきます」
「頑張ってな」「頑張って」
みんなに励まされて、私は放射線科に向かった。
放射線は1時間かけて三日連続で受けることになる。
放射線は見えないから実感がわからないが、体は確実にだるくなった。
それからクリーンルームに入り、看護士さんからIVHから抗がん剤を点滴され、その副作用の吐き気を止める薬も投与される。
ところが、夕方には吐き気を通り越して、いきなりもどした。
さすがは強力な抗がん剤だ。
私の涙もいきなり溢れた。
話で聞いてはいたが、実際にそうなると、あんなに頑張ると決めていた気持ちがぐらついてくる。
こういう時は、ヒロキさんのメールが頼りだ。
ビニール袋越しに携帯のボタンを押して送信する。
《こころです、いよいよ骨髄移植前のきつい治療が始まりました。
さっきいきなり吐いて凹んでます》
《そうか、きつい治療が始まったんだね。
でも、こころちゃんは治るんだから、気持ちを強くもってね。
僕も愛するこころちゃんを応援しているよ!》
私は、この世の中にメールというものがあって、一番助かっている人間は自分に違いないと思った。
(つづく)
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