五月の連休直前のピンチを乗り切ったこころは、地固め治療を続けて夏休みの終わる頃、骨髄移植の準備に入った。
こころと両親は、診察室に入ると、佐藤先生に向き合った。
私も父母も緊張している。
いよいよ病気の悪玉に決戦を挑む、そんな感じなのだ。
佐藤先生は説明を始めた。
「娘さんは、これまで地固め治療を順調にクリアしてきました。
いろいろ辛い時もあった筈ですが、娘さんは頑張って成果を上げてきた。
これは思い切り褒めてあげてよいことですよ。
僕は立場上、偉そうに見えるかもしれませんが、もし僕がこころさんの立場だったら、弱音を吐いてたかも、いや、きっと逃げ出してたに違いないですよ」
佐藤先生は笑って、それから真顔で言った。
「だから僕はこころさんを尊敬します」
私はそう言われてどぎまぎした。
「病気は薬や医師が治すんじゃないんです。
患者さんの生きる力が治すんです。
この治療は無理だと医学の常識が決め付けても、患者さんが闘う意欲と明るい気持ちを持ち続けていると、突然よくなったりするんです。
僕はこの仕事のおかげで、生きる力の素晴らしさをいつも思い知らされます。
そして尊敬すべきこころさんが、完全に治って普通の生活に戻れるように、これからも全力をつくしますので、よろしくお願いします」
偉ぶるところがなく、ひたむきな佐藤先生の言葉に、父母はお辞儀した。
「娘は素晴らしい先生に診ていただいて幸せ者です。
これからもお願いします」
「それで治療ですが、いよいよ骨髄移植の準備に入りたいと思います。
骨髄移植の前には、自分の骨髄が残っていてはいけないので、地固め治療の時よりもさらに徹底した処置をします。
半月ほど強力な抗がん剤投与、放射線照射を行います。
そのため、副作用も、痛み、吐き気、脱毛、口内炎、下痢、痔など、その説明書にあるように今までより強いものが出ます。
そうして自分の骨髄がない状態で、百パーセント健康なお父さんの骨髄を入れて、血液がお父さんのものと入れ替わることになります。
ただ、脳など一部は前の血液型が残ります。
よろしいでしょうか?」
私はつばを飲み込んで、父母より先に答えた。
「はい」
それに続いて父母が「よろしくお願いします」と答えた。
診察室を出た私は、廊下を歩きながら父母に言った。
「いろいろ迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑って?」
「お父さん、骨髄取るの痛いんだよ、それにお金もいっぱいかかるし」
お父さんは振り向かずに歩きながら言った。
「父さんはこころみたいに注射が怖くないから大丈夫だ。
お金はこころに車を買ってやるつもりだったお金を使うだけだ。
お前はおっちょこちょいだから、自動車事故で大怪我する心配がなくなってよかったよ」
父の優しいせりふが嬉しかった。
「あはは、そうかも」
「それに移植が成功したら、お前も父さんの洗濯物みたいな臭いがするかもしれないな」
「えー、それだけは勘弁してよ」
私は言いながら、今まで父の洗濯物を嫌っていたのを心の中で謝った。
(つづく)
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こころと両親は、診察室に入ると、佐藤先生に向き合った。
私も父母も緊張している。
いよいよ病気の悪玉に決戦を挑む、そんな感じなのだ。
佐藤先生は説明を始めた。
「娘さんは、これまで地固め治療を順調にクリアしてきました。
いろいろ辛い時もあった筈ですが、娘さんは頑張って成果を上げてきた。
これは思い切り褒めてあげてよいことですよ。
僕は立場上、偉そうに見えるかもしれませんが、もし僕がこころさんの立場だったら、弱音を吐いてたかも、いや、きっと逃げ出してたに違いないですよ」
佐藤先生は笑って、それから真顔で言った。
「だから僕はこころさんを尊敬します」
私はそう言われてどぎまぎした。
「病気は薬や医師が治すんじゃないんです。
患者さんの生きる力が治すんです。
この治療は無理だと医学の常識が決め付けても、患者さんが闘う意欲と明るい気持ちを持ち続けていると、突然よくなったりするんです。
僕はこの仕事のおかげで、生きる力の素晴らしさをいつも思い知らされます。
そして尊敬すべきこころさんが、完全に治って普通の生活に戻れるように、これからも全力をつくしますので、よろしくお願いします」
偉ぶるところがなく、ひたむきな佐藤先生の言葉に、父母はお辞儀した。
「娘は素晴らしい先生に診ていただいて幸せ者です。
これからもお願いします」
「それで治療ですが、いよいよ骨髄移植の準備に入りたいと思います。
骨髄移植の前には、自分の骨髄が残っていてはいけないので、地固め治療の時よりもさらに徹底した処置をします。
半月ほど強力な抗がん剤投与、放射線照射を行います。
そのため、副作用も、痛み、吐き気、脱毛、口内炎、下痢、痔など、その説明書にあるように今までより強いものが出ます。
そうして自分の骨髄がない状態で、百パーセント健康なお父さんの骨髄を入れて、血液がお父さんのものと入れ替わることになります。
ただ、脳など一部は前の血液型が残ります。
よろしいでしょうか?」
私はつばを飲み込んで、父母より先に答えた。
「はい」
それに続いて父母が「よろしくお願いします」と答えた。
診察室を出た私は、廊下を歩きながら父母に言った。
「いろいろ迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑って?」
「お父さん、骨髄取るの痛いんだよ、それにお金もいっぱいかかるし」
お父さんは振り向かずに歩きながら言った。
「父さんはこころみたいに注射が怖くないから大丈夫だ。
お金はこころに車を買ってやるつもりだったお金を使うだけだ。
お前はおっちょこちょいだから、自動車事故で大怪我する心配がなくなってよかったよ」
父の優しいせりふが嬉しかった。
「あはは、そうかも」
「それに移植が成功したら、お前も父さんの洗濯物みたいな臭いがするかもしれないな」
「えー、それだけは勘弁してよ」
私は言いながら、今まで父の洗濯物を嫌っていたのを心の中で謝った。
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コメント
こんばんは。
父親の洗濯物って、なんであんなに嫌な臭いなんでしょうね。笑
洗濯物の臭いよりも、優しさの方が骨髄と一緒に移植されることを願います。^^
骨髄移植だけでなく、その前も大変なんですね。こころが前向きでいられるのも周りの人たちの気遣いがあってこそなんでしょう。
◆たろすけ(すけピン)さま ありがとうございます。
うまいこと言いますね。訪問できなくて申し訳ないです。
◆つるさま いつもありがとうございます。
ほんとに大変なときは、周りが支えてくれるのが嬉しくて心強いですよね。
- 2008/04/27(日) 15:55:56 |
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- 銀河系一朗 #DhVq6Ht6
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- 2008/07/20(日) 15:20:18 |
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