翔子ちゃんは私のベッドに下げてる折鶴の束を見て言った。
「これね、クラスの皆と私で完成したんだ。
きっと元気になって、後から思い出すんだよ。
あの時は大変だったけど、頑張ったなあって」
翔子ちゃんはうなづいてから、思い出したように聞いた。
「そういえば、退院した時、彼とは会ったの?」
私は笑いながら言う。
「なんでそんなこと、翔子ちゃんに話さなきゃいけないの?」
「だって、先輩はね、後輩の悩みや面倒をみるものなんだよ」
「それはそれは、ありがとう、先輩」
「で、彼と会ったの?」と隙をあたえない翔子ちゃん。
「それがね、入れ替わりで彼が入院しちゃってさ、会えなかったの」
「そうか、それは残念だったね」
翔子ちゃんはたぶん彼の話を聞きたかったのだろう、会えなかったと知ると、がっかりしたようだった。
「ところで、翔子ちゃん、さっき、廊下で会った人が言ってたんだけど、ウィリー・シドニーて知ってる?」
「知らない。シドニーはオーストラリアの首都でしょ」
「ブッブー、首都はキャンベラだよ。友達に聞こうっと」
ぶつぶつ言ってる翔子ちゃんをほうっておいて、私はサトミとカオリにメールで尋ねた。
《廊下で会った車椅子の人が言ってて気になったんだけど、ウィリー・シドニーて知ってる?
できたら調べてみてくれない?》
すると、すぐに二人から、後で調べておくよ、と返事が来た。
看護士のリカさんが真っ赤な点滴を持ってきた。
「吐き気や口内炎がきついかもしれないから、がんばって」
「赤インクみたいな、やな色だね」
「うん、きつい薬だから、投薬を間違わないように色がついてるんだよ」
「はあい、がんばりま〜す」
なんか赤インクが体に入ってゆくようで憂鬱だ。
2時間ほどすると、カオリからメールが来た。
《さっきのウィリー・シドニー、図書館で調べてみたけど、わからなかったよ。
役に立てなくて、ごめんね》
《ううん、わざわざ調べてくれてありがとね!》
それからまた1時間して、サトミからもメールが来た。
《ネットで検索してみたけど、こころの言ってたウィリー・シドニーは見当たらなかったよ。
どういう人なの?》
《たまたま車椅子の人が口にしただけで、どういう人かは全然わかんないんだよ。
サトミ、部活で疲れてるのに、わざわざありがと》
こころは携帯をしまうと、点滴の赤インクを見つめて溜め息を吐いた。
(つづく)
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