銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 出雲の船通山を望む斐伊川のほとりに村主を勤める家があった。
 村主といってもこの時代は皆貧しく塀もない大きめの小屋のような造りだ。障子などもないから朝の訪れは夜の間閉じている板の隙間から漏れる日差しと鶏の声によって知れる。
 
 早起きのクシナダ姫は一番鶏が鳴く前に布団代わりの薄い布をたたむと、板をあげて支え棒で固定し窓を開いた。
 朝靄が次第に透き通って船通山の向こうに朝日が昇る。それを眺め、雀たちがさえずり出すと挨拶するように歌うのが日課なのだ。
 
 まもなくクシナダ姫の次に早起きの隣家の叔父が棚田に向けて出てゆくのが目に入り、姫は挨拶の声をかけた。
「叔父さん、おはようございます」
「おう、いつも早起きだのう」
 叔父は笑いかけたが、その顔は見る見る凍り付いた。
「叔父さん? どうしたの?」
 しかし叔父はクシナダ姫には答えず玄関の戸板を叩き叫んだ。

「大変じゃ、壁に白羽の矢の立っとるが」

 クシナダ姫は目の前が真っ暗になった。
 白羽の矢が立つとは生け贄を出す家の壁に文字通り白い羽のついた矢が打ち込まれることだ。
 それは昨夜の長老だけの寄り合いでクジ引きにより決められたに違いなかった。
 白羽の立った家は村を守るために娘をヤマタノオロチの生け贄として差し出さなければならない。この習わしは祖父の代より古くから続く絶対の掟なのだ。
 クシナダ姫には四人の兄と三人の姉がいたが、三人の姉はほぼ一年おきにヤマタノオロチの生け贄として差し出されていた。
 そしてクシナダ姫が大好きだった大きい兄も姉を守ろうと許婚の男と組んでヤマタノオロチに刃向かったが巨大な牙にズタズタに噛み砕かれて死んでいた。
 去年は別の家に白羽の矢が立ちクシナダ姫は姉たちを亡き者にした恐ろしい運命から解き放たれたと安堵していたのだが、やはり悪夢のような運命はまだ続いていたのだ。 
 クシナダ姫は姉の形見の萌黄色の着物を取り出し抱いて泣いた。
 
 父親と叔父はひそひそと話し込み、母親はクシナダ姫の様子を見にやって来た。
「クシナダよ、こらえて務めを果たしておくれ。お前を守ってやれない私らをどうか堪忍しておくれ」
 父母は何も悪くない。
 そうしなければ恐ろしいヤマタノオロチはもっと多くの村人を襲い村は滅んでしまうに違いない。
 それでもクシナダ姫は母にひとこと言わなければ気が済まなかった。
「母様はひどいよ。私もお姉たちも生け贄にするために産んだだけじゃないの」
 母親は胸を押さえ突っ伏して号泣した。
「堪忍しておくれ、堪忍しておくれ」
 クシナダ姫はすぐに後悔した。
 一番苦しい思いをしてるのは間違いなく母親なのに、自分の感情に任せた言葉で母親の心の傷をさらに開いて塩を塗り込んでしまった。
「母様、ごめんなさい」
 向こうの部屋から急に父親の嗚咽が漏れてくる。

 クシナダ姫はいたたまれず台所に降り箸を掴んで外に駆け出た。

 恐ろしいヤマタノオロチや、母親を苦しませた自分の感情や、娘を理不尽に奪われる父親の悲しみや、そういった全てのものから逃げ出したかった。
 足は自然と斐伊川に向かった。
 小鳥たちはいつものように競うようにさえずりを聞かせたが、今日のクシナダ姫の耳には入らない。
 クシナダ姫にあるのはすぐに全てを消してしまいたいという思いだけだ。
 斐伊川の流れに足を踏み入れ、数歩進んだ。
 ひやりとした冷たさからも逃げ出したくなる。
 だがここで箸で急所を突けば血が失せて逃げる心も遠くなり死ねるだろう。
 クシナダ姫の目から大粒の涙がこぼれ落ち、流れはきらきらと輝いた。

 その時、声が響いた。
「馬鹿なことはよせーっ」

 岸辺に叔父が駆けて来て思いとどまるように訴える。
「お前の苦しいのは当然だ。わしも自分の娘も生け贄に出したからわかる。
 可愛い姪っ子までこんな酷い目に会わせたくない。
 しかし生け贄を立てねば村は怪物に皆殺しにされる。
 お前のお父もお母も自分が死ぬより辛い血の涙を呑んでお前に役目を果たしてほしいと思っているんだ。どうかこらえてくれ。
 酷なことは承知だが、もしここでお前が死ねば今年はまだ生きられた筈の別の娘にも白羽の矢が立ち死なねばならぬ。
 そして悲しむ家族がふたつに増えるのだぞ。堪えて役目を果たしてくれ。
 この通りじゃ、頼む」
 叔父は岸の地べたに頭をすりつけ、その背は小刻みに震えている。
 クシナダ姫は箸を川に投げ捨てて涙を拭いもせず岸に向け歩き出した。
「頭を上げてくだされ。他の娘に迷惑かけるわけにいかぬ。こんな役目はうちだけでえっぱいや」


 ◇


 高天原を追放されたスサノオは出雲に辿り着き斐伊川に沿って歩いていた。

 空気は澄み切っていて気持ちがよく、畑仕事をしている老人は朗らかに笑みを寄越す。
「よい天気で。お見かけしないですが、どこからおいでましたか?」
「うん、遠いところから旅して来たのだ」
「それはご苦労さまです」
「この辺で見所はなんだ?」
 スサノオが問うと老人は腕組みした。
「さて。そうですな、秋に野だたらいうて鉄を取る野焼きをやりますがあれは珍しい見ものかと。中にはヤマタノオロチの目のようで恐ろしいと言う者もおりますが」
「ヤマタノオロチ?」
「川上の村に出るという大蛇の怪物で、その姿を全部見て無事に帰った者はおらぬという言い伝えにございます」
 スサノオは興味を持った。
「ほお、そのヤマタノオロチ、わしなら倒せるかのう」
「なるほどあなた様はご立派ですが、ヤマタノオロチは頭から尻尾が山から谷まで届くほど長く、その上その頭が八つあると言い伝わっておりますでの。今まで何人もの力自慢が返り討ちに遭うてますのや。触らぬ神に祟りなしと申します。はい」

 老人と別れてしばらく行くとスサノオは斐伊川の川面に箸が浮いているのを見つけた。
 貴重な箸をうっかり流すことはまずない。おなごは箸で死ぬという話は聞いた覚えがある。
 胸は急に早鐘のように拍を打ちスサノオは箸を拾い上げ駆け出した。


 ◇


 スサノオが駆けてゆくと立ち話している中年の男二人に出くわした。下流の老人と違いその表情は暗く声は低い。
「おい、この辺りでついさっき入水した娘はおらぬか?」
 スサノオが息を切らしつつ問いかけると男たちは棒のようになって頷いた。
「あ、はい」
「いるのだな?」
「はあ、入水しかけたらしい娘はおりますで」
「今朝、白羽の矢が立ったんで、可哀想にヤマタノオロチの生け贄になりますで」
「無事か?」
「と思います。濡れた着物で叔父と泣きながら家に戻るのは見ましたで」
「よし、案内いたせ」


 ◇


 家の中からは母親と娘が泣いている声が聞こえて来た。
「白羽の矢が立ったという家はここか?」
 スサノオが呼びかけるとまもなくして主が現れ泣き腫らした目で頭を垂れた。
「いかにも当家でございますが、あなた様は?」
「わしはスサノオと申す。仔細を聞きたい」
 立派な体格でこの辺りでは見かけない髷を結い、胸には美しい勾玉をして凜々しい目をしているスサノオはひと目で高貴な者とわかる。
 主は断れずにスサノオを家に上げた。

 主は自分の娘たちは次々にヤマタノオロチの生け贄になり今回は末娘を差し出さねばならないことを打ち明けた。

 聞き終えたスサノオはずっと伏せて控えているクシナダ姫に言った。
「娘よ、箸を落としたであろう」
 スサノオが懐から箸を差し出すとクシナダ姫は驚いた。
「これも縁だ。そなたの名は何という?」
 男が娘に名を尋ねることが求婚であった時代のことだ。

 クシナダ姫は頬を染め、父親は聞き返した。
「我が娘を妻にと仰られるのは光栄ですが、娘が生け贄になるのはもはや動かせない掟なのです。どういうおつもりですか?」
 スサノオは宣言した。
「わしがヤマタノオロチを退治してやるというのだ」

 主は頭を左右に振った。
「お気持ちはありがたいことながら、過去に何人もの屈強な男がヤマタノオロチに立ち向かいましたが、あっという間にオロチに蕪でも食らうように噛み砕かれて果てたのです。この娘の一番上の兄も姉のために命を落としましたで。それでは娘の悲しみが増えるばかり、お助け無用にございます」
「地上の男たちはそうであろうともわしは負けぬ。わしは伊邪那岐尊イザナギの息子、須佐之男尊スサノオノミコトである。必ずやヤマタノオロチを倒し、娘を妻としよう」
「こ、この国を作られた神様の息子……」
 主も妻も驚きに打たれて平伏し、クシナダ姫が顔を上げて答えた。

「私はクシナダでございます」
「よい名じゃ」
「この地の棚段になった稲田の珍しい様子を見ていて奇稲田姫と名づけました。スサノオノミコト様、ふつつか者でもったいない限りですがなにとぞよろしくお願いいたします」
「うん、クシナダ姫は愛らしゅうて気に入った」
 スサノオとクシナダは笑みを交わした。
「早速、めでたい祝宴を手配せねばなりませぬが、やはりあの怪物のことが気にかかります。大丈夫でしょうか?」
「うむ。頭が八つもあってはいかにわしとて簡単に退治することは難しい」
「それでは困ります」
「慌てるな。幸いわしには力だけでのうて知恵もある。知恵も使えばよいのじゃ」
「はあ」
「閃いたぞ。よいか、特大の大瓶を八つ作らせ強い酒を満たすのだ。ヤマタオロチにも酒をふるまってやる」
「酒をですか?」
「うむ。最もやっかいなのは八つの頭に休みなく攻めかかられることだ。だが、八つの頭を酔わせてしまえばそんな器用な攻撃はできまい。酔いつぶれた頭からたやすく仕留められる」
「さすがはスサノオノミコト様。ヤマタノオロチを退治していただけば我が家だけでなく村中の皆が助かります」


 ◇


 ついにヤマタノオロチがやって来る日となった。
 戸締りをした家のまわりには強い酒をなみなみと注いだ大瓶を八つ、間隔を開けて置いてある。その匂いが鼻につく。
 少し離れた広場には御幣をかけた舞台が設けられているが、着物を着ているのは藁人形だ。
 スサノオはクシナダ姫を背負い呪文をかけると姫の姿はスサノオの髪に刺した櫛にしか見えなくなった。そして大瓶を見渡せる茂みの陰に身を潜めた。

 雲が青空を覆い隠すとやがて小さな地響きが起こり、遠くの森で木の枝が次々と折れる音がした。
 生ぬるい風が吹いてそれは異様な匂いを運んでくる。
 黒褐色の大きな頭の大蛇だ。赤い目は輝き、開いた口から大きな牙が見え、赤い長い舌がはみ出てチロチロと空を舐める。
 大蛇は三つ、五つ、七つと数を増やす。
 スサノオが囁く。
「オロチの頭が八つ揃ったぞ。クシナダ、声を出すなよ」
 酒の匂いに釣られてオロチの一頭が大瓶に頭を近づけ、舌で味見してから更に口を近づけて吸った。
 それを見てさらに一頭、もう一頭が別の大瓶に口をつけた。

「わしとクシナダの祝宴の酒だ。たんと呑んで酔いつぶれるがよい」
 五頭のオロチは大瓶に口をつけて動かない。
 後の三頭は生け贄が気になるらしく舞台のある広場に首を伸ばそうとする。
 しかし五頭が酒に夢中のために引っ張られて進めない。

 仕方なく三頭の一頭も大瓶に口をつけた。
 そうこうするうち最初に口をつけたオロチの頭は大瓶の奥深くまで酒を飲み進め、大瓶の中に頭を突っ込んだままいびきをかき始めた。
 さらに一頭、もう一頭が大瓶に頭を突っ込んだまま酔い潰れていびきをかく。
 スサノオはクシナダに囁いた。
「しっかり掴まっておれ」

 スサノオは茂みから出ると大瓶に頭を突っ込んだままの一頭のオロチに駆け足で近寄り、剣をふりかざすと素早く斬り下ろした。
 分厚い鱗と骨の音なのだろう重い音を立てて、オロチの頭に連なっていた長い首だけが地面に落ちた。
 スサノオは素早く隣の大瓶で酔い潰れているオロチに駆け寄り、そちらも切り落とす。
 こうして、あっという間に四頭のオロチは酔い潰れたまま首と離れて息絶えた。

 次の大瓶から酒を呑んでいたオロチの頭がスサノオに振り向き襲いかかるように大きく開いた口の牙を伸ばしてくる。
 だが酔っているせいか動きは速くない。
 スサノオはオロチが迫ったぎりぎりのところで横跳びに避けて鋭く首を切り落とした。

 残るは少し酔っている一頭としらふの二頭だ。

 しらふの一頭が猛然とスサノオめがけてきた。
 スサノオは逃げるように木立ちに向かい、そこでオロチをからかうようにおいでおいでと手招きした。
 怒ったオロチはいよいよスピードを上げてスサノオめがけて突進する。
 オロチが残り腕の長さほどに迫った。
 剣を口にくわえ背を向けたスサノオは両手を伸ばして柿の木の太い横枝を掴み、それを軸に大車輪に回転してオロチの突進を交わした。
 次の瞬間、スサノオはオロチの後ろ頭に飛びつき剣を振り上げる。
「どうだ、後ろ頭にまたがられてはお主の牙もただの飾りだ」
 スサノオはそのままオロチの後ろ頭に斬りつける。
 だが同時に酔ったオロチがスサノオに襲いかかってきた。
「左!」
 クシナダの叫びにスサノオはしらふの頭を切り落とすや、体を沈めて剣を左に振り上げた。
 スサノオの頭は酔ったオロチの大きな口の中にほとんど収まりかけていた。
 しかし、スサノオの剣は上顎の内側からオロチの頭を外まで突き刺していた。
 スサノオはオロチの口をこじ開けるように払いのけ笑った。
「クシナダ、声を出してはお前がここだと悟られてしまう」
「すみません」
「いやお前のおかげで助かった、礼を言うぞ」
「もったいない、それよりあと一頭います」
「一番イキのいい奴が残ったか。困ったな」
「どうかされました?」
「今の一撃で剣先と刃がこぼれてきたのだ。このままではあいつの分厚い鱗と骨を斬れない」
「どうしましょう?」
「案ずるな、なんとかするさ」

 しらふのオロチはスサノオを見て大きな口からよだれを垂らして襲いかかってくる。
 スサノオは素早く駆けて大瓶の前に立った。
 オロチが牙を剥いて口を伸ばす。
 牙が届くと思われた瞬間、スサノオは真後ろに跳躍して大瓶の背後に隠れた。
 大瓶が凄まじい音を立てて割れ酒が飛び散った。

 クシナダ姫は勝ったと思った。
 しかし、オロチはよほど石頭なのか首を左右に振ると再び牙を剥いた。
「堅い大瓶に激突してもびくともしないとは」
 刃こぼれのある剣ではオロチの目以外には通用しないだろう。今は大瓶に激突させて相手の勢いを削ぐしかない。

 スサノオは大瓶を盾に戦いを繰り返したがオロチの勢いは少しも落ちなかった。
 そしてとうとう大瓶はひとつになった。

 スサノオは最後の大瓶を背に跳躍してオロチを激突させた。
 しかし大瓶が砕けるや、オロチの牙が襲いかかる。
 もはやこの辺りに大瓶より堅いものなど見当たらない。
 スサノオは跳びはね必死に走りながら武器になるものはないかと見回した。

「スサノオ様、あそこで何か光っています」
「うむ。確かめよう」
 スサノオは木立の間を走り抜け淡い光に近づいてその正体を見た。
「オロチの尻尾だ、それも死んだやつの。中に光る何かがあるのだ」
「スサノオ様、オロチがもうそこまで来てます」
 スサノオは淡く光る尻尾をねじ回して柔らかい腹を切り裂いた。
 すると中からまばゆい光と共に見事な剣が現れた。
「ありがたい」
「後ろ!」
 クシナダ姫が叫んだ瞬間、スサノオは剣を鞘から抜きざま後ろに突き上げた。
 オロチの鮮血が一直線に飛ぶ。
 それを追うようにオロチの頭がふたつに割れて撥ね飛ばされた。

 スサノオは剣を押し戴いて鞘に収めた。
 これが天叢雲剣であり、後に草那芸之大刀と呼ばれることになる。

 スサノオはクシナダ姫を背中から下ろすと微笑んできつく抱きしめた。
 クシナダ姫の目からこぼれるのはもはや悲しみの涙ではなく喜びの涙であった。
 

 スサノオはクシナダ姫を妻とし出雲須賀の地に移り住み次の歌を詠んだといわれる。

  八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を






今回は件の精華女子高校吹奏楽部CDから樽屋雅徳氏作曲『斐伊川に流るるクシナダ姫の涙』を聴いて書きました。
これはとても日本の物語をイメージしやすい楽曲で、例えば「もののけ姫」の映画をあてても驚くほど簡単にフィットしますが、今回は楽曲タイトルに沿って幼心に聞いたヤマタノオロチ退治を文章に起こしてみました。

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私の箱推しグループのCDです!


 AKB?

 ノー!


 ももクロ?

 ノー!


 ↓ これです



seika_cd

 精華女子高吹奏楽部の「熱血!ブラバン少女」です ^_^

 オリコン週間ランキング クラシック部門第一位だそうです!(2/21追記)

 2012年の所ジョージさんの番組マーチングの旅で精華女子の活動が取り上げられ
そこそこ人気化したようですが、その時の私は青春してるねえと思いましたがファンと
いうほどにはなりませんでした。

 そして昨年の所ジョージさんの吹奏楽の旅では精華女子は密着取材対象ではなか
ったために全国大会で金賞を取った演奏がほんの50秒ほど流れたのみでした。
 しかし、その響きの美しさは他校と段違いで演奏後のお客の拍手も盛大でした。

 まもなくネットを検索するうちに噂を見つけました。
 精華女子の金賞受賞曲『フェスティヴァル・ヴァリエーション』に対する大会審査員
の採点内容は満点だったらしいということです。
 普通の高校は銀賞と金賞のどっちになるかでハラハラしてるのに、精華女子は
満点取るか取らないかというレベルにあったわけです。

 早速、全国大会のDVDを取り寄せてみた私はさらに驚きました。

 他の高校は見るからに緊張が顔に出ていて、指がもつれそうなほど震えていたり
するんですよ。彼らが最も試される舞台ですから無理ないかもしれません。
 しかし、それではどんなに譜面通りに吹けてもコンクールの演奏止まりです。

 ところが精華女子は違いました。
 演奏中も部員達の中に口元に笑みがいくつもあるんです。
 こんな風に演奏してる人間が楽しそうに笑みをたたえていたら、さらにその演奏も素
晴らしかったら聴いてる方もうきうきしてさらに楽しく聴けるのは当然のことです。
 それはコンクールの演奏を超え、聴く者を感動させる本物の演奏に飛躍します。

 個々の技術で言えば九州の精華女子吹奏楽部よりも上手な音楽エリートは東京や
大阪の強豪校吹奏楽部に何人もいるでしょう。
 しかし、音楽の評価基準は様々な聴衆の主観にありますから技術が全てではないです。
結果としては精華女子の演奏の方が聴衆にも審査員にも感動を与えてくれたのです。

 何がこの差を生み出すのか考えてみましたが、精華女子の部員達には、休みは年
一日だけと噂される厳しい活動に素直についてゆき、それを楽しみに変える程の実直
さがあるように察します。
 そして最近では清々しいほど古風な学校の伝統と彼女達に浸透している「人間に
必要なのは愛だけで~す」という可愛らしい合言葉も彼女達の演奏の見事な調和に
寄与していると思われます。
 そして経歴からプロオーケストラのいい面も悪い面も体験したであろう顧問藤重先生
の方針、個性を生かし人間力を高める指導も大きな役割を果たしている筈です。
 彼女達はあえて毎年難曲に挑戦し、同時に半分体育会系ともいえるマーチングで
体力を鍛えぬかれ、狭い部室でハーモニーを揃えまくり、顧問のすごい叱咤を浴び
て曲の完成度を上げて来たのです。
 そんな彼女達にとって全国大会は緊張の場などではなく、一年の努力のお披露目を
する晴れ舞台であり、いつの間にか自分達の努力の蓄積が高みに達しているのを
実感しながら最高の演奏が楽しめる場所なのかもしれません。

 エリートを集めた強豪校に敵愾心を燃やすこともなく、精華女子は控えめに笑みを
浮かべながら自分達の最高の演奏を楽しみ、そのことによってお客にも感動を湧き起
こせたのです。
 精華女子は高校生でありながら最高の感動を与えられる領域に達しているのです。

 
 このCDは昨年の多忙なスケジュールを縫ってホール録音された全17曲が収められ
てます。

 全国金賞の『フェスティヴァル・ヴァリエーション』は今回は時間制約がないため
10分近いノーカット版で、大会時のさらに上を行く究極の演奏を楽しめます!
 手元にあるシエナウィンドオーケストラのCD版と聴き比べましたがやばいです。

 プロは譜面通りに吹きますね。つまり個々が譜面通りに吹けば足し算でいい演奏に
なる筈という譜面信仰による分業的演奏です。宗教でいう原理主義ですね。
 それはへたをすると自分の譜面は吹けたから後はお前らの責任だろみたいな連鎖
になってしまう。しかし音楽というものは個々の部品を組み立てて完成するもので
はない筈です。
 私の耳には精華女子の方がチームワークの取れた熱いハーモニーを鳴らしていて、
バランスが絶妙で、ヴィヴィッドで躍動感溢れる豊かな演奏に聞こえました!


 他にもオリンピアーデ、トランペット吹きの休日、シンフォニア・フェスティバ、
グリーンスリーブス、斐伊川に流るるクシナダ姫の涙、銀河の伝説、アルメニア・
ダンスパート1など、ブラバンの名曲やマーチングの得意曲などどれも素晴らしい
演奏ばかりでおすすめです。

 いっそのこと義務教育の教材として配布してもいいかもしれない。高校でこんな
すごい演奏ができるんだと知って音楽の道に目覚めたり、言語の違いを超える音楽
のメッセージの豊かさに気付いたり効用は計り知れない。

 現在オリンピック真っ最中で私もそれなりに感動しながら見ています。が、しか
し勝ち負けにこだわり、メダルの色や数を競い、いつの間にか政治家に利用され、
果ては国威高揚の道具にされがちなスポーツからは残念ながら平和は生み出しにく
いのが現実ではないでしょうか。

 素晴らしい音楽にこそこの世に調和と平和を生み出し広める力がある。これから
はスポーツよりも音楽に重きを置くべき時代に入ってるのではないか。
 そんなことを予感させてくれる精華女子ブラバンの素晴らしいCDでした!




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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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