銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 トゥルルルと家の電話が鳴り響いた。
 今の時間、家には中学1年の兄光一と小学2年の弟翔しかいない。階段を駆け降りた二人がリビングに入り、光一が受話器を上げると、翔が反対側から耳を押し当てて来た。
「もしもし」
 光一が言うと聞こえて来たのはキンキンした甲高い声だ。あまり声が高くて音が割れてなんと言ってるのか聞き取れない。
 すると翔が囁いた。
「オレオレって言ってるんだよ、ほらヘリなんとかガスで」
 光一は「ヘリウムだろ」と囁き、もう一度耳を済ませてみた。

 そう言われると確かに甲高い声は「オレオレ、オレオレ」と言ってる気がする。
 オレオレ詐欺の電話がついに来たんだ。何人もの同級生からオレオレ詐欺の電話が来たぞと自慢され、お前んとこはまだかよと言われてた光一は嬉しくなった。
 相手はまだ「オレオレ、オレオレ」とだけ連呼してる。
 しかし、オレオレだけでは用件が足せないじゃないか。間抜けな犯人だ。
 光一はテーブルにそっと受話器を置くと、足音を忍ばせて廊下に出て玄関に下りた。翔もしっかりついて来て囁く。
「どうするの?」
「ホシはまだ近くにいる。行くぞ」
 光一は刑事ごっこモードで弟と玄関のドアから出た。

 通りに出ると光一は弟に聞く。
「怪しいやつはいないか?」
 すると翔は通りを見渡して、買い物の主婦ぐらいしか見つけられず報告する。
「ホシの姿は見えません」
「逃げられたか、お前はそっち、俺はこっちだ」
 光一が走り出すと、すぐその後を翔がついてくる。
「お前はあっちだ」
「お兄ちゃんと一緒がいい。ホシが拳銃持ってたら怖いもん」
「使えないデカだな。よしついて来い」
 
 二人は20分ほど走り続けて、道の両脇は造成だけされた更地になった。
「お兄ちゃん、疲れた、帰ろうよ」
「ホシを追ってるんだぞ」
「ホシはもういいよ。ただのオレオレ詐欺だよ」
「あの家具屋まで行くぞ」
 光一は二百メートル先の大きな建物を指差した。あそこは家具屋のくせに入り口を入ってすぐになぜかガチャポンが並んでいるのだ。
 昨日は朝のテレビの占いで「牡羊座絶好調」だったのにも拘らず、出すガチャポン、出すガチャポン、全て怪人か怪獣でヒーローが一個も出なかったのだ。
 だから仇を取らなければと光一は考えていたのだった。

 しかし、家具屋に辿り着いて、ガチャポンを回すとまたまた出てきたのは怪人、怪人、怪獣だ。光一はもう二度とこの店に来るものかと決心して捨て台詞を吐いた。
「荒れてやがる。帰るぞ」
 家具屋から出たところで、翔が「あっ、あれ」と声を上げた。
「どうした?」
 光一が翔の指差す方向を見遣ると、家具屋の広い駐車場の隅で白い鳥が嘴で地面を突いていた。
「お兄ちゃん、あれ、カラス?」
 鳥は弟より小さいがカラスよりは大きい。
「白いカラスがいるかよ。体もカラスより大きいぞ」
「じゃあ何?」
「ツルにしちゃ小さいから」
 翔はゆっくりと近寄り始め、光一も遅れてはならじと歩み寄った。
 すると白い鳥ははばたいて青い空に舞い上がった。
 大きく円を描いて高く舞う白い翼を、二人は目で追ってぐるぐるとその場で回転しながら、溜め息を吐いた。
「白い鳥、カッコイイね」
「ああ、あんな風に飛べたらいいよな」
 やがて白い鳥は小高い林を目指して飛び去った。 
 
「お兄ちゃん、地面に何か落ちてるよ。ゲーム機かな」
 弟はそう言って鳥のいた辺りの地面から土まみれの器械を拾い上げた。
「これ、お兄ちゃんの携帯電話じゃないの?」
 光一は翔から携帯を受け取って言った。
「あ、そうだ、じゃあ昨日自転車でここに来た時に落としたんだ」
「携帯を落としても気づかないなんて、お兄ちゃんボケてるう」
 翔はそう言って笑ったが、急に思いついて叫んだ。
「あ、もしかして今の鳥が家に電話したのかも、それならオレオレ詐欺じゃないね」
 そう言われて光一は発信履歴を見てびっくりした。まさについさっき家に電話してた記録があったのだ。その前の昨日の最後の発信も家あてだったから、きっとあの鳥は履歴ボタンを嘴で突いて家に電話して甲高い声で「オレオレ」と鳴いたのだろう。
「そうか。今の鳥、本当にオレオレサギだったんだな」
「え、鳥がオレオレ詐欺するの?」
「その詐欺じゃなくて鳥の種類がサギなんだよ」
 光一は弟に動物図鑑を見せてやろうと考えながら家に向かって駆け出した。  了




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映画「アメリ」についてネタバレを含みます。
アップ時現在、Gyaoの映画-コメディで公開されてるので暇があればそちらをどうぞ



 今やDVDや衛星放送に押されて風前の灯火となっているが、それでも巨大人口のおかげで東京にある名画座はなんとかやっている。
 銀河座はそんな名画座のひとつだ。
 その映写室には逆転装置すらない古色蒼然たる2台の映写機が並んでいる。今、左側の映写機が強力なキセノンランプでスクリーンに向かって映像を投射しているところだ。

 和樹は右側の映写機の上部マガジンにひと抱えあるフィルムを差し込んだ。
「ピントどう?」
 和樹は小声で聞いた。
 映写室はもちろん部外者立ち入り禁止だが、和樹が遅番の日は最終回にこっそり美佳を入れてやることがある。OLの美佳とは付き合いだして3ケ月、キスまでの関係だ。
 ワンカールボブの美佳はスクリーンを見詰めたまま、右側の映写機の向こうからオーケーを指で示した。
 今日の上映は「アメリ」。空想好きなアメリが恋に落ち、彼女らしいまわりくどいやり方で彼にアタックするという話だ。美佳は丸椅子に腰掛けて映写機横の小窓から映画を観ていて、時々、クスクス、フフとか笑っている。

 和樹は上部マガジンにセットしたフィルムの末端をするすると2メートルほど引き出して、映写機中央上部のギヤに通して適度な撓みをもたせる。
 続いて中央下部のギヤも通して、サウンドピックアップを通してギヤのカバーを噛ませて閉じると、ギヤを少しまわして送りが問題ないのを確認した。
 そして下に垂れている末端を下のマガジンの空リールにまきつけてさらに回して少し巻き取らせておく。
 最後にバズーカ砲のような長いレンズのついた中央部を引き寄せてバチンと閉めると、仕上げに手動のシャッターを開いておく。
 こうしておけば、左側の映写機のフィルムの終わり近くにつけてある銀紙がセンサーを通る時に信号が流れて、この右側の映写機が動き出し、左側のフィルムが終わると同時に右側の電動シャッターが開いて映像が途切れずにつながるという仕組みだ。
 もっとも今やこの忙しい交互映写をしているのはマガジンリールの小さい名画座ぐらいで、大きなロードショーの映画館(コヤ)では水平に巻き取る巨大なノンリワインド装置で全編つなげたフィルムを供給するので映写機は一台で済んでしまうのだ。

 フィルムのセットを終えた和樹はレターケースから板チョコを取り出し、銀紙を剥がすと丁寧に伸ばして引き出しに仕舞った。他所の映画館ではどうか知らないが、銀河座ではスイッチの役目をする銀紙は板チョコの包み紙を両面テープに貼って使う伝統なので棚にはいつも板チョコがあるのだ。
 割った板チョコを美佳の手前に差し出すと、美佳は「サンキュ」と言ってチョコを齧りながらスクリーンに観入った。

 和樹も面白そうだったのでこの「アメリ」は既に非番の時に客席で通しで観ていた。だが観終わった後に和樹は納得いかない感想を持っていた。
 もっとも美佳にはまだそのことを告げてない。今日、美佳が観終わったら言ってやるつもりでいる。
 
 映画の上映時間も残り15分を切ったところで、和樹が映写の終わったフィルムを棚にしまっていると、静かに事務室に通じるドアが開いた。
 やばい!
 和樹は真っ青になった。
 ドアから顔を突き入れて来たのはこの銀河座のオーナー支配人であり、映写技師長でもある織田さんだ。アルコールが入ってるようで少し頬が赤い。
「よっ、問題ないか」
「えっ、ええ」
 和樹が答えた時、織田さんは映写機の横の丸椅子に座る美佳を見つけて、短く会釈を交わした。
「ちょっと来い」
 和樹は織田さんに映写室の外に引っ張り出された。
 なにしろ織田さんは、みかじめ料を取りに来るヤクザを怒鳴りつけて返してしまうほどの怖いひとなのだ。部外者立ち入り禁止を破った和樹は近所に救急心臓マッサージの器械が置いてあるのはどこだったかと真剣に考えながら織田さんの顔色を窺った。
 すると織田さんは笑って言った。
「おい、あれ、ちゃんと持ってるか?」
「はあ?」
 和樹が何のことかと思っていると織田さんは財布を開いて、中からコンドームのパッケージを2個取りだすと和樹の手に握らせた。
「奥のソフアな、使っていいから。へへへ、頑張れよ」
 織田さんは手の甲で和樹の胸をポンとはたいて「戸締り気をつけろ」と台詞を吐いてすたすたと去って行った。

 和樹はコンドームをジーンズのポケットに仕舞うと、映写室に戻った。
「今の誰?」
 美佳が小声で聞いてきたので、和樹も小声で返す。
「支配人だよ。叱られると思ったら見逃してくれた」
「そう、よかった」
 和樹はスクリーンを見た。
 丁度、アメリとイケメンの彼が向き合っている。これからキスを交わそうという一番の山場だ。
 和樹は我慢できなくなって美佳に言ってしまう。
「おかしいだろ?」
「えっ?」
「最初、八百屋のうすのろが出てきた時にさ、アメリが恋する相手は絶対こいつだと思ったのに。いつのまにかイケメンが相手でさ。あんなの、うすのろが証明写真機の下からごそごそ写真を集めてても全然いいわけだろ」
 美佳は小首を傾げて言う。
「うーん。でも、だからといってイケメンがいけないとは思わないけど」
「だからさ。女性客の受けを狙ってイケメンにしたんだよ。しかも無理にイケメンにした後ろめたさがあるからちょっと近づき難いポルノショップの店員に設定してさ」
 和樹は自分でもしつこいかなと思いつつ口を閉じることができなかった。
 美佳は呆れたように普通の声で言い放った。
「それって僻みじゃないの」
 和樹もつい普通の大きさの声で返す。
「僻みじゃないさ。八百屋のうすのろでも十分美しい話になるのに、算盤をはじいてイケメンを持ってきたところに毒を感じるんだよ、実際それでヒットしたしね」
 映写室の窓は薄いガラスなので普通の話し声でも今みたいな静かなラブシーンでは声が漏れてしまう恐れがあるのだ。和樹がちらりと客席を見遣ると、こちらを振り返る人の頭がひとつ見えた。まずい。
 美佳も怒ったように言う。
「いいから黙ってて、私は今観てるんだから」
 まずい。和樹は黙り込んだ。

 なんで俺はこんなにムキになってしまったんだろう。しかも上映中なのに。
 そう思いつつスクリーンを見詰めていた和樹はうん?と疑問を感じて、急いでメモ用紙を一枚切り取り、リールに巻き取られていくフィルムに挟み込んだ。一瞬、イケメンの顔になにか違うものが映った気がしたのだ。ただ、映画は1秒に24枚のコマが流れているのでそれが何かはわからなかったが、確かに1コマは違う何かが映っている筈だ。
 映画はまもなく「ローマの休日」を思わせるようなバイクに乗ったアメリとイケメンが街を駆け抜けるシーンになり、クレジットに移った。
 
 スクリーンから目を上げた美佳は背伸びすると丸椅子から立ち上がった。そして棚のフィルムをチェックしている和樹の前に来て言った。
「面白かったよ」
 和樹は謝った。
「うん。さっきはごめん」
 美佳は首を横に振った。
「いいよ」
「さっきイケメンの顔に何かおかしなものがあったね」
「え、気がつかなかったよ」
「そう、確かめてみようか」

 映画が終わり、惰性で回るフィルムの末端がマガジンの底を打ってパタパタと音を立てている。
 和樹は映写機を止めると、すぐさまマガジンからフィルムを取り出して、巻き戻し機にセットする。フィルムの途中にメモ用紙が半分顔を出していた。
 巻き戻しのスイッチを入れ、メモ用紙が落ちる手前でスイッチを切り、手でまわしてゆくとメモ用紙がはらりと落ちた。フィルムを引き出して蛍光灯にかざしてチェックしてゆくと、不自然な一枚が見つかった。
 和樹は笑って美佳を振り返った。
「ふふふっ、どこかの映写技師がすり替えたみたいだよ」
「どういうこと?」
 和樹は美佳をそばに引き寄せ、すり替えられた一枚を見せた。
「何、これ」
 美佳は声を上げて笑みを浮かべた。
 1秒分に24コマだからイケメンのシーンではイケメンの連続の筈なのだが、その一枚だけ、ダースベイダーのアップのコマが割り込んでいたのだ。

「きっとすり替えた映写技師も僕と同じ意見だったんだな」
「映写技師には僻みっぽいひとが多いのね」
「僻みじゃないってば」
 和樹はまた腹を立てそうになった。
「でもね」と美佳は微笑んで続けた。
「私がアメリだったら、相手はイケメンじゃなくて和樹にする」
 美佳は目を閉じて唇を少し上げ、和樹は美佳を抱きしめてキスした。

 映写室の奥には土曜のオールナイト明けに仮眠するためのソフアがある。僕と美佳はそこで結ばれた。これがアメリイン銀河座だ。    了
 


映画のレビューを覗いたら「少女マンガみたい」と書いてあった。
そうか、それならイケメンでなきゃならないんだ。畏れ入りましたm(_ _)m
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 お盆で帰省していた僕は、土曜日の昼頃、近くの公園に出かけた。テニスコート4面ぐらいが楽に取れる広さがあり、周囲にイチョウの木があり、ベンチがコの字型に点在している。
 まだ昼食時のせいか子供たちの姿はなく、一人のお婆さんが敷地の向かいの木陰のベンチで休んでいるのみだ。日差しに暖められた芝生の放った湿気はかすかな陽炎となって、それをトンボたちの透明な羽を揺らめかせている。
 僕はこちら側のベンチに仰向けになって外した野球帽を顔に覆って、日差しに照らされながら昼寝した。
 ふと気がつくといつの間にか子供たちの歓声がして、僕は視界を覆ってた野球帽を外した。打ち上げられた白球が青く染まった空を飛んでいた。
 僕は急に昔を思い出して、上半身を起こして周囲を見回した。そこにエントロピーの行き違いにより飛ばされてしまった過去が蘇ってくれはしないかと儚い期待を込めて。

 ◇

 僕の記憶の中でも最も楽しい時代の土曜日の話だ。
 大学のゼミで知り合い付き合い出した僕と有紗はよくこの公園で小学生たちがゴムボールで遊ぶ三角ベースの草野球に参加した。いや参加というよりは勝手にでしゃばってコーチとなりゲームを仕切ったのだ。小学生が大学生に逆らえる筈もないし、試合後にアイスやジュースで懐柔もしたので案外好評だったと思う。
 有紗は高校時代ソフトボールのエースピッチャーだったらしくコーチの適性もあるのだが、僕の方は高校はチェス部出身だからいかさまコーチもいいところだ。

 子供たちは日により若干の増減はあるが14人前後で、女の子も4人ほどいて有紗は未来の後輩を育てるつもりなのか彼女たちに熱心にピッチングの要点を教えていた。

 有紗は左足を踏み出すと同時に右手を下から回転させて跳ね上げ、さらに前進する足と共にさらに回転させてボールにスピードを与えてリリースしてみせる。
「いい? 腰の高さがいつも同じになるように足を踏み出すの」
 続いてキャッチャーとなった有紗に向かって、女の子たちはひとりずつアンダースローでボールを投げ練習していたが、時々ボールはあさっての方向に投げ出される。
「次に手がいつも腰を布地を同じ長さだけこするように意識してごらん。そうすると楽にコントロールできるから」
 女の子たちは頷いてひとりずつボールを投げ、それはさっきよりずっと安定して有紗の手に収まった。
「いいよ、その調子。さゆちゃんはもう少し早く手が足を過ぎる前にボールを離す感じにしてごらん。うん、そう、ほらね、ストライクだよ」
 さゆちゃんは飛び上がってガッツポーズをして、楽しそうだった。

 そんな様子をちらちらと覗きながら、僕は男子野郎どものバッティングピッチャーをしながら、「もっと脇をしめて」とか「よく見て引っ張って」とかテレビの野球解説で聞き齧った記憶のある単語を適当に並べていたわけだが、子供たちに「あんな内角、引っ張ったらファールだろ」とか文句を言われる始末だ。
 そんな感じで一通りの軽い練習タイムが終わるとゲーム形式になる。
 人数が少ないこともあり、僕と有紗もゲームに参加するわけだが、僕がバッターボックスに立つと、キャッチャーの子供はワンバウンドしてから捕ろうとうんと後方にさがった。そこで有紗は本気で速い球を投げるのだ。僕は全然打てなくて、いつものように僕のチームは有紗のチームに負けた。
 そんなわけで草野球は全然面白くなかったのだけれど、夕方には僕は有紗の車に乗り部屋に招かれて料理を食べて、もっと柔らかいソフトボールを堪能させてもらっていたので僕らの仲はとてもよかった。

 ◇

「エントロピーてどういうこと?」
 少し肩を上げた有紗が魅惑的なソフトボールのようなおわん型の乳房を見せたまま聞いてきた。
「変なこと聞くね?」
「昨日、テレビで小耳に挟んで、テッちゃんに聞こうと流したんだよ」
「ふうん。エントロピーは無秩序さの度合いとでも言えばいいのかな。
 ビックバンって聞いたことあるだろ。宇宙ってのは何もないところに一握りのエネルギーの塊が現れ宇宙の材料が揃い、ビッグバンの爆発から始まった。そして宇宙は今もどんどん膨張し続けているんだ。こうしてる今も宇宙はもっと大きな無秩序へ向かって、どんどん散らかり続けている」
「ああ、テッちゃんの部屋みたいな状態ね」
 そう突っ込まれて僕は苦笑した。
「あの全然反論できないんだけど。
 とにかくそういう状態を熱力学では、エントロピー増大の法則が成立していると考えているんだよ」
「ふうん。でもその方向の切り替えポイントみたいなのは私たちの人生のどこかにある筈だよね?」
「いや、ないと思うよ。エントロピー増大の法則はとてもスケールの大きな法則だから個人が習慣や生活をちょっと変えても全然影響されない」
 すると有紗は「そうかな」と反論した。
「たとえばアルデンテにすべきスパゲティーをトロトロに茹でて、素麺みたいに冷水でしめたら、何か変わるんじゃないの?」
 有紗は言い張ったが、僕は却下した。
「そんなことでは変わらない」
「でも変わってほしい時もあるでしょ」
「科学は人文分野に気が利かないんだよ」
 僕はそんな風に答えてしまった。今にして思えば、もっと有紗と同じ気持ちで考えてみるべきだった。

 ◇

 一見、何事もなく13日間が過ぎて、僕のチームは2回有紗のチームに負けて、僕は二晩有紗を抱いた。僕はうかつにもこの宇宙は快適で幸福だと考えたぐらいだ。
 
 土曜日、僕は定刻より20分ほど遅れて公園に着いた。有紗のミニクーパは既に駐まっていて、子供たちはキャッチボールしていた。
「わりい、わりい、遅れたな」
 僕があやまりながら公園に入るとミキちゃんという女の子がきつく叱った。
「たるんでるよ」
 でも、僕はうっかりしていた。いつもならもっと沢山の非難が浴びせられるのにミキのひとことだけで済んだという異変について気づくべきだった。
「じゃ、始めよう」
 有紗と僕のジャンケンで先攻後攻が決まりいつものようにゲームが始まった。

 有紗はなんだか元気がなさそうに見えたし、僕以外の子供に投げる球は勢いがないように見えた。
 ゲームは子供たちの歓声でうねりを作りながら、僕らのチームが2点リードされた最終回、僕に打順が廻ってきた。

「テツ、ホームラン打ってみせろ。サヨナラ逆転だ」
 男の子がバッターボックスに向かう僕にタメ口で怒鳴る。
「そりゃ俺だってホームラン打ちたいけどな、有紗は俺には容赦ないからな」
 僕も言い返して有紗に対面した。

 有紗は僕を睨むように見て、さっと投球動作に入り、ぐるぐるっと回った腕からスピードボールを投げ込む。
 僕は力を込めてバットを振るのだけれど、ボールは僕のバットの上をすり抜ける。
 これは小学生主力の草野球なんだから、ライズボールなんて反則だろうと僕は心に呟きながら構え直す。
「テツ、ホームラン打て」
 男の子の無責任な命令が響き渡る。
 有紗は再び投球動作に入り、ぐるぐるっと回った腕からボールを投げ込む。
 僕は今度こそとバットを振った。
 しかし、ボールは僕のバットをかすってファールグランドに転がった。
「だめだな、テツ、ちゃんと打てよ」
 男の子は怒鳴り、僕はもう一度バットを構えた。

 そして僕はあれっと思った。
 さっきまで厳しかった有紗の顔が微笑んだように思ったのだ。
 そして、ぐるぐるっと回った有紗の腕から放たれたのは、トスのように甘いど真ん中の球だった。
 頂き!
 僕はボールを引きつけて思い切り叩いた。
 ボールはぐんぐん上昇して外野どころか公園の外まで飛んでゆく。
 ホームランだ。
 僕はガッツポーズして、マウンドでうなだれる有紗をちらりと眺め、一塁を蹴って、二塁へ向かう。
 そして僕が二塁をまわってホームを踏んだ時、子供たちは僕のまわりではなく、俯いている有紗のまわりに集まって、慰めているようだった。
 なんだよ、ヒーローに出迎えなしのこの仕打ち。
 ま、いいさ、勝ったのは俺たちだし。
 僕はそんな詰まらないことを考えて、終わった試合のボールを回収するために公園の外に探しに走った。

 ◇

 僕がボールを拾って公園に戻ると、そこには誰も残ってなかった。いつもは試合後は僕を待ってるはずの有紗のミニクーパの姿もなかった。
 僕は駆け出して、歩いて立ち去る女の子ふたりに追いついた。
「おい、今日はみんな帰るの早いな」
「うん」
 振り向いた女の子には泣いた跡があった。
「どうした?」
「だってアリサお姉ちゃんとお別れしたから」
「えっ?」
「遅刻するのがいけないんだ、最初にアリサから今日でお別れって説明があったのに」
 ミキちゃんは怒るように僕を睨んだ。
「待てよ、有紗は僕の恋人なんだぞ」
「でももうお別れなの。アリサは遠いところに行くんだって」
 僕は慌てて携帯電話を取り出したが、着信拒否になっていた。

 一時間ほどして携帯電話が鳴って僕は飛びつくように開いた。
『テッちゃん、ごめんね、もう会えないの』
『どうして?』
『急に遠くに引っ越すことになってさ』
『そんなのおかしいよ、大学はどうするわけ?
 有紗はもう二十歳過ぎてるんだから全部自分で決められるんだよ。なんだったら俺と同棲してもいいじゃないか』
『あなたと付き合えたことは私の一生の宝物だよ、ありがと、さよなら』
 僕は慌てて何か言おうと考えた。

 そうだ、スパゲッティを素麺みたいに茹でてほしい。
 
 だが僕の声を発するのを待たずにプツリと電話は切れた。

 僕はあの時、有紗の甘い球を打ってホームランした時、エントロピーが決定的に増えたんだと不意に悟った。
 もし彼女の甘い球に対して僕もわざと大きくのんびりした空振りをする余裕があれば、有紗は僕の側を離れず、そもそも有紗の父親の名前が横領容疑で逮捕という文字と共に三面記事に載ることもなかった気さえする。ともかく僕はそれ以来エントロピー増大の法則が大嫌いになった。  了




前週甘すぎたので今週は辛め。
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ヴァッキーノさんより「薔薇の蕾」を調査せよとのことで書いてみました。



 僕は調査のために探偵事務所のセルシオで長野県に入っていた。
 ある外資系金融機関の調査員がこの辺りで失踪したというのだ。名前はクラリス・アニス・上村といい、父親が日本人、母親が英国人の混血女性。彼女からの「薔薇の蕾」という言葉を最後に突然に携帯の電波が途絶えた。そこで、近年たびたび英国から薔薇の株を購入しており、かつ失踪地点に住まいが近いある人物を調査するように僕は探偵事務所のボス東堂から命じられたのだ。
 僕は当該人物の住所に近づくと、ぐるりと周って二階建ての洋風の家の外観とそれを取り巻く大きな薔薇の密生した庭と、家に通じる道が他にないか確かめてから門の前に車を止めた。

 僕は門にあるインターホンを押してみる。
「はあい」
 無警戒な女性の声の応答に僕は挨拶した。
「こんにちは。お忙しいところおそれいります、東京の調査会社の横田と言いますが、ちょっと質問させていただきたいことがありまして」
「でしたら主人が庭にいます。門の鍵は開いてますから入って下さい。但し立って歩いて下さいよ、屈んでると猪と間違えて撃たれますわよ、うふふ」
 なんとも物騒な挨拶ではないか。まさかクラリスは偶然靴が脱げてしゃがみ込んだところを猪と間違えて撃ち殺されてたりとか。
 僕は縁起でもない想像を振り払い、背伸びするようにして門の中に踏み入った。

 しばらく行くと薔薇の木立ちが回廊のようになっていて、その門から白髪で日焼けした50歳ほどの男が現れた。
「はじめまして、お邪魔してます」
「まったく邪魔だ」
「東京の調査会社から来た横田と言いますが、三ヶ月前、ご主人さんのところにこんな女性が訪ねてきませんでしたかね?」
 僕は胸ポケットから写真を取り出して主人に見せた。鼻はかなり高く、眼は青くて母親の影響が強く出るが、髪は黒くて赤い唇はむしろ京人形のようにおとなしい印象だ。
「どうだかな」
「記憶ありませんか?」
「さあな」
 僕は思い切って聞いてみた。
「最近三ヶ月に、猟銃で猪を撃ったことはありますか?」
「この前、撃ったのは四ケ月ぐらい前たったかなあ、近寄って死体を見たら不法侵入した近所の犬だったけどな、ドゥフフフフ」
 主人はバイクの排気のように息を吐いて笑った。
「間違ってこの女性を撃って隠したことなんかないですね?」
「ああ、さすがにそれはねえな」
 そこで主人は僕に顔を近づけて声を潜めた。
「実はうちの家内がえらい焼餅焼きでね。一年ほど前に庭の薔薇に釣られて入って来た女性の観光客がいたんだが、そいつを撃って危うく大怪我させそうなことがあったんだ。
 だから三ヶ月前、あんたの捜してるその女が門に来た時は大急ぎで追い返してやった。ドゥフフフフ」
 この家の人間が犯人か否かに拘らず、もはや聞くべきことはなさそうだった。仮に犯人の可能性が残るならこっそり侵入して調べるしかない。

 僕は礼を述べて車に戻り、携帯電話でボスに調査対象の様子を報告した。
『そうか、で、ヨコの感触はどうだ?』
『シロですね。夫にしろ妻にしろ、本当にクラリスをどうにかしたならその話題は避けるのがまっとうな神経です。ま、異常者の可能性は僅かながら残りますが』
『うむ。俺もそう思う。ただクラリスの携帯の電波がその辺り10キロ圏内で切れたのは間違いないんだ。もう少し近所を地当たりしてくれ』
『了解です』

 ◇

 僕は近くの家を訪ね回った。といっても一軒一軒が離れてることが多いので軒数はたいしたことはない。今日はあと一軒訪ねてホテルに泊まり、もう数日かければとりあえず対象エリアの家は全て回れそうだ。

 そう考えて僕は古そうな民家の玄関に立った。山県という古い表札があった。
「こんにちは」
 大きな声をかけると、奥から60代ぐらいの女性が現れた。紬の和服を着こなして楚々たる足取りで現れた彼女は古風に手をついて僕に挨拶を寄越した。
「ようこそいらっしゃいました」
 僕は少し気後れを感じながら写真を差し出した。
「私は東京から来た横田と言いますが、三ヶ月前、こんな女性が訪ねてきませんでしたかね?」
 女性は写真を手にするとよく眺めてから返した。
「存知あげません。この異国風のお顔立ちならこの年寄りでも忘れないと思いますが」
「そうですか」
「まもなく主も帰りますのでどうぞお上がりになって、主に知ってるか尋ねてみたらよいでしょう」
「そう言っていただけると助かります」

 僕は客間に通され、しばらくして女性は湯飲み茶碗を盆に乗せて現れた。
「結構な掛け軸ですね」
 僕は褒め方もわからぬまま、床の間に飾ってあった書を褒めた。
「ほほほ、横田さんはお優しいのね。決まった彼女はいらっしゃるんですか?」 
 女性は微笑して言った。僕は頭を掻いた。
「一人、というかもはや無いに等しいですね。僕の仕事が不規則で出張も多いので喧嘩ばかりして振られたも同然です」
「あら、あきらめてるんですか?」
「ええ、仕方ないです。あんなに理解がないとこっちも冷めてしまいます」
 僕が苦笑すると、女性は蓋をした湯飲み茶碗を茶托に乗せて僕に差し出した。
「こちらは冷めないうちにどうぞ」
「ありがとうございます」
 僕は蓋を取り、湯飲み茶碗を口に近づけた。
 和風の湯飲みからは意外なほど芳醇な薔薇の匂いが立ち上がって、僕は驚いて湯飲みの中を見た。湯の中には蕾らしきものがみっつ浮いている。
「こ、これは」
「ダマスクローズの蕾ですの。お湯を注ぐと生き返ったように強い薔薇の香りを立てて私のお気に入りです。召し上がってくださいな」
 僕は女性の勧めに頷いて芳醇なローズティーを飲んだ。
「この薔薇の蕾はもしかしてあの庭……」
 最初に訪れた家の薔薇なのかと聞こうとしたが僕の意識はたちまち薄れていった。
 慌てて寄って来る女性の顔に微笑が浮かんでいるのが見えた。

 ◇

 再び意識が戻った時、僕を覗き込んでいたのは若い女性の青い瞳だった。
「気がつきましたね」
「き、君はクラリス?」
「ええ」
 実物のクラリスは肌が透けるように白くて、写真よりも数段綺麗に見え僕は青い瞳に吸い込まれそうな気分でどきどきしながら尋ねた。
「ここは?」
「山県家の土蔵の地下室」
 僕は床板に敷かれた布団から上半身を起こした。蛍光灯が灯っているが黒い壁のどの面にも窓はない。
「僕はあなたを探すように命令されて来たんですよ。こんな形だけど会えてよかった。
 ところでクラリスさんは何を探ってここへ来たんです?」
「うちの会社は今世界中の金を買い占めているんです」
「買い占め?」
「ええ、もはや合衆国であれユーロであれ過去の地位に戻るのは難しいでしょ。つまり通貨はまだ暴落します。すると金の価格は間違いなく上がる筈なのです」

 僕はクラリスのきれいな日本語に脱線して聞いた。
「日本語が上手ですね」
「あちらの家でも父は私にはずっと日本語で話してましたから」
「失礼しました、その青い瞳で日本語が上手だと不思議に感じて。
 それでどうして金を買い占めてる会社のあなたがこの家へ来たのですか?」
「この家は山県昌景一族の末裔なのです。山県昌景はご存知でしょ?」
 僕はその名前は大河ドラマで聞いた記憶があった。
「ああ、名前ぐらいは。たしか武田信玄股肱の勇将ですね」
「ええ、信玄の信頼が最も厚い武将でした。
 信玄亡き後、息子勝頼は無謀にも家康信長軍との直接対決を図り、長篠の戦で山県昌景は壮烈な戦死を遂げます。信玄はかなりの軍使金を蓄えていましたが全てをひとまとめにはせず信頼のおける数名の武将にも分かち持たせていたらしいのです」
「それがこの家に残っていると?」
「ええ、長篠の戦の後、軍資金を使う暇もなく武田軍は崩壊しましたからね。それで私はこの家を調べていてあのおば様に見事に捕まってしまったんです」

 それについては同様の僕も返事のしようがなかった。
「ここのおば様とご亭主はたぶん私たちに危害を加えるつもりはないと思います」
 クラリスはあの女性をおば様と呼んで心を許しているようだった。
「そんなのわかりませんよ」
「だってわざわざ私のためにトイレやシャワーも引いてくれて、三度の食事もきちんと用意してくれて。財宝の秘密を守るために地下に閉じ込められてるけど危険は感じません」
「今そうでも将来の保障はないでしょう。脱出する方法を考えよう」
 僕はそれから部屋の中を調べたが、トイレとシャワーの部屋は小さな換気口があるのみで、脱出口は今は閉じられている一階への昇り階段の扉しかない。僕はあきらめて用意されていた膳の食事を取りシャワーを浴びた。
 それから僕らは部屋の両端に敷いたそれぞれ布団に入り、クラリスに請われるままいろんな話をしながらいつしか僕は眠り込んだ。

 ◇

 一ヶ月ほどして僕とクラリスは紬の着物のおば様に導かれて蔵の地下室から出て、最初に通された客間に入った。
 おば様に「貴方はこちらへ」と言われてクラリスはおば様と座を外し、代わりに羽織姿の亭主が初めて僕の前に座った。
 髭をたくわえた亭主はその場で両手を畳に突いた。
「いろいろ無礼の段、平に容赦されたい」
 僕は急な扱いの変化に戸惑った。
「しかし、容赦と言われても僕とクラリスの受けた監禁の仕打ちは犯罪ですよ」
 僕はそう言ってみたものの亭主が怖かった。
 年齢は妻と同じぐらいだろうが怒らせたらいつの間にか太刀を握って飛び掛ってきそうな、そんな武士道の鍛錬で蓄えられた気迫が満ちているのだ。
「いや、お怒りはもっとも。しかし、当家も守らねばならぬものを嗅ぎ回られても迷惑いたします。苦肉の策とご容赦願いたい」

 そこへ亭主の妻と、艶やかな振袖の着物を着たクラリスがお茶を運んできた。
 クラリスはそのまま亭主、妻の末席に座ってかしこまった。
 僕は差し出されたこの前と同じダマスクローズの蕾のローズティーを飲んだ。しかし、今度は薬は混入されてなかったようだ。
「では、横田さん、本題に移りましょう」
「はい?」
「うちの山県杏樹を妻にもらってください」
 亭主が言うとクラリスが俯いた頬を真っ赤にしていた。僕は呆気に取られた。

「どういうことですか?」
「このクラリス・アニス・上村の父上が娘が女だてらに金の買い占めなどという下世話な仕事についているのを心配されて、遠い親戚筋の私に相談してきたのです。
 実際、本人も最近仕事に疑問を持っていて将来の相手を探したい気持ちもあったようで。
 一方、私の家では二年前、跡継ぎのせがれ夫婦を交通事故で呆気なく亡くしまして、かといって近親も高齢ばかり多く、後を託せる人物がおらん。そこでクラリスを我が家の養女に迎えたのです」
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃ失踪というのは」
「まあ、形ばかり」
 僕が見詰めるとクラリスは青い瞳を上げて「ごめんなさい」と謝った。
「くわえて実は私は三ヶ月前に医師より悪性なんちゃらで余命半年の糞爺じゃと宣言されましてな、今日は久しぶりに酒を飲んだから血色はよいですが」
「えっ」
 僕の驚く声を亭主はハハハッと笑い飛ばした。
「そんな経緯もあり急いでクラリスを杏樹という養女として迎え婿を探していたのですが、これがなかなか見つからない。
 そこで探偵調査会社の東堂社長に、できれば山県昌景の遠縁筋の家はないかと調べてもらったところ、なんと偶然にも調査員の横田さんの血筋がぴったり。昔、山県昌景の娘が嫁に入ったという文句ない家系なのです」
「なんですって?」
「もっともそれは私のみの希望。何より杏樹の気持ちが一番です。そこであなたの履歴を教え、杏樹はあなたの様子を最初から窺い、妻と確かめた後に一緒に地下室に入らせたのです」
 僕は絶句した。
「この一ヶ月、あなたは私に殺される運命まで覚悟して杏樹と語り合った筈です。よもや今さら杏樹が気に入らぬとは申されないと思いますが」

 冷静に分析するならば僕は亭主の策略に乗せられたのだ。犯罪状況下で被害者が加害者に恋してしまうストックホルム症候群というのがある。亭主はそれの被害者同士版の策略に、僕とクラリスを追い込んだのだ。
 もっとも策略がなくても僕らが結ばれるのにやはり三日とかからなかったかもしれない。
 今度は僕が真っ赤になった。


 ◇

 こんなわけで、今、僕は山県家を継いで妻の杏樹と一緒にダマスクローズを栽培している。蔵にある鎧を納めていたという古い木箱には昔の玉の形の金塊が入ってるが別に売ろうとは思わない。
 とにかく薔薇の蕾のローズティーは本当に芳醇な香りなのでまだなら是非一度試してほしい。   了




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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
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    レフの真似です

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