銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

つるさんのプログの X'mas 短編競作企画 に参加した作品です。


「アフター X'mas 」

 午後6時少し前、桃香は渋谷のハチ公のそばに立っていた。
 部屋から出がけにFMラジオでかかった山下達郎の「クリスマスイブ」のメロディーがまだ頭の中でリフレインしている。
 この曲は桃香が小学校の頃、新幹線のCMに使われていた。ホームに新幹線が着き、乗客が全員降りてしまう。泣きべそ一歩前の女性の前に、柱の影からようやく彼氏が登場、女性は彼氏の胸をぶって、彼氏はぎゅうっとハグするというシーンだ。桃香は自分も大人になったらあんな風に彼と逢うんだよね、素敵だなとか思ったものだ。
 それにしても、今どき、こんなところで待ち合わせだなんて、相手の男のセンスは知れてる。
 そしてなにより今日は12月26日、おそらく相手もクリスマス前に振られた情けない男に違いない。
 そう相手"も"だ。
 思い出すと悔しくなる。

 大人になった桃香は看護師という不規則な勤務の職業についていた。だから新幹線のCMのようにイブに会うなんてシーンはまずなかった。
 しかも今年はイブは当直、クリスマスも夜勤という最悪の事態だ。
 できれば断りたかったけれど、看護師長が手を合わせて言ったのだ。
「お願い、あなたしか頼りになるひとがいないのよ。
 私一人でできればいいんだけどそれも無理だし、頼りにならない子たちに無理強いして辞められでもしたら、かえって私もあなたも後が大変になるし。看護師不足で病棟を閉めるなんてなったら世間に申し訳が立たないわ」
 頼りにならない子たちは20代前半で、桃香は今年30代の仲間入りをしたところだ。
「私だって、せめてイブがだめなら、クリスマスだけでも早く上がれませんか」
 桃香にしたら譲りに譲った最後の妥協のつもりで言ってみる。
 しかし……。
「あなたの気持ちもわかるのよ。だけど人手が絶対的に足りないの。本当に申し訳ないけど、一生のお願い」
 看護師長は涙さえ浮かべて頼むのだ。そう言う看護師長もずっと連続勤務なのだ。勤務予定表によれば看護師長はクリスマスが終わってから休みが1日取れるが、それが終わると年末年始の連続勤務に突入する。
 そんな看護師長に、そこまで頼まれたら、実は一緒に過ごす相手もいないのに粘る理由も薄れてくる。

 仕方なくイブの当直という悪夢を経て、クリスマスの夜勤時間に半ば自棄になった桃香は『大人の待合室』というかなり怪しげな携帯サイトにアクセスして、恋人を探した。

『ゆうで~す。イブもクリスマスも頑張って仕事をした自分(29歳だけど歳より若いって言われま~す)そんな自分を褒めて優しく包んでくれる男性を探しています』
 それが桃香が吹き込んだ条件だ。恋人になってとか贅沢は表に出さなかった。自分の心の隙間を埋めて体を温めてくれればよいと思ったのだ。しかし、返事は案外少なかった。そこですぐ電話番号を教えるのも怖かったので、数人の候補と何度かメールをやりとりして堅ブツそうな男を捜すうちに残ったのは前島という男だったのだ。せめてイブの夜に探すべきだったと後悔したが、イブの夜はモチベーションが殆ど海の底まで水没してたから仕方ない。
 
 ◇

 待ち合わせは6時10分。目印を聞くと男は赤いバッジをしてるという。こっちはバッグに毛糸のマフラーのミニチュアをつけてると答えた。

 やがて6時5分になると、紺色の背広に薄茶のハーフコート、スポーツ刈りという信じられないファッションの30代半ばの男が近づいてきた。手にはラッピングされたワインのボトルとどこかのショップのこぶりな黒い紙袋を持っている。
 男は桃香に声をかけてきた。
「あの、ゆうさんですか?」
 殆ど、生理的にシャットアウトした。
「違います」
 そう言って桃香は目をそらした。

 しかし、その男はそれからも5メートルほど離れた位置に立って「ゆう」を待っているようだ。
 そこへ別のちょっとイカシた感じの男が寄ってきた。髪はミディアムレイヤーで歳は同じぐらいだろう。胸にコンサートか何かの赤と青のバッジをしていた。

「やあ、待った?」
 男は気さくな感じで話しかけてきた。
「もしかして前島さん」
「うん」
「よかった」
「俺の本名は前島大輔、よろしく。
 キミのホントの名前は違うでしょ、なんて言うの?」
「え、わかる?」
「なんとなく雰囲気が違うよ、落ち着いた感じ?」
「私は桃香っていうの、よろしく」
「オッケー、じゃあ、この先にちょっとキレイな店あるから、行こう」
 前島大輔は桃香の手をさりげなく握って引っ張った。

 ◇

 前島健史は前島を騙る男とゆうと名乗った桃香が連れ立って歩くとゆっくりと後ろから尾行した。
 二人はスクランブル交差点を渡ると、ゆるやかな坂道を5分ほど登って白い外観の小ぎれいなケーキバーに入った。
 二人が奥の席に着いたのを見詰めた前島は、さらに坂道を進み、小路に入って路上駐車している車があれば中をチェックした。
 何本目の小路に入ると灰色のワゴン車があった。サイドと後方の窓は黒いフィルムが貼られて中は覗けない。さすがにフロントの窓は黒いフィルムではないがそのままでは暗くて見通せなかった。
 前島は近くに停めてあった自転車の発電機を倒して肩に担ぐと、ワゴン車のフロントに立った。そしてペダルを手でまわして、ワゴンの奥を睨んだ。
 後方の席は倒されていて、前島には馴染みのある物がちらりと見えた。
「ふざけやがって」
 前島は吐き棄てるように言った。

 ◇

 ケーキバーで桃香は前島大輔と楽しく語り合っていた。
「すごいですね、テレビ制作会社にお勤めだなんて」
「いや、下請けだからたいしたことないよ」
「でも芸能人とかも会うんですよね?」
「もちろんだけど。ドラマ撮ってるから今度ロケの時、連れてってあげようか?」
「えっ、ほんとに?」
「うん、スタジオだといろいろうるさいけどロケだとオープンだから簡単に話もできると思うよ」
「ほんとに? だけど私、仕事で行けないかも」
「うん、今度、予定がわかったら教えるから都合よければ参加すればいいし、だめならまた次回に教えるから」
「じゃあお願いします!」
「うん、わかった」
 ケーキとワインでご機嫌になった桃香を前島大輔が誘った。
「これから怖い心霊スポットでも行ってみる?」
「え、やだ、こんな寒いのに怖いところなんて」
「わかった。じゃあ、うんとあったかい部屋に行こう」
 前島大輔は桃香の手をぎゅっと握り、桃香は頷いた。
 二人は手をつないだまま、ケーキバーを後にした。

 ◇

「この車なんだ」
 ニセ前島は桃香の背に手をまわしてワゴンのサイドドアを引き開いた。
 しかし、そこに椅子はなく、薄っぺらなマットが敷かれてあるだけだ。
 一瞬、声を失った桃香を、ニセ前島が突き飛ばして中に押し入れる。
「キャー」
 悲鳴を上げたがすぐに桃香の口はタオルで縛られた。
「静かにしろよ」
 ニセ前島は、手を足をばたつかせて抵抗する桃香を押さえつけて、取っ手からロープでぶらさげた手錠に左手首をかけ、反対サイドの取っ手からぶら下がる手錠に右手首をかけて拘束する。
「もう逃げられないぜ」
 ニセ前島が卑劣な目で桃香を見下して言った。 
  
 その時、フロントグラスに大きな衝撃音が響いた。
 前島健史がワインボトルで思い切りフロントグラスを叩いたのだ。フロントグラスは小さなひび割れが無数に走って視界を失い、このままでは運転は無理だ。そのひび割れたフロントグラスを薄っすら赤いワインがピンクに染めている。
「野郎っ」
 ニセ前島は逆上してサイドドアから飛び出した。
「やっぱり一番怪しいこの車だったか」
 前島が叫んだ。
 ニセ前島は勢いをつけて右手のストレートで殴りかかった。
 だが、怒りに支配されたために力みすぎたパンチは伸びるスピードも遅く、格闘慣れしてない素人の間合いの悲しさで前島の頬に拳が届いた時には腕がほぼ伸びきっていた。
 前島は殆ど痛くもなかった自分の頬を撫でると言う。
「そんなパンチじゃサンタの爺も倒れないぜ」
 前島はゆっくりとジャブを返すと見せて途中で一気に逆の右手で加速したストレートを繰り出した。
 ニセ前島の鼻柱が折れる手ごたえがあった。
 さらに放たれていた回し蹴りがニセ前島の鳩尾に食い込む。
「てめえのしたことの痛みを思い知れっ」
 前島はさらにニセ前島の股間の急所を蹴り上げた。
「痛ええ、痛えええええ」
 ニセ前島は股間を押さえて地面を転げまわった。

 ◇

 前島はダッシュボードを開いて鍵を見つけ出して、桃香の手錠を外してやる。
「怪我はないですか?」
「あ、ありがとうございます。私、その、すみません」
 桃香はそう言って背広にハーフコート、スポーツ刈りの前島をじっと見詰めた。
「わかってもらえればいいんです」
 前島はニセ前島を近くの標識のポールを抱かせる形で手錠をかけると、携帯で110番して、所轄の出動を依頼した。
 そして桃香に向き合った前島は自己紹介して襟の赤いバッジを指した。
「自分は前島健史。このバッジは警視庁捜査一課の徴です」
 それはS1Sという文字を象ったデザインで、精鋭の刑事を集める捜査一課に選ばれたという誇りを表しているバッジだった。
「前島さんは刑事さんでしたか。道理で私に不規則な仕事の辛さはわかると仰ってましたね」
「看護師さんも仕事は大変ですよね。そういや、所轄時代はよく看護師さんと合コンがあったのに自分は一度も出ませんでした」
 前島が言うと、桃香は笑った。警察官と看護師の合コンはけっこう多いのだ。
「あ、私もです。お巡りさんとの合コンには行かなかったな。でも、こうして前島さんと知り合えたのは神様の導きですかね」
「そうかもしれません」
 前島は笑みを浮かべ、桃香も頷いた。
 前島は標識に繋がれたニセ前島に顎を向けた。
「そいつはおそらく警察で追ってる連続暴行魔ですよ。ちょっとこれから警察で事情を聴かれると思いますが、その後、付き合ってもらえますか?」
「ええ、私でよければ」
 小雨が振り出して、二人はフロントグラスの割れた運転席と助手席に入った。
「よかった。こんなタイミングで出すのも変だけど、これプレゼントです」
 そう言って前島は黒い袋を差し出した。
「ありがとう」
 開くと、ケースから銀のネックレスが出てきた。
「わー、すごい素敵」
 桃香はそれを胸元にあてがい聞く。
「こんないいもの、頂いていいんですか?」
「似合いますよ」
「私からはこれです」
 桃香はバッグからリボンのかかった包みを取り出した。前島は包みを開けるとマフラーを早速首に巻いて笑った。
「ありがとう」 
 二人はそこでしばらく語り合った。

 ◇

 午後11時、所轄の渋谷署で事情聴取されて、桃香が廊下に出ると前島が待っていた。
「お疲れ様でした」
「いいえ、ありがとうございました。もう前島さんも帰れるんですか?」
「ええ、明日は休みですよ」

 二人は静まり返った階段を歩いて降りた。
「そういえば『スピード』ていう映画でサンドラ・ブロックが、異常な状況下で結ばれた恋は長続きしないって言ってましたね。あれ、どう思いますか? 私たちもある意味、異常な状況下で結ばれた恋でしょ?」
 桃香が言うと前島は困ったようだった。
「とりあえずいいじゃないですか」
「そういう言い方で片付けるんですか?」
 桃香が言うと、前島は口の前に人差し指を立てた。
 階段の下は署のエントランスで、静まり返ってはいたが10人ほどの制服の警察官が仕事をしていたのだ。それが、二人が降りてゆくに連れ、くすくすと忍び笑いを広げている。 
 前島は照れを隠すようにカウンターの側板を蹴った。
「笑ってるんじゃねえよ」
 そして前島はわざと聞こえるように大きな声で言った。
「この先にいいホテルがあるんですよ。20年間一度も殺人事件が起きてないんです」
 桃香は微笑んで前島の手を握った。
「それはすごく安心ですね」
 
 署の玄関を出ると空から落ちる雨は雪に変わっていた。   了




山下達郎 クリスマス・イブ
曲の歌詞は切ない系なので、絵とあまり合ってませんが、
この神戸のクリスマスはイルミネーションがきれいですね!
残念ながらご近所の○○○さんは映ってないそうです(笑)
  歌詞はこちら 
追記 今日のニュースによると、この時期、24年間連続オリコントップ100入りらしい
そんなロングセラーだとは知りませんでした、すごいな!



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 松本剛史は携帯の着メロに起こされた。
 その曲は不明の人間からの着信に割り当てた日本昔ばなしのテーマだ。
 携帯を開いて耳にあてると、やはり知らない人間の声だ。
「俺だ、外神田だ」
「だ、誰ですか?」
「俺を忘れたのか」
 松本は時計を眺めて、思い切り不機嫌に言う。
「なんだ夜中の2時じゃないすか、明日は朝から会社で会議なんですから、誰だか知らないけど勘弁してくださいよ」
「それどころじゃないぞ、今からアメリカの大統領が特別会見を行うんだ」
「関係ないすよ」
「いや、大ありだ、ETの存在についての公式会見だぞ」

 松本はハッとした。
 そういえば松本は青稲田大学で2年ほど「UFO研究会」というサークルに在籍していた。しかし、アメリカでUFOを飛ばしていた老人が名乗り出てサークルは消滅したのだった。その時の部長がたしか外神田という名前だった。

「UFO研究会の外神田さんですか! 懐かしいなあ、今、何してるんですか?」
「学生に決まってるだろう」
「ま、まだ学生? 俺より8歳年上なのに」
「当たり前だよ、真実はすぐそこにあるんだぞ。生活のしのぎのために仕事なんかしてられるか。今は超文明研究会を結成して活動してる」
 松本は1パーセントの尊敬と99パーセントの軽蔑を溜め息に込めて吐いた。
「はあ。それで公式会見って本当なんですか?」
「当たり前だ。じゃなきゃ電話するかよ」
「他のメンバーにも電話したんすか?」
「まあな、どいつもこいつもすぐ電話を切って薄情な奴らだ。すぐCNBBのリアルタイム動画をつけてみろ。まもなく演壇に大統領が現れるぞ」
 松本は仕方なくノートパソコンの電源を入れた。

 画面にFX取引のポジションが映っている。
 88円10銭時点でで10枚の買い持ちだ。現時点での相場は88円80銭前後。10銭で千円だから10枚で70銭利益なら、約7万円の儲けということになる。
 ブラウザのファイヤーダックスを開いてCNBBと打ち込み検索するとすぐにアメリカの情報テレビのホームページが見つかった。その片隅に小さな画面があって、星条旗が立てかけられた演壇が映し出されている。
「ところで松本、FXやってるなら売り持ちにしとけよ。いつもあの黒人大統領が出てくるとドル円は下がるからな」
「あ、買いなんすけど、万が一のストップを87円90銭に入れてるから大丈夫っす」
「じゃあ今すぐ利益確定してノーポジにしとけば」
 7万で手仕舞いか。悪くないけど、これからもっと上がるかもしれないし。
 松本は利益確定せずに中継画面に見入った。

 ◇

 会見場に拍手が沸きあがった。演壇に大統領が現れた。記者たちを見渡して微笑むと演説を始める。
「今日、我々は合衆国の歴史に新たな1ページを開くだろう。
 私はこれまで歴代の大統領が秘密にしてきたことについて、公式に明らかにすることを決断した」
 会見場がどよめいた。誰かが口に指を入れてピーと鳴らした。
「そうだ、諸君も知っての通り、ロスウェルで昔の政府が気球の落下だと発表した事件、あれは実は宇宙人の円盤が墜落したのだ」
 拍手と歓声が沸き起こった。
「そうなんだ。また冷戦時代、ホワイトハウスの上空に円盤が編隊で現れたのも本当だ。時の大統領は核戦争を避けるようにと宇宙人から警告されたのだ」
 拍手と歓声が沸き起こった。
「これまでにグレイとホワイトとオレンジとイエローという4種類の地球外宇宙人が確認されている。すべての友人を招きたかったのだが、現在、地球にいるのは1種類だけなので許してほしい。ではゲストをこちらへ」
 大統領は演壇の脇に下がり、自分の入って来た扉に向かって拍手した。
 記者たちも盛大な拍手でゲストを迎えようとした。

 ドアが開いて、赤いドレスの女性のような宇宙人が入って来た。
 松本はアッと叫んだ。あれはたしか日本の……。
 大統領が叫んだ。
「ジャパニーズファーストレディ、ミユキ! 彼女は実はイエローなんだよ」
 会見場がざわざわとして、引いていいるような気がする。
 演壇に美由紀夫人が上がった。
「私はこれまでも自分が宇宙人だと言ってきましたが、それは冗談としてでした。
 でも今日は正直にカミングアウトします。私はムービー星で生まれて地球にやって来たんです」
 そう言って美由紀夫人はうなづきながら会見場を見渡し、同意を求めた。それはヒラビー・クリキントンの得意なパフォーマンスだ。記者が仕方なく適当に拍手を返した。
「ええ、そうなの。ジェリー・クルーズと私はそこで恋人同士だったのよ。近いうちに彼と映画を撮ることに決まったわ。ありがとう」
 失笑と控えめなブーイングが漏れた。

 大統領が美由紀夫人と握手して再び演台についた。
「美しい宇宙人、美由紀夫人にもう一度拍手を。
 そう。今まさに我々はグレイとホワイトとオレンジとイエローという4種類の地球外宇宙人と友好的な関係を構築して、新しい時代に入る必要がある。各地に宇宙人のための案内所を作り、案内人を大量に採用し、そのおかげで雇用問題は解決するだろう」
 記者たちから歓声が上がった。
「新しい時代にはFRCのものではない政府による新しいドルが必要だ。地球人とグレイとホワイトとオレンジとイエローという4種類の地球外宇宙人の顔をデザインしたドル紙幣に切り替えることにした」
 記者たちは拍手喝采だ。
「交換の比率は旧ドル2に新ドル1だ。新しい紙幣には息子の発案でくじをつけることにした。当たれば百倍の賞金だ。楽しみにしてほしい」
 記者たちからブラボーと声が上がる。

 ◇ 

「なんだかな」
 松本は失望した。
「でも、大統領がロスウェルを認めたし、画期的だぞ。よかったな」
「あの夫人は普通に地球人でしょ」
「まあ、そこは仕方ない。でも言った通りだろ。
 つっ!見ろよ、とんでもねえ、ドル円相場が大暴落だぞ!」
 外神田が叫んだ。
「えっ」
 松本はFX取引のポジションを見て青くなった。

 現在の相場は1ドル44円80銭だ。
 松本はストップを87円90銭に入れてたのに、48円10銭で約定して、「証拠金が380万円不足してます。明日まで至急入金して下さい」との大きな赤い字の警告文が出ている。
 40円の差は1枚で40万だから、10枚で400万。請求が20万少ないのはもともと20万が口座にあったからだが。
「ぎゃあああああああああああ」
 松本の絶叫をよそに、外神田が言う。
「ま、冷静に考えてそうだよな、新ドルは旧ドルの半分なんだから、世界中の投資家が一斉に売るからストップなんてないに等しいわな。100枚売ってたおかげで4500万の利益だよ。へへへ。宇宙人様さまだよなあ。
 おっ、ニュースだ。日本は米国債を他国に先駆けて売り抜けに成功していたらしい。きっと美由紀夫人が直前に情報を教えてくれたんだな、やるな!
 松本も売っておけばよかったのに」
「そ、外神田さん、僕、もう寝ます」
 松本は電話を切って大きな溜め息を三度吐いて寝た。
 夢の中にも友好的な宇宙人が出てきてお金を巻き上げられた。   了




 これはフィクションであり、人物、団体は架空のものです。
 一応、年内にも大統領がETについての公式会見するのではと、とんでも民族の間では噂が飛んでるようですよ(笑)

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 人類の特徴を捉える言葉がいくつかあります。
 理性、英知を持つ者としてそれまでの種と区別する『知性ある者=
ホモ・サピエンス』という言葉があります。
 それに対してシェーラーは、自然と対比して工作することに注目し
『工作する者=ホモ・ファーベル』と名づけました。
 そしてオランダの歴史家ホイジンガは、遊びという文化的な面こそ
が人類を際立たせているとして『遊ぶ者=ホモ・ルーデンス』と名づけ
ました。
 特にホモ・ルーデンスは、子どもの遊びだけでなく、企業活動、
議論、戦争、人の活動のあらゆる局面に遊びのようなルールと開始と
終わりのあるゲーム的性格が見られると指摘し「人は遊ぶ存在である」
と論じました。

 私も同感です。人類は本質的に『ゲームする者』なのです。
 人はあらゆることに無意識に個人的なルールを決めてゲームをする
存在だと思います。
 そこには自分にルール決定の自由が与えられており、そうして創造
されたゲームに熱中し、ゴールを達成することで精神的な快楽がもた
らされる。これは知性のある宇宙生命でなければ到達しなかった極め
て高次の意識作業で、あらゆる行為にゲームとルールを付与すること
が可能となっている。

 たとえば、あなたが誰かを選んで恋をする。
 その人と永遠の愛を誓い、それに向けて努力する、やがて結婚を約束
する、という行為も、当の本人にとってはそのようにルールとゴールが
設定されたゲームを楽しんでいるというわけです。ゲームだから味気な
いということには全くなりません。
 高度の知性を持った生き物だからこそゲームこそ最も熱中できるから
です。
 だからこそ、はたから見るとおかしいほどに熱に浮かされていること
も多い。そこには誰の命令でもなく自分に与えられている自由という崇
高な権利から掴み取ったルールとゴールへの熱狂と興奮があり、本能
だけで結ばれる動物の恋よりはるかに高次の喜びをもたらすのです。 

 ありとあらゆる場面で、人間はそれを無意識にルールとゴールを決め、
それをゲーム化する才能に溢れています。

 例えば受験もそう。親までが子供と一緒になって偏差値の推移に一喜
一憂し、ゲームのゴールへの疾走をけしかける。それだけに達成した後
に虚脱感に襲われたりする。
 例えば官僚の出世競争。その省庁での頂点を目指す彼らは、頂点が無
理な場合のために天下り法人を作ってそちらの頂点に座るという、なん
とも潔くないルールが国民の知らないうちに出来上がっている。
 スクルージばりに通帳の残高にほくそえむのもゲーム、収入の全てを
例えば戦艦大和の模型作りに注ぎ込んでしまうのもゲーム、ダイエット
のために毎朝ジョギングするのもゲーム、余命40年のおやじが死の恐怖
に怯えクローン人間に財産を投じるのもゲームです。
 逆に毎年、小さな田畑を耕して自給自足の生活を淡々と送るのもゲー
ムなんですね。 
 人間は人間以外の社会的存在を擬人化して捉えることもできるので、
企業が汚い手段でライバルを出し抜くのも、国家が他国を脅迫し、侵略
し利益を得ようとするのもゲームです。

 以上、見てきたようにゲームは高度な知的生命である人間にとって
必然不可欠なものです。ゲームの許されない世界は人間が機械に支配
される世界だと思われます。 

 そうとわかれば、あとは人々の興じるゲームをより協調的で他者と共
生できる、平和なゲームへと進化させることが当面の課題なのだと思わ
れますが、どうでしょうか。




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 伊越屋デパートの更衣室で川村知美が制服を着ていると岡元明菜が入って来た。

「おはよう」
「あ、おはよう」
 二人は婦人服フロアーの同僚である。
「ねえ、明菜、ファンデ変えた?」
「変えてないわよ」
「なんかほっそり見えるから」
 明菜はここのところほっそりしてきて、すごくきれいになっているのだ。
「ダイエットうまくいってるかも」
 知美は羨ましくなって聞く。
「どういうダイエット?」
 知美はたびたび聞くのだが、明菜は「人それぞれ合うダイエットが違うのよ。じゃなきゃ、世の中にダイエット法なんてたくさんあるんだから成功してる人がどんどん増える筈でしょ」と言って教えてくれないのだった。

 代わりに明菜は衝撃的な発言をした。
「まだみんなには秘密なんだけどね、私、結婚するかも」
「えーっ」
「声が大きいよ」
「だ、誰と、店内?」
「お客さん。知美も知ってる人」
「もしかして毎月妹に買い物してゆく、あのアニキ?」
 知美が聞くと、明菜は嬉しそうに微笑んだ。
「それがね、妹はいなくてね、みんな私のためにとってあるんだって」
 おかしいと思っていた。
 スーツ姿が似合っているイケメン系のアニキは男性客の少ない婦人服フロアではちょっとした憧れと妄想の的だった。毎月、1、2回、妹に洋服を買ってゆくのだが、それが必ず明菜から買うのだ。知美が応対に出ても「ちょうど背格好が岡元さんと一緒だから」と言い訳して明菜に代わってもらうのだ。そして並んで明菜に服を当てて鏡を見てた顔はどうにも怪しいと思ってたのだが、やっぱり。
「いいなあ」
 知美は羨ましがった。

 そこへ例泉院忌美がやって来た。気配りはできないが、持ち物とプライドだけは高いフロアの嫌われ者である。
「ごきげんよう」
「「おはよう」」
 着替えを済ませた知美と明菜は更衣室の出口前まで行き足を止めた。
 そこには姿見と制服を着た見本役のマネキンが立っている。マネキンの名札には「いつも笑顔で」とあるので、マネキンは"いつエガ"と呼ばれている。金髪の先が外にカールして、口元の左に黒子をつけて、赤いルージュの口元に笑みを浮かべている。
「いつエガ、はいつも笑顔で大変ね」
 知美が言うと、明菜は「大丈夫なのよ」と返した。
 二人は服装をチェックすると売り場に向かった。

 ◇

「いけないっ」
 知美はダンボールから品出しをしていて、うっかり指を切ってしまった。
 知美はレジの下にある絆創膏を探したが生憎と品切れだ。仕方なく知美は更衣室に向かった。
 そして自分のロッカーから絆創膏を出して貼っていると、ふと更衣室のドアの開く気配がした。
 知美が覗くと、そこにはスタジオという暗号でトイレに行ったはずの明菜が来ていた。あれ、何してるのかな。知美がそっと見ていると、明菜はいつエガの前で合掌すると、何か祈って、自分のお腹をさすって、いつエガのお腹をさすった。
 知美は思わず声をかけた。
「明菜、何してるの?」
 振り返った明菜は笑みを浮かべた。
「見られちゃったか。知美はいつも助けてくれたから、知美にだけ私のダイエット法を教えてあげるよ」
「ホント、嬉しい」
 喜ぶ知美の耳を手で覆うようにして明菜はこっそり囁いた。それは信じられない話だった。
「誰も見ていない時を選んで、いつエガに『余分な脂肪の身代わりになって下さい』とお祈りしてから、気持ちの上で自分のお腹からいつエガのお腹に脂肪を移してやるの」
「え、それだけ?」
「うん、これだけ。大事なのは信念なのよ」
 明菜はその言葉を強調した。

 ◇

 明菜はそれから半年もしないうちに寿退社した。
 知美も明菜から教わった"いつエガ"ダイエット、というか、お祈りを欠かさずにするようになって、次第に体も心もすっきりしてきたから不思議だ。周囲からも明るくなったと褒められ、チーフやマネージャーにも礼を言われるから奇跡みたいなものである。
 ついには忌美まで猫撫で声ですり寄って聞く。
「知美、あんた、最近、きれいになったけどなんか秘密があるんでしょう」 
「うーん、特には」
「嘘っ、なんかある筈よ。知美は下地が悪いんだから」
 知美は心の中で、フンと言いつつ笑みを浮かべて返した。
「忌美さんは下地がいいから羨ましいですわ」
「私の持ち物で気に入ったものをあげるから教えてくんない?」
 おっ。忌美の持ち物は高級ブランドばかりだ。
「そうですわね、バッグと靴とドレスと3点ぐらいいただけるなら、教えて差し上げますわよ、オホホホ」
「いやですわねえ、貧乏人らしい浅ましさ。でも、わかりましたわ、好きなもの差し上げますから、私の宅に参りましょう」
 
 ◇

 忌美が一人で住む4LDKの高級マンションは、ひと部屋全体に棚が天井まであって、ちょっとした高級洋品店に来たようだった。
「すごいわー、まるでブティックみたい」 
 これだけあれば毎日のアイテム選びが楽しいだろうが、迷いがちな知美は時間がかかって大変だと考えてしまう。
「お好きなものをお選びなさい、オホホホ」
 忌美に言われて、プラダの大き目のショルダーバッグとフェラガモのローファーシューズ、ラファームのオフショルダーロングドレスを選んだ。
 そして"いつエガ"ダイエットを教えてやった。
「なによ、それ。まるで詐欺ね」
 忌美は怒ったようだった。
「詐欺とは失礼な。明菜がきれいになったのだって"いつエガ"ダイエットのおかげなんだから、信じてやってみればいいのよ。なんなら今、明菜に電話して確かめてみればいいのよ」
 知美が言って電話帳の明菜を選んで携帯を渡すと、忌美は実際に電話した。
 納得いかない顔だったが、明菜の言葉を聞いて忌美は一応頷いたようだった。

 ◇

 そして一ヶ月ほどたったある日、知美は更衣室を出ようとしたところ忌美に詰め寄られた。
「どういうことよ、逆に太ってきたじゃない」
 知美は平然と言い返した。
「そんなこと、私に言われても困りますわ。
 明菜が言ってたでしょ、大事なのは信念だって。おおかた忌美さんは信念が足らないんですわ。信念はお金じゃ買えないし、困りましたわね。オホホホ」
 忌美は悔しそうに唇を歪めると"いつエガ"のお腹にパンチを見舞った。しかし、拳の方が痛くなった忌美はそれを押さえて泣いた。
 "いつエガ"はいつものように変わらない笑顔だ。    了
 



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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