銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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お母さんは私の体を抱きしめた。


「ごめんなさいね、でも死んだなんて言ってないわ。

あなたは、ヒロキが心配だからそう考えたのね。

大丈夫よ、ヒロキは隣の部屋にいるわ。


ただ、心の準備をしておかないと、ショックを受けるから。

手紙にも説明あったかもしれないけど、ヒロキはまだ治療法のない難病なの。


車椅子に座ったきりで、喋るのもよく聞き取れないかもしれない。

それでもよかったら、是非、会ってやってください」


私はハッとして、頬の涙を笑顔で拭いた。

「もちろんです!

そのために来たんだもの!」



お母さんに案内されて隣の部屋に入った私は車椅子に駆け寄った。


ヒロキさんは照れて微笑んでいた。

私は両手でヒロキさんの手を包むように握りしめた。


「ヒロキさん、よかった!

『最後の一葉』なんて言うから、私、ヒロキさんが死んだのかと勘違いしちゃった!」


「おっ、ち、こ、ち、いたあ」

ヒロキさんは一所懸命喋るけど、病気のせいで音がつながってなかった。

「あー、わかった!

どうせ、私は、おっちょこちょい、ですよ~」

ヒロキさんが笑顔になると、私の背中の方でお母さんの声がした。

「ヒロキ、こころさんが来てくれてよかったわね!」

そう言い残して、お母さんはそっと部屋から出て行った。


「ヒロキさん、私はヒロキさんのおかげでこんなに元気になったんだから、

今度は私がヒロキさんを元気にしてみせる!」

「あい、か、と、

こん、な、ほ、くえ、い、い?」

(ありがと、こんな僕でいい?)

私は大きくうなづいて答える。

「愛するひとが、重い病気だからって、見捨てる筈ないでしょ!

それより先に、重い病気の私を見捨てずに応援してくれたのはヒロキさんでしょ!

ヒロキさん、愛してます!」


「ここ、お、ちゃ、

あい、し、て、う!」

(こころちゃん、愛してる!)


こんな展開は想定外だけど、もう勢いにまかせるしかない。


私はうっすら目をつぶり、ヒロキさんの唇に自分の唇を重ねた。

暖かいものが、胸と、目に、込み上げてきた。


私もヒロキさんも生きている。

それだけで、この世で一番素敵なことなんだって感じる。


大丈夫、きっと二人とも病気を治して生きていけるよ!

私はヒロキさんと愛し合って生きてゆくんだ!


私はそう心に誓った。


    -了-




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『最後の一葉』という短編は有名だから知ってるかもしれないよね?

それは、当時は治療の大変な肺病で寝込んでしまった病気の娘ジョンジーの話だ。

弱気になったジョンジーは、向かいのピルの壁に残るツタの葉をいつも数えている。

そして、あの最後の葉が落ちたら、自分も死ぬのだと不吉なことを言い出す。

同居人スウからその話を聞いた老画家ベアマンは、ジョンジーの眠る中、スウと共に最後の一葉が落ちてしまったのを目撃する。

しかし、翌朝、ジョンジーが窓を開けてもらうと、一枚の葉が嵐にも負けず、壁に貼り付いて残っているのを発見する。

何日たっても落ちない、最後の葉にジョンジーは生きる勇気を取り戻す。

その最後の葉はジョンジーを勇気づけるために、老画家ベアマンが壁に描き残した最後の傑作だったという話だ。


実は、僕の病気は全身の筋肉が衰えてゆく難病で、パソコンのキーボードを使ってもこころちゃんのメールに返事するのがだんだん大変になっていったんだ。

メールを1行打つだけで5分かかってたのが、次第に8分になり、10分かけても1行も打てなくなり、病状は悪化していった。

メールだけがこころちゃんと僕の絆なのに、それがどんどん出来なくなってゆくことが、どんなに辛かったか想像してみてほしい。


僕の病気は、現在のところ、いい治療法が見つかってないんだ」


ヒロキさんは、そんなに重い病気だったんだ。

自分のことばかりで精一杯で、ヒロキさんのことを思いやるのを忘れていた。

私は自分のうかつさを自己嫌悪して涙を浮かべた。


「だけど、こころちゃんも大変な病気と闘っているんだから、メールはいつまでも続けてゆきたかった。

僕の手の筋肉がだめになっても、なんとかして、こころちゃんに、メールの返事を送り返せないかと考えぬいた。


そして、自動返信のソフトを思いついた。

ほら、どこかのサイトに登録したりすると、名前やアドレスを反復して送り返してくるだろう?

あれと同じ仕掛けだよ。

こころちゃんの使いそうな文例をあらかじめ組み込んで、この文にはこの文で返事する、全く想定外の文はそのまま繰り返し肯定する、というように、24時間、半永久的にパソコンが返信してくれるんだ。

それを大学の同級生に手伝ってもらいながら創ったんだ。

こころちゃんに病院で会った時には、家のリビングにおいてあるパソコンの中で、それは完璧に動いてくれた。


ごめんよ、でも、こうするしか僕にはこころちゃんに返事し続ける方法がなかったんだ」

私の頭に、すごくいやな想像がよぎった。

ちょっと待って、最後の一葉の画家は死んでしまうんでしょ?

まさか、まさか、ヒロキさんは死んでないよね!?


混乱した私は手紙の説明が信じられなくて、その場でヒロキさんにメールを打った。


《ヒロキさんは元気なんでしょ?

ヒロキさんは生きてるんでしょ?》


すると、リビングのサイドボードの上で眠ったように黒かったノートパソコンの画面が明るくなって、四角い枠の中に、メッセージが現れては、次のメッセージに切り替わった。

メール受信中!


返信メール作成中!


返信メール送信中!


返信メール送信成功!


『最後の一葉』作戦成功!


私の頭の中で勝手にすごくいやな考えがふくらんでゆく。

その直後、携帯にメール着信音が鳴り、私の不安は破裂しそうになった。

「ヤダー!」

急に私が叫んだので、お母さんはびっくりした。




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 ◇ ◇ ◇

今、私はヒロキさんの家の玄関に立っている。

元気に見えるように、以前なら着なかった派手な黄色のワンピースを着ている。

髪は元の長さに戻った。

肌や唇は乾燥気味で保湿クリームを塗っている。

さっき、ヒロキさんは《会えるの楽しみに待ってるよ》とメールしてきた。

あ、そういえば、最初はなんて挨拶すればいいんだろう。

病院の廊下で顔は見ているわけだから、はじめまして、ではおかしい。

かといって、久しぶりです、というのも前回名乗ってないから少し違う。

困ったな。

そうだ、もしヒロキさんが私にキスしようとしたら、どうやって受ければいいんだろ?


私の中学時代のファーストキスは不意打ちだったから、参考にならないし。

やばいよ、またドキドキしてきた。


その時、ドアが開いた。

ヒロキさんのお母さんは微笑を浮かべてお辞儀した。

「遠いところをわざわざすみません」


「は、はじめまして、川津辺こころです」

私、思い切り勢いよくお辞儀した。


「狭いところですけど、あがってください」


お母さんに案内されて、リビングのソフアに腰をおろす。

「来てくれて嬉しいわ。

こころさん、白血病を克服されて退院されたそうですね?」


「ええ、まだ通院中ですけど、なんとか。

ヒロキさんが毎日、応援のメールをくれるから、頑張れたんです。

それがなかったら私、負けていたかもしれません。

だからヒロキさんにはいくら感謝しても感謝し足りないんです」


お母さんは、急に目に涙を浮かべた。

「そう、ヒロキのメールは毎日届いてるのね」


えっ?

私は違和感を感じた。

まるでヒロキさんからのメールが毎日届くことに感動したみたい。

そんなのたいしたことじゃないでしょ?


「あの、それでヒロキさんは?」

私がきょろきょろして尋ねるとお母さんがうなづいた。


「そうだったわね。

まず説明の手紙を先に読んでもらえるかしら。

実はヒロキは去年のゴールデンウィークの前あたりに状態が悪くなってね」


私は反射的に聞き返していた。

「それって、ゴールデンウィークの前の嵐の日ですか!」

あの日は私が生死の境をさまよった日だ。

まさか、運命の神様が私の代わりにヒロキさんを……?

とてもいやな考えが浮かんでしまい、私はその考えを振り払った。


「そう、確か嵐の日だったわね。

これ、あなたが来た時のために用意してあったヒロキの手紙なんだけど読んでみて」


お母さんから差し出された、便箋に印刷された手紙を、私は急いで読み始めた。


「こころちゃん、いらっしゃい!

いきなり手紙で説明してごめんよ。

家の者じゃうまく説明できないし、僕もうまく言えないから手紙にしたんだ」


どういうこと?

頭の中に疑問符がわいてくる。


「僕がウィリー・シドニーを名乗ったのは、アメリカの短編小説みたいなことを考えたからなんだ。


O・ヘンリーという小説家がいる。

彼の本名がウィリアム・シドニー・ポーターなんだ。

ウィリアムの愛称はウィリーかビリーが普通だからウィリー・シドニーにした。

(つづく)



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 ◇ ◇ ◇


私が病院に行く日は最初2週に一度だったものが、ひと月に一度になっていた。

「先生、こんにちは」

そう言いながら診察室に入ると、佐藤先生は嬉しそうな顔になる。

「よう、久しぶりだな」

「はい、Day187です」

骨髄移植後の日数をそうやって数えるのはこの病気の患者ならではだ。

「その後、変わったことはあるかい?」

「相変わらずドライアイ、ドライ肌、下痢も時々」


「そうだな、どれも慢性GVHDのせいだから、大変だな。

でも、その症状が出るということは、同時に、お父さんからもらった免疫力が体の奥に潜んでる悪玉もきっとやっつけてるってことだよ。

そう考えてがんばってくれよ」


「はい、命を救われたんだから、これぐらいは我慢しないとね」

「さすがはこころちゃん、こういう患者さんばかりだと医者も楽だよ、ハハハ」


佐藤先生が笑っていると、リカさんが「先生、すみません」と書類を持って入って来た。

「あら、こころちゃん、久しぶり!

ずいぶんきれいになったんじゃない!」

私は「え、そうですか?」と言いながら照れた。

「そうかな?」と佐藤先生。

男の鈍感なつぶやきにリカさんが噛み付いた。

「すごくほっそりして、髪も戻ったじゃないですか!

たくっ、先生は検査の数字しか見てないんだから」


「参ったな、こころちゃんごめんな」

佐藤先生は苦笑いした。


「じゃ、いつもの注意事項守って、風邪気味になったら外出は控えて、薬を続けてな。

もう少しGVHDの症状を見て、免疫抑制剤をまた減らしてゆこう。

あとはマルクしたら帰っていいよ」


とたんに私が「はあ」とうつむくと、佐藤先生がなだめてくれる。

「大丈夫、これはまあ手続きみたいなもんだ、そんなにしょげるなって」

「だって、マルクは嫌いだもん」

「そんな子供みたいなこと言ってると、さっきマルクした翔子ちゃんに笑われるぞ」

「え、翔子ちゃん、来てるんですか?」

「ああ、定期の診察に来て今休んでるよ。

こころお姉ちゃんはマルクが怖くて逃げ出したと言っておこうか?」


「失礼ですね、受けないとは言ってませんよ」

佐藤先生に笑われながら、私はマルクの検査室に入った。


すると翔子ちゃんがベッドに横になって休んでいた。

「久しぶり、翔子ちゃん、移植の前に手紙ありがと!」

「あ、こころお姉ちゃん、調子良さそうだね!」

「うん、退院してDay187になったよ。

翔子ちゃんも元気そうね!」

髪が豊かで、顔もむくんでないし、肌なんかも健康そうだから、翔子ちゃんも良い状態なのだろう。

「うん、超久しぶりのマルクだよ。

ところで、お姉ちゃん、彼とデートはもうしたの?」

翔子ちゃんが聞いたので、私は正直に答えた。

「ううん、まだ。

Day200になったら、彼に会いに行こうと思ってるんだ」

「ということはあと10日ちょっとか、楽しみだね!

こころお姉ちゃん、幸せになって、ラブラブのところを写メしてね!」

「え、どうして写メあげなきゃならないの?」

「私はこころお姉ちゃんの先輩だし、恩人でしょ?」

「翔子ちゃんはおませね」

そう言いながら私はウキウキするのを感じた。


(つづく)



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病院から出た母と私はタクシーに乗り込んだ。

「ほんとよかったわね。

昨日はお父さんも大喜びしてたから」


「うん、帰ったらすぐにお風呂入るからね」

「ふ、そんなにお風呂が恋しいの?」

「だって、病院のは全然のんびりできないんだもん」

「そうか、大変だったわね」


「そうだ、大事なメールしなきゃ」

「誰に?」

「一番大事なひと!」


タクシーの中で、私はヒロキさんにメールした。

《ヒロキさん、今、退院してきました!

これもヒロキさんの応援のおかげです!

負けそうな時も頑張れたのはヒロキさんのメールがあったからです、ありがとう!》


ヒロキさんから、すぐに返事が来た。

《おめでとう!やったね!

僕のおかげじゃないよ。

退院できたのはこころちゃんが頑張ったからだよ!

自分の強さを褒めてあげなよ!》


《ありがとう!

でも、ほんとにヒロキさんのおかげなんです!

どんなに感謝しても感謝したりないぐらい、幸せです!》


《今日は僕にとっても幸せな日だよ!

愛するこころちゃんが普通の生活に向かって大きく歩き出したんだからね!

あとは油断せずにがんばれ!》


《ヒロキさん、愛してます!》


 ◇ ◇ ◇


しばらくは家で自習したり、音楽聴いたりしてたが、ついに超久しぶりに学校に行った。

髪はまだ元に戻ってないのでかつらだけど、クラスのみんなが暖かく迎えてくれて、涙が出るほど嬉しかった。

もちろん、サトミやカオリも熱烈に迎えてくれた。

特にサトミときたらいきなり抱擁するから、体が痛かった。

「痛いってば」

「あはは、つい嬉しくてさ。

言っとくけど、ヒロキさんはこれだけじゃ済まないよ、甘い愛撫がこころを包むよ」


「バ、バカ」

そう言いながら私は照れて赤くなってしまう。


「それでヒロキさんにはもう会いに行ったの?」


「まだだよ。メールしたらね、自宅療養してるから、私が治ったと自分で思える状態になったら、すぐ会いにおいでって、住所を教えてくれた」


「そうなんだ、それでいつ会いに行けそうなの?」

カオリが聞くと、私はうーんと唸った。


「先生が完全に治ったと言ってくれるまでには、調子よくても、まだまだ時間がかかると思う」


「そうなの?」


「うん、1年とかね」

「やだ、1年は長すぎるよ!」

「私なら、てか、男の方が待てないんじゃない?」


「うん、長すぎでしょ。

だから、春になったらだいぶ体調も戻るだろうし、髪の毛も戻るだろうから、そうしたら会いに行こうかなと思うんだ」


「よし、その時は私が保護者として同伴してやるよ」


サトミの提案に私はあっかんべーしてやる。

「ノーサンキュー」


(つづく)



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骨髄移植して1週間がすぎた。

放射線も抗がん剤もなくなったけど、体調はまだよくない。

体の中のあちこちが傷ついていて、それがニキビや鼻血や口内炎や下痢としてあらわれてくるのだ。


昼過ぎ、佐藤先生が来てくれてマスクごしに声をかけてくれる。

「よお、調子はどうだ?」

「まあまあ。

白血球はいくつ?」

「WBCは100、まだだな」


先生の答えに私はため息を吐いて落ち込む。

この数字が上がってくれば、お父さんから貰った骨髄が活動し始めたということなのだ。


「そんなにしょげるなって」


「しょげてないよ」

私は強がりを口にしてみた。


「数字が上がるまで、早くてももう1週間ぐらいかかると思うよ。

3週、4週かかることもあるしな。

グランも始めたし、じっと待つのがつらいかもしれないけど、お父さんの骨髄が強い血を造ってくれると信じてがんばろうや」


「そうだよね、お父さんの骨髄はきっと強い血を造ってくれるよね。

私は絶対に治ってみせる!」


「その意気だ!

こころちゃんのせりふを聞いて安心したよ」



翌週の木曜日に、白血球数がピョンと400に上がった。

お父さんの骨髄が私の体の中で働いてくれた。

まだ、普通の人より少ない数字だけど、お父さんからもらった骨髄が生きていることに、私は感動した。

お父さんに、めったにしないメールを送った。

《ヤッタよー、白血球数が400に上がったの!

お父さんからもらった骨髄が働き出したの!

お父さん、ありがとう!》


お父さんから20分ぐらいして返事がきた。

《そうか よかツタナ》



骨髄移植から3ヶ月目、私はついに退院の時を迎えた。

退院してもまだ1年とかは通院して薬を飲んで治療を続けなればならないだろうけど、通院以外はほぼ普通の生活ができる。



母と一緒に、ナースセンターに挨拶に行くと、看護士さんたちが総出で廊下に出てきて拍手してくれた。

「おめでとう!」「よかったね!」「がんばったもんね!」

婦長さん、アカネさん、リカさんに声をかけられて、私は泣く気はなかったのに、思わず涙をこぼしながら、でも笑っていた。

「みなさん、ありがとうございます!

私が退院までこれたのは、みなさんの暖かい看護のおかげです!

ありがとうございます!」

私がお辞儀して、立ち去ろうとすると、後ろから「まだ忘れ物があるだろう」と声がかかった。佐藤先生の声!

私が振り向くと、佐藤先生が走ってきた。

「完治はこれからだけど、退院するんだから、僕と看護士たちに見せておくものがあるだろう!卓球部!」


私は「あ、はい」とうなづいて、みんなに向かってスマッシュのフォームをしてみせた。

そして拳を胸の前で握りしめて大きな声で叫んだ。

「サー!」

それはここまで病気に勝った、そしてこれからも病気に勝つ、私の雄叫びだ。


廊下に拍手と、佐藤先生の「サー」返しが響いた。



(つづく)



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午前9時、お母さんとお父さんがクリーンルームまで面会に来た。

もちろんガラス越しに、電話を通しての面会だ。

平日のこの時間帯ならスーツ姿のお父さんが今日はジャージ姿。

お母さんが説明する。


「お父さんは私に提供する骨髄を採取するため今日から入院するのよ」

「今日、採取するの?」

「明日だって」

そう、私の移植も明日だ。


「がんばれよ」

お父さんがお母さんから受話器を取ってボソっと言うと、私は泣きそうになった。


「ごめんなさい、私のためにすごく痛い思いさせて」

「何、言ってる、お前が耐えられたことを父さんが我慢できないはずないだろ」

お父さんが笑うので、私の目から涙があふれた。


「それにな、父さんは幸せだと思ってる」


「どうして?こんなに迷惑かけてるのに?」


「普通は、お前ぐらいの娘を持つ父親は、同じ家に住んでいても娘との距離がどんどん離れる頃だ。

洗濯物は汚いと分けられるし、風呂上りにパンツひとつで涼んでも叱られるし、休みにゴロゴロしていてもきちんとしてよと言われる。

だから、普通は距離が開く一方だ。

お前の病気は、たしかに父さんにとっても身を削るように辛いことだ。

しかし、こころは俺の骨髄をもらってくれる。そして俺と同じO型の血になる。

おかげで娘との強い絆ができるんだ。

病気に勝つ強い娘と強い絆が結べる、こんな幸せな父親は、めったにいないぞ!」


私は涙を流しながらうなづいた。


「もう泣く必要はないよ。

お前は父さんの骨髄できっと病気に打ち勝つよ!

なあ?そうだろ?」


お父さんに言われて、胸の奥がポカポカと暖かくなった。

「うん、私、きっとお父さんの血で病気に勝つよ!」


私の言葉にお父さんは嬉しそうにうなづいた。



翌日の午後になって、目だけだした佐藤先生がやってきた。


「じゃあ、こころちゃん、お父さんからもらった骨髄を入れるよ」


点滴のパックにお父さんの骨髄液が入ってると思うと、ジーンときた。


ゆっくりと時間をかけて、お父さんのO型の骨髄液がA型になじんだ私の体に入ってくる。

なんかくすぐったいような、変な気分だ。


後は生着といって、お父さんの骨髄がしっかりと私の体の中に根付いて活発に血を造ってくれるのを待つ。


必ず生着するとは限らないし、むしろそれが骨髄移植のハードルのひとつなんだけれど、お父さんの骨髄が私に根付いてくれないなんて、私には想像できない。

私はビニール袋入りの携帯を手に取った。


《ヒロキさん、こんにちは!

いよいよお父さんの骨髄を入れてもらいました。

お父さんの骨髄はきちんと働いてくれるよね?

きっとうまくゆくよね?》


すぐに返事が来た。

《ついにお父さんから骨髄移植したんだね!

大丈夫、きっとうまくゆくよ!

なぜなら、お父さんも、僕には少し負けるけど、こころちゃんを愛してるからね!》

私はヒロキさんのメールに微笑んだ。


(つづく)



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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