銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

翌日、夏休みのサトミとカオリが見舞いに来てくれた。


「二人とも、いい時に来てくれたよ。

もう少し遅いと、クリーンルームに入ってたからガラス越しになるところだよ」


サトミが笑った。

「私はこころとダブルスのペアなんだから、タイミングはわかってるって」


カオリも笑顔で、

「こころが元気そうでよかったよ。

こころが治るるのは当然だけどね」


「ありがと。

二人の応援が一番ありがたいよ」


私が言うと、サトミがキッと睨んだ。

「今の言葉に嘘があります!

ヒロキさんが一番でしょ?」


私は笑って言い返す。

「ああ、それは別格、比べてもいけない」


「そのヒロキさん、ウィリー・シドニーだったって本当なの?」


「うん、この病棟に来る途中、中庭があるでしょ、

あそこで会ってたのよ。

もし彼がここにいたらとか聞いてくるからさ、

私、今は顔が腫れてるし、頭の毛もないから会うのイヤダって答えちゃったの。

それで彼は名乗れなくなったみたいなの」


「惜しいことしたなあ。

彼もまわりくどいこと言わないで、こころを奪えばいいのに」

サトミが言うので、私はあわてて「あ、あのね」と返した。


しかし、反撃する言葉は見つからず、

「でもキスはしたからいいの」と答えてしまった。


サトミがびっくりして聞き返す。

「キ、キスしたの?」


私が「夢の中だけど」と答えると、サトミとカオリの顔があからさまにがっかりした。


「なんだ、ガッカリ、小学生じゃないんだし」


「だけど超リアルな唇の感触だったの」


「呆れた。

罰として、今、ここで彼に熱烈なメールして見せなよ」

「エー、やだよ」

「ダメ、罰だから、じゃ代わりに私が打ってあげる」

サトミは私の携帯を手に取り、カオリが私の体を押さえた。

「変なこと打ったらダメだよ」

「大丈夫、こころは相思相愛なんだから」

サトミは、素早く文面を打つと、カオリに押さえられている私に見せた。

《こころです。なんか気分がもやもやして、

ヒロキさんに、ディープなキスされて抱かれたい》

私はびっくりして「ダメ、そんなの絶対、ダメ!」と叫んだ。

カオリの手を振り払い、急いでサトミから携帯を取り上げた。

しかし、画面はすでに送信完了になっていた。

「嫌われたらどうすんのよ!」

私はムッとして睨んだが、サトミは平気だ。


「大丈夫だって、返事は私が保証するよ」


(つづく)



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五月の連休直前のピンチを乗り切ったこころは、地固め治療を続けて夏休みの終わる頃、骨髄移植の準備に入った。


こころと両親は、診察室に入ると、佐藤先生に向き合った。


私も父母も緊張している。

いよいよ病気の悪玉に決戦を挑む、そんな感じなのだ。


佐藤先生は説明を始めた。


「娘さんは、これまで地固め治療を順調にクリアしてきました。

いろいろ辛い時もあった筈ですが、娘さんは頑張って成果を上げてきた。

これは思い切り褒めてあげてよいことですよ。

僕は立場上、偉そうに見えるかもしれませんが、もし僕がこころさんの立場だったら、弱音を吐いてたかも、いや、きっと逃げ出してたに違いないですよ」


佐藤先生は笑って、それから真顔で言った。


「だから僕はこころさんを尊敬します」


私はそう言われてどぎまぎした。


「病気は薬や医師が治すんじゃないんです。

患者さんの生きる力が治すんです。

この治療は無理だと医学の常識が決め付けても、患者さんが闘う意欲と明るい気持ちを持ち続けていると、突然よくなったりするんです。

僕はこの仕事のおかげで、生きる力の素晴らしさをいつも思い知らされます。

そして尊敬すべきこころさんが、完全に治って普通の生活に戻れるように、これからも全力をつくしますので、よろしくお願いします」


偉ぶるところがなく、ひたむきな佐藤先生の言葉に、父母はお辞儀した。


「娘は素晴らしい先生に診ていただいて幸せ者です。

これからもお願いします」


「それで治療ですが、いよいよ骨髄移植の準備に入りたいと思います。

骨髄移植の前には、自分の骨髄が残っていてはいけないので、地固め治療の時よりもさらに徹底した処置をします。

半月ほど強力な抗がん剤投与、放射線照射を行います。

そのため、副作用も、痛み、吐き気、脱毛、口内炎、下痢、痔など、その説明書にあるように今までより強いものが出ます。

そうして自分の骨髄がない状態で、百パーセント健康なお父さんの骨髄を入れて、血液がお父さんのものと入れ替わることになります。

ただ、脳など一部は前の血液型が残ります。

よろしいでしょうか?」


私はつばを飲み込んで、父母より先に答えた。

「はい」

それに続いて父母が「よろしくお願いします」と答えた。



診察室を出た私は、廊下を歩きながら父母に言った。

「いろいろ迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑って?」

「お父さん、骨髄取るの痛いんだよ、それにお金もいっぱいかかるし」

お父さんは振り向かずに歩きながら言った。

「父さんはこころみたいに注射が怖くないから大丈夫だ。

お金はこころに車を買ってやるつもりだったお金を使うだけだ。

お前はおっちょこちょいだから、自動車事故で大怪我する心配がなくなってよかったよ」
父の優しいせりふが嬉しかった。

「あはは、そうかも」

「それに移植が成功したら、お前も父さんの洗濯物みたいな臭いがするかもしれないな」
「えー、それだけは勘弁してよ」

私は言いながら、今まで父の洗濯物を嫌っていたのを心の中で謝った。


(つづく)



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窓の外の空が次第に明るくなって朝になっていた。


こころは朦朧とした意識で佐藤先生の声を聞いた。


「こころちゃん、よく頑張ったな、もう大丈夫だぞ、サーッだ」


こころは微笑んで小さく「サー」と言った。



続けて佐藤先生は、面会のガラス越しに見守っていたこころの両親にも報告した。


「峠は越えました。

娘さんの白血球も増えて闘ってくれてます。

もう大丈夫でしょう」


両親は口を揃えて「ありがとうございます」と礼を言った。



夕方、ようやくすっきり目覚めたこころは、真っ先にヒロキさんにメールした。

《ヒロキさん、こんにちは!

昨夜は私、かなり危なかったみたい、でも乗り切ったから安心して!》


ヒロキさんからすぐに返事が来た。

《そうか、ちょっと心配してたから、すごく安心したよ!》


《でね、車椅子のウィリー・シドニーさんが夢に出てきてね、実は僕はヒロキなんだって白状したんだ。

ヒロキさん、本当に車椅子のウィリー・シドニーなんじゃないの?》


《それは会った時のお楽しみにしとこうよ》


《エー、ずるいよ。

ヒロキさん、やっぱりウィリー・シドニーなんでしょ?》


《だって、あの廊下で会った時、副作用で毛がなくて顔がふくれてるから会うのは絶対イヤって言ったのはこころちゃんだよ》


こころはびっくりして、すぐに嬉しくなった。

《アーッ、やっぱり!

そうじゃないかと思ってたんだ!

よかった、ヒロキさん、車椅子でもカッコよかったよ!》


《アハハ、惚れてしまえばアバタもエクボだな!

こころちゃんも本当はもっと可愛い顔だってのは知ってるから、

実際に会って、僕も惚れ直したよ!》


《キャッ!嬉しいですぅ!

ヒロキさん、大好き!愛してます!》


《うん、僕もこころちゃんを愛しているよ!

こころちゃんに巡り会えてよかったよ!》


《それから、昨夜の夢ではね、一面きれいな花畑でもヒロキさんに会ったの!

その時はヒロキさん、車椅子じゃなくて、立っていたんだけど。

ずっと前にデートで行くところの写真見せてくれたでしょ、あんな感じかな。

私に花畑で会ったこと覚えてる?》


《まさか、さすがにこころちゃんの夢の中の出来事までは覚えてないよ!》


《ヒロキさん、最初は笑っていたけど、突然、泣き出したの。

どうしてかな?》


《さあ、僕が泣くとしたら、たぶん、こころちゃんがやばくて死ぬんじゃないかと怖かったのが、

無事に会えたからじゃないかな》


《納得!実際、昨夜はかなり山だったみたいで、両親がずっと面会のガラスの外にいて見守ってくれてたんだよ!

ヒロキさんにも心配かけてごめんなさい!》


《もう大丈夫って知って、すごく安心したよ!》


こころは安心して携帯を抱きしめた。


(つづく)



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陽が沈むと、また熱が上がり出した。

肺の息苦しさと腰や胸の骨の痛みはひどさを増して、こころはナースコールのボタンを押した。


「痛いか?」

駆けつけた佐藤先生に、こころは無言でうなづくことしかできない。


「よし、痛み止めを注射してやるからな。

がんばれよ」


佐藤先生は点滴のペースを調整して、今までの薬より強い痛み止めを注射した。


よくドラマで見かける脈拍と呼吸数のモニターもつなげられた。


脈拍は毎分87、呼吸数は毎分28、体温は38.7。

酸素飽和度が91%しかない。

肺の炎症のため呼吸が浅いと判断した佐藤先生はこころに酸素吸入のマスクをつける。


「これをつけた方が呼吸が楽だからな」


こころは無言でうなづいた。


こころの母親も詰めていたが、面会のガラス越しにしか様子を見ることができない。

しかも、そのガラス越しのこころに酸素マスクがつけられたことで母親の気持ちはいても立ってもたまらないものになった。


処置を終えて、しばらく様子を見ていた佐藤先生はやがてクリーンルームから出た。


すると母親が待っていたようにつかまえる。


「先生、娘の病室の中に入って、そばにいてあげることはできないんでしょうか?

きっと心細いと思うんです」


佐藤先生は困った顔をした。


「お母さんのお気持ちはわかりますが、今のこころちゃんには絶対安静、ほんのわずかな細菌、ウィルスが怖ろしい敵なんです。

申し訳ありませんが、こらえて見守ってあげて下さい」


「今、どういう状態なんですか?」


「肺に炎症を起こしています。

そのために酸素の取り込みが落ちているので酸素マスクをつけました。

抗生物質の薬が炎症と闘ってますが、これは本来白血球の役目なので、白血球を増やす薬を入れてます。

肺の痛みと白血球が増える時に骨髄も痛むため、痛み止めを強いものに変えました」


「よくなるんですよね?」


「やはり今夜が山です。

危ない場合は、ステロイドを投与して、人工呼吸器をつけます。

人工呼吸器をつける場合は承諾書をいただきます」


「そんな、先生、必ず治すと仰って下さい」


「もちろんです。

絶対治ると信じて治療しています」



深夜、こころの状態を監視していた佐藤先生はステロイドを投与し、人工呼吸器を装着した。


こころは痛みと痛み止めとで朦朧とする意識の中で花畑を歩いていた。


いつかヒロキさんが連れてゆくと話した房総のような気がした。


菜の花畑を通り過ぎ、チューリップ畑を通り過ぎるとヒロキさんが立って笑っていた。

「やあ、こころちゃん」


「ヒロキさん、きっと会えると思ってた」


「うん、嬉しいよ」


「私たち、これからはずっと、ずっと一緒だよね!


「こころ、愛してるよ」

ヒロキさんは、隠しもせず目から涙をボロボロとこぼし始めた。


「どうしたの?

何で泣くの?」


「わかんないけど、涙が出るんだ」

私はヒロキさんの腕に包まれて幸せな気分だった。



(つづく)



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翌日になると熱は少しは下がったものの、息苦しさと腰や胸の骨の痛みはさらにひどくなってきた。


強い雨が窓ガラスを叩く音も耳障りだ。


私はヒロキさんにメールを打つ。


《ヒロキさん、弱音をはいてごめんなさい

あちこち痛くてつらいです

がんぱりたいけど、つらい》


短い文だけど、指に力が入らなくて打つのに時間がかかった。


ヒロキさんはすぐに返事をくれた。


《こころちゃん、大丈夫だよ。

弱音をはいてもいいよ、こころちゃんには僕がついているから、絶対大丈夫なんだよ。

僕は絶対こころちゃんを応援し続けるし、

愛するこころちゃんのためなら、神様に頼んで奇跡を呼んであげるから》


私はなんだか涙があふれてきた。

ヒロキさんは私のことを守ろうとしてくれてるというのが、すごく伝わってきたせいだ。


《ヒロキさん、ありがと、とても嬉しかった

愛してます》

私はそれだけ打って送信した。



こころの母親は診察室に入り佐藤先生から説明を受けた。


「どうなんでしょうか?」


「熱は少し下がりましたが、安心はできません。

こころさんは肺炎を起こしています。

普通なら抗生剤と免疫力ですぐに治せる程度の症状なんですが、

免疫力がとても弱い状態なので強い薬で白血球を増やして免疫を上げつつ、肺炎と闘っています。

そのためかなり痛みも出ていて、強い痛み止めも併用しています

娘さんにつらい思いをさせて、申し訳ありません」


「見通しはどうなんです?」


「こういう言い方はしたくないんですが、うまくゆかない確率も少しあります。

今夜が山になるかもしれません」


「そんな……」


「もちろん僕は治ると信じていますし、全力を尽くしますから、

お母さんもこころさんが病気に勝つことを信じてあげてください」



母親がクリーンルームを訪れても、痛みと痛み止めで意識が朦朧としているらしく、こころは気付かなかった。


その様子がつらくて、母親は洗面所に入ると泣いた。


その時、こころの夢の中では、車椅子のあの彼が病室まで見舞いに来ていた。

「やあ、こころちゃん」


「あれ、ウィリー・シドニーさん、どうしたの?」


「うん、こころちゃんから、つらいってメールもらったからさ」


「あなたのメアド知らないよ」


「ごめん、僕がヒロキなんだよ」


「えーっ、ウソッ、やだあ、こんなところに抜き打ちで来るなんて」


こころは焦ったが、慌ててない自分もいる。

「ごめんごめん、でも気になったから」


「ありがとう、本当はね、私も、もしかしたらそうじゃないかと思ってたんだ」


「なんだ、ばれてたか」

そう言って彼が笑うと、ヒロキさんの写真そっくりになった。


「つらそうだね」

「うん、もう痛すぎだよ、死んだ方が楽かも」


こころはそう言ってしまって、ヒロキさんに叱られると覚悟した。

でもヒロキさんは怒らなかった。

「残念でした、こころちゃんのことはね、もう神様に頼んだからね。

こころちゃんは、絶対に治るんだよ

こころちゃん、愛してるからね」


ヒロキさんはこころの手を握ってさすると、覗き込むようにしてこころの唇にキスした。

夢とは思えない、暖かく柔らかいヒロキさんの唇の感触。

こころはハッとして、目を開いた。

しかし、そこにヒロキさんの顔はなかった。


すごくリアルだったのに。


窓の外は嵐で、中庭の木々は強い風に折れそうなほどたわんで耐えていた。



(つづく)



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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