銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

クリーンルーム9日目

今日は金曜。

そう、佐藤先生にうんと早ければ夜に退院と言われた金曜日だ。

薬のおかげで、だいぶ体の調子が上がってきたのを感じてる。

今日、マルクして結果がよければ第一段階は退院じゃない?

そうすれば、ヒロキさんと海辺でデートだ!


自然と顔がニターとなってる。

えへへ、キモイよ、私。


そう思ってると、佐藤先生が回診に入って来た。

「おはよう」

「おはようございまーす」


なんか緊張する。

「どう、よく眠れた?」

「あんまり。薬でテンション上がってるよ」

「そうだな、仕方ないな」


思い切って私から聞く。

「で、退院はどうですか」

白い忍者のように目だけ出した佐藤先生は手に持ってる書類をめくって、

「うーん、残念。朝の採血の結果で白血球の数がまだ上がりきってないから、今日はだめだな」

「土曜か、日曜は?」

「この前話しただろう、土日はマルクできないから無理だよ」

「どうしてもだめえ?」

「困らせないでくれよ。どうしてそう土日にこだわるんだ?」


私は迷ったけど、思い切って言った。

「あの、友達がいるの、病気のことも告白して応援してくれて。

その友達がね、海に行こうて誘ってくれてるの。

だけど友達も月曜すぎると入院なんだよ」


「そうかあ。それは知らなかった。よかったな」

「友達のこと、みんなには秘密にしといて」

言いながら私、赤くなってるよ、たぶん。

「うん、秘密は守るよ。

で、その友達もどうしても土日じゃなきゃだめだって言ってるのか?」

「そんなこと言わないけど……」

「じゃあ、今回はあきらめて次回のチャンスに行きなよ」


私は仕方なく「うん……」


「で、友達はどんな病気なんだ?」

「えーと、横文字で忘れたけど、肺がやられてるんだって」

「ふうん、そうか。

とにかく今回はごめんな」

「……」

私はもう返事する気力もない。

佐藤先生は「じゃあな」と言って出て行った。


私は重い気持ちで携帯のビニール袋を手にした。

《ヒロキさん、ごめんなさい。

やっぱり今回は私の退院間に合わないみたいです(泣)

せっかくのチャンスだったのに》

八分ほどで返事が来た。

《それは仕方ないじゃないか。

デートはまたできるよ。

元気を出しなよ!》

ヒロキさんに励まされたが、こころはそれでも落ち込んだ。


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クリーンルーム6日目。

私はいつものようにヒロキさんにメールで報告する。

《こんにちわ、こころです。

白血球が減って100未満、これからは薬で増やしていくそうです。

白血球が増えたらクリーンルーム出れるそうです。

私、元気になります!》


十分くらいでヒロキさんからメールが来た。

《こころさん、こんちは。

そう、元気そうで何よりだ。

退院の日はまだわからないの?

できれば今週中だと嬉しいんだけど》


《わかりました。

先生に聞いてみます!》


クリーンルームの看護士さんに頼んで佐藤先生に来てもらった。

佐藤先生も厳重なマスクをして、まるで映画の忍者の白いやつみたいで、笑える。

「お待たせ。

寂しくなって俺に会いたくなったか?

モテる男はつらいなあ」

佐藤先生、笑わせてくれる。

「その冗談は置いといて、退院はいつ頃か聞かれたんだけど、

いつですか?」


「白血球が普通より増えて、マルクで悪玉が見つからなければ第一段階は退院だよ。」


んー、こっちは「いつ」って聞いてるのに。


こころはもどかしくなる。

「で、それはいつ?」

「いつと聞かれると困るな。

人それぞれ治りのテンポは違うからね。


うんと早ければ金曜の夜、遅いと来週の後半ぐらい。

でマルクして悪玉が消えてない場合はまだまだ先だ」


「なんとか今週の土曜とか、日曜に退院できないかな?」

「マルクとかの検査は土曜はできないから、土日は難しいな。

なんか予定でもあるのか?」

そう聞かれて、私は頬が熱くなるのを感じた。

やばい、きっと赤くなってるよ。


「よ、予定なんてないけど、早く家に帰りたいの」

「ははあ、ホームシックか。

ここまでがんばってきたから、早く退院させてあげたいのは先生も同じだよ。

けど、もうちょっとの間、辛抱してくれるかな」


まさかデートだからどうしてもなんて言えないし、

「はあい」

私は心の中で、ぶうーと息を吐いた。

今週の退院は、金曜までによほど状態が良くなってクリーンルーム出ないと、無理っぽいな。

《ヒロキさん、超よくなれば金曜夜だけど、

普通なら来週みたいです》

すると十分ほどでヒロキさんから返事が来た。


《そうか……。


実は僕の方の入院、延ばし延ばしにしてきたんだけど、

そろそろ入院しろと医者に叱られたんだよ。

こころさん、来週の月曜ぎりぎりなんとか退院ならないかなあ、

そしたらパーとタクシーで行けるけど。


無理なら、また次の機会にしようね!》


あ、そういうことか。


私はそこまで考えがまわらなかった。

もう、泣きそうだ。


《どうしよう(泣)


せっかく誘ってもらったのに、ごめんなさい》


《こころさんのせいじゃないよ。

それによくなれば、たくさんデートできるじゃない。


僕はこころさんが大好きだよ!


浮気なんてしないから(笑)


安心して病気を治して》


あ、


あ、


あ、ここで来ました。

ヒロキさんからラブの告白……。

嬉しくて、嬉しくて、幸せ。


こころは携帯のビニール袋を胸にあてたまま、嬉しさでポォーと固まった。


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承 行方不明


「見っけ」
 卓斗が自販機の裏で関口優美を見つけた瞬間、また大地が大きく揺れた。
「きゃあー」
 関口優美はびっくりして卓斗と飛び跳ねて、今にも倒れそうにぐらぐらしているコーヒージュースの自販機から離れた。
 揺れは2分近く続いた。
 近くの親が心配して出て来る。
「もうお家に帰りなさい、みんな心配してるから」
 そう言われて、遊んでいた子供たちは一斉に自宅に帰った。
 卓斗も迷わずまっすぐ家に向かった。別に葉月のストーカーでもない彼は葉月も勝手に帰ってるんだろうと信じていた。

 しかし、葉月は帰りたくても帰れなかった。
 揺れの大きさにさすがにすぐ目が覚めたものの、さっきまで開いていた石の蓋がまた閉じてしまったため出れなくなったのだ。
「助けて、助けてー」
 真っ暗に近い中、大声で叫んだが誰にも届かない。
「助けてー」
 急速に恐怖が満ちてくる。
 もし公園にいるなら、卓斗が一番近いかもしれない。
「卓斗ー、助けてー」
 しかし、反応らしき音はどこからもなく、しんと静まり返っている。
「卓斗ー、助けろー、バカー」
 葉月はそう叫ぶと、堰を切ったように泣き出した。

「寒いよー」
 だんだん寒くなってきた。
 暗いので何があるかはわからないまま、手で床を探ると、なにやら布きれがあった。
 それをひっぱりあげると、なにか木の切れ端のようなものがぼろぼろと崩れた。
 着物のようだ。
 葉月は袖を通して着物を羽織った。
 ポケットにあったキャラメルを食べると、葉月は疲れて床に体を伸ばした。
 すると頭のあたりにお寺で見たことのある木魚のような丸い形があった。
 何だろう。
 暗闇の中、手でさわっても何かはわからない。
 まあ、いいや、少し脇に避けると、糸のようなのがまとまって手に触れた。
 一瞬、蜘蛛の巣かとびびったがもっとごわごわしてる。
 額も寒いので葉月はそれで額を覆った。
「寒いよー、助けてー」
 また叫んでみる。
 しかし、助けは現れなかった。


 葉月の家では大騒ぎになっていた。
 母の美恵子は地震後なかなか戻らない葉月の行方をまず同級生に電話して探した。
「いつもお世話になってます、畑乃です。
 ええ、地震はなんとか、ええ、
 それより、うちの葉月が羽生さんのお宅にお邪魔してませんか?」
「葉月ちゃん?いいえ。今、息子に聞いてみますね」
 そう言って羽生卓斗の母は息子に葉月ちゃんを見かけたか聞いた。
「もしもし、一緒に遊んだけど、缶蹴りの時、地震になって、後は知らないと申しております、ええ、お役に立てなくて、はい、また何かわかったり、家の近所で見かけたら電話しますね、ええ」
 その後も電話をかけ続けて、6年生の関口優美からも缶蹴りを始める時までは葉月を見たと答えがあった。その後、地震が起きて、すぐに近所の結衣ちゃんのお母さんが来て、家に帰りなさいと言われて皆が帰ったということだ。
 つまり地震の後、一緒に遊んでいた近所の子達は帰ったのに、葉月だけが帰らないのだ。
 もしかして地震の時に、地割れでも起きて呑み込まれたのではないか。
 そう思うと心配はいよいよ増幅してくる。
 夜七時に父が帰宅すると、祖母に電話の傍にいてもらい、両親と親戚で家のまわりから公園までを懐中電灯を持って探し回った。
 しかし、葉月も、葉月が落ちそうな大きな地割れも見つからなかった。
 夜九時を過ぎて、父親が警察に届けると、地震などによる事故、あるいは誘拐の両面から所轄の警察署の捜査が動き出した。
 刑事が聞き込みに走り、機動隊が付近を探索する。
 
 翌朝、葉月が閉じ込められた石室のある洞窟の前にも、棒を手にした警官が立った。
 しかし、洞窟は奥行きがなく、見通せる範囲に人や遺留物は見当たらない。
 まさかその奥の壁の向こうに部屋があり、少女が寝込んでいるとは思いもしない。
 運の悪いことに葉月もこの頃はもはや声を出すのにも疲れ、眠り込んでいた。

 家族の願いと裏腹に、葉月失踪の手がかりは要として掴めず、刻一刻、日一日と時が過ぎて、六日が過ぎていた。
 畑乃家には、古い週刊誌で東京の大学の心理学教授が超常事件を捜査できると載っていたと情報がもたらされたり、テレビの公開捜査に出たらどうかという助言も寄せられた。

 そんな折、地取りから帰った刑事が、捜査本部で遅い夕食の弁当を食べながら夜のテレビニュースを見ていた。
 それは地元で発掘調査隊が古墳の石室の内部を調査したというものだ。
 もちろん刑事は公園の傍で発掘作業が始まったのは知っていた。
 その時、画面に画質の悪い美少女ミイラの写真が出た。
「あっ」
 刑事は叫んだ。
 美少女ミイラの写真は不鮮明だが捜査中の葉月の顔立ちによく似てると思ったのだ。
 この場所、タイミング、そして写真、刑事は迷うことなく、消防レスキューに出動を依頼した。


結 仮名文字の謎


 発掘テントの中にレスキュー隊が入った。
 石室に掘削機でまず5センチほどの穴が開いた。そこからサーモグラフで測定したところ、畑乃葉月の体温は摂氏3度程度。
 やはり、生存は絶望だ。
 それでもオレンジの制服のレスキュー隊員は必死で掘削機で石室に穴をふやし、つなげ広げてゆく。
 なるべく早く家族の元に帰してあげたい。
 その思いだけの辛い任務だ。
 やがて50センチ近い穴が開くとレスキュー隊員が石室に這って入り、少女の遺体をおぶるようにして這いずり出てきた。
「葉月ーっ」
 レスキューの隊員に体を支えられていた母親が泣き崩れた。
 しかし、奇蹟が起きていた。
 レスキュー隊員は迎えた同僚に親指を立てて言う。
「かすかに息が」
「無事なのか」
 どよめきがあがった。
「要救護者は無事、至急搬送」
 母親の涙は喜びの涙に変わった。
 運び出された少女葉月の心臓はか弱いながらも拍動していたのだ。


 病院のICUで診察にあたった医師は会見を開き、たまたま冬眠や低体温療法と同じような状況になり、極端に代謝が抑制された状態で生存できたのだろうと答えた。
 

「よかったでしゅえ」
 教授室でテレビを見ながらグスンと涙と鼻水を垂らしてティッシュで拭いているのは、自称天野教授の婚約者の美由紀である。
 テレビに向けて並び変えられたソフアには天野教授とめぐみと祥子も目を潤ませてワイドショーを見つめていた。
 もちろんテーブルには定番の紅茶とケーキが食べられた痕跡と食器がある。

 ワイドショーには、続いて酒糟教授の釈明会見が映し出された。
 記者はまるで酒糟教授が悪いことをしたかのような口調で問いただす。
「どうして彼女が生きてるとわからなかったんでしょうか?」
「ええ、ファイバースコープのカメラは画質が悪いですから、気がつきませんでした」
「助かったからいいようなものの、事前に確認する方法はなかったんでしょうか?」
「残念ながら、普通、そういう手順はとってませんでした。今後、検討したいと思い」
 答え終わらぬうちに、次の質問が飛んでくる。
「で、あの歌みたいな仮名文字は少女が書いたんですか?」
「あれにつきましては、内部に文字を書いた道具は発見できてません」
「では、歌の意味は解読できましたか?」
「それはまだ調査中ということで……」

 めぐみが言った。
「ちょっと可哀想ですね、酒糟教授」
「そうですね、同業者としては同情したくなってきます」
 天野教授は眼鏡を持ち上げて言った。
「この酒糟教授には別に落ち度はないと思いますよ。
 石蓋はとても少女の力で動かせる筈もなかったし、ファイバースコープのカメラは普通のカメラと較べると画像が粗い。
 あれで生きていると気付けという方が難しいじゃないですか?」
「まったくマスコミはいい加減ですよ」とすぐ同調するのは自称婚約者。
「美少女ミイラなんて見出しをつけて、違うとわかると、考古学教授を袋叩き」
 そこで天野教授は髭を撫でた。
「ここは、ちょっと助けてあげましょうかね」
「え、もしかして教授、仮名文字の謎が解けたんですか?」
 祥子が素早く聞き返すと教授はうなづいた。
「そうかもしれません」


 出迎えた酒糟教授は天野教授を握手で迎えた。
「わざわざお越しいただいて」
「専門違いのでしゃばりですが、なんとかお役に立てないかと来ました」
「まったく面目ない話です」
「こちらは助手の柴崎智美君です、訳あって通常は手袋をしてますのでご了承ください」
「ええ、かまいません、よろしく」
「よろしくどうぞ」
 酒糟教授は柴崎智美の白い手袋をはめた手と握手した。
「それで、仮名文字の謎を解かれたとか」
「ええ、解いたかもしれません」
 三人は応接セットに着席した。
「これが写真ですが」
 天野教授は酒糟教授から三枚の仮名文字の写真を受け取って並べた。
 それは横書きで書かれていた。新聞報道とは逆の並びである。

 かてときみつい そのたまは すわかいくさ
 だが、考古学の常識に従い酒糟教授はすらすらと右から左へ読む
「さくいかわ すはまたのそ いつみきとてか。
 天野先生、これはどういうことなんですか?」
「横書きはそもそも古い日本にはなかったそうですね?」
「その通りです。
 古いもので横書きと思われているものは、一行一文字で右から左に書いた縦書きであるというのが考古学の常識です」
 そこで天野教授が髭を撫でた。
「でも、それは生きている側の世界の常識ではないでしょうか」
「はあ」
 酒糟教授は口を開いた。
「ここに死んだ人間がいるとして、彼女に見せるには常識は役に立たないかもしれない。
 言葉というのは呪術の重要なツールですよね。
 死んだ人間にこちら側と逆の向きに見せたら、もしかしたら時間も逆に流れてくれないか、逆に流れて蘇ってくれないかなどと、呪術はおかしな発想をするのではないですか?」
「まさか、じゃあ」
 酒糟教授は逆に読んでみた。
「かてときみつい そのたまは すわかいくさ。
 待てよ、区切りが違うのか。
 かてときみ ついそのたまはす わかいくさ」
 酒糟教授が大きな声で読んだ。
「勝てと君、ついぞのたまはず、我が戦、ですか?
 なるほど、歌としてすっきりしましたよ」
「いやいや、まだ推理の段階ですよ。
 ここでちょっと例のミイラに触れてみたいのですが」
「はい、解読していただいたお礼として特別に」
 
 酒糟教授は奥のテーブルに歩いて大きな木の箱の蓋を外した。
 中には白骨と着物が収められている。
 天野教授が頭蓋骨を見下ろして言う
「私はこれは間違いなく絶世の美女だったと思いますよ。
 もし私の歌の読みが正しいとするならば、ですが」
 酒糟教授は首をひねる。
「どうですかね、新聞の見出しには痛い目に遭いましたから」
「ちょっとだけ素手で触れさせてもらいますよ、柴崎君」
 天野教授が言うと、柴崎智美が白い手袋を取って、頭蓋骨の上に置かれた遺髪に触れた。

 智美はじっと目を閉じて、何かを待ちうけ、やがておもむろに話し出した。

「お父は嫌いじゃ。
 断れば断るほど、上等の贈り物が貰えるぞなどと喜んで。
 漁に出ないで、貰い物の酒ばかり飲んで。

 男は嫌いじゃ。
 美しい、美しいと、われを褒めるが、われの外見だけのことじゃ。
 そしてわれの心も聞かず、わしがめとる、わしが貰うと殺し合いまでする。

 われがはじめて好いたのは、一家揃って遠くへ越した玄太じゃ。
 神様がはじめて好いた男と一緒になるように決めてくれればよいのじゃ。

 お母の顔はちっとしか思い出せん。
 お母はどうして、われをおいて、死んだんじゃ。

 とうとう下野のおさのせがれさまと郡のおさのせがれさまが決闘するそうじゃ。
 われのためにまた人が死ぬのじゃ。

 われのせいじゃ。
 われは決めた。もう誰も死なない。われは身を投げてお母のそばに行くんじゃ。

 冷たい、でも怖くはないぞ。
 大好きなお母のそばに行くんじゃ。
 冷たい、海は冷たい。

 チェンジド。男性です。

 なんてことだ、命懸けて、敵に勝ったのに。
 ああ、手児奈よ、もう一度目を覚ましておくれ。
 なんてことだ、敵を殺し勝ったのに、お前が死ぬなんて。
 
 チェンジド。葉月ちゃんです。

 寒いよ、寒いよ、お母さん、お父さん、助けて。
 私はここだよ。助けて。寒いよ。
 卓斗、助けて。寒いよ。寒いよ。

 エステングィッシュト」

 智美が息を吐いて、頭髪から手を離すと、天野教授が「ご苦労様」と言った。

「天野先生、今の話はなんです?」
 酒糟教授は驚きを隠せないといった表情だ。
「智美君による、頭髪の記憶読み取りです。
 この美女は有名な『真間の手児奈』だってことです」
「しかし、真間の手児奈は東京の葛飾あたりですよ」
 天野教授は眼鏡を持ち上げて答える。
「おそらく求愛の当事者か、その父であった時の権力者が、真間の手児奈の遺体を金を積んで引き取ってこの石室に埋葬したんでしょうね。ちょっと調べたら大和朝廷の頃はこの辺りにいたのは日本有数の権力者だったそうじゃないですか」
「たしかに、しかし、なぜ、そんなことがわかるんです?」
「私は『あらゆる物や空間は、そこに起きた出来事を記憶できる』、そして『感受性の強い人間は、見えない記憶意識に残る記憶を引き出して見ることができる』という仮説を立てているんです。
 この智美君は頭髪に残る記憶を引き出して語ってくれたんです。
 もちろん今の科学ではまだ証明できませんが。
 でも、他の考古学的な物証から酒糟教授がその事実を解明されることを望みます」
「私は、絶対に、先見、予見は持たずに調査しますよ」
「もちろん。結果を楽しみに待っています」


 天野教授と智美はタクシーで発掘事務所を後にした。
「でも、教授、ひとつおかしなことがあったんです」
 智美の言葉に天野教授は聞き耳を立てた。
「なんですか?」
「言葉にしなかったんですけど、手児奈の意識の見る玄太と葉月ちゃんの意識の見る卓斗がそっくりな顔に見えたんですよ。あれはいったい何なんですかね?」
「せっかく解決したと思ったのに、宿題を残さないでほしいなあ」
 天野教授は苦笑を浮かべた。             了


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朝早く、カオリにも白血病の告白をすると、すぐ返事が来た。

《そうか。

隠してたなんて、あやまらなくていいよ。

いろいろ経過を聞いてて、もしかしたらそうなのかなとは思ってたんだ。

でもね、こころは大丈夫、元気になるよ。

私にもちょっとした秘密があるんだ》


こころは驚いて速攻で返事する。

《それって、まさかカオリも白血病?》


《あ、そうじゃなくて、

私の病人を見る直感がすさまじく鋭いの。

病院で病人を見ると助かる人と助からない人が大体わかるんだよ。

そして、こころを見たら、絶対助かる人だって感じた。

だから自信もって治してね!

そしてヒロキさんとラブラブになってね!

あ、私の秘密、内緒にしといてね。

それと自分も鏡で見て助かる人で安心したよ》


《わかった!

ありがと、カオリのおかげでまた元気が出てきたよ》

こころはホッとした。

親友二人に告白できたこと、応援の返事をもらえたことで、もやもやしてたものがスッキリした。

あとは早く退院しなきゃ。



昼近くなって母が面会に来た。

私はバンダナで髪の薄くなりはじめた頭を隠して会った。

面会といっても、クリールームの中には入れないで、ガラス越しにインターホンみたいな受話器で話す。

なんか映画に出てくる犯人の面会風で笑えた。

「がんばってるみたいね」

「うん、がんばってるよ」

「具合はどう?」

「聞いたら驚くよ」

「ええ、言ってごらんなさい」

「吐き気がするのに、お腹がすぐ空いてしまって大変なんだよ。

これって、おかしいでしょ?」

私が笑って言うので、母は安心したようだ。

「あんたの言ってたカップ麺、持って来てあげたわよ」

「おお、サンキュ、まずい食事ばかりだったから助かるよ」

「看護婦さんに渡しとくから、看護婦さんの言うこと聞くのよ」

「わかってるって」

「困ることはない?」

「とりあえずないよ」

「ほしい物は?」

「そうだな、お笑いとか、きみまろのDVDがあったら持ってきてよ」

「あんたがお笑い観るの?」

「サー・ガッツが、お笑いは…」

「それ、誰?」

「サー・ガッツは佐藤先生だよ、

お笑いは免疫力高めるからいいぞって言ってたの」

「そう、わかった。お笑いね」


話すことがなくなったけど、しばらく受話器を持ったまま見詰め合ってた。

なんだろう、話すことないのに、お母さんの顔、ずっと見ていたい。

「……じゃあ、そろそろ帰るね」

「うん」

母が受話器を置こうとしかけて、こころは慌てて叫んだ。

「お母さん」

母は慌てて受話器を耳にあてた。

私の口から自然と言葉が溢れた。

「ありがと、私を産んでくれて、

私、大丈夫だから、

必ず病気に勝つから、

安心して待っててね」

母は鼻のあたりを押さえて


「そんなの当たり前じゃない、帰るわよ」

そういうと母は受話器をおいて、振り向かずに帰っていった。


 f_02.gif プログ村

 
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起 いつ見きとてか


 群馬の住宅地の脇の林から、その石室が発見されたのは偶然だった。
 たまたま近所で大学の調査隊が既に発掘済みの古墳実地調査に来ていた。
 そこへ近所の子供がやってきて調査隊の大学生といろいろ話してるうちに、そういえば近くに大きな石があるんだよと言い出したのだ。

「どれぐらいの石?」
「うんとね、たぶん自動車ぐらいあるかもな。だけどちょっとしか見えないよ」
「そりゃ大きいね、どんなとこにあるの?」
「丘みたいな林に小さい洞窟があってね、その中」
「その林の前になんとか古墳て看板あるんじゃないの?」
「僕もそうかなと思ってぐるりと回ってみたけどなかった。
 でも狭いから小さい子供じゃなきゃ入れない。もっと大きい洞窟もあるんだよ、そこの方が面白いよ」
「地図でわかるかな?」
「うーん、うーんとね、この神社の二股の道をこういって、だからここらへん」
 子供の指し示した地点に既知の古墳情報はない。
 考古学科の塚階丈士は突然、震え出した。
 もしかしたら未発見の石室かもしれない。
 だとしたら、これは大発見になるかも。
「そ、そこへ、す、すぐ案内してくれるかい」
 急に声のうわずった塚階を不思議そうに見あげながら、子供は「うん」とうなづいた。
 
 町の全面協力の元、発掘隊が組織された。
 まわりの土を掘り起こして石室の外観が露わになると、風雨を避けるためすぐにテントで覆われ発掘作業が進められた。

 石室の蓋のわずかな隙間からファイバースコープが入れられてゆく。
 隊長の酒糟教授を始め、隊員らは息を呑んでモニターを見守った。
 高松塚のような彩色壁画があったら……。
 そう思うと隊員たちの心は躍った。
 まもなくモニターに内壁が映し出された。
 残念ながら彩色壁画は見当たらない。が、その代わり横書きの仮名文字が見えた。

 いつみきとてか と読める。
「おお」「やった」
 隊員たちから、どよめきが上がる。
 隊員の中でひそひそと会話が交わされる。
「いつ見きとてかと言えば」
「みかの原わきてながるる泉河いつ見きとてか恋しかるらむ」
「百人一首にもある、藤原中納言兼輔ですか」
「それじゃ時代が違うだろう、でも後から書かれたかな?」
 隣の壁面にも仮名文字があった。考古学の知見に従い正しく並べるとこうなる。

 さくいかわす はまたのそ いつみきとてか

「ちょっと言葉がわかりませんね」
「まあ、その辺は後からゆっくり考察すればいいんだから」
 酒糟教授がなだめた時だった。
 ファイバースコープが底面に向きを変えて、美しい着物をまとった子供らしき姿が見えた。
 頭部から目にかけ髪が伸び、顔は閉じた目から下、鼻、口が見えているが性別は少女のようだが断定はできない。着ているのは鮮やかな赤色に竹色の何かのシルエットが繰り返されて、襟の合わせが中央ではなく、横になっている。平安より前かもしれない。
 
「すごいミイラだ、生きてるみたいだ」
「こりゃマスコミに受けますよ」
「君、ちと不謹慎だよ」
 そう注意する酒糟教授も満面の笑みで、まんざらでもないようだ。

 その日の夕方、モルタルの現地事務所で会見が行われた。
「本日、八万町発掘調査隊は五万塚古墳の石室の内部にカメラを入れ、その内部に着物をまとった少女と見られるミイラが非常に良好な状態で保存されていることを確認いたしましたのでお知らせいたします」
 酒糟教授の説明に一斉にフラッシュが瞬く。
「残念ながら非常に細いファイバースコープによる撮影のため、画像が不鮮明であることをご了承下さい」
 酒糟教授が助手にパネルを掲げさせると、またフラッシュが瞬く。
「このように生身と見間違うほどの保存状態です」
 同時に記者席に写真と仮名文字のテキストが配られた。
「この壁の仮名文字ですね、さくいかわす はまたのそ いつ見きとてか
どういう意味ですか?」
「これは、えー、これにつきましては鋭意解読作業中です」
 酒糟教授の説明にまたフラッシュが瞬く。

 これを受けて、【石室から美少女ミイラ発見 いつ見きとてか、と太古のロマン】という見出しでニュースが、全国紙の一面を飾り、世界中に配信された。


遡 隠れる

 小学三年生の畑乃葉月はよく友達たちと一緒に外で遊んでいた。
 学校が終わるとすぐ塾に行くか、家に帰ってゲームする都会の小学生と違い、このあたりでは、いまだに外の遊びが健在だ。
 高学年の男子小学生は広場でスポーツに夢中だが、女子とそれにつきあわされる低学年の男子グループは、縄跳び、ケンケン、缶蹴り、隠れんぼ、一輪車などで遊ぶ。

 その日の午後も、いつものように近くの公園に仲間が集まる。
「葉月ちゃん、今朝の地震怖かったね」
 葉月は一年上の結衣に言われて軽く受け流した。
「ああ、あれね、震度5でしょ、もうびっくりして飛び起きた」
 本当は今朝、学校でクラスメートが話してて、心の中で「えっ?」と叫んだのだ。
 その時からうまく話を合わせたのである。
 そこへ同級生の羽生卓斗が顔を突っ込んで来る。
「畑乃は熟睡してたんじゃないのか?」
 くっ、当たってるよ。
 それだけに、葉月はムキになって言い返した。
「失礼ね、そういう自分こそ、オシッコちびったんじゃないの」
「ばかこけ」
 また喧嘩が始まろうかという時に、リーダー格の関口優美が宣言する。
「縄跳びしよっか」
 皆が一斉に同意して、大きな縄跳びが始まった。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、」
 誰かが引っかかって、溜め息が上がる。
 葉月は天を仰いだ。
 空にはまた長い雲が縞模様に並んでいる。
 気を取り直してまた跳びはじめる。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、」
 いいところでまた低学年の女の子が引っかかってしまい、面白くなくなってきた。

「缶蹴りしようよ」
 またリーダー格の関口優美が言い出して、缶蹴りを始めることになる。
 ジャンケンで、卓斗が鬼に決定した。
 葉月はやったと思った。
 葉月につっかかってくるのは葉月が好きだからなのだが、葉月は卓斗の気持ちに全く気付いていない。いや、当の卓斗も気付いていないのかもしれない。
 絶対に蹴って、ずっと鬼にしてやるんだから。

 葉月にはこの時に使おうと先週誰もいない時に目をつけていた狭い洞窟があった。公園の裏手の林の中にあり、体を寝せた状態でしか身を忍ばせるスペースはないが、公園の鬼の動きを見通せる絶好の位置なのだ。鬼が公園の向こうの駐車場やら自販機に遠征したら、一挙に飛び出して缶を狙えるはずだ。もっとも最初にこちらに近づいてこられたら身動きは取れないし、洞窟といっても奥行きはないから、じっと見つめたら葉月の顔や洋服がばれる怖れはあるのだが。
 
 葉月は予定通り小さい洞窟に、その体を滑り込ませた。
 鬼の卓斗はまだ缶のところでうずくまって数を数えているようだ。

 しかし、予定と違うことをひとつ発見した。

 洞窟の背面である大きい石の上が、まるで蓋がずれたように少し開いていたのだ。
 実際、それは石室の巨大な石蓋が夜明けの地震でずれたのだ。
 石蓋自体の厚みがかなりあったので、葉月は隙間から中を覗き込んだ。
 しかし、暗くてよくわからない。
 ただ、この石の中に隠れれば、鬼の卓斗からはまず見つからないだろう。
 よし、しばらく中に入って、後から缶を蹴りに行くのが安全だ。
 葉月は石室の中に潜り込んだ。

 しばらく石蓋の隙間に頭を出していたが、洞窟の入り口より高いので、公園は見通せずつまらない。

 葉月は石室の中で膝を抱えるようにして座った。
 石蓋の明かりだけが頼りだが、その明かりも洞窟の影からの明かりだから薄暗い。 
 カビ臭い匂いが最初は気になったが、同時に何か甘い匂いもした。
 
 しばらくじっとするうち、葉月はうとうととして夢を見た。

 かがり火が焚かれている。
 布の腰を紐で閉じただけの古代服の男が剣を持って、ダンスをしているようだ。
 いや、ダンスではない、
 剣の先には濃い緑の大蛇の大きな頭が口を開いたり、閉じたり。
 男に噛み付こうとしているのだ。
 男は剣を突き出すが、次の瞬間、大蛇の頭が隣にもうひとつ現れる。
 さらに大蛇の頭がもうひとつ。
 みっつ頭の大蛇だ。
 もうだめだ。
 男は大蛇に食べられるしかない。
 目をつぶりたいが、つぶれない。
 男が振り向いて、こちらに逃げようとする。
 逃げ出すふがいなさと、大蛇の恐怖に引き攣った男の目が見えた。
 た、卓斗だ!
 男の顔は卓斗だ。
 涙があふれた。
 卓斗の体は大蛇の口にはさまれてしまった。
 バカ!
 最初から逃げればいいのよ!
 戦って勝てばなんだっていうの。
 葉月は走って逃げ出した。
 大きな屋敷の中に入ったが、みっつ頭の大蛇は中まで入って来た。
 もうだめだ。
 今度は私が食べられるしかない。
 そう思った時、不思議なことが起きた。
 大蛇のみっつの頭同士が戦いを始めたのだ。
 怖かったけど、大蛇の頭の下を駆け抜けて、山を走った。
 やがて、海が見えた。
 潮騒の音がした。
 
 そこで葉月は夢から、本格的な眠りに落ちてしまった。


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夜遅く、決して恋のせいじゃないと思うけど、本当の熱が出てきた。

最初のうちは、恋の病きたなとかはしゃいでいた。

でも、それから吐き気もひどくなってきて、眠れない。

ナースコールしてクリーンルームの看護士さんから吐き気止めをもらう。

さっきはあんなにはしゃいだのに、もう落ち込んできた。

やっぱり私は重い病人なんだ。

デートなんて無理かもしれない。

それにもうすぐ髪の毛も全部抜けちゃうからバンダナかなんかしなきゃならない。

そういえば、顔もむくんできている。

クリーンルームを出る頃はもっとひどいだろう。

今よりひどい顔でヒロキさんに初めて会うなんて、いやだ。


メールのヒロキさんの笑顔を見ながら、涙があふれてくる。

きっとヒロキさん、優しいから気にしないでいいよって、言ってくれるかもしれないけど。

絶対、私のこと、嫌いにならないでくれるかな?



それに私はずっと生きられるのかな?


ヒロキさんに叱られるけど、そのことが気になる。


深夜だったけど、私はサトミにメールした。

《ヒロキさんとのデート、あきらめようかな?》


速攻で返事が来た。

《何よ、もう弱気になって。

ヒロキさんは、こころがタイプって言ってくれたんだから心配ないよ》


《だって、退院の頃、私、髪の毛も全部抜けて、

顔もむくんで、ひどい顔になるんだ。

嫌われるかも》

速攻で返事が来る。

《病気なら仕方ないじゃん。

相手のヒロキさんはこころが病気だってわかってるんでしょ。

問題ないよ》

私は一瞬迷ったけど、正直に病名をメールした。



《サトミ、私、白血病なんだ。


何度も入院しても、助からないかもしれない》


それまで、速攻で来てた返事の間隔があいた。


私は沈黙した携帯に不安になってくる。

病名隠してたの怒ったかな。


じっと眺めてると、メールが来た。

《こころ、水クサイじゃない。でも告白してくれてありがと。

あんたとは親友だから、これからも応援するからね!

私の血でよければいくらでもあげるよ!》


《ありがと、サトミ、嬉しいよ》


《ヒロキさんはこころの病名、知ってるの?》


《うん、私が弱音を吐くと、叱って、励ましてくれるの》


すると、今度は電話の着信だ。

「あ、サトミ、ありがと」

「うん、ヒロキさんて、めちゃくちゃいい男だねえ。

こころを叱って、励ましてくれてるのか。

安心したよ。

そいつなら私の可愛いこころを嫁にやってもかまわんぞ!」

私はサトミのおやじ口調に噴き出した。

「変なの」

「ちょっと、パソコンで調べてるけど、白血病って言っても、今は治るひとの方が多いじゃない。

こころも絶対に大丈夫だよ」

「ありがと」

「たまには今みたいに不安になるかもしんないけど、

こころには、私もカオリも、誰よりヒロキさんがついてるんだから、

いい?病は気からだよ、

治るって信じて頑張るんだよ!

また、あきらめるとか言うなら、私がこころの体に入れ替わって

ヒロキさんに抱擁されまくってきてあげるから」

「あ、あのね、それでも親友ですかあ」

私が笑うと、サトミも笑ってる。

「あはは、元気が出てきたみたいじゃん。

例のセンセの『愛は勝つ』は聞いてるの?」

「あ、今、聴くよ。

サトミ、ありがと、ほんとにありがと」

こころは「愛は勝つ」を聴きながら、また勇気が湧いてくるのを感じた。


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こころはヒロキさんにメールした後、心配になってきた。

タイプって言われたことは好きだと言われたと受け取っていいのだろうか?

自分のタイプって言葉をヒロキさんも好きと言われたと受け取ってるのだろうか?

それとも、はっきり好きなのか確かめた方がいいのか?


サトミにメールで相談すると、

《悩む必要なし。

嫌いだったらタイプって言わないでしょが。

好きだからタイプと言ったに決まってるよ(ヤッタね!)

次回からは毎回、「好きっとハートマークつけて送れ。

しかし、キミはつまらないところに悩むな。

これだから女子のみ高校はこわいよ》


私は噴き出した。

自分だって女子のみ高校の同級生じゃない。

でもサトミのメールはいつも楽天的でホッとする。


続いて、カオリにメールすると、

《こころちゃん、すごすぎ!

クリーンルームて一番大変な時なんでしょ?

それなのに恋に盛り上がるなんて(爆)!

どうしたらそんなに積極的になれるか教えてよ!

病気を倒して、恋にがんばれ!》

ありがとう、カオリ。


ヒロキさんからまたメールが来た。

《そんなふうに言ってもらえて嬉しいよ。

クリーンルームを出たら、第一段階は退院て言ってたよね。

こころさんが退院したら、

一緒にどこか行こうよ!

どこか行きたいところある?》


えっ、もう胸がドキドキで大変だよ。

どうしよう?

どう答えればいいのか、サトミに相談しよう。

私は、あれこれ場所をあげて、こういうところは最初のデートの場所として、どうなんだろうとメールで聞く。

《おぬしら、進展が速いな。

デートの場所ねえ。

遊園地いいね、と言いたいところだけど、病人なんだから過激な乗り物はまずいだろ。

映画はだめだめ、ずっと黙ってるでしょ。

それに、映画の人物と較べたら負けるでしょ。

だから図書館とか美術館じゃ喋れないだろ。

まずは喋って理解を深めなきゃ(ウケ売りだけど)

女同士なら買い物でもいいけどね。

無難に、海とか山とか言ったらどう?

散歩すれば、いっぱい喋るだろ》


文を読んで、こころはうなづいた。

それがいい、よし海だ!


《わあい、お誘いありがとぅです!


そうですね、ヒロキさんといっぱい喋りたいから、

まだ海水浴には早いけど、どうせ泳げないようだし、

海辺をお散歩したいな!

どうですか?》



《わかった、海辺をお散歩、楽しみにしてる。

詳しいことはこころさんの退院が決まったらね》


ヒロキさんの返事に、いよいよドキドキしてくるこころだった。

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クリーンルーム3日目。

薬の副作用のせいで、お腹がすいてばかりいる。

しかし、アルミホイルに包まれた食事は、生もの抜き、発酵もの抜きで、熱しすぎで、控えめに言ってもすごくまずい。

吐き気で食べられないのも辛かったが、お腹がすいてるのにまともなものが食べられないというのも辛いのだと初めて知った。


何気なく頭をかいたら、前から少しずつ抜け始めた髪の毛がまとまって十数本抜けた。

薬の副作用で髪も抜けるとは聞いてたのにショックだ。

薬の影響がなくなればまた生えてくるのだから、心配ないと言われたのだけど、平気でいられるわけもない。

私は急にヒロキさんに、自分の顔のベストショットをメールしたくなった。

ヒロキさんに本当の私を覚えておいてほしくなったのだ。

こころはビニール袋に入った携帯のフォルダからベストショットを呼び出して、メール添付を選ぶ。

そして文面を打った。

《ジャーン、私の顔はこんなんです!

美人じゃないけど、

恥ずかしいけど、

よかったら覚えて下さい!

ヒロキさんはどんな顔ですか》


2時間近くしてヒロキから返事がきた。

《写メ、ありがとうです!

感想をひとことで言うと、



サー!


可愛いよ、こころちゃん!

思った通りの雰囲気だな!

僕のタイプかも(笑)》


タ・イ・プ!


私が?

こころは急にポーッとなった。

ヒロキさんにタイプって言われた!

夢じゃないよね!


《僕は写真あんまり撮らないし、笑顔のがなくて、困った。

パソコンの保存をひっくり返して見つけたのが、これ。

元気いっぱいで笑ってていいだろ。

撮ったのは、だいぶ古い、たぶん高1か中3だな。

こんなんで許してね》

そこにはたぶんサッカーのゴールネットの脇で笑ってるヒロキさんの顔があった。



髪が風になびいて、眉はそんなに細くないけど、目が涼しくて、白い八重歯が覗いてる。

けっこう、かっこいいよ!


私はさらにポーッとなった。

そして、自分の頬を両手ではさんで、うわごとのようにつぶやいてしまう。

「この熱は病気じゃないよ。


ヤバいよ!


佐藤先生でも治せない、恋の病がたった今、急激に重くなりつつありますよ!

どうしてくれるんですか?


シ・ア・ワ・セ!」


きゃっ!

私はひとり顔を隠して、ふと廊下側を振り返って誰もいないことにホッとした。

そしてメールを返した。

《ヒロキさん!

素敵ですぅ!

ヒロキさんもかなぁり、











 》


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入院して1週間が過ぎた。

吐き気のピークは越えたかも知れない。

午前、部屋にやって来た佐藤先生からクリーンルームの説明をされた。


「今のこころちゃんの状態は、薬が効いて、白血球がぐんと減ってきてるんだ。わかる?」

「ええ、なんとなく」

「普通ならなんでもない細菌やウィルスでも、今のこころちゃんには恐ろしい猛毒だ」

「はい」

「そこで、元気な白血球が元の数に戻るまで、悪い細菌なんかが入り込めない特別きれいな部屋に移ってもらう」

「わかりました」


「もうひとつ注意がある。薬の影響で、血小板もぐんと減っている。

血小板はどういう役目をしてるか知ってるかな?」

「ちょっと」


「うん、血を固めて、止めるんだ。

今のこころちゃんは、それが難しくなって、口内炎やアザになりやすいし、ちょっとぶっても大怪我と同じぐらい大変になる。

だから怪我をしないように、いつもよりしとやかにしないとだめだよ」

「ふ、そんなんできないよ。私、おっちょこちょいだし」

「でも、静かにするのが治療の一部なんだよ、がんばれ!」

「はあい」

「サー」

佐藤先生はガッツポーズをして、私を笑わせた。


クリーンルームはすでに翔子ちゃんが三日前から入っている。

いよいよこころもベッドのまま、クリーンルームの病棟に運ばれ、中に入った。

途中、翔子ちゃんの部屋らしい個室を通りすぎたが、カーテンで中は見えなかった。

そして私のクリーンルーム、トイレもある完全個室だ。


中は窓際がベッドで、廊下側半分は透明の厚いカーテンで仕切られている。

いつもよりすごい厳重なマスクをして、目だけだしたアカネさんが注意する。

「マニュアルは読んだと思うけど、私たちも普通は中には入れないから、なんでも自分でしてね」

「はい、わかりました」

「これはとっても重要だから忘れないで。

トイレとか立って頭がふらふらしたら、そっと体をまるめてうずくまってね。

無理して頑張って、倒れて脳内出血したら、それはかなり危険だから」

いつも優しいアカネさんに厳しく注意されて、さすがにドキッとした。

親ともガラス越しのインターホンでしか話せない。

クリーンルームにあるのは孤独な闘いなのだ。


なんて思って見渡すと、嬉しい発見。

テレビとCDラジカセ、DVDが病室に備え付けられている。

リモコンはビニールの袋入りだ。

携帯も絶対、取り出してはいけないと注意され、ビニール袋に入れて持ち込みできた。

厚いビニールの上からだと思うボタンがうまく押せなくて、大変な苦労をしてメールを打った。

《クリーンルーム入ったよ》

と簡単なメールを送ると、サトミから

《え、掃除してんの?》とボケメール。

普通はクリーンルームなんて知らないから無理ないか。

《大変そうね、応援してるからね、ファイト!》とカオリはいつも優しい。

熱は少しあったが、私はテレビを眺めたり、CDを聞いたりしてすごした。


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5海辺のデート-1 へ 

 
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早速、ヒロキさんにもメールで知らせてあげようとして、こころは考え込んだ。

なにしろ、愛の歌だ。

まだ好きとも告れない相手に、愛の歌を送るのって変じゃない?

ここは聞いてみるか。

まずサトミとカオリにメールする。

《実はさ、気になる男子がいるんだわ。

病気のことを応援し合ってるの》


《ショーゲキきた

おぬし病気の身でやるな!

どういうひと?》とサトミ。

《よかったね!

こころちゃんに先を越されたよ》とカオリ。


《大学2年生でヒロキさんて言って、向こうもそろそろ入院かな。

ちょっと気になるけど、まだ告るほどではないんだけど。

だけど好きかな。

たぶんていうか、もう、きっと好き。

その彼に病院の先生からもらった「愛は勝つ」って曲を紹介していいかな?》


サトミからの返事。

《小娘よ、何をためらうのだ。

それ、少し変なタイトルだけどさ、

あんたみたいに、きちんと告れない人には

気持ちを伝える絶好のチャンスだよ。

迷うひまあったら、メルすれ》


《素敵じゃない、ここはアプローチだよ。

いいなあ、それで自作の詩とか交換したいな。

そしてさりげなく、二人のことを詩にしてね、

その気にさせるんだよ。

以上、私の楽観的作戦でした》

二人の親友に励まされて、私はヒロキさんにメールした。


《担当の先生、私に病気に勝ってサーてガッツポーズしようて言った佐藤先生がね、私にCDくれたの。

昔、流行ったらしいんだけど

KANの、愛は勝つ。

でね、どんなに病気が辛くても負けるなって応援されてるみたいな曲で、

すごく勇気がわいてくる。

ぜひヒロキさんにも聞かせたいな》


1時間ほどして返事が来た。

《こころさん、メールありがと!

ふ、面白い先生だね。

サー・ガッツと呼んであげたい(笑)

「愛は勝つ」、ノートパソコンで検索したら、

動画サイトにあって、曲を聴いたよ!

とてもいい曲だね、励まされたよ。

ありがとう!》

こころは嬉しくなってすぐメールを打つ。

《あ、聴いたの、よかった。

じゃあ、私と同時に聞いてたかもですよ

気に入ってもらえてよかったです!》

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4治療-7 へ 

 
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お昼にちょっとした出来事があった。

私のベッドから見て一番奥、窓際の小学2年生の女の子優奈ちゃんが午前の診察で許可が出て退院したのだ。

もちろん、喜ぶべきことなんだけど、ぽつんとベッドが空いた。

すると、今までは私に何かと生意気な口を聞いてきた翔子ちゃんが、突然、自分のベッドで泣き出したのだ。

退院した子はいつも寝てたから、こころは殆ど話もしなかったのだが、どうしたのかと翔子ちゃんに聞いてみた。

「だって優奈ちゃん、腸閉塞の手術して、一ヶ月ぐらいで退院だよ。

そしてもう二度と入院ないんだよ。

私なんか、半年たっても、ちょっと退院しても、また次の入院だよ。

不公平だよ」

生意気な口を聞いても、やっぱり小学生なんだ。

翔子ちゃんは私と同じ白血病らしい。

看護士のアカネさんが何かあったら、応援してあげて、私たちにも知らせてねと言っていた。

私は翔子ちゃんのベッドに行って背中を撫でてあげた。

「翔子ちゃんだって順調に治ってるでしょ」

「けどさ」

「けどじゃないの。病気の治りは人によって違うんだから、自分の病気を少しずつ治せばいいんだよ」

「……うん」

「大体ね、隣の人が退院したぐらいで、先輩が泣いてたら、後輩の私が泣けないよ」

そう言うと、翔子ちゃんはフフッと息をした。

「そうだよね、よし、うそ泣き終了」

そう言って翔子ちゃんは涙を拭って笑顔を見せた。

おいおい、うそ泣きじゃないだろ。

私は笑いをこらえた。

でも本当は翔子ちゃんが隣にいて泣いてなかったら、私がこっそり膝を抱えて泣きそうだったかもしれない。


翔子ちゃんが院内学級に出かけた後、こころは佐藤先生に診察室に呼ばれた。

「なんですか?」

「調子はどうだい?」

「午前にも聞かれたよ」

「ま、調子はどうは先生のこんにちはだよ」

ここで私は翔子ちゃんのことを言わなきゃと気付いた。

「そうだ、窓際の優奈ちゃんが退院したでしょ、

それで翔子ちゃんが泣き出しちゃって、慰めたけど、困ったよ」

「へえ、そうだったんだ。

こころちゃんがお姉さんしてくれたのか、ありがとう」

佐藤先生はまぶしそうに私を見て、私は照れた。

「別に何もしてないけどね」

「呼び出したのは他でもない、そんな、素敵なこころちゃんに俺からプレゼント」

佐藤先生はケースに入ったCDを差し出した。

ジャケットを読んだ私は、少し噴き出しそうなタイトルだと思った。


「愛は勝つ?」

「そう、KANの、愛は勝つ。

俺がね、こころちゃんぐらいの歳の頃に流行った歌でさ、

病気と闘うような歌詞にも聞こえて、受け持ちの皆から好評なんだよ。

よかったら聞いてくれ」

「ありがとう」

早速、病室でCDラジカセにかけると、辛い時を励ましてくれる歌で、病気の私を応援してくれるようにも聞こえて、すごくよかった。

入院のテーマソングになりそう。

ガッツポーズの佐藤先生らしいや。

嬉しくて泣けてきた。

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4治療-6 へ 

 
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その後、思いがけないと言うと言いすぎだけど、お父さんが見舞いに来てくれた。

「どうだ?」

「うん、なんとか」

「この前も顔出したんだけど、ちょうどお前がなんかの検査で、父さんも仕事呼び戻されて会えなかったんだ」

「うん、ありがとう」

「ちょっと手ごわい病気らしいけど、母さんも父さんも応援するし、お祖母ちゃんも応援するし、絶対大丈夫だから安心して、病気を治せよ」

「うん」

「あ、溶けるところだった」

お父さんはカバンの中からカップのアイスクリームを出してくれた。

「食べれるか?」

「ありがとう、ちょうどよかった」

こころは早速アイスクリームを食べ出した。

「うん、思ったより元気そうで、安心したよ」

「なんか父さんの顔、じっと見るの久しぶり」

「うん。でも、小さい頃は毎日何時間もこころの顔を見てたんだぞ」

「ふうん、そうなんだ」

そうなんだ、最近は口もあまり聞いてなかったけど、私はお父さんに愛されて育ったんだなあと感じた。

お父さんのためにも病気を治して親孝行しなきゃなって気がしてくる。

アイスクリームが少ししょっぱくなった。

私は急いでアイスクリームをたいらげた。

「ありがとう、美味しかった」

「なんか欲しいものあったら、電話しなさい」

「うん、電話する」

「じゃあ、そろそろ帰るか」

「うん」

お父さんは私の頭を撫でると微笑んで、くるりと背中を見せた。

「あ、お父さん」

私が言うと、お父さんはまた振り向いた。

「うん?」

「お見舞い、ありがと」

「ああ、じゃあまたな」

お父さんは手を振って、病室から出て行った。

なんかとても嬉しかった。


こころはヒロキにメールした。

《こんばんわ、ヒロキさん!

夕食はまた吐き気がして、あんまり食べられなかったけど、

そしたら父さんが来て、アイスクリームもらったの。

美味しかった!

ヒロキさんは食べ物で何が好きですか?》

1時間ほどして返事が来ると、翔子ちゃんに気付かれないように毛布の中で携帯を開いた。

《こんばんは。

僕の好きな食べ物は平凡です。

ハンバーグとか、カレーが好きですよ。

アイスクリームとか甘いお菓子はあまり食べないな。

お父さん、来てくれてよかったね!》


私はすぐ返事をする。

《お菓子はあまり食べないのかあ。

大人って感じですね。

お父さんて、最近、あまり話したりしなかったけど、

私のこと小さい時、毎日ずっと見てたって。

なんか嬉しくなっちゃった。

お父さんに心配かけないためにも頑張ります》

ヒロキさんからの返事は消灯後に来た。

《そうだよ、こころさんはお父さんに愛されてるんだよ。

こころさんの頑張る気持ちがとても嬉しかった。

僕も親のためにも頑張るよ!

こころさん、おやすみ!》

私はおやすみとつぶやいて、想像の中でヒロキさんとおやすみのキスをした。

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 起

 弓道部の練習を終えた笹木良樹は辻野広也と高校を出た。
 弓袋に入れた弓を背負いつつ二人は歩道を並んで歩いてゆく。
 明日は県下の高校の大会なのである。
 良樹が広也に言う。
「今日の練習よかったじゃん、明日はガンバレよな」
「ヨシキだって、出るじゃんか」
「俺は失(しつ)、こくかもしれないし」
「ああ、たまに矢を落とすな、お前、ビビリなのか」
「……実はさ」
 良樹の改まった言い方に、広也は聞き耳を立てた。
「うん?」
「俺、集中深まると、的が赤く見えんだよ」
「へえー、そうなのかよ」
「うん、的が赤い丸に見えて、それでな、誰かの矢がそこにすっと刺さるのが見える」
「何だ、それ?」
「そうすると、もう間に合わねえと思って、矢を落としたりするんだよ」
「そうなのか、変わってるな」
「うん、あ、秘密にしといてくれよ」
「いいけど、なんだろな、その赤い的と矢」
「さっぱり、わかんないんだよな」
「あ、じゃ、ここで、俺、買い物するところあんだ」
「じゃ、また明日」
 良樹は広也と商店街の途中で別れた。

 夕闇がひろがりかけている商店街はビニールの軒を思い思いに突き出していて、頭より高い弓の上部が当たりそうになることはしばしばだ。
 そのたびに良樹は弓を傾げて避ける。
 目の前の肉屋からはうまそうな揚げ物の音と匂いが漂ってくる。
 良樹は弓を傾げて、その弓を避けるためにさらに自分の頭も傾げた。
 その瞬間、顎に強烈なパンチを喰らって、良樹は吹っ飛んだ。
 肉屋の主人がびっくりして声を上げた。
 高校生の顎にサイドミラーで強烈なパンチを見舞ってしまった大型ワゴンも急ブレーキで止まった。
 救急車が到着した時、仰向けの高校生は目を閉じ、意識を失っているようにも見えたが、かすかに唇が動いていた。
 救急隊員が耳を近づけると、高校生は呟いていた。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。



 一

 杉の斜面の下をゆるやかな上がり勾配の道が続いている。
 いや、道といっても、轍(わだち)がひっかいて地肌の露わな面より、雑草が添い寝している面が多く、人が通るより、獣の類の通るのが多そうな道である。

 旅の僧は、背には琵琶を、その上に笠を背負い、杖をついて歩いてゆく。
 ふと汗を拭って、空を仰ぐと薄い青にいわしが雲になって十四、五匹。
 頭を戻すと、しばらく道の傾斜がゆるやかな脇に家が目に入った。
 家と呼べば褒めすぎか、近づくと炭焼きの小屋のよう。
 僧は喉が少し渇いていたから、水を所望して休みたいと思い立つ。
 聞き耳を立てて足を緩めると、なにやら木槌の叩く音がふたつ。
 しかし、木槌のふたつの後が、しんと静まり返ったのが気にかかる。
 僧のかすかな足音を聞きつけ、気配を絶ったようにも思われる。
 そうなると水の所望は避けた方がよい気が起きてきた。
 明かり取りの窓は小さいのがひとつあるきり、三間ゆくともう向こうの端で、薪を無造作に積んである。
 その先にやはり炭焼きのかまどがあった。
 さらに行くと、道は大きく山肌に向かい、くねったかと思うと上がり勾配が険しくなった。勾配だけならまだしも、湧き水が道を濡らして滑りやすいこと極まりない。
 僧は気をつけ足を踏ん張って道を登って行った。

 難所を過ぎた僧は、道の谷側を身を乗り出して、今来た道を振り返った。
 小さく屋根の端が見える、さっきの木槌の家が気にかかる。
 あれは、落人の家かもしれない。
 平家が壇ノ浦に敗れて三年が経つ。しかし、今も山陽道や南海道、この西海道の山あいにはまだまだ平家の残党がひっそりと身を隠しているのだ。
 僧は各地をまわり平家に限らず、その土地に無念を残して没した霊を供養しながら、余興に琵琶を奏でて平家の盛衰を描いた治承物語を弾き聞かせるのを得意にしていた。
 この弾き語りは、やがて盲目の琵琶法師の生業として隆盛を見るのだが……。
 その、落人たちの方でも、琵琶僧の慰みを喜んで迎えることも多々あったのである。
 どうする?戻ってみようか?
 いや、急に息を潜めたのは殺気かもしれぬ。
 まさか僧形を、落人狩りと勘違いしていきなり斬りつけはすまいが。
 そう考えるうち、
「ああっ」
 僧は、足を滑らせ、谷に転げ落ちた。

 二

 挫いた足を引きずって、僧はようやく木槌の家の戸口に立った。
 僧は息を吸い、
「お頼みします、足ば挫いて難儀しとる坊主でございます」と口上する。
 そう言うと、中で立ち上がる音。
「おう、今、開けてやっと」
 戸板が引かれて、上背のある男があらわれた。
 歳は壮年と見え、僧より上に余る歳は五つから十と思える。
 口辺は愛想に開いておったが、眼はこちらを見定めようというかの如く冷たい。

「かたじけのうございます。難儀しとりますで、ひと休みさせてください」
「大方、この道の先で踏み外したか?」
「その通りで、いやはや参りました」
「まず、そこに腰を下ろしなされ」
 殆ど地べたと同じ高さの板の間に藁で編んだ丸い敷物があり、僧はそこに崩れるように腰を落とした。
 すると主の男は僧の足首を少し動かしてみる。
「うっ」と僧は痛がる。
「骨は折れとらんようじゃ」
 主の男は「かえ」と、奥に、といっても振り返ればすぐに見渡せる奥だが、声をかけた。
 そこには藁を編んでたとみえる、後ろで束ねた頭に布を被った女が「あい」と答えて、こちらに歩み寄る。
「坊様の足ば手当てしてくれ」
「あいよ」
 僧のそばに寄ると、布の下の女の顔がおおかた覗けた。
 化粧など心がけぬ様子の顔はうっすらと泥や炭をいくつも塗った肌で、瞳だけは正面から見えぬが、それでも形のよい頬、すっと通った鼻、品よく小さい唇が素顔の美しさを包み隠さず明らかにする。
 これほどの器量ならば、都の酒場に働きに出てもすぐに鈴なりの人気となり、大店の旦那の手がつこう。それほどの美しさである。
 女の黒い睫毛が自分の足に向かい、手が腫れの大きさを確かめるように足の甲を覆うと、僧の頬に薄く赤みがさした。
 女は「薬草を取って参り」と後の方は濁して出て行った。
 僧は、やはりと内心でうなづいた。
 思わず、参りますなどと、この地の卑しい女が使うはずもない言葉を言いかけて、慌てて言葉を切ったものの、これで高貴な素性が知れた。
 おそらくは平家の姫かもしれぬ。
 
「御坊、琵琶を弾かれるか?」
 主の男の問いに虚をつかれて僧は慌て気味に、
「はい、激しく転げて」
 と言いながら、背負った笠と琵琶を手前にまわした。
「糸巻きは折れましたが、幸いこのように笠が覆ってましたので、柱は折れませなんだ。
 すぐ修理できますから、よろしければ手当てのお礼に物語などお聞かせしましょう」
「うむ、それは楽しみじゃ。
 その足の腫れ方では、歩くのはあきらめ、今宵は、ここに泊まるがよかろう。
 見ての通りのあばら小屋だが、歩くよりは怪我によいはず」
 主の男も、もはや身分を隠す必要もないと判じたのであろう、土地の言葉ではなく、侍言葉で言った。
 しかし、落人であろうことを僧から問うことはしない。ましてや、名を聞くなどの無礼について僧は堅く自らを律していた。
「そう言っていただけると助かります」
「但し、女子に手出しはご遠慮願おうか」
 そう言う主の男の口は笑うが目は少しも笑ってないのが怖い。
「いえ、僧形なればそのご心配には及びません」

 まもなく女は薬草であろう葉を取って戻った。
「かえ、この坊様を、今晩、お泊めすることにした。
 馳走してやれ」
「あい、わかりました」
「恐縮でございます」
 僧が礼を言うと、男が豪快に笑った。
「なあに、その辺の鼠や蛇や蛙のゲテモノ料理、怖じけ話の種にされよ」
 僧はいささか困り顔である。
「ところで、この糸巻きほどの枝はありますか?」
「たやすいこと、すぐ出してやろう」
 主の男は柴の束から糸巻きに合う枝を見つけ出した。

 三

 僧の夕餉の心配は無用であった。
 鹿の上等の干し肉、椎茸、大根、豆どもが囲炉裏の小さな露天の風呂に浸かって、見物衆三人の顔を眺めたまま、いい気になって湯当たりしたところを、箸で刺されて食われたのである。

「近頃にない、大変なご馳走をいただきました」
 僧が箸と合掌を揃えて言うと、
「知り合いの猟師から手に入れた肉がまだ残っててよかった。
 あれがなくば、やはり蛇や蛙を捕まえに出掛けねばならんかったわ。あははは」
 と、主の男は笑った。
 すると女がちくりと、
「お坊様が肉を食べてよいのですか?」
 と、初めて、僧に伏し目がちのまま話しかけた。
 僧は手を上げて、
「あ、これは参りました。
 拙僧は郷に入らば郷に従い、蛇でも蛙でも食らいます」
 すると、主の男は豪快に笑ったが、女はつまらなそうに顔を伏せた。

 僧は琵琶を手元に引き寄せる。
「それでは、お礼に琵琶を一曲、お聞かせいたしましょう」
 僧がばちをかき降ろすと、琵琶の音が囲炉裏の周りに響き渡った。
 その音色に合わせて治承物語の一の巻を語り出す。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。

 驕れる者も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。

 猛き者もついには滅びぬ、ひとえに、風の前の、塵に同じ…。

 僧の声は琵琶の音色に重なると、絶妙の色を醸し出した。

 清盛の父、忠盛の栄誉と殿上人の妬みを描く「殿上の闇討」。
 清盛とその子ら平家一門が要職を占め、未曾有の栄華に酔う「吾身の栄花」
 平資盛一行が摂政藤原基房に辱められ、清盛が仕返しをする「殿下の乗合い」。
 俊寛、西光、藤原成親・成経らが平家打倒を談合する「鹿ケ谷」。
 密告により謀叛が露見し、清盛が西光を断罪する「西光被斬」

 目を閉じて耳を傾けていると、栄華の艶やかな色、陰謀のおどろおどろしい色、それらの光景が絵巻物のように広がる。
 いつしか、主の男も、かえと呼ばれる女も僧の物語にひたりきった。

「この辺でよろしいでしょうか」
 僧が言うと、主の男も、かえも言葉少なにうなづいて、そのまま眠りについた。
 治承物語を聞かせると、普通ならもう少し反響があるものだ。しかし、落人は決まってしんみりとなってしまうのだ。あの栄華の御殿が、今や人目を忍ぶ炭焼き小屋なのだから無理もない。
 
 四

 翌朝になると、足の腫れはひいてきたが、主の男は引き留めた。
「今、無理をしては、またすぐ挫くぞ。もうひと晩、泊まってゆくがよい」
「ご迷惑ではないですか?」
「かまわん。昨夜のそなたの琵琶の音が心に沁みたのじゃ」
 主の男ははっきりとは言わぬが、ここで初めて冷たい鎧を脱いだ目を僧に向けてきた。
 僧は安堵した。元々、引き留められずとも、もうひと晩の宿を願いたいのが本音だったのである。
「そういうことなら、喜んで今宵もお聞かせいたしましょう」 

 主とかえは炭焼きのかまどの準備に忙しく、僧は板の間に足を伸ばして琵琶の手入れをした後、笠の破れたところを修理して戸口の外にかけて干した。

 昼下がり、うとうととしていると、かすかにに馬の蹄の音が響いてきた。
 何事かと体を起こすと、いよいよ蹄の音は大きくなり、
「ろう、ろう、ろう」
 馬上の者が叫んで、蹄の音と通り過ぎた。

 僧が驚いたのは、まもなく主の男とかえが血相を変えて中に飛び込んで来たことだ。
「何事ですか?」
 尋ねる僧を、主の男はまた冷たく鋭い目で睨みつけた。
「落人狩りが近づいてくるんじゃ」
「落人狩り?」
 さては今ほどの馬は危急を知らせる平家の馬だったのであろう。
「よいか、もし奴らが入ってきて何を聞かれても、旅のこと以外は答えるなよ。かえ、琵琶は念を入れて隠しておけ」
「あい」

 かえは琵琶を手にすると、僧を振り向きもせず外に飛び出した。
 かえが戻ると同時に、今度は多くの馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
「たかつき殿、表の地べたに棒で何やら線が引いてあります」
 かえの言葉に、主の男は僧の胸ぐらをつかんで叫ぶ。
「舞様、縄を」
 主の男は、素早く僧を縄で後ろ手に縛りあげ、柴の中から太刀を取り出し抜いた。
「おのれ、落人狩りの犬であろう」
 僧は震え上がった。
「め、滅相もない」
「地べたの線はなんの合図だ」
「なんでもありませぬ。何気なく琵琶の糸を描いてみただけのこと」
「黙れ」
 主の男は僧を戸口の内側に立たせ、後ろから縄を持っていつでも刺し殺せるように構えた。
「舞様、いざという時はお覚悟を」
「わかっています。今まで世話をかけました。礼を言います」
「勿体ない」
 
 まもなく五、六頭であろうか、馬の蹄がさしかかり、走りを緩めた。

 主の男が僧をささやくように脅す。
「声を出すなよ」
 
 馬群はほとんど止まりそうな勢いとなり、炭焼き小屋の前を歩く騎馬の鎧と太刀が擦れる音が響き渡る。
 
 僧はどっと冷や汗をたらした。
 それは男もかえも同じであったろう。
 すると、不意に、
「どう」
 外で声が上がったかと思うと、鞭の音が響き、騎馬は走り去った。

「どうやら、勘違いしたようじゃ」
 主の男は僧の縄を解いて、頭を垂れた。
「無礼のこと、許されい」
「主殿とかえ、いえ、舞様は、平家なのですね」
「いかにも。それがしは平大納言時忠様の配下にて平高槻と申す」

 それからしばらくは落人狩りの騎馬が戻って来ぬかと心配したが、何事もなく夜を迎えた。

 五
 
 夕餉の鍋が終われば、また、琵琶の弾き語りである。

 琵琶の音が響き渡り、僧の朗々たる声が落人の心を昂ぶらせ、落ち着かせる。
 話は海に並ぶ平家の小舟の扇を那須与一が射落とす段に入った。

 矢ごろ少し遠かりければ、海へ一段ばかりうち入れたりけれども、
 
 なほ扇のあはひは七段ばかりもあるらんとこそ見えたりけれ。
 
 那須与一は青い海に黒い馬を乗り入れたが、真っ赤な扇まではまだ七段と遠いのである。

 与一は目をふさいで、思いつく限りの神を挙げ、当てることを願う。

 さらに射損じたら、会わせる顔がないので、弓を折り自害すると誓う。

 与一は目を開くと、鏑矢を取って、弓を引いて、放った。

 鏑矢は長く音を立てて飛び、扇の要の一寸ほど内側に命中し、扇は空に舞った。

 扇はしばらく虚空をひらひらと漂い、春風にはらはらともまれて、海へ散ってしまった。
 
 
 そこで、舞は声を上げて泣き崩れ、僧は思わず曲を止めた。

 男、平高槻は舞を叱りつける。
「舞様、そのように取り乱しなさいますな」
「思い起こすだに辛うございます」
 そこへ、僧が割り込んで尋ねる。
「やはり、あなた様こそ、あの舟で源氏方に手招きされた姫なのですね?」
「はい、いかにも私があの時、源氏に手招きいたしました」
「舞様、口をお閉じ下され」
「高槻殿、もはやよいではありませぬか」
 舞は僧に向いて語り始めた。

「あの扇は高倉院が厳島神社より賜った霊験あらたかな扇。
 坂東武者などに射抜ける筈がないと申されたのです。
 裏を返せば、もし扇の射抜かれることあらば、もはや平家に勝ち目はないと誰しもが考えていたのです。
 あれこそ、平家の命運をかけた扇だったのです。
 射抜かれるぐらいなら、私がこの身で受ければよかったものを。
 そう思うと悔しうてなりませぬ」
 そう言う舞の凛々しい目は涙にゆがんでしまう。

 すると僧が言った。
「拙者はあの時、判官義経様に弓を引かせてくだされと直訴したのです」
 唐突な言葉に、高槻は慌てて柴の中から再び太刀を取り出した。

「おのれ」

 高槻は僧の前に太刀の抜き身を向けたが、僧は身じろぎもしない。
「しかし、その役目は那須与一殿に奪われ、私は眺めているしかなかった。
 弓を射る代わり、私は勇気ある敵方の姫君に懸想いたしました」
 高槻も舞も言葉を返せなかった。

「戦の最中に懸想とは呆れる。坂東武者にとんだ腰抜けがいたようじゃ」
 高槻はようやく太刀を鞘に収めて放り投げた。
 僧は悪びれずに続けた。
「拙者も驚きました。
 しかし恋は平時に限るとは神も決めてないこと。
 壇ノ浦に平家が散った後も、拙者はあの時の姫の消息を尋ね、一年前には僧形となり琵琶を弾きながら、この足で姫を探し歩いて来たのです」
 僧は舞をじっと見つめた。
「今宵は我が願いの半分が叶いました。
 もう半分は、姫を我が妻となしたい」

 僧が言うと、高槻が笑い飛ばした。
「舞様がこのようにしておられるのは、平家再興のためじゃぞ。
 そなたの妻になる筈がないではないか」
 舞も言う。
「そなた様のお気持ちはありがたく思います。
 なれど、今、高槻殿が申された通り、わらわは平家再興にかけておるのです。あなたに沿うことはできかねます」
「今宵は休まれ、明日、早々に発たれるがよい」

 高槻は万一のことを考えて僧を縄にくくって、眠りについた。

 六

 翌朝、高槻は目覚めて上半身を起こし、驚いた。
 昨夜は僧をくくった筈の縄が、今は自分をくくっているからだ。
「なんじゃ」
 舞が頭を垂れて言う。
「高槻殿、悪く思わないでおくれ。
 よくよく考えて私はこの方と行くことにしました。
 あなたは平家再興とことあるごとに言われるが、仲間は減るばかり。
 本当の安徳帝さまと三種の神器を高千穂に隠したと言うけれど、その後は噂にも聞かぬではないですか」
「それは、準備も整わないうちに、おおっぴらに出来る筈がないこと」
「それに引き換え、源氏の落人狩りは三年経ても、昨日のように厳しい。
 誰かが通るたびにびくびくとする毎日。
 はたして、これで再興などと言われても、夢の寝言にしか思えませぬ」
「舞様、裏切るおつもりか?」
「握り飯をここに置きますゆえ、縄を抜けたら食べなされ。
 世話になりました。ごきげんよう」
 舞が挨拶をすると、僧が置き土産に明かした。
「高槻殿、地べたの線は、この家は探索無用の合図です」

 舞は僧に手を引かれ嬉々として炭焼き小屋から出て行き、平高槻は地団駄を踏んだ。


 結

 救急病院で意識を戻した良樹は医師に訴えた。
「こんなリアルな夢ってあり得ないですよね?
 自分が琵琶法師で、平家の落人を訪ねて、そこで平家の姫と駆け落ちする夢」
 医師は落ち着いて答える。
「大丈夫、頭はぶったかもしれないけど、精密検査した結果、異常の兆候はどこにもないからね。どんなに昔の変わった光景だとしても、それはただの夢だよ」
 良樹は納得いかなかったが、この救急救命医に訴えても無駄だと悟った。

 翌日の大会に、良樹はちゃんと出場した。
 矢を落としてチームの足を引っ張ったが、赤い的が見えたからではない。

 集中したら、的の隣に顎のふっくらした平家のお姫様の顔が浮かんだのだ。   了


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翌日、私は朝から気持ち悪かった。

朝食を食べた後、我慢できなくなり、トイレに駆け込んでもどした。

看護士のリカさんが「吐きそうだったらビニール袋にしなさい」て言ってくれた。

たしかに点滴スタンド持って行って、もどすのは大変だった。

午前はカオリがくれたコミック読んですごし、昼食。

それからヒロキさんに報告する。

《今日は朝からもどしてしまいました。

お昼も少しだけで残しました。

でもこころの心は負けてないから安心して下さい

ヒロキさんは体調どうですか?》



ヒロキさんの返事は大体1時間くらいしてからだ。

《ああ、こころさんは吐き気がするんだね。

薬の副作用なら仕方ないな。

でも心は負けてないのか!

強いこころさんに感動だ。

僕は変わりないよ。

よくならないが、悪くもならない。

俺も頑張るよ!》

私がヒロキさんのメールににやにやしていると、後ろから翔子ちゃんの声がした。

「やっぱ、男いるんだ」

私はビックリして、急いで携帯を閉じた。

「男じゃないの」

そう言いながら、私は顔が熱いように感じる。

「じゃあ、何?」

「それは、と、友達だよ」

「友達だって、男は間違いないじゃない」

「ったく、小学生みたいなこと言うな」

「だって小学生だもんね」

「院内学級はどうしたの?

さぼったの?」

「今日は土曜日、休みだよ」

「あ、そうか、土曜だ」


こころは翔子ちゃんに押されまくりだ。

「で、その男とはキスとかしたの?」

「そういうんじゃないの、友達なの」

翔子ちゃんは勝ち誇った顔だ。

「お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ、リカさん、呼んでこうか」

「やめてよ、吐き気するんだから」

私は毛布をかぶって逃げた。

翔子ちゃんも向こうで「素直じゃないから喋りすぎた」と文句を言って静かになった。

私はどうして赤くなったのかと考えてみた。

きっと、ヒロキさんへの気持ちが恋の気持ちになることを、どこかで期待してるんじゃないかな。

ヒロキさんに対する自分の気持ちは、仲間に対するものから、恋へと歩き出しているのかもしれない。

そう気付くと、また顔が熱くなるこころだった。

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病室に戻ったこころは、ちょうど配膳された昼食より先に、ヒロキにメールする。


《今日は午前からルンバをしました。

前回痛くて弱音を吐いた検査のパワーアップ版?みたいな。

でも今回は頑張って耐えましたよ!

えらいでしょ?

これからも、私は、辛くても、頑張ります!

ヒロキさんがついていてくれるから、絶対、頑張るょ!!!》


食事を終えて、点滴を打たれながらリカさんに聞く。

「リカさん、いくつなの?」

「24歳だよ」

「彼氏はいるの?」

「今ね、ちょうど切らしてるの」

こころは笑った。

「切らしてるって、母さんも調味料でよく言うよ」

「そう、近いかもね」

リカさんも笑う。

「リカさんの趣味って何?」

「うん、車でドライブすることかな。

海岸線とかね、バーと飛ばすと気分いいよ」

「へえ、海をドライブか。

私も免許取りたいな」

「きっと取れるよ。

そのためにもまず、病気治して、学校卒業しないとね」

「うん、頑張る」

リカさんと笑顔でうなづきあった。


点滴をされたままうとうとしてると、携帯がブルッて起こされた。

こころは慌ててメールを開いた。

《嬉しいな、

えらいよ、こころさん!

こころさんが頑張ってると思うと、僕も元気が溢れてくるよ!

元気をありがとう!

じゃあまた、ガンバレよ!》

ヒロキさんのメールに、私は声を出して「うん、頑張る」と答えてしまい、自分で笑った。


夕方、思いがけず、サトミとカオリが制服のまま、お見舞いに来てくれた。

「なんだ、来てくれたの!」

「なんだじゃないわよ。

カオリが寂しがって泣いてるに違いないって言うから来てやったのに、

ありがたみのない言い方ね」

サトミが元気につっかかってくるのが嬉しい。

「ごめん、でも今朝のメール、素っ気なかったから」

「お見舞い行くね、なんて言うとサプライズがないでしょ」

「うん、ありがとう」

喜ぶこころにサトミはキャンディーの箱を、カオリはコミックを差し出す。

「カオリがね、入院中はこういうのが嬉しいんだって言うからさ」

「うん、嬉しい、退屈してきたところなんだ。

カオリ、さすが病気の先輩ね、ありがとう」

「喜んでくれてよかったわ」

「で、どういう病気なの?」

正直に話してもよかったけど、話すことで過剰に心配されるのも困る。

「うん、お医者さんじゃないからうまく説明できないけど、

血液とか、リンパとかのバランスが崩れる病気。

だからニ、三週間入院なんだって」

「ふうん、ニ、三週間か、大変だね」とサトミ。

「じゃあ、私がノート貸してあげるよ」とカオリ。

「うん、じゃあ借りちゃおうかな」

二人とは、看護士のアカネさんが来るまで、三十分くらい話した。


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翌日からいよいよ、投薬が始まった。

朝食の後に、看護士のリカさんから、錠剤が何個も渡される。

「こんなに?

私、今まで薬飲んだ記憶あまりないのに?」

「そうなんだ、一挙にトップになれるわよ」

リカさんは、サトミみたいな言い方で私を笑わせる。

「なんの薬?」

「そうね、胃が荒れないようにとか、

点滴で腎臓が荒れないようにとか、

このプレドニンは悪い細胞をやっつける薬、

苦いけど、副作用でしばらくして食欲増進するよ。

メインの薬は点滴で3本でてるから」

錠剤を飲むと、今度は点滴を左の腕から入れられた。


こころは隣のベッドを振り向く。

「翔子ちゃんもこんなにした?」

翔子ちゃんはマンガから顔を上げてピースサイン。

「もちろん」

「それで副作用とかは?」

「第一段階はあまりなかったよ。

ちよっと吐き気と、顔がむくんできたぐらいかな」

「じゃあ楽勝だね」

「それは人によって違うんだって。

こころお姉ちゃんは少し歳いってるからな」

クッ、このコ、可愛くないよ。

そう思ってどう言い返そうかと考えてたら、佐藤先生がやって来た。

「どうだい?

昨夜は眠れたかい?」

「ええ、ぐっすり」

ホントは消灯の後、また少し泣きそうになった。

でも、ヒロキさんに、絶対に病気に勝つと誓ったからには、泣いてなんかいられない。

そう思ったら、なんとか涙が止まったのだ。

「じゃあ、強いお姉さんに、お昼前に、ルンバールをがんばってもらおうかな」

「ルンバール?」

「最初の日、マルクやっただろう、あの形で今度は注射するんだ」

ちょっとびびったけど、私には強い誓いがある。

「もう、ルンバでもサンバでも好きなだけして下さい」

佐藤先生は笑い出した。

翔子ちゃんも私にピースサインを送ってくれた。

「じゃあ、詳しい説明は後でまたするから」


母が来ると、こころは佐藤先生の説明を聞いて、検査室に入った。

普通の点滴では脳の方まで薬がまわらないので、骨髄の内側から入れるということらしい。

「じゃあ、いくよ」

マルクの時と同じように腰をゴリゴリされて、

汗がにじんでくる。

「骨髄を吸引するよ、頑張って」


こころは心の中につぶやく。

こころは頑張ってる、頑張ってる、早く終わって!

しかし、すぐには終わらない。

「もうちょっとだよ」

こころは頑張ってる、頑張ってる、もういいってば!

「じゃ、今度は薬を入れるね」

しかし、感覚はない。

「よおし、終了、頑張ったな」

「えへへ、すごいでしょ」

と言うそばから、腰にしびれがじーんと湧き起こった。

「先生、しびれてきた」

「うん、1時間ぐらいじっと安静にしててね」

こころはしびれを我慢しながら、自分が最初のマルクの時より強くなっていると感じた。


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しつけの行き届かない娘ですみません。

先生、それで入院期間はどれぐらいみればいいですか?」

「薬の効果を見ながらなので、最初にいつまでと断言できないんですが、

お嬢さんの年齢やいろいろ総合して、第一段階は早ければニ、三週間といったところかと思います」

私は溜め息を吐いた。

第一段階がそんなにかかるなんてやっぱり大変な病気なんだ。

「第二段階は、まだ残っている白血病細胞をとことん叩いてやっつけます。

入院して行う地固め療法を何回か繰り返し、通院で行う維持強化療法に入ります……」

それからも佐藤先生の説明は続いたが、急に全然頭に入らなくなった。

私は途中で気付いたのだ。


6割から8割が治るということは、少なくとも2割は治らないってこと?


私がその2割かも。

怖くなった。


もう少し手続きの話があるというので母は残り、こころは看護士さんに付き添われて小児病棟に戻った。

看護士さんはアカネさんといって28歳だ。

「こころちゃんも最初は不安だと思うけど、なんでも聞いてね。

そうすると安心できるからね」

「ありがとう」

そう言いつつ、私は一番不安なことを怖くて聞けないまま、病室まで戻ってきた。

翔子ちゃんや、さらに奥のベッドにいたもっと小さい子もいない。

「困ったこととかあったら、なんでもいいから呼んでね。

そのために、私たちがいるんだからね」

私は不安を打ち明けられない自分に腹が立ってきて、涙が溢れそうになった。

「大丈夫だよ。

ああ、見えても、佐藤先生、頭と腕はいいから」

私が少し笑うと、看護士のアカネさんは私の手を握った。

「きっとよくなるから、ね」


アカネさんが出て行くと、私はティッシュで頬を鼻をかみ、急いでヒロキさんにメールした。

《ヒロキさん、私、急性白血病なんだって(泣)


先生は6、8割治るとか言ったけど、2割は治らないってことでしょ。


ショックだよ(泣)


私、死ぬのかな……》


返事が来たのは1時間くらいたってからだ。


《メール読んだけど、すごくがっかりした。

こころさんが一緒にがんばろうって言うから、嬉しくて始めてるのに、

もう弱音を吐いて、死ぬのかな、だなんて!


まわりが死ぬかもと言っても、

こころさんには「私は絶対生きるの」って叫んでほしい!


僕の病気だって軽くはないんだよ、

けど僕はこころと一緒に生きる!

こころさんも「絶対、生きる」って思ってほしい!

応援してるぞ!》


読むうちに、カーッと胸が熱くなった。


ヒロキさんの真剣な気持ち、生きる力がビリビリ伝わってきた。

自分の弱さ、甘い考えが恥ずかしくて、私は声を上げて泣いた。


それから、返事のメールを打った。

《ごめんなさい、私、失礼なメールしちゃって!


私にはヒロキさんがいるからすごく心強いです!

誓います!

きっと私がんばって病気に勝ちます!


絶対勝ちますよ!!!》


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「あ、彼氏いるの?」と翔子ちゃん。

「違うわよ」

「でも、今、急に顔が喜んだよ」

「違うって、あっち行ってよ」

翔子ちゃんが自分のベッドのマンガに向かうと、私は急いでメールを開いた。


《こころさん、辛いのはわかるけど、

ずっとちっちゃな子供だってガンバってるんだよ!

検査で弱音を吐いてたら笑われるぞ!

応援してるから勇気を出して頑張ろう!》


思った通りの文面だけど、それがすごく嬉しかった。

《メールありがとです

えへへ、その通りです。

早速、隣のちっちゃい子に笑われました。

負けないょお、がんばります》


送信したところで、母が病室に入ってきて叱られた。

「こころ、携帯は禁止じゃないの」

「大丈夫だよ、入院してるひとは、黙認なんだって」

「検査はどうだったの?」

「それがひどい痛いんだよ。

私、死ぬかと思ったよ」

私がそう言うと、母は口をぽかんとした。


「そんなこと、冗談でも言っちゃだめよ。

ほんとに、あんたって子は、

タオルとか着替えは下に入れといたからね。

自分でちゃんとしなさいよ」

隣の翔子ちゃんがちらりとこころを見て笑った。

「お母さん、もういいから帰って。

明日は私の机の携帯の電源持ってきてよ」



翌日の午後、検査の結果を聞かされる時が来た。

佐藤先生に、私と母が向き合い、三者面談風。

「こころさん、初日が大変な検査だったけど、よく頑張ったね」

「もうあんな検査は二度といやです」

私はイヤミを込めて言ってやった。

佐藤先生は白い歯をちらと見せてすぐ真顔になった。

「で、結果なんだけど。



うーん、残念。


かなりの治療が必要だから、このまま入院してもらうね」

私はびっくりして聞き返した。

「治療って、まさか手術とかするの?」

「いや、手術はしないよ。

いろいろ薬があるから、それを使っていこうと思う」

「じゃあ、私はどういう病気なんですか?」

「うん、血液はいろんな成分から出来てるけど、

そのひとつ、リンパ球が悪玉になる病気。

急性リンパ性白血病というんだ」

「白血病?」

頭の中をその言葉がぐるぐるまわった。

中学入ったぐらいの時、白血病の女の子を主人公にした、暗いマンガを読んだ覚えがある。

佐藤先生は治療計画表というプリントを私と母に渡した。

「ずっと昔は大変な病気だった。

お母さんがこころちゃんぐらいの時は不治の病のイメージを持たれてましたよね。

ドラマとかも悲しい点ばかり強調するし。

でも今は薬が発達したから治せる可能性は高まったんだ。

特にこころちゃんみたいに若い世代は成長力がそのまま回復力につながるから、6割から8割が治る。

だから自信持って、一緒に薬で治していこう、いいね」

そう振られたら「はい」と答えるしかないので、

「はい」

でも心の中は不安だらけだ。

「それで、今、渡した紙が治療の計画表になります。

第一段階は寛解(かんかい)導入が目標です。

寛解というのは悪玉が目立たなくなり、健康な白血球が元の数に戻ることです。

具体的には強い薬で悪玉を退治するんだけど、同時に善玉も減ってしまい免疫力が落ちて、少しの細菌、ウィルスでも重い病気にかかってしまう。

そこで薬を投与する間は入院してもらって他の病気から体を守らなければならない。

わかるよね?」

「薬を飲むためにわざわざ入院するわけ?」

「さすが高校生だな、そういうこと」

「めんどいよ」

私が思わず言うと、母がピシャリと、

「こころ、先生に口答えするんじゃないの。

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しかし、それからすぐ検査室で行われた検査は、なま易しいものではなかった。

佐藤先生は検査台に横向きになった私の腰に麻酔の注射をして、背中に声をかける。

「こころちゃん、針が骨に届く時、かなり痛いけど頑張ってね」


ちょ、ちょっと痛くないように麻酔をしたのに、かなり痛いってナニ!

反論を口にする暇もなく、腰の骨をゴリ、ゴリとされる痛みが走った。

汗がにじんでくる。

「骨髄を吸引するよ、さっきより痛いから、頑張って」


さっきより痛いの?ずるい!

そう言う間もなく衝撃が走った。

反射的に涙が溢れ出した。

叫び声も出そうだったけど、必死でこらえた。

「はい、終了。頑張ったね」

「先生、もう嫌いになりそう」

私は背中の佐藤先生に言ってやった。

「僕も辛いんだよ、こころちゃんにこんな痛い検査してさ、

でも、この検査しないと病気が正確にわからないんだ。

それはわかってくれよね」

確かにそうなんだろうけど。

でも、痛かった。

「しばらく痛み残るから、ここで静かに休んでっていいよ。

お疲れ様、ごめんな」

「っ、はあい」

佐藤先生に言われてそのまま検査室でしばらく休んだ。


それから検査室から出て、休憩室の隣の電話用個室みたいなところに入って携帯を取り出した。


まずメールした相手はサトミでもカオリでもなくヒロキさんだ。

こういう時は、同じ境遇にあるヒロキさんの返事が一番頼りになりそうだから。

《ヒロキさん、助けて、もう検査ヤダ~

腰の骨の検査だけど

あまりの痛さに泣いた(泣)

検査で死ぬかと思た(泣)》

でもヒロキさんの返事はすぐに来ない。

サトミとカオリにも同じようにメールして、すぐに励ましの返事が来た。

《検査、大変だったんだね。

ココロ、負けるな!》

《検査、そんなに痛かったの?

大変だったねぇ

でも、結果はきっと大丈夫だょ!》


サトミとカオリの返事にうなづいて、病室に戻ると、さっきは留守だったこころの隣のベッドに小学3、4年の女の子がいた。

頭に毛糸の帽子をかぶり、マンガの本を読んでいる。

「こんちは」

「こんちは、お姉ちゃん、新入りね」

「まあそう、私は川津辺こころ、

あなたの名前は?」

「秋野ショウコ、飛翔っていう漢字の翔に子だよ」

「よろしく」

「まあね、わからないことがあったら聞きなさい」

「へえ、えらいんだ」

「ここでは私が先輩でしょ」

「はいはい、お願いします。

ところで、先輩、腰にマルクはした?」

「うん、何回もしたよ。

お姉ちゃん、さては、泣いたんでしょ?」

翔子ちゃん、にやにやと笑いやがる。

「な、泣かないわよ。

ちょっと目から冷や汗が出たけどね」

「ハハハ。

でも、胸にするとね、もっと痛いよ」

「え、まだ上があるの」

「でもマルクは一瞬の痛みでしょ。

辛いのは薬の副作用だよ。

一日中、吐き気とか下痢はいやだよ」

「そうか、入院すると大変なんだね」

「自分も入院してるじゃん」

「私は検査だけかもしれないでしょ」

「そうかな」

「そうだよ」

私が言い返してると、携帯がメール受信で震えた。

きっと、ヒロキさんだ!

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《こころさん、はじめまして!

掲示板、見ましたよ。

僕は今は一時的に退院してますが、来月からまた入院です。

僕は君を応援しますから!

互いにがんばろう、ファイト!

僕はノートパソコンからメール打ってます。

病院でもネットにつなげられるので助かります。

携帯は原則禁止だけど、たいていの病院は入院患者には黙認ですよ。

よかったらメールください。ヒロキ》

ついにお仲間のカキこみだ。

私は病院が携帯禁止なのを忘れてたことに気付いて、笑いながらヒロキさんにメールした。

《ヒロキさん、初めまして!

カキ、ありがとうございました!

川津辺こころ(本名!)です

今まで、医者は殆ど行ったことないのに、

検査入院と言われてちょっとパニクってます。

そっか、携帯は表向き禁止なんですね。

そういう基本もわかってなかった(汗)

こんな私ですが、よろしくです。

ヒロキさんみたいなお友達がいるだけで、心強いので、よろしくお願いします》

こうして、こころとヒロキのメールが始まった。


1時間ほどしてから返事があった。

《こころさん、こんばんは。

宮都 弘貴、ミヤツヒロキです。

メル友、こちらからもよろしくお願いします。

一緒に病気と戦う友達は、僕も欲しかったから大歓迎ですよ》

私は嬉しくなって、メールを打つ。

《ヒロキさん、返事ありがとうございます

私は血液の病気みたいです。

ヒロキさんはおいくつで、どんな病気ですか?》

30分ほどして返事がくる。

《僕は大学2年生です。

足腰がわるくて困ってるんです。

お互いがんばりましょう!》


こころが自分のベッドで待っていると、まもなく母親が看護士のお姉さんと一緒に来た。

そして、もう一度、佐藤先生の診察室に行くように言われた。

「こころの母です。

よろしくお願いします」

母が挨拶すると、佐藤先生はお辞儀を返す。

「佐藤です。

ざっと聞かれたと思いますが、お嬢さんは血液の病気のようです。

その種類を特定するために、詳しい検査を受けていただきます」

母は「はい」とうなづいた。

「そこでこちらの検査を受けてほしいのです」

佐藤先生は同意書と書かれた紙を差し出した。

「一応、リスク説明のため、同意書にサインをいただいてます。

大きい注射針で骨髄の髄液や組織を採る、マルクと呼ばれる検査です。

強い力で針を刺しますので、骨を損傷し、内部に損傷を与える可能性があります。

もっとも実際には当病院でそういう事故は一度もありません。

局部麻酔のもとでしますから、痛みは軽減されます。

こころちゃん、頑張れるね?」

佐藤先生に言われて、私はうなづき、母はサインした。



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サトミからの返事が来た、

《それって風邪も引かないココロだから、珍しくて調べるのかもよ!

がんばって検査合格しておいで》

いつでもサトミは陽気だな。

それはそれでありがたいけど。

カオリからの返事は、

《検査入院?

私も病院で検査はいろいろ受けたけど、検査入院はなかったなぁ。

でも、ココロならきっと大丈夫だよ!

ファイトぉ!》

うーん、カオリでも検査入院したことないのか。

病人の専門家であるカオリから言われると心細くなってくる。


そこで、私は、自分と同じ状況の仲間に応援してほしくて、携帯コミュの仲間掲示板に書き込んでみた。

《はじめまして、ココロです。

私は高校の2年ですが、昨日、倒れてしまいました。

本格的な検査のため、すぐ入院しなければなりません(泣)

同じように入院されてる先輩、これからする方、よければお返事下さい。

メール交換して一緒にがんばりましょ》


書き込むと、こころは入院病棟の受付に行き、書類を見せて説明を受けた。

リストを貰って、受付の電話で、すぐ母親に電話する。

「お母さん」

「こころ、病院、どうだったの?」

「すぐ検査入院しろって」


「け、検査入院て、なんの病気なの?」


さすがに母親の声は驚きでうわずっていた。

「まだわからないよ、

わからないから検査するの」

「それはそうね……」

私が入院に必要なリストを読み上げると、母親は準備してすぐに行くと言った。

受話器を置くと、すかさず受付の女性が、

「それでは川津辺さん、診察があるので、血液内科に移動して下さい」

こころは、言われるままに血液内科に行き、看護士のお姉さんに診察室に呼び込まれた。

おそるおそる中に入ると、机に向かってた白衣の男性が振り向いて言った。

「川津辺こころさんだね、

僕は担当の佐藤です。

急に検査入院と言われて焦ったと思うけど、

こころさん、血液の病気みたいなんだ、そこを詳しく調べよう」

先生は30代前半で、ちょっとカッコイイ感じ。

なんとか私の守備範囲かもしれない。

「はい、検査ってどういうのですか?」

「うん、うちは血液関係が多いけど、基本的な検査もあるよ。

脅かすわけじゃないけど、ちょっと大変な検査もあるんだ。

それはお母さんが来てからにしよう。

病気をしっかり見極めるためだから、頑張れるよな」

「はい」

「高校何年?」

「2年です」

「部活とかやってるの?」

「ええ、卓球部です」

「じゃあ、サー、だね」

ムッ、安易な。

確かに試合でサーていうのはわりとありだし、

サーブの前に短く、サッて言ったりもするけど。

すると先生、握りこぶしのガッツポーズだ。

「病気を負かして、一緒にサーってガッツポーズしよう」

お茶目な先生に、私は笑った。

「はい」



再び掲示板を覗いたら、レスがついていた。


《じゃあ学校行かなくてひまだよね、

よかったら遊ばない》

なんだ、このバカ男、ひとが入院するというのにナンパとは。


《入院ですか、私は元気だけがトリエですけど、

あなたがよくなるよう祈ってますよ》

元気なおばさんか、でも励ましがありがたい。


《お姉ちゃん、びょうきなの?

がんばってください》

おお、小学生じゃないか。可愛いなあ。


《そりゃ、寂しいねえ。

気持ちよくなる薬あるから

よかったら持って行ってあげるよん》

また、バカ男かい、消えてくれ。


入院仲間というのはいないのかと思って、画面をスクロールすると、いた!

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 初めて大きな病院に行ったこころは、待合室が大きくて人が多いのにびっくりした。
 
 なんとか受付を済ませて、呼ばれたと思ったら、今度は診察室の前の中待合で待たされる。
 
 ようやく診察室に呼ばれると、内科の六十歳ぐらいの先生が眼鏡の奥の目尻をさげて質問した。
 
「どうしました?」

「授業中に急に倒れたらしいんです、自分ではよく覚えてなくて」

「頭は痛いですか?」

「いえ」

「しばらく注意して下さい。
 
 ぶってると頭の中の症状が後から出る場合もある。
 
 それで熱は高いですか?」

「普通ですね」

「肩とか腰とか背中とか、痛いところはありますか?」

「あ、卓球部なんで、腰は少し痛いかな」

「そう、卓球ね、最近、体が疲れるとか」

「少し」

「生理は順調?」

「はい」

「ひどい鼻血とか、あざとか、口内炎とか、ありませんか」

「部活でぶつけたみたいで足のすねに青あざがいくつか出てますけど」

 私がソックスをおろして見せると、先生はうなづいた。

「ふむ、ちょっと血液調べましょうね」

 看護師のお姉さんが手早く採血をする。
 
 先生は私の胸に聴診器をあてて、それから診察台でお腹を触診して言った。
 
「こっちは大丈夫ですね」

「あの、もう帰って、いいですか?」

「中待合でしばらく待って下さい、検査結果がすぐ出ますから」

 私は溜め息を吐いて、診察室の外のソフアで待った。
 
 やっぱり大病院だけあって、せわしないし、冷たい感じ。
 
 今頃、授業は私の苦手な理科総合のはず、ちょっと嬉しい。
 
 だけど、テストのこと考えたら、後でますます困るかもな。
 
 そんなことを思ってると、看護士のお姉さんが慌てた感じで出てきた。
 
 私を見つけると「川津辺さん、入って下さい」と呼んだ。
 
 中には、診察を終えたおじいさんがまだ上着を着終えてないというのに、なんて落ち着きがないと私は思いながら座った。
 
 すると先生は眼鏡から目を睨むように細めて言い放った。
 



「気になるところがあるので、今すぐ検査入院してください」


 びっくりして、息が止まった。
 
 医者にかかるのも珍しい私が検査入院だなんて、冗談みたい。
 
 そもそも私はそんなに具合が悪いわけでも熱があるわけでもないのだ。

「あの、今すぐ?

検査で入院?

私がですか?」

「そう、すぐ家の人に連絡して、必要な物を持ってきてもらって下さい」

「どこが悪いんですか?

 私、学校行きたいんで、薬もらって済ませたいんですけど」
 
「こころさんは、血液の難しい病気かもしれないから詳しい検査が必要なんだ、わかったね?」

 先生は私の希望を却下すると、看護士に書類を渡した。

 看護士のお姉さんは、急に作った笑顔で言う。

「今から入院病棟受付に入って手続きして下さい。

 必要な物のリストを受け取って、お家に連絡して下さいね」

 入院なんて一度もしたことなかったのに、ついてない。

 
 廊下に出た私は、空いてる長椅子に腰掛けて、サトミとカオリにメールする。
 
《今、病院なんだけど、検査ですぐ入院しろって言うんだよ。

 私は熱もないのにさ、おかしくない?》
 
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 2発病-3 に続く 
 
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 私はもともと風邪もめったに引かない、元気な子供だった。
 
 小学校の朝礼で倒れるコを見ると、なぜ倒れるのか理解できなかったぐらいだ。
 
 中学校からは卓球部に入った。
 
 中村サトミとはその卓球部から一緒だ。

 
 中学の修学旅行の時、旅館に卓球台があった。
 
 皆でやることになったのだが、サトミはテニス部面には本気でスマッシュする。
 
「こっちは素人なんだから、手加減しなよ」

「前、卓球て簡単そうて言ったじゃん」

「言ったかもしんないけど」

「それに卓球はテーブルテニスだよ、素人じゃないっしょ」

 卓球もずっと中腰で速い動きだから、真剣にやると、ハードなスポーツなのだ。
 

 個人戦だとつまらないというので、卓球部の私とサトミはへたっぴさんと組まされた。
 
 その時、私のパートナーになったのが、和田カオリだった。
 
 カオリはピアノがすごく上手だが、運動は苦手なお嬢様だった。
 
 カオリは羽子板のような球を返した。
 
 すると相手のサトミも今度は打ちやすく返した。
 
 楽しい思い出のひとつだ。
 
 班も一緒だったので、その夜、私はカオリといろいろ話した。
 
 カオリは小学校の頃はよく倒れていたと話した。
 
 私は「倒れるってさ、どうなるの?」と聞いた。
 
「汗が出てきて、耳鳴りがして、

 体の骨が溶けたみたいにへなへなになって、

 急にまわりの世界が寝ちゃうのよ」
 
「まわりの世界が?」
 
「だって、私は寝る気はないもの、寝たのは、まわりの世界でしょ」
 
 聞いてた皆が笑った。
 
 サトミとカオリは私と同じ女子高に進んだ。
 
 自然と、三人はよくつるんで遊びや買い物に出かけるようになった。
 
 ところが、いつの間にか私の体に、病魔が忍び込んでいたようだ。
 

 こないだの古典の時間、私は急にめまいと耳鳴りに襲われた。
 
 少し振り返ろうとした私は椅子から右にバランスを崩した。
 
 そして、カオリが話してたように、急にまわりの世界が寝ちゃった。
 
 気がついたら保健室のベッドだった。

 机を抱えたまま、椅子から床まで音を立てて倒れたらしい。

 だが、私にはまったく倒れた記憶がない。

「たいしたことないと思うけど、安心のため大きな病院で診察してもらいなさい」

 保健室の先生は笑顔で言った。
 
 家に帰って、母に相談したら、
 
「本当に倒れたの?」と笑われた。

 なにしろかかりつけの医者にさえ、ニ、三年に一度しか行かないひとなのである。
 
「うん、自分でも信じられないよ」

「大丈夫と思うけど、保健の先生が言うなら、明日、行ってきなさいよ」

 母は言った。


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2発病-2  に続く 

 
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 1ドア

 電車の中で書いたメールを、ヒロキさんの最寄り駅の手前で発信した。

《こころです!

 今日は病院で診察を受けてきました。

 とっても順調だって言われちゃった。

 発病からもうすぐ1年半だけど、普通の生活に戻れるかも。

 で、これから私がどこへ行くと思う?

 へへェ、じゃあーん、


 ヒロキさんのお家だよ~!!!

 もうすぐ桜上水駅、びっくりした?

 でも、慌てないでいいよ、具合悪かったらちょっと顔見て、お礼言うだけで帰るから

 私がこんなに元気になれたのも、ヒロキさんが励ましてくれたおかげですw

 勿論、家族や友達の応援も嬉しかったけどさ、

 やっぱり病気と闘っている仲間のヒロキさんの励ましは、こころの心に響いたんですよ。

 それに、それに……、

 ま、後は会ってから言います、そりでは》

 駅を出たこころは、高速道路の下をくぐって、細長い公園に入った。

 ここからもう五分ぐらいでヒロキさんの家に着いてしまう。

 どうしよう。

 私は落ち着こうとサトミにメールする。

 サトミやカオリは高校で授業中かお昼休みのはずだ。

《ヤバイよ、来ちゃったよ

 彼の家まであとちょっと。

 どうしよう、ドキドキで具合が悪くなりそう

 私が倒れたら救急車呼んでよ》

 サトミから返事が来た。

《うん、今、119番に電話してやったぞ

 けど、恋の病では出動しないって(爆藁)

 恋の病で散るならいいじゃないか
 
 振り返るな、彼の胸に突撃あるのみ

 セイコウを祈る》

 続いてこころはカオリにもメールする。

《ヤバイよ、彼の家まであと数ブロック

 もうだめ、足が震えちゃぅ
 
 ここから先には進めなぃよ

 今日はあきらめて、別の日にしよぅか》

 カオリから返事だ。

《弱虫、ここで弱気になってどうすんのよ

 彼の胸に飛び込みなよ!

 今、ちょうど昼休みで、サトミは私の隣にいるんだけど、
 
 ココロと彼との抱擁を妄想して、ヨダレを垂らしてるよ》

 こころは噴き出して、携帯をしまった。


 心に迷いはない。

 ヒロキさんに告白するのだ。

 私はヒロキさんの家の玄関の前に立った。
 
 チャイムのボタンに指を伸ばして引っ込める。
 
 もう一度深呼吸してみる。
 
 昨日のメールでは、体調はまあまあと書いてきたヒロキさんのまだ見ぬ笑顔を想像する。

 こころは、ゆっくりとチャイムを押した。

 あ、いけない、またドキドキしてきた。

「はい?」

 インターホンから、ヒロキさんのお母さんらしき声がした。

「あ、あの、私、川津辺こころです。

 ヒロキさんにいつもお世話になってます」

「あ。こころさん。来てくれたのね。

 ちょっと待って」

 私はドアの開くのを待った。


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2発病-1  に続く 

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メルコイ(メール来いandメール恋)

突然の白血病に倒れた川津辺こころは、掲示板で知り合った宮都ヒロキからメールで勇気をもらった。こころの、甘く苦い恋物語。
※このお話には白血病の辛い部分の描写が含まれますが、白血病の治療は着実に進歩しており、この話が昔話となるよう期待してます。

主な登場人物

川津辺 心(カワツベ ココロ)棚本女子高2年  普通の高校生だったが、突然の発病。

宮都 弘貴(ミヤツ ヒロキ) 大学生       こころをメールで励ましてくれる友人。

中村 聡美(ナカムラ サトミ)棚本女子高2年  心の親友 卓球部

和田 佳織(ワダ   カオリ)棚本女子高2年  心の親友 帰宅部

秋野 翔子 (アキノ ショウコ)小学4年     病院で心の同室の女の子


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  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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