銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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結 物語の祖(おや)

 その日、嵯峨帝は、高尾山寺の空海を参内させると、先の疫病の広がりを密教の修法により収めた功績を称えて褒美を授けた。
 引き統いて帝は清涼殿に渡り、詩吟の宴の席に空海を加えた。
 漢詩の朗唄がひと区切りつくと、帝は列座する臣下たちに何か面白いことはないかと問うた。
「畏れながら、」
 参議小野岑盛が一拝して発言を乞うた。
「もはや御前に持ち出す話ではないやもしれませぬが、先に正史よりお削りあそばした、月に帰られたかぐや姫について話がありますが。」
 帝は杓で膝を打って「うむ、構わぬ」と発言を許した。
「先日、いずこより屋敷の女房に、竹取物語と題する仮名書きの綴じ本が届けられまして、これが本朝の様々な伝説を巧みに取り入れた物語の中に、かぐや姫の、はかなくも麗しい様子が見事に記されており、感心いたしました。」
「ほおー。」
「それは趣き深いこと。」
 帝をはじめ、難題に敗れた大伴皇子、葛原皇子、右大臣藤原園人、大納言春日御行、中納言菅原麻呂なども並ぶ一座は相槌を打って興味を示す。
「ここにその本をお持ちしました。」
 参議小野岑盛は蔵人を通じて帝に本を献じた。
 帝は本にしばらく目を通すと言う。
「なるほど、養父を竹取の翁に見立てておるようだな。
 筆も文才もなかなか見事な様子、書いたのは一体。誰じゃ?」
 聞かれた参議小野岑盛は慌てて平伏した。
「申し訳ございません。
 使いの者が約束の品と言えばわかると申したため深く問い質さず、どこの誰ともわかりません。」
「誰ぞ、書き手を知る者はないか?」
 帝に聞かれた一堂は、互いに顔を見合わせると静まり返った。
 帝は微笑んで、わざと空海の木像然としている顔に向かう。
「別当、そちなら知っておるだろう?」
 空海は上体を前に倒してしらばくれる。
「畏れながら、山に棲む坊主は麗しい姫の話など噂すら聞いたことがございません。」
「ふふ、そうか、別当も知らぬか。」
 帝は満足そうに頷くと声を高めて呟いた。
「されば、月の者が我らを慰めるためによこしたものかもしれぬの。」
「なるほど。」
「まことにそうかもしれませんな。」
 臣下達は帝の着想を楽しんで頷いた。
「よし、皆揃って『竹取物語』の写本を作り、かの姫を偲ぽうではないか。」
「御名案にございます。」
「では、早速に写本の順番を決めましょう。」
 一座は籤つくりに浮かれた。

 空海は、あの悪党広忠のことを思い返していた。
 広忠はあれから、もう一度、空海の寝所を訪れ、様々なことを語った。
 月の都はこの世を一千万歳生まれ変わって、徳を積んで入れる極楽であることと、かぐやがまことに月の都の者であったこと、そしてかぐやがこの世に遣わされた理由が、この世で一番凶悪な自分を改心させるためであったこと。
 広忠が悪から足を洗うと改心したことで、かぐやは月に帰りかけたが、司直と言い合ううちに、月に帰るより自分を選んでくれたこと。
 最後に、広忠は「坊主、礼を言うぞ。この通りじゃ。」と言うと、空海の足元に殊勝に頭をすりつけてから、帰ったのだった。
 これでよかろうて。
 空海は浮かれる一座を眺めてつぶやいた。
 かくして『竹取物語』は世に流布した。

 しかし、かぐや姫がこの世に降ろされた理由や、強盗広忠との恋の顛末、そしてその後も続いた平穏な生活は、決して世間に出ることはなかったのである。     了


 f_02.gif プログ村


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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