銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 その日、広忠が狩から帰る頃には、夕焼けが闇に飲まれ天に丸い月が輝いた。
 広忠は家が近づいてくると今宵の睦み事を考えた。
 最近は、広忠が仕向けると、かぐやも求めるように力を入れてくる、それが可愛いくてたまらないのだ。
 広忠はつい鼻の下を伸ばしながら、家の門をくぐり、土間に獲物を投げ出してかぐやを呼んだ。
「かぐや、遅うなって心配かけたの、今、帰ったぞ。」
 しかし、返事はない。
 広忠はおかしいと思いながら、適当に足を拭いて、奥の室の戸口を開けた。
 かぐやは蔀戸を跳ね上げて差し込む月光を眺めていた。
「かぐや、そこにいたか、遅うなって心配かけたの。」
 かぐやは振り向いて微笑んだ。
「お帰りなさいませ、広忠様。」
「ん、その格好は、どうしたんじゃ?」
 この夜のかぐやは、汚い小袖の帷子ではなく、衵を鮮やかに重ねた上に蘇芳(すおう)の表衣を付け、さらに裳までつけた盛装である。
 しかし心舞い上がる広忠は、微笑むかぐやの目に真っ赤に泣きはらした跡があることに気付かなかった。
「ははあ、俺の好みの衣装をしてくれたか?」
「そうであればよいですが。
 今日はかぐやにとって最も悲しい日でもございます。」
 広忠は訳がわからず首を傾しげた。
「何を言っておるんじゃ?」
 広忠が尋ねると、かぐやは膝の前に静かに両手をつき揃えて言った。
「今宵限り、かぐやは広忠様にお暇申し上げなければなりませぬ。」
 その光景はずっと前の悪夢にそっくりであった。
「ば、馬鹿なことを言うな、
 俺はかぐやの願い通り、悪事をすっかり止めたんじゃぞ。」
 広忠は笑って言いながらも、かぐやの堅く思いつめた表情に、内心の動揺を大きくしていく。
「仰せの通りです。
 広忠様の誓い、かぐやも間違いなきこと確かめ、何よりも嬉しく思いました。
 だからこそ、かぐやはお別れせねばなりません。」
 かぐやが繰り返すと広忠は大声で怒鳴った。
「何を言ってるんじゃ、
 悪事を止めて、かぐやに逃げられては道理が逆だ。」
 広忠の苛立ちに静かに頷いたかぐやは、
「本当のことを申し上げます」と告白を始めた。

「実は、かぐやはまことに月の都に住む者なのです。」
 かぐやの言葉に広忠は一瞬、呆気に取られ、すかさず怒る。
「ば、馬鹿な、それは俺の吹き込んだ猿芝居ぞ。」
 しかし、かぐやは静かに続ける。
「芝居ではありませぬ。
 かぐやは、まことに月の者なのです。」
 広忠を見詰めるかぐやの瞳は今にもこぼれそうな涙をようやくこらえている。
「御存知ないかと思いますが、月の都というのは、こちらの地上にて一千万歳の前世を生まれ変わり、数えきれない徳を積んだ果てにようやく入れる世界でして、こちらの方は極楽などと呼びますが、実際は信じられぬほど厳しいところなのです。
 いかに厳しいか申しますと、たとえば親が自分の子を他人の子よりも大事に扱うだけで大罪なのです。
 そこは神の律令の支配する、ひとかけらの私心も赦されない世界なのです。」
 両手をついて打ち明けるかぐやの頬から、光のしずくが、きらり、またきらりと床にごぼれ落ちた。
 広忠は腕力のありったけを使ってもかぐやの告白をやめさせようと手を伸ばした。
 しかし、かぐやは、高貴な輝きに包まれていて、別世界のカで広忠の手を押し戻してくるのだった。


 f_02.gif プログ村

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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