銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 かぐやは、広忠のものではない、その財布を素早く拾い上げ鼻先に突きつける。
「これはなんです?」
「あっ、そ、それはのう、」
 かぐやは礫(つぶて)のような勢いで言葉をぶつけた。
「なんと情けないこと、
 かぐやがこんな格好になったのも広忠様に悪事をやめてほしい一心なのですよ。
 それがわかっていただけませぬか?」
「つい、出来心でな、すまんかった。」
 広忠は照れ隠しに頭を掻いて謝った。
「いつになったら悪さが治まるのです?」
 なおもかぐやが厳しく迫ると、広忠は姫を抱き寄せて無理やりに唇を吸った。
 姫は広忠の体をカの限り押し返して怒る。
「いつもそうして話をうやむやにされる。
 どうして改心してくださらぬのです?」
 目尻を弛ませて聞いていた広忠は答える。
「そのうち改心するさ。」
 そして、広忠は今度はかぐやの懐に手を滑り込ませようとした。
「やめてくだされ、」
 かぐやは広忠の手をピシャリと叩いた。
 広忠はムッとして言い返す。
「お前は俺の妻じゃ、文句を言うな。」
「かぐやはきちんと話をしてほしいのです。」
「俺はかぐやにちゃんと約束してるぞ。
 とっとと赤子を産んでみせろ。
 されば俺も誓い通り、きっぱり足を洗ってやるわ。」
 広忠が怒鳴りつけると、かぐやは空を食むように口を動かし、どっと涙を溢れさせると、身を翻して、逃げるようにして奥の室に駆け込んだ。
 広忠は瞬時に後悔した。
 かぐやとて心から子供を欲しているに違いないのだ。それが果たせないのは少しもかぐやの罪ではない。広忠は言い過ぎを悟って大きな足音を立てて姫の後を追いかけた。
「かぐや。」
 呼びかけると、かぐやは鍵を下ろした妻戸の向こうで鴫咽を上げたままで答えない。
「おい、かぐや。」
 再び呼んだが、かぐやは答える気配がない。
 言い過ぎを詫びる気でいた広忠だったが、二度三度とかぐやの返事がないと生来の短気から腹が立ってきた。
 結局、やさしい言葉の代わりに、
「勝手に泣いてろ」と言い捨てて寝所に入った。
 そしてふて寝を決め込んだ広忠だったが、愛しいかぐやと喧嘩してみると、おもむろに空海のあの予言が思い返されてきて、なかなか寝つけなかった。

 ようやく眠りにつけたと思ったら今度は明け方になって実に嫌な夢を見てしまった。

──追い剥ぎをはたらき予想以上の大金を手に入れて、ほくほくして家に帰ると、かぐやが艶やかな絹を着て微笑んでいる。
 広忠も笑みを浮かべて「今日はたんまり儲けたぞ」と言うと、姫は徴笑んだまましなやかに床に両手をついて
「ようございましたな、かぐやもこれでようやく広忠様にお暇を申し上げる決心がつきました」と広忠に別れを告げるのだ。
 広忠はびっくりして「行くな、行かないでくれ」と懇願して追うが、姫は笑いながら闇に消え入ってしまう。
 広忠は手を伸ばそうとするが、見ると両腕がなくなっており、空しく絶叫する。
 どっと汗をかいて広忠は目を覚ました。
 慌てて床を出てかぐやを探すと、かぐやはいつものように朝飯の支度をしており、広忠は、ほっと息を吐いた。
 しかしながら、膳につくと、もはや様子は昨日とは違っていた。
「もうひとつ。」
 広忠が椀を差し出すと、かぐやは無言で受け取りお代わりをよそって、無言で返す。
 やはり、昨日のことを怒っておるんじゃな。広忠はそう感じて、思い切って照れる台詞を吐いてみる。
「うまいのう、かぐやのこさえた飯を食える俺は幸せもんじゃ。」
 しかし、かぐやは自分の飯を黙々と食べるだけで、広忠の言葉に答えない。
「行ってくるぞ。」
 そう言って広忠が腰を上げても振り向きもしない。
 もう何を言っても聞いてくれぬのか。
 広忠は溜め息を吐いて、ひっそりと支度を整えると狩りに出かけた。

 


 f_02.gif プログ村

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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