銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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十一 月よりの迎え

 数日後の晩、丹波の里の空に半月が昇る頃、かぐやは頭を垂れて、両手を揃えて床につき、切り出した。
「父上、母上に申し上げたいことがあります。」
 父や母は不思議に思い問いかける。
「なんだい、かぐや?」
「あらたまって、どうしたんじゃ?」
 すると、かぐやは急に涙をこぼしながら身の上を告白した。
「長い間、まことの娘より大事に育てていただき感謝の言葉も言い足りません。
 今となっては全てを包み隠さず申し上げなくてはなりませぬ。
 実は、かぐやはこの地の人ではなく、もともと月の都にいた者なのです。」
 父母は胸を突かれたように驚いた。
「何を言い出すのだ!」
「嘘でしょう?」
 かぐやは黙ったまま首を横に振った。
 父は言って聞かせる。
「たしかに初めは朱雀門の下に捨てられてあったが、我と女房して大事に世話し、育ってゆかれし様子は、まっこと普通のおなごでしたぞ。
 いや、子のない我らが言うだけなら間違いもあろうが、手伝いに来てくれた者たちも、よいお子じゃ、初めてにしては育て方を心得てなさると、口々に褒めてくだされたからには間違いはありませんぞ。」
「いいえ、かぐやは月のお上より、この世にて為すべきことを申しつかり、その為すべきことをずっと覚えたまま、赤子の体に戻されて、この地に遣わされたのでございます。
 為すべき事も成った今は、来たる満月の晩に月よりの迎えが参ります。
 その迎えに導かれ、私は月に帰ります。
 ここまで育てていただいた父上母上にも、残念ながらお暇を申し上げねばなりませぬ。」
 かぐやは頭を垂れてあやまった。
「そのような嘘を言うてくれるな。
 天子様の勅使がいやでそのように言われるのだな?」
「いいえ、そうではございません。まことに月の者なのでございます。
 嘘でない証拠に、来たる満月の晩には、きっと月よりの迎えが参ります。
 どうぞ、信じてください。」
「そのように言われても、俄かに信じられようか。」
 父は納得いかない様子だが、母は感じるところがあったらしく、
「あまりに強情に殿方を拒みなさるから、何か言えぬ理由があるのではと思ってはおりましたが、なるほど、そのような訳があれば、殿方を迎えることができなかったのですねえ。」
 そう言うとその場に、よよと泣き崩れた。
「育てられた恩を忘れて、我等を見捨てると言われるか?」
 父が詰じるように言うと、かぐやも床に打ち伏して声を上げる。
「そのように言われては、かぐやはいっそここで死んでしまいとうございます。
 本当に大事にしていただき、月の親よりもありがたく恩い寄す父上母上です。
 どうして恩を感じないことがありましょうか。」
 かぐやはさめざめと泣いて、後はもう声にもならない。

「ここまで孫をほしくて育ててきたのですぞ。」
「どうか、この婆を哀れと思うなら月には帰らぬと言ってくだされ。」
 父母は涙声に責め立てたり、あるいは懇願するけれど、かぐやは首を縦に振ることはなかった。


 翌日の昼下がり、大内裏に戻った勅使の参議小野岑盛(おのみねもり)は急いで帝の御座所に入ると平伏した。
「おお、帰ったか、姫の機嫌はいかがじゃった?」
「畏れながら、一大事と覚えまする。」
「一大事とな?」
「は、かの姫の父が申しますには、かの姫はまことは月の姫なりと。」
 帝は驚いて、腰を浮かせた。
「な、なんと、かの姫は月の姫なのか?」
「仰せのごとく。月の姫なれば、次の満月には月に帰ると申して泣き明かしておるそうです。」
 帝は扇をピシャと音を立てて閉じた。
「面妖な、それはまことか?」
「疑いはまことに月よりの迎えが来れば明らかとなろうと、かの姫は申しておるようでございます。」
「あいわかった。
 かの姫が朕の后をあれほど断る謎がどうやら解けたわ。」
 そう言うと、帝は自ら御簾をめくり上げて命令した。
「衛府の中将をただちに召し出せ。わが軍勢を姫の館に差し向け、月よりの迎えを追い返すのじゃ。」
 兄帝の戦においても、そのように取り乱して御簾を跳ね上げた様を見たことがなかった参議小野岑盛はびっくりして、返事が遅れた。
「か、かしこまってございます。」





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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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