銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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十 名案

 広忠が、空海の、阿弥陀如来の化身のふりをしてはどうか、という言葉を伝えると、かぐやも溜め息を吐いた。
「それではかえって、拝みに来る者が増えましょう。」
「俺もそこには気付いた。何しろ育てられた寺で、仏像をありがたがる奴らをたくさん見てきたからの。」
「そうでしたか。」
「そこで、あの坊様に、もっとよい策はないかと尋ねたのだが、あのけちな坊様は、一から十まで他人に頼らず、自分で考えろと叱られてしもうた。」
「では考えてみるより他にないですね。」
 かぐやはそう言って考え込んだ。

 勅使は毎日のように訪れていたが、かぐやはいずれも会わずに泣いて断っていた。

 そんなある日、嵯峨帝は須磨の塩焼きを身に行くと口実をつけて、途中、丹波のあたりで気分がすぐれぬと言い出し、かぐやの家に御輿を留めさせた。
 まさか、かように辺鄙な土地を、天子様が突然に訪れるとは夢にも思わなかった父母は、恐縮のあまり胸を潰される心地で帝を家の中に通した。
 帝は板敷の床に敷物を敷かせ胡坐を組み、従者に大きな扇をあおがせて言う。
「先日、朕(ちん)が使いを娘に会わせず空しく帰したこと、非礼なふるまいであろう。」
 帝に咎められた父は床に鼻を押し付けてあやまった。
「は、非礼の段は、幾重にもお詫び甲し上げます。
 なにぶん山奥育ちの頑なな娘でして、この老いぼれ以外にはまったく男の姿を見たこともなく、男を鬼か何かのごとく避けておるのでございます。」
「今日は会えるだろうな?」
 帝は笑みを浮かべて催促した。
「天子様のお望みとあらば、会うことは会わせましょうが、
 まこと頑なな娘につき、はたして畏れ多い無礼をはたらかぬかと心配でございます。」
「かまわぬ、案内せよ。」
 帝が命ずると母がかぐやの室に通した。

 かぐやは几帳の陰に隠れている。
「かぐや、天子様がわさわざお越しになられたんだよ。」
 帝はまわりこんでかぐやを覗き込もうとするが、かぐやは慌てて扇で顔を覆う。
「姫、その扇、取って、顔を見せよ。」
「かぐや、父母のためだと思ってどうか御無礼をはたらかないでおくれ。」
 母にそう言われると、かぐやはやむなく扇を下げた。
 すると帝は息を呑んだ。
 噂に勝る、かぐやの美貌を目にして、帝はたちまち激しい恋心を覚えた。
「これは、そちは朕のどの妃よりも美しい。」
 帝はそう言ってかぐやをつかまえようと近寄ってくる。
「お寄りにならないでください。」
「駄々を言うでないよ。」
「私には鬼がついております。」
「ふむ、朕には高尾山寺の空海がついておるし、
 そちの美しさを手にするためなら鬼も恐くはないそ。」
 帝はかぐやに微笑みかけて近づく。
「お許しください。」
「逆らうでないよ。」
 帝の手が肩に触れようとすると、かぐやはこういう時に備えていた匕首(あいくち)を取り出して白分の胸に向けた。
「それ以上近づかれたら死にます。」
 かぐやの凄まじい拒絶に会うと、さすがの帝もそれ以上近づこうとはしなかった。

 帝は父母に微笑んで見せた。
「姫の無礼、気にするな、またまかる」
 そう言い残して満たされない思いのまま内裏へ帰った。
 その後も再三に渡り求婚の勅使が遣わされ、かぐやと両親の相反する悩みは深まるばかりだった。


 十日ほど過ぎた夜、広忠は嬉しそうな顔をしてやって来た。
「良い案が浮かんだぞ。」
 かぐやも微笑んで聞く。
「どのような案でございますか?」
 広忠は顔を近づけて囁いた。
「かぐやは月に帰ると嘘をつけ。」
 広忠の突拍子もない思いつきにかぐやは口を開いてびっくりした。
「月に帰る……どうしてそのような突飛なことを思いつかれました?」
「うむ、いつものように猪を待ちながら、ふと脇の大木にある巣を眺めていたんじゃ。
 すると一匹、また一匹と蜂が巣に帰るのが見える。
 そうして巣を見るうちに、急にその巣が月に見えての、これだと閃いたんじゃ。」
 かぐやはまだ口を開いたままうなづいた。
「かぐやの養い親はかぐやの実の親が誰なのか知らない、そうだな?」
「……ええ」
 かぐやは相槌を打つと俯いた。
「そこでひと芝居打つのだ。
 かぐやは実は月の人間で、次の満月には月から迎えが来てどうしても帰らねばならないと告白する。
 だから、たとえ帝の求婚でも受けられないのだと断れ。」
 かぐやは疑わしそうに問いかける。
「そのような嘘であきらめてくれましょうか?」
「いや、あきらめないだろう。
 きっと帝は、軍勢にものを言わせても、かぐやを月からの迎えに渡すまいとするはずじゃ。」
「しかし、そもそも嘘ですから、月からの迎えなど来ないでしょう?」
「うむ、そこで俺が月の迎えを作って飛ばすのじゃ。
 軍勢がニセの月の迎えに見とれている間に、俺がこの床下から、かぐやを攫ってしまうのだ。
 されば父母も、帝も、かぐやは月に帰ってしまったと信じて、あきらめてくれるぞ。
 どうだ、うまい計略だろうが。」
 かぐやは不安そうに言う。
「うまくゆけば良い策ですが。」
 すると、広忠は自信たっぷりに胸を叩いた。
「きっと俺がうまくゆかせてみせるぞ。」



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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