銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 広忠は思わず小声で言った。
「なんて気味悪い奴らだ。男のくせに、女みたいな鮮やかな色の衣を着てやがる。」
「し、静かに、声を立てないで下さい。」
 かぐやに注意されて、広忠は黙って話に聞き耳を立てた。
 貴びとは、大伴皇子(おおとものみこ)、葛原皇子(かずらわらのみこ)、右大臣藤原園人(ふじわらそのひと)、大納言春日御行(かすがのみゆき)、中納言菅原麻呂(すがわらのまろ)の五人である。
「のう、ここに集うた我ら五人より高き位の者が訪れることはなかろう。」
 一番左に座っている大伴皇子が言うとかぐやの父はかしこまった。
「まったく畏れ多いことでございます。」
「ここで我らが争うとまことの戦になってしまうが、それは賢いこととは言えぬでの。
 そこでじゃ、姫に我ら五人から一人を選ばせるがよい。
 それが誰になろうとも、我らはその一人に姫を譲るのだ。」
「ははあ、畏れ多いことでございます。」
「皆もそれでよかろう?」
 大伴皇子が横を向いて言うと、葛原皇子がかしこまる。
「まことに大伴皇子様のお考えは賢明です。」
 すると、その隣の右大臣藤原園人がかしこまる。
「まことにお二方の皇子のお考えは争いを避ける手本と心得ました。」
 大納言春日御行、中納言菅原麻呂も平伏して同意する。
「では、それぞれ歌をしたため、姫に贈るといたそう。」
 大伴皇子が言うと、五人の貴びとは短冊と携帯の墨を取り出し、しばらく考えながら歌をしたため、かぐやの父に差し出した。
「では、姫に見せて参ります。」
 かぐやの父が、こちらに歩いてくると、広忠は慌てて几帳(きちょう)の陰に隠れた。

「姫よ、入ってもよいか?」
「はい。」
 かぐやは扇で顔を隠して答えた。
 戸口の向こうではなんとか顔を拝めないかと貴びとが首を伸ばして、かぐやの方を覗いている。
「あちらの偉い方々から歌を賜った。早速返事をしなさい。但し、一人はそなたの夫として迎えるように返事を差し上げなさい。」
「父上、急に言われましても、私のような田舎の娘に、すぐに立派な歌を返すのは無理がございます。ここは三日ほど日にちをいただいてくださいませ。」
「しかし、ここまで来ていただいたのに、」
「私の一大事です、いずれも立派な方ばかりゆえ、軽はずみに答えは出しかねます。しっかり時間をかけて思案させてくださいませ。」
 かぐやは扇で顔を隠したままお辞儀した。
 父は小さく溜め息を吐くと、戸を閉めて、貴びとの前に戻った。
「大変、申し訳ありませぬ。
 姫が申すには、いずれも立派な方ばかりなので、軽はずみに答えは出しかねます、しっかり考えてみたいと、三日のご猶予を賜りたいと申します。
 都に上がったこともない田舎娘ゆえ、お聞き届けください。」
「それは無理もないことじゃ、皆のもの、よいな。」
 大伴皇子が言うと、葛原皇子が「然るべく」と答えた。
 続いて右大臣藤原園人、大納言春日御行、中納言菅原麻呂がこだまのように「然るべく」と答えた。
「では帰るといたそう」
 大伴皇子が言うと、葛原皇子が「帰るといたしましょう」と答えた。
 続いて右大臣藤原園人、大納言春日御行、中納言菅原麻呂が「帰るといたしましょう」と答えた。
 大伴皇子が左足を立て、右足を立て、くるりとまわり下がると、葛原皇子が左足を立て、右足を立て、くるりとまわり下がった。
 続いて右大臣藤原園人、大納言春日御行、中納言菅原麻呂が左足を立て、右足を立て、くるりとまわり出て行った。
 かぐやの父は平伏して見送った。


 広忠はもったいつけて退出してゆく貴びとを戸の隙間から見て呟いた。
「あほくさい奴らだな、まとめて俺が叩き斬ってやろうが、」
「なんということを言われますっ、」
 かぐやが怒ると広忠は笑った。
「冗談、冗談だよ。」
「かぐやが困っているのに冗談など言われますか、」
 かぐやはそう言って袖を顔に運んで泣くふりをしてみせた。広忠は姫の肩を抱いてあやまる。
「悪かった、かぐや、泣くな。」
 かぐやは五本の短冊を眺めて溜め息を吐く。
「五人の方、どなたも選ぶわけにはいきません。
 どうやって断ったらいいものか。」
「そんなこと、たやすいもんじゃ。」
 広忠は任せておけとばかりに己れの胸を叩いた。
「よい思案がありますか?」
「うむ、俺と手合わせして勝てば姫と逢わせるというのはどうだ、誰も俺に勝てる筈がないから安心だ。」
「広忠様、そんなこをしたら大騒ぎになります。」
「駄目か?]
「ええ。
 でも、そのような無理難題を出すというのはいいかもしれませんね。」
「無理難題というと、どういうことじゃ?」
 広忠は、かぐやに聞き返した。
「たとえば優曇華(うどんげ)の花のように、噂には聞いてもこの世にありそうもない物を持って来たら、よいと言うのです。」
 広忠は感心して笑みを浮かべた。
「なるほど、それなら、あの腑抜けどもに姫を取られる心配もないな。
 姫は形がいいだけじゃなく、おつむもよいのお。」
「では無理難題を出すとしましょうか。」
 かぐやはにっこりと領いて言った。
「さて、そうと決まると広忠様にお願いがあります。」
「なんじゃ?」
「高雄山寺に唐土帰りの偉いお坊様がいると聞きます。
 広忠様は、その方のもとへ行って、この世にありそうで絶対ありえない珍品を五つ聞いて来てください。
 その五つの珍品を五人の貴びとに出題することにいたしましょう。」
「なるほど、わかった。
 高雄山寺の坊様に聞けばよいのだな。」」
「偉い方なのですからくれぐれも乱暴な真似をしてはなりませんよ。」
「わかった、わかった。」
 広忠は相槌を打ちながらかぐやを抱き寄せた。



 f_02.gif プログ村


【故事メモ 大伴皇子(おおとものみこ)、右大臣 藤原園人(ふじわらそのひと) 】
 大伴皇子は後の淳和天皇。藤原園人は嵯峨天皇の信任が厚かった。死に際して空海も書を贈った。
【 優曇華(うどんげ)の花 】
 インドの想像上の花で、三千年に一度だけ、花を開くという。

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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