銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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五 求婚者たち


 かぐやと契る前の広忠は、溜め息とともに喉の奥から洩れ出て来る怪物に押しつぶされそうであった。
 それが、今や、運命の神の手違いのせいで、かぐやと契るという奇蹟を掴んだ広忠は新たな病に盗り憑かれていた。
 そいつは広忠が目を斜め上に向けるや、すうっと忍び込む病で、そうなると広忠の目は正面に戻っても、眼前の風景ではなく、月明かりの下で輝くかぐやの微笑みを見詰めたままになるのだ。
 そいつはいつでもところかまわず襲ってくる。
 今も、広忠は油を商う店に強盗に入って主を脅したところだったが、主が床下に隠している壺から金を取り出す間に、そいつが襲ってきた。
 そうなると不気味な独り言が洩れるのである。
「へへへ、かぐや、おまえは可愛いのう」
 広忠は口を指が三本入るぐらいの大きさに開いて、にやけて緩んだ唇の端からは、だらしなくよだれまで垂れ出す始末である。
「ははは、かぐやに、だんな様などと呼ばれるとこそばゆいのう。」
 脅された主は、あらぬ方に向いて、にやにやと独り言を洩らす広忠を不気味に思いながらも、しかし、そこは気まぐれに襲われたらひとたまりもない身の上、その手に金の袋をしっかりと握らせると「どうかこれでお引き取りを」と頼み込むのであった。
 すると、広忠はにやけた顔のまま、おとなしく店から立ち去るのである。


 一方、かぐやは、広忠と契ったといっても親には秘密である以上、当然ながら姫に求婚する者が減ることはなかった。
 老父母はすっかり子供をあきらめた頃に、突然、神からの授かりもののように拾ったかぐやが可愛くて可愛くてならず、かぐやの煮えきらない態度と相まって、なかなか姫に婿を迎えようとしなかった。
 しかし、体が疲れやすくなり無理がきかなくなってくると、父母はようやく老い先が長くないことを悟り、すると急に『子の次は孫を』の気持ちが勝ってきた。
「なあ、かぐやよ。」
 老父母は夕餉の席で改まって姫に向かった。
「なんですか、父上、母上。」
「おまえは、まだ髪をあげたての娘のように若々しく美しいことです。」
「我らも若返る思いで嬉しい限りなんじゃ。」
 かぐやは黙って袖で顔を隠して羞じらう。
 父親は顔を崩して照れながら切り出した。
「しかし、どうじゃ、かぐやも、そろそろ夫を迎えては?」
 大きな袖のこちらで、かぐやは顔を強張らせた。
 母親も笑顔で父親の後押しをする。
「かぐや、そうなさいな。
 いくらなんでももう結婚なさる年齢ですよ。」
「先月は国の司まで訪ねて来たのだから、相手に不足はあるまい。
 姫が一番いいと思う方を迎えなさい。」
 そう勧められても、かぐやは押し黙った。
「どうしたの、急に勧めたから驚いたのね。」
 母は姫の気持ちを慮って聞くがかぐやは首を振る。
「そうではありません。
 かぐやはどなたもお迎えしたくありませぬ。」
 かぐやの頑くなな言葉に父母は苦笑する。
「ははっ、またそのように童女の台詞を言う。」
 母は笑みを絶やさずに姫に諭す。
「かぐや、よいですか。
 女というのは年頃になれば殿方を恋し、迎えるのが自然なことなのですよ、
 そして恋の悲しみを知り喜びを知り、玉のような子供を授かり、この世の幸せというものを知るのです。
 それに良い殿方を迎えるのは娘の親孝行ですよ。」
「お許しください、かぐやは婚ぎません。」
 親に一瞬も目を合わせず拒絶するかぐやに、母親はどこか異様な気配を感じて聞いた。
「姫は、もしや、親に内緒で誰かと契っているのではないですか?」
 かぐやはびくっとして息を詰め、顔を左右に小さく揺すった。
 そんなかぐやに父母はにこやかに言う。
「もし、そうなら、それはそれでもいいのよ、
 ただ、きちんと私達にその方を紹介なさいな。」」
「ああ、相手は誰でもよいのじゃ、
 我らは、お前の産んだ可愛い孫を抱かせてもらえれば、それだけでいいのだよ。」
「契った人がいるなら正直に仰いな。」
 そうは言われても極悪非道の強盗広忠が相手だと答えたら、仲を裂かれるのは火を見るよりも明らかだ。
 かぐやは背筋を昇る震えを押し止めると、強い口調で言い放った。
「そんな相手はおりませぬっ!
 吾を、親に隠れて男と契るような娘とお思いですか!」
 老父母は、かぐやの怒りに驚いた。それまで見たこともない、かぐやの、ぎらりとした瞳の光が、恋しい男を守る女の刃だとは、とんと気付かず、老父母はあらぬ疑いをかけたことを重ねて謝り、その晩は縁談の話題を取り下げた。



 f_02.gif プログ村


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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