銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 広忠は、ここは自分と姫が同じような身の上だということをうまく言えばよいのだとようやく頭がまわった。
「尊い人物なんぞ、けつが痒くてなりたくもねえが、親を知らない姫とわしは、ほれ、なんだ、同じ穴の熊かもしれねえな。」
「はあ?」
「いや、熊がいやなら同じ穴の狸でも、同じ穴の猫でもいいんだぞ。」
「ほほ、面白いたとえですね。」
 姫が笑うと、広忠は姫の心をとらえたように錯覚して、ここで一気に口説いててみようと決心した。
「ところで、あのだな、」
 言い出して広忠は喉で息がもつれてしまった。
「ひ、姫に、ち、ちょいと尋ねたいことが、あ、あるんだが、」
 突然、どもりながら切り出す広忠を、姫は何事かと見詰める。
「どんなことでございますか?」
「わ、わしが、ひ、姫のもとに通うてはいかんか?
 わしが、ひ、姫のお、おっ、夫ではおかしいか?」
 広忠の突然の求婚に、姫は頬を仄かに染めて聞き返した。
「もし、断ったらどうされます?」
「その時はだ……。」
 と息を詰めた途端に(その時は姫を道連れに串刺しにして死ぬまでだ)という脅し文句はどこかに引っ込んでしまい、代わって広忠がしたのはみっともない懇願だ。
「姫の考えが変わるまで通いつめるまでじゃ、
 なあ、俺の願いを聞き届けてくれ。
 そもそも顔を俺に隠さんということは、俺に気を許してるという意味ではないか、
 俺の妻となってくれえ。」
 広忠は表情の微妙な変化のひとかけらでも見逃すまいとじいっと姫の顔を凝視めた。
 ふと風が気まぐれにやんで、しばらくの間、虫の声か高鳴るように響いた。
「よいでしょう。」
 姫の声がすると、広忠は大きくまばたいて聞き返す。
「い、今、なんと言った?」
「よいと言いました、そなたの妻になりましょう。」
 広忠は信じられない心地で聞き返す。
「ほ、ほんとうに?
 いやではないのか?」
「いやと言ってほしいのですか?」
 姫が悪戯に言うと、広忠は慌てた。
「だ、だ、だめじゃ、言い直したらいかん。姫はわしの妻になるのだ。」
「ええ。」
 姫は領き、「その代わり」と続けた。
「今後は悪いことをしないと約束してください。約束できないなら妻にはなれません。」
 決然とした姫の言葉だったが、思いがけない奇蹟に広忠は狂喜しそうな勢いだ。
「姫が妻になってくれるなら是非約束したいが、体に染み付いた天職じゃ、なかなかきっぱりとは断ち切九ねえかもしれん。
 でも八百万の神に誓って、いつかはきっぱりと足を洗うから、当面はそれで許してくれねえか?」
 姫は広忠の答えに溜め息を洩らしてから頷いた。
「甲斐性のない約束ですね。
 でも、そういう答え方がまた、そなたの正直さの顕われなのかもしれませんね。」
 広忠は縁に上がり蔀戸を越えると、姫の袖を捉えて手を探った。
 探し当ててみると姫の細い手はかすかに震えている。
 しかし、次の瞬間、姫は広忠の腕の布に気付いて笑った。
「まあ、その腕の絹が真っ黒ではありませんか。そんなになるまでつけっ放しだったのですね。」
「ああ、これか、これは利き腕だから自分ではうまく換えられん。姫にまた換えてもらおうと思ってのう。」
「はい、わかりました。」
「俺は広忠じゃ。姫の名は?」
 広忠が囁くと、姫は恥じらいながら答える。
「かぐやと申します。」
「おう、かぐやか、よい名じゃ。
 俺は先日逢うて以来、かぐやの面影が忘れられず胸の焦げる思いだったぞ。
 こんな俺だが、かぐやにだけはやさしい心持ちになれるんじゃ、安心しろ。」
 そう言って広忠はかぐやを抱きしめた。
 かぐやは過去に抱いたどんな女よりも柔らかい肌をしていた。そして過去に抱いたどんな女よりも熱い肌になった。
 広忠は好き合った者同士で肌を合わせる幸福に酔い痴れた。



 f_02.gif プログ村


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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