銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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クローン細胞

 萌は大学の同級の知夏と茜に誘われて、あまり気の進まないまま、合コンに参加していた。
 幹事の男子が言う。
「ちょっと、ゲームやりたいと思います、古今東西、お題は何がいい?」
 すると乗り気の女子が答える。
「アニメのヒロイン!」
 うわあと拍手が起きて、ゲームが始まった。
 そこまでは萌も集中していたのだが、
 あっ!
 その時、ふたつ向こうのテーブルにいつの間にか彼がいるのを見つけた。
 最近、萌はあちこちで彼が遠くにいるのを見かけている。
 お昼を食べにいった学食の隅っこに座っていた。買い物に出かけたファッションビルのエスカレーターでも見かけた。本屋で雑誌を立ち読みしてたら、彼も立ち読みしてた。
 普通ならすぐ警戒するところだが、だからといっって話しかけたりとか、それ以上接近してくるわけでもない。
 それより、萌はあの男にどこかで会っているような気がしてならないのだ。
 だから誰にも話していない。
 年齢は萌より少し上かもしれない。髪をちょっと立てて、シャツに麻のジャケットをはおって、少し遊び人の匂いがする。
 正直、言うとカッコイイので気になっている萌なのだ。
 どこかで会ったはずなんだよな、でも、思い出せない。
 いったい貴方は何者なの?
「6、7、8、9、10、はい、アウト」
「萌ちゃん、罰ゲームよ」
 隣の茜が言うので、萌はようやく自分がアウトになったのだと気付いた。
 くじを引かされて、幹事が紙を開いて読み上げる。
「向かいの人にほっぺにチューされる!」
 みんな、やんやの拍手である。
「エー、そんなのヤダー」
 嫌がる萌を左右の知夏と茜がテーブルに押し出すと、向かいの男子も左右から押し出されて顔を萌に近づけてくる。
 ま、ほっぺならいいかと萌があきらめた時、
「やめんか、アホ」
 後ろから強い力で引っ張られて、振り向くと、あの彼がテーブルにどんと片足を乗せて怒っていた。
「こんなふざけた遊びがあるか。
 萌、帰るぞ。」
 萌はどうしていいかわからなかった。
 見回すとみんなシラけて、身を引いている。
 そりゃあ、あまり気は進まなかったが、たかがゲームである。ここまでぶちこわさなくてもという気持ちが萌にある。
 それでいて、彼の真剣に怒ってくれる様子にときめいている萌もいる。
「あ、あなたはなんなんですか?」
 遅ればせの幹事の質問に、彼はうなづいて答えた。
「萌の保護者だ」
 みんな、納得できない顔をしながらも、かといって反対できずに、引っ張られて店を出てゆく萌を見送った。

「どうもすみませんでした」
 萌が、一応、そう礼を言うと、彼は喜んだ。
「いいんだよ」
 二人はすぐ近くの喫茶店に入った。
 席について注文を済ますと、彼は言う。
「萌ちゃんが無事でよかった。
 わしはああいう酒飲んでゲームして男女がつきあうってのはいかんと思うんだ。
 あれじゃあロマンも何もないじゃないか。
 ま、古い考え方だろうがな。」
「はあ」
 萌は彼の言うことと彼の格好が合ってないような気がした。
 そこへコーヒーが運ばれてきた。
 コーヒーをひとくち飲んで、萌が言う。
「あの、よくお見かけするんですけど」
「うん、萌ちゃんが心配で、心配で、ついな。許してちょ」
 許してちょかよ、なんだか古いなあと思いつつ萌は聞く。
「あの、お名前は?」
「ああ、秀雄だよ、知ってるだろ?」
 萌は知ってると言われて首を傾げた。
「知りませんけど」
 すると彼はにんまりとして、
「ああ、そろそろ種明かしせにゃならんな。
 わしは南鞍秀雄、萌のお爺ちゃんだよ。」
 ブッ、
 萌は飲みかけていたコーヒーをテーブルに噴き出した。
「お、お爺ちゃん!
 どうして、どう見ても24、5歳だよ!」
 萌がおしぼりでテーブルを拭きながら言うと、彼は笑った。
「ハハハッ、自分の細胞から再生した若い細胞で体を入れ替えたんじゃ。
 金と時間はかかったが、もう完全に若返ったんじゃ」
「そんなのありえない」
「いや、ありえるんじゃよ。
 そもそも、これは作者の銀河さんが再生技術の危惧を述べるためのエッセイなんじゃ」
「聞いてないんですけど、これはどう見ても小説でしょ?」
「それは萌の不注意じゃ、カテゴリーに気付かんかったのかい?」
「あ、ホントだ。ずるいよ。主役だって言うから喜んできたのに」
 そこへ黒いフード付きのマントをまとい、黒いサングラスをかけた男が、お爺ちゃんだの隣に腰掛けた。
「萌ちゃん、怒らない、怒らない。作者銀河です」
「えー、登場可能なわけ、掟破りだよ」
「だって小説じゃないから、小説の掟は、関係ねえよ、だもんね。
 つい先日のニュースだけど、京都大の再生医科学研究所がマウスの皮膚から万能型のiPS細胞を再生させることに成功したんだ。これはノーベル賞級の成果だね」
「じゃ、いいんじゃない?」
 萌が言うと、銀河はうなづいた。
「いいよ。いろんな病気で困ってた人には朗報だ。治療法がなかった病気でもその臓器を再生した臓器に入れ替えれば治療できるんだからすごいよね。
 それまでのクローン技術で使うES細胞は受精卵から作るものだったから倫理的に壁があった、それを経由しないで済むことからローマ法王まで手放しで褒めてる」
「何が危惧すべき問題なわけ?」
「だから病気の治療のためなら問題ないんだ。
 素晴らしい朗報だよ。
 だけど、この爺さんみたいに、単に若返ろうという輩が増えると新たな倫理問題や格差問題になるんじゃないかなと思ってね」
 銀河が言うと、爺さんがむくれた。
「ひどいな、わしが何をしたと言うんじゃ。
 わしは萌の同級生のメアドをゲットして、第二の人生を楽しもうとしているだけじゃないか。婆さんは去年死んだから問題ねえよ」
 にやにやとするお爺ちゃんを見て、萌は言った。
「うーん、やっぱり問題あるかも、考えてみなきゃ」
「うーん、俺もクローンの長編考えてたのに。やりにくくなったんだよな。
 てことで、ES細胞からiPS細胞に変わって再生医療に大きく貢献するだろうけど、それで全ての倫理問題がクリアーになったわけではないかもよ、という主張でした」


 f_02.gif プログ村

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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