銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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三 強盗の恋心

 追捕の手を逃れた広忠は、姫の家からひと山越えた渓谷にある、ねぐらに戻った。
 ねぐらは、広忠が材をかついで運び、大きめの洞窟いっぱいに柱を突き立て、戸板を無理やりはめ込み、力任せに造ったいびつな小屋だった。
 広忠が帰ると、奥にいた女がまるで亭主を迎えるように迎えた。
「お帰りなさいまし。
 御苦労様でした。」
 女は、三流とはいえ貴族の家に生まれ、高貴な姫君に仕えていた侍女であったが、数年前のある夜、強盗に入った広忠にさらわれて、ここに連れて来られたのだ。
 そして広忠に「ここから出てはならぬぞ、女が歩くと飢えた熊が出て食うでな」と脅されると、たとえ広忠がニ、三日留守にしても、自分から険しい渓谷を降りて逃げようとはしなかった。
 さらわれた時、侍女はもはやわが命も長いことあるまいと覚悟した。
 それが少しでも長く生きる道だと信じて、広忠の怒りを買わぬよう、短気をうっかり刺さぬよう注意を払って、飯を作ったり、洗濯をしたり、時には気紛れな広忠の欲望に喜ぶ素振りを見せたりして、飯盛り女として努めてきたのだ。

 今、帰った広忠を見ると、いつものような戦利品を携えてないばかりか、どうやら腕には布を巻いて傷まで負っている様子。
 さては追っ手に痛い目に遭わされたのかもしれぬ。
 広忠の性格を知りつくしていた女は、これはうかつに何があったのかなどと聞いては、かえって生命取りになりかねないと心得て、目をそらしたまま問いかける。
「何か召し上がりますか?」
 しかし、広忠は何も答えず、見向きもしない。
 それでも、返事がないからと気を利かさずにいて殴られたことがあったのを思い出す。
 そこで、女は、かまどで、干し肉と有りあわせの野菜で鍋を作り、酒と共に出してやる。
 すると、広忠は黙ったまま全部平らげた。
「もう少し、御酒をどうぞ」
 女が言うと、広忠は黙って杯にしてる椀を持ち上げた。
 椀に酒を注いでやったが、広忠はそれを宙に持ったまま、沈んだ目をして黙り込んでいる。
 おや、この悪党の目が死んでるようだよ、不気味だこと。
 女の心配をよそに、広忠は酒に口もつけず、さっさと横になり寝てしまった。

 それから数日、小止みなく細い雨が降り続いた。
 その間も広忠はおかしかった。
 雨の日にはよくある、気紛れに女を押し倒すこともせず、強盗にも狩りにも出掛けず、日がな一日、筵に寝そべって雨を眺めているのだ。
 そうして、時々、大きな溜め息を洩らしている。
 これはかつてないことなので、女にはどうしたらよいか、わかりかねた。
 それでも食い糧が心細くなったので、そのことをおそるおそる口に出すと、広忠は頷きもせず、死んだような目つきのまま外へ出かけ、夜遅くに猪を二頭を担いで帰ってきた。

 翌日、ようやく雨がやみ、晴れあがった。
 女は小屋のすぐ外に置いた大樽に十分な雨水が溜まっているのを確かめると、洗濯を思い立ち、右肘を枕に寝ている広忠に言った。
「今日は天気もよいし、その着物を洗濯いたします。
 さあ、脱ぎなされ。」
 黒く汚れた狩衣を脱がせにかかると、広忠は素直に従って袖を抜かせた。
「その汚れた布も洗いましよう。」
 女はそう言って広忠の右腕に巻かれた、茶に変色した布を外そうとした。
 すると、広忠は突然、雷の如く、鼓膜が裂けるほどの大声で
「勝手に触るなっ。」
 怒鳴って、女を激しく突き飛ばした。
「お前のような醜女など要らん、
 とっとと失せろー。」
 女は突かれて内の骨にひびが入ったかもしれぬ胸を押さえて言い返す。
「そ、そのように突然、失せろと言われても困ります。
 熊が巣をつくる険しい谷をおなごに降りられる筈はない、と言われたのは貴方様ですよ。」
「うるさい、ならばこの場で始末してくれようか?」
 広忠が傍らの太刀に手をかけると、女は慌てて、
「ひいーっ」と叫びを上げて、逃げ出した。
 すると広忠は床に太刀を放り出し、大きな溜め息を吐いたかと思うと、右腕の汚れた布を撫でて、それを枕にまた横になった。


 f_02.gif プログ村


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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