銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 広忠が目を開けると蔀戸(しとみど)の外は明るみ始めていた。

「目が覚めましたか。」
 女の囁く声に、はっとして広忠は上半身を起こした。
 そして、すぐ傍らで徴笑んでいる姫を見つけ一瞬、息を呑む。
 姫も顔を隠そうとして思いとどまった。
 透けるような白い肌と艶々とした大きな瞳の姫は、広忠が今まで目にしたどの女より美しく輝いていた。
 ここはどこじゃ?
 姫から戻した目を室の中にめぐらした広忠は、自分が姫の家に忍び込んだまま寝入ってしまったことに思い至り、己れの体にかけられている良い匂いの柑子色(こうじいろ)の単(ひとえ)を眺めてふうと安堵の溜め息を吐く。
 さらに右腕の傷を縛っていた汚い布が絹に替えられているのにも気付く。
「どうしてだ?」
 広忠が右腕を見たまま呟くように聞くと、
「何がです?」
 と、姫は小声で、聞き返した。
 広忠も小声になる。
「何故、俺を密告しなかった?
 これほどされて気付かぬほど深く寝入ってる時なら、いかに間抜けな追っ手でも俺の寝首を捕らえて牢屋に送り込めただろうよ。」
 姫ほ、ほほっと息を洩らして囁く。
「寝顔が童(わらべ)のようにろうたげでしたゆえ、そなたが悪人であるのをすっかり忘れていました。」
 そう言われた広忠は羞恥で額から首の付け根まで真っ赤になったが、不思議と荒々しい言葉は口を突かなかった。
「まあ良いわ。
 俺も男だ、受けた恩は、恩とはっきりさせておきたい。
 おんな、何か欲しいものがあれば言ってみろ。
 必ず願いを叶えてやろう。」
 広忠が聞くと姫は聞き返した。
「必ずですか?」
「必ずじゃ。」
 それを聞いて姫は囁いた。

「ではお願いいたします。
 悪事をお止めくださいませ。」

 広忠はびっくりした。
 どこから見ても凶悪強盗以外の何者でもない自分に向かって、悪事をやめろとは、この姫はよほど怖いもの知らずなのだ。
 広忠は断る。
「悪事は俺の天職じや、
 やめるわけにはいかねえ。」
「必ずと約束したではありませんか。」
 そう言われて、広忠は胸の中で、この女は苦手だと感じる。
「それはだ、形のあるもののことだ。
 何か形ある物にしろ。」
 広忠が言っても、姫は聞かない。
「父上や母上から教わりました。
 生きてるうち悪事ばかり働いていては、死んでから地獄に落ちるそうです。
 そして来世はよくても、犬猫、鶏くらいにしか生まれないのですよ。
 どうか悪事をお止めくださいませ。」
 姫が真剣に論すと広忠は鼻から息を吹いて笑った。
「俺に説教とはお笑いだ、
 俺がどんな悪事を重ねてきたかたっぷり話してやろうか。」
 しかし、広忠がすごんでも姫の態度はびくともせず、
「生まれついての悪人などこの世にいないはずです。
 そなたにだって、きっと善いところがある筈です。」
 姫が自信を込めて断言すると広忠は呆気に取られて口をぽかんと開いた。

 極悪非道とか冷酷非情と言われたことは今まで数限りなくあったが、善いところがあるなどと言われたのは生まれて初めてのことだ。
 そんなところがないことは己れが一番よく知っていたが、この姫に言われてみるとなにやら照れくさくて、もしかしたらどこかに少しはあるかと心の懐を探りかけたから不思議なものだ。

「まったく、お前はおかしな女だな。
 まあ、よい。
 とにかく今度、この家を通りかかることがあれぱ、お前に土産を持って来てやろう。」
 そう言い残すと、広忠は蔀戸から外に出て朝靄の中へ走り去った。


 f_02.gif プログ村


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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