銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 まもなく広忠の言った通り、たくさんの馬の脚音といななき、そして武具が甲冑にすれる音が響き、家の門が激しく叩かれた。

 広忠は姫を睨んで「よいな」と念を押し、姫のお気に入りの蘇芳の帳子(かたびら)が掛かっている几帳(きちょう)の陰に隠れて太刀を構えた。

 武者の声が響く。
「ここを開けよ、」
 さらに、追捕の中将が自ら大声で怒鳴った。
「お上の命により強盗の探索をしておる衛門の中将惟匡である。」
「何の御用でございます?」
 離れの小屋から飛び出た下男が戸を開けながら尋ねると、武者の掲げる松明の中から中将が大雑把に説明して聞かせる。
「都を騒がす凶悪強盗がこのあたりに逃げ込んでおるやもしれん、変わりないか?」
「はい、静かにございます。」
「うむ、主人に問いたいゆえ案内いたせ」

 下男が家の戸口を叩くと主人が戸口に現れた。
「強盗の探索をしておる衛門の中将惟匡である。」
「これはお役目ご苦労さまにございます。」
 追捕の中将は松明に照らされた主人の顔色を仔細に見ながら言う。
「うむ、都を騒がす凶悪強盗が逃げておるのだ。
 主、何か気のついたことはないか?」
「都の強盗ですか?
 ここは都からは馬でも二日かかりますが、」
 主人は不思議そうに言うが、中将が説明して聞かせる。
「並みの足の男ではないのだ。
 馬と駆け比べしても、ばてぬ男なのだ。」
「はあ、それはそれは、」
「それだけでない。
 とんでもない凶悪な大男でのう、怪力をいいことに、今日だけで十数人もひとを殺めておるのじゃ。」
 中将が言うと主人は絶句した。
「……なんとまあ、恐ろしい、」
「それらしき姿を見たり、足音を聞いたりせなんだか?」
「いいえ、手前はいっこうに。」
「そうか。主の他に家族はいるか?」
「あそこに控えてますのが手前の女房です。」
 主人が振り返って言うと、中将は板間に控える女に尋ねる。
「どうだ、お前は怪しい者は見なかったか?」
「いいえ、そのような大男は見かけませんでした」
「家族はこれきりか?」
「あとは奥の部屋に娘が寝てるきりです。」
「うむ、姫にも答えてもらおう。」
 中将が主人に姫の室の戸を開けるように言うと、几帳の陰の広忠は、息を止めて五感と剣先に神経を張りつめた。
「姫よ、起きただろう。
 お役人様の質問に返事を申し上げなさい。」
 主人はそう言いながら姫の室に近寄り戸を開くと、紙燭の炎の光が揺れた。

 姫は扇で顔を隠して「はい」と返事した。
 中将が尋ねる。
「夜分、済まぬな、凶悪な強盗が逃げておるのじゃ。
 怪しい音や姿なぞ見かけなんだか?」
 几帳の陰の広忠は、いつでも飛び出し、斬りつける心構えで、耳をそばだてた。
 すると、姫は落ち着いた声で、
「部屋より一歩も出ませんでしたので、生憎とそれらしき姿も音も、」と答えた。
 中将はうなづいて言う。
「くれぐれも気をつけられよ。」
 広忠は緊張を解いて太刀を下ろした。

「強盗が捕らえられるまで外を出歩かない方がよいだろう。」
 中将は主にそう言い残して立ち去った。

 それから、几帳の陰の広忠は、追っ手の一行が集落から完全に遠ざかるのを待つことにしたのだが、さすがの広忠も山越えを重ねた疲労には勝てないと見え、やがて眠気の波状攻勢に上体を揺らし始めた。
 次第に揺れは大きくなり、しまいに広忠は上体を板敷きの床に倒して眠り込んでしまったのだった。


 f_02.gif プログ村

【故事メモ 几帳(きちょう)
室内用の移動可能な布の衝立。布は帳子(かたびら)と呼ばれ上の横木から垂らすようになっており、縦長のものをつなぎ合わせた形である。しかし、覗き見するため、わざと部分的にほころびをつくってあった。

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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