銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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「聞いてくれるか?」
 藁にもすがる心地の大臣が喜びかけた。
 が、広忠はあっさりと大臣の期待を裏切る。
「だが金の前に、怖がる姫を抱きたいんじゃ。」
 広忠が対屋に渡ろうとするのに大臣はすがりつく。
「のう、姫だけは許してくりょ。
 姫よりよい女をいくらでも世話するに。
 お願いじゃ、姫は東宮と縁談を進めている最中なんじゃ、」
 大臣はどうやら出世の種大事さに必死のようだが、広忠が心変わりするはずがない。
 広忠は斬るのも面倒で「うるさい」と大臣を渡り廊下から蹴落とした。

 対屋に入ると姫は侍女二人と何やら夢中で喋り合っていてなかなか広忠に気付かなかった。
「女、相手しろ。」
 広忠が床に太刀を投げ出して言うと、ようやく三人は踏みつけられた猫のような悲鳴を上げた。
 広忠は耳を裂く声に少しも構わず、一番いい着物を着ていた姫をつかまえるとニ藍の桂(ふたあおいのうちぎ)とその下の単(ひとえ)と長袴を剥ぎ取り、裸にして己の胸に抱きかかえるとそのまま胡坐をかいて座った。
 全裸となった姫はぶるぶると震えながら、やっとの思いで言う。
「い、命ばかりはお助けくだされ。」
「ふふ、怖いか?
 もっと震えろ。」
 広忠のあまりの恐ろしさに姫は素直に素直に「はい」と返事した。恐怖から全身に走る震えは命令されずとも止まる気配はない。
「俺が嫌いか?」
 さすがに姫は素直にうなづけず涙目でかぶりを振る。
「わしはおなごは殺しはせぬことにしとる。言うてみろ、わしが嫌いだと、命令だ。」
 姫は仕方なく気の進まぬまま小さく答える。
「嫌いじゃ。」
「鬼のようだろ?」
「鬼のようじゃ。」
「わっははは。」
 広忠は、己が恐怖の的であるということを確かめると豪快に笑った。
「それでよい、そうこなくてはのう。」

 まもなく飯が運び込まれてきた。
 広忠は震えてむせび泣く全裸の姫を膝に乗せたまま、食事にかかった。

 その夜の広忠はいつにも増して大胆だったか、そうまで悠然とされれば、いかに足の遅いお上でも間に合う。
 衛府の中将は今宵こそ威信回復と意気込み、戦並みの大人数五百人を率いて大臣の屋敷を取り囲んだ。
 食事に満腹した広忠は、姫の震える膝を枕に敷いてのんびり酒を飲んでいた。

 そこへ、突然、四方の戸板が破られ、三十人ほどの武者がなだれ込み、あっという間に姫を引き離して、広忠に縄をかけてぐるぐる巻きにする。
 追捕の宣旨を読み上げる中将を、広忠は片目で一瞥すると鼻から息を抜いた。
「ふん」
「黒面広忠、おぬしの悪運も尽きたな。」
 中将は勝ち誇ったが、広忠は眠そうな声で「酒を邪魔されてはの」と呟き、背の後ろで縛られていた手に力を入れると、手首の縄が千切れた。
「まったく気分が悪いわ。」
 そう言うと、今度は胸を巻いていた縄を糸のごとく引き千切った。
「お、おのれ」
 武者の一人が振りかかる刀を、広忠は徳利で受けて、その武者の手を逆にねじった。
 さらに、広忠は武者を軽々と人形のように持ち上げたかと思うと中将に投げつけ、中将はその場に倒れ込んだ。
 同じように次々に斬りつけてくる武者も人形のように他の武者に投げつけて、またたくまに部屋中に倒されてた武者とその呻き声で満たされた。

「ふぁあーあ」
 広忠は対屋から悠々と歩み出て大きな欠伸をした。
 庭で待機していた鎧姿の武者達ほ、まるで何事もなかったように現れて胸を掻いている広忠に唖然となった。
 捕り方は息を呑んで、誰も飛びかかれない。
 そこで、広忠は袴の紐を緩めると己れの一物を取り出し、しばらく虫の音と競うように小便の音を立てた。
「おのれ、我等をなめおって」
 一人が叫んで斬りかかった。
 酔いで動きの鈍くなっていた広忠は刀を避けきれず、音もなく右腕に傷口かぱっくり開いた。
 しかし、斬りつけた武者がやったと思えた時は殆どなかった。
 すぐに、広忠の凄まじい睨みに震え上がったのだ。
 広忠は袴の紐を結び直すと、次の瞬間、左腕で武士の大刀を奪い、鎧の上から胸と腹をまっぷたつに斬り離した。
 怯える武者どもを睨み渡した広忠は、やにわに猛烈な勢いで走り出した。
 もはや、闘志の萎えかけた武者はあろうことか身を引いて、広忠に道を開けてしまう。
 広忠はあっという間に塀によじ登り、向こう側に飛び降りた。

「何をしてる、追え、追うのだ!」
 ようやくのことで対屋から這い出てきた中将が声を張り上げると、武者たちは我に返ったように、再び広忠を追いかけ出した。
 広忠は着物の袖を裂くと右腕の傷に簡単に巻きつけ、それから、西へひと晩、ひと昼、走りづめ、山を幾つか越えた。


 
 f_02.gif プログ村

【故事メモ ニ藍の桂(ふたあおいのうちぎ) 】
紫に近い濃い青色をした、貴族女性の日常的な着物の上着
【単(ひとえ)
貴族女性が桂の下に着た裏のない着物で通常二枚ぐらい。蛇足、これを十ニ枚重ねても十ニ単ではない。

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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