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銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。


 宇宙人に遭遇すると言えば、夜の道をドライブしていたら上空に円盤が現れたとか、森の中に眩しい光を見つけて近づいて、というのが定番だろう。
 しかし、本物の宇宙人は意外なところにいる。

 その日、僕は叔母の買い物に付き合わされた帰りに電車に乗った。
 車内は立っている乗客は殆どおらず、座席シートはいくつも空いていた。僕は銀の仕切りパイプ脇に腰を下ろした。
 そこでありがちだが僕はスマホを開いてメールやLINEをチェックし出した。
 こういう情報というものは殆どの場合たいして価値がないことは承知されてると思う。愛希奈さんが弥生さんの悪口を言ってきて、弥生さんが愛希奈さんの悪口を言ってきて、グループでは双方仲良しとして振る舞うという情報は知る価値もないのだが、こっちはそれなりの時間を消費させられてしまう。
 その手の情報のせいで僕は向かいに座っている男に気付くのが遅れてしまった。彼の見た目は二十代前半、身長は高くなさそうで彼は色白の肌がつるんとしていたが、だからといって宇宙人とは誰も思わないだろう。僕もスマホに戻ろうとしたのだが、何か違和感を持ってしまった。そしてスマホをいじるふりをしながら彼の違和感の出処を探した。

 彼の膝に置かれていた手は親指以外の手の指を曲げている。よく見ると曲げた状態で人差し指が中指より短く薬指が小指より短いようだ。うん?
 薬指が小指より短いてのは僕の人生上で見た事がないぞ。さらに短い人差し指と薬指は中指と小指よりも黒ずんだ色をしていた。これは一体どういう理由なんだろう?
 目を凝らして見た僕はある推理に辿り着いた。
 彼の手は三本指が本来の形で、人差し指と薬指はダミーなのではないだろうか、という事だ。更に推理が膨らむ。ひょっとしたら人差し指と薬指は閉じられた水かきを折り畳んで指らしく見せているのかもしれないぞ。
 僕は彼の顔を見た。しかしその無表情の顔は色こそ白いもののどう見ても日本人そのもので、宇宙人には見えない。

 僕は遊びのつもりで心の中で(キミは宇宙人だろ?)と呼びかけてみた。
 するとどうだ、彼は急に俯いてしまった。しかも肌の露出している首の付け根辺りが青くなってきた。
 私はテレパシーが通じたらしい事に驚きながらも、彼を緊張から解放すべく急いで(心配ないよ、僕は宇宙人に好意的な地球人だ)と呼びかけた。
 すると彼は不自然な俯いた姿勢を戻し、無表情な顔になった。

 しかし彼は警戒していたのだろう、電車が次の駅に停車すると突然、逃げるように降りてしまった。僕も慌てて飛び降りて彼の後を追いかける。
(警戒しなくていいよ。キミの事は秘密にする)
 僕が心の中で呼びかけると、素直な性格なのか彼は改札を出てその場に立ち止まり僕を待ってくれた。
(ありがとう、僕は多池ていうんだ。もし暇ならその辺の店で少し話をしよう)
(僕らの文明は個人名を持たない、名無しの暇人だ)
 僕は彼をホームから見かけたイタリアンバルに誘った。

 彼は殆ど声を発しなかったが、マルゲリータピザを注文する時に「これ」
とかん高い声を出した。僕がバジリコパスタを頼み、「ビールは飲めるだろう」とそれも注文しようとすると彼は首を左右に振った。
 僕は店員に「ノンアルコールふたつね」と訂正した。
 ノンアルビールで乾杯した後、僕はテレパシーで彼の事を聞いた。

 と言っても殆どはSNSで流れてる情報で驚く内容は何もない。
 彼の父はグレイと呼ばれる目の大きな宇宙人らしい。グレイは地球と似たような歴史を先行して歩み、AIの進化に努め文明全てを機械化させ、個人の感情を捨て全体に帰属させてゆく。その結果、彼らの感情は希薄化し生命の根本である生殖能力を失ってしまい彼らは滅亡に瀕している、そこで彼らは遺伝子の似ている地球人から細胞を貰い生殖能力を復活する計画に着手した。グレイの父と合意アブダクトされた地球人の母の遺伝子により円盤内のカプセルで産まれたグレイ&地球人のハイブリッドチルドレンが彼なのだ。彼らはお返しに地球文明を破滅から守る手助けをすると共に、地球人がグレイ達の過ちを繰り返さないように訴えている。

 話はかなり陳腐で彼が指を開く事はなかったが、僕は彼と友情が築けたのを感じて彼のたぶん三本指の手を掴んで握手した。彼は顔を赤らめて初めて目に感情を込めて僕を見返した。店を出たところで彼は「こっち」と僕を誘導してくれた。7、8分歩くと古ぼけた一軒家があり、どうやらそこが彼の住まいらしかった。草の生えた駐車場に年代物のスプリンターが収まっている。
 てっきり家の中に入れてくれるのかと期待したが、彼は車のドアを開けて指差した。
(君の家まで送ってあげる)
(そうか、ありがとう)
 すると彼は(よく来てくれたね)と英語直訳な言葉を返した。

 彼は運転席に座るとポケットから銀色のカードを取り出した。
(グレイの黒歴史AIパームだよ、実体は重次元展開コンピューターで全ての意識とコンピューターと接続して必要な情報をやり取りできる)
(具体的にどうしてくれるわけ?)
(君の行きたい所を地球の情報から探し出し道順を指示してくれる)
 彼は銀色のカードをダッシュボードに置くと迷いなく車を走らせた。

 ところが僕らは2キロ走った辺りで警察の検問に止められてしまった。
 警察官は窓を開けさせてハイブリッドの彼に免許証の提示を求めた。
(免許あるんだよね?)と僕が聞くと彼は無表情に否定した。
(住民票もないよ、円盤生まれなんだから当然じゃないか)
 彼はダッシュボードの銀色のカードを警察官に渡した。僕は真っ青になった。いくらなんでもそんなカードで誤魔化せる筈がない。
 しかし、警察官は銀色のカードと彼の顔を数回眺めると後ろの警察官に手渡した。僕は唖然とした。AIが警察官の意識に干渉してカードに顔写真や必要事項を浮かび上がらせたとでも言うのか?
 僕が心に思うと彼が(その通り!)と返事した。
(でも警察官が照会してるぞ、もうアウトだよ)
(AIが先回りしてホストコンピューター上にデータを作るから問題ないよ)
 その言葉通り銀色のカードは無事照会に成功したらしくすぐ返された。

 もう開放されると僕が思った時、警察官が彼に意外な言葉を発した。
「お兄さん、もしかしてお酒飲んでる?」
 彼はプレッシャーのせいか真っ赤になった。そこで僕が反論した。
「違います、飲んだのはノンアルですよ」
「なんか息がアルコールなんだよね、ちょっと降りて歩いて見せてよ」
(普通に歩けば大丈夫だよ、ノンアルなんだから)
 僕が言うと彼は溜め息を吐いて車から出て歩き出した。しかし、踏み出した歩き方はどう見ても酔っ払いの歩みでどんどん右に曲がって行く。
 僕は思わず「ああ」と溜め息を吐いた。宇宙人はノンアルコールでも酔っ払ってしまうのか?
(ごめん、そうみたいだよ)

 警察官が彼をパトカーの中に連れ込むと僕は慌てて駆け寄った。
「本当にノンアルですよ」
「お宅は黙ってて」
「彼は人見知りで赤くなっただけです」「彼は平和主義者なんです」「あんたらが野蛮な武器を携帯してるから恐怖でまっすぐ歩けなかったんです」
 懸命に弁護する僕の声を無視して警察官は彼に風船を膨らまさせて呼気検査をした。
「あれえ、おかしいな、ゼロだ」
 警察官はムキになってもう一度風船を膨らまさせたが、結果はまたもゼロだ。
「わかったでしょ、ノンアルです」
「いやあの足取りは少なくとも酒気帯びだ、君もそう思っただろ?」
 僕は頷きそうな気持ちをギリギリ堪えた。
「機械がゼロなら無罪ですよ。疑わしきは罰せずの大原則、知人の弁護士と共に法廷で闘ってもいいですよ」
 僕がスマホで録画しながら宣言すると警察官も弱気になった。
「ただ運転が心配だから、普通に歩ける事だけ再度確認させてよ」
「わかりました、お巡りさんも彼から離れて車内から見て下さい、本当に彼は怖がりなので」

(警察官が車内なら丈夫だろ?)
 僕が訊くと彼は弱々しく頷いた。僕と警察官がそれぞれの車内から見守る中、彼はきちんと歩いて運転席に乗り込んだ。
(やったね、まっすぐ歩けたじゃないか)
 僕がハイタッチしようとすると彼は頭を左右に振った。
(曲がるのを見越して運転席の3メートル左にむかったんだ)
(いや、まっすぐ見えたよ)
(それはAIが意識に干渉してそう見せただけ、すっかり酔ってしまったよ)
(ま、待てよ、じゃあ運転出来るのか?)
(もちろんAIにさせるから安心だよ)
(そうか、そうだね)
(いや、AIに頼ったせいで父の文明は滅亡の危機に瀕したんだから安心じゃないね)
(うん……)

 僕らが黙り込むとAIが選曲したらしいSTAND BY MEがスピーカーから流れ出した。  了





これは架空のお話です。宇宙人差別はやめましょう(笑)



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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