銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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「何見てるの?」
 正隆が寝室の片隅に置いてあるノートパソコンで家電のページを見ていると、妻の奈保美が肩に手を乗せてきた。
「コーヒーメーカーだよ。もうワンランク上のやつに買い替えようかと思ってさ」
 すると正隆の手がパシッと叩かれた。
 振り返ると保奈美の顔が引き攣ってる。
「なんで買い換える必要があるわけ? 今ので十分美味しいじゃない」
 そんなこと言われてもと正隆は反論しかける。
「これは俺の趣味だからぁ……」
「それより掃除機を替える方が先よ」
 保奈美は有無を言わさずに素早く正隆からマウスを奪うと画面を掃除機のページに切り替えた。

 その中の円形の掃除機の写真を保奈美がマウスの軌跡で丸く囲む。
「ほら、今、人気のロボット掃除機よ。買い換えるならこれね!」
「な、何でだよ。それこそ今の掃除機で十分だろう?」
 保奈美は肩で息を吐いた。
「あのねえ、航太郎の友達の家でこの掃除機が増えてるのよ。うちも買い換えなきゃ航太郎が学校で肩身の狭い思いをして可哀想でしょ?」
「たかが家の掃除機ごときでいじめるか」
「それにこの掃除機可愛いんだよ。猫が乗ったまま掃除する動画もあるんだよ」
「お前の反論意味不明だし、うちは猫いないし」
「冷たいひとね」
 保奈美が俯くと正隆は反撃に出る。
「要はお前はさ」
 正隆は一瞬言葉を止めた。この先を言うと妻は怒り出すに違いない。
 しかし、男は非論理的な会話には我慢できない生き物なのだ。正隆は決心して続けた。
「掃除で手抜きしたいだけなんだろ?」

 一瞬にして空気がゾッと凍ったようだ。

 正隆はそっと息を呑んで妻の怒りの衝撃に身構えた。
 すると妻は正面攻撃ではなく、開き直った。
「そうよ。掃除で楽して何が悪いのよ。
 家事はたくさんあって大変だから、それをメーカーが主婦を楽にする白物家電を開発することで日本経済が発展してきたのよ。これが日本経済の基本的な常識、いろはよ」
 正隆は妻の意見の凄みに(この掃除機はアメリカ製だぞ)という反論を飲み込んだ。

「だからこの掃除機を買います」
 保奈美はキリッと結論づけた。

 正隆はこれ以上の反論をあきらめ精一杯の嫌味を言ってみる。
「これ高くないか?」
「なんのために価格比較サイトがあるのよ」
 妻は比較サイトに移ってコピーした型番を貼り付けてボタンを押した。
「ちっ! 2割安いだけのアマゾウが最安か」
 妻は舌打ちするとアマゾウという通販サイトに飛び、円形の写真がついてる商品内容をチェックした。そして右サイドに「こちらからも買えます」という文字を見つけた。
「わ、こっちの方が更に五千円安いよ」
 妻は同じく円形の写真がついてるページを開いて瞬く間にカートに入れるをクリックして、手続きを完了した。
「念のために今のページを保存しとけよ」
 正隆が言うと、保奈美はページごとパソコンの中に保存した。
「これで明後日の土曜日には届く筈よ。楽しみね」
 保奈美は嬉しそうに正隆を見つめた。こんなに喜んでくれるならまあいいか。正隆は「そうだな」と頷いた。

 ◇

 土曜日の午前、チャイムが鳴るとソファで待っていた保奈美は駆けて行った。
 航太郎とテレビでゴルフの対戦ゲームをしていた正隆は保奈美の後ろ姿を見やって微笑んだ。
 航太郎は「何、出前取ったの?」と聞く。
「いや、たぶん掃除機だ」
「なあんだ、つまんないの」
「クラスで家の掃除機をルンバに替えた友達いるんだろ?」
「ああ、いるよ。でも掃除するだけだよ。珍しいのは最初の三分だけ。アホらしい」
「やっぱりな。そんなもんか」
「あんなの買うんだったらラジコンの方がましというのがクラスの世論」
「世論か」
 正隆は味方を得た嬉しさにニヤニヤとした。
 そこで玄関から保奈美が声を上げた。
「あなた、ちょっと来て。早く!」
 正隆はゲームのコントローラーを置いて立ち上がった。

 そこには宅配の業者ではなく海老茶色のジャージを着た老女が立っていた。
「どうした?」
 正隆が問うと振り向いた保奈美の顔は怒りで引き攣っていた。
「このお婆さん、詐欺なのよ」
 すると老女が正隆に言った。
「私が『ルン婆』だって言ってるのに、この奥さんが受け入れないんです」
「お婆さんがルンバ?」
 正隆もひどい駄洒落に口があんぐりと開いた。
「ひどいでしょ? 警察に突き出しましょうよ」
「いきなり警察ってのも穏やかじゃない。まず事情を聞いてみよう。お婆さん、説明してくれますか?」
 すると老女は頷いて言った。
「だからお宅がネットで私を注文したので私が来たんです。問題ないでしょ」
「婆さんなんて注文してないわよ」
 保奈美が文句を言うと正隆も同調した。
「うちが注文したのは掃除機なんですよ」
 すると老女は首を左右に振った。
「そんなことはない。私はたしかに注文されたんだ」
 正隆は勝ち誇って言った。
「お婆さん、それは言いがかりというもんです。
 注文の画面はパソコンに保存してあるから私たちの主張が正しいのは明白ですよ」
「ほー、保存してたの。なら話は早いよ」
 老女は「お邪魔するよ」と言いながら家の中に上がり込んだ。
「坊や、こんにちは」
「こ、こんちは」
 老女は正隆を振り向いて聞く。
「じゃあ保存した証拠を出しなさいよ」

 ◇

 正隆は保存してあった画面を印刷すると、読みながら老女と保奈美の待ち受けるリビングの扉を開けた。
「ほうらちゃんと保存してあるんだから、あんたの詐欺は明白よ」
 保奈美が勝ち誇って老女に言ったが、正隆は気まずそうに呟いた。
「なんだかこのお婆さんの主張で間違いないみたいだ。お前がよく読まないからいけないんだ」
 保奈美は口をあんぐりと開けて言い返した。
「何を言ってるの、私は写真を確かに見たもの」
 正隆は首を左右に力なく振る。
「そうなんだがな、写真の脇に、この写真は実際の商品と異なる場合がありますって注釈が付いてる」
「その手の但し書きはよく見るけど、だからってそんなの言いがかりだわ」
「それに商品の説明には商品名が究極のエコ『ルン婆』。消費電力なし。
 高さ151センチ、幅39センチ、奥行き21センチ、重量47キロ。
 能力掃除等家事全般。本名秋元ルン。1944年生産て正確に書いてある。
 お前、この説明を全然読まなかっただろ?」
「そんな、ひどいよ、詐欺よ、訴えてやるうっ!」
 いきり立つ保奈美に老女は余裕の笑みを浮かべて言い放った。
「訴えても証拠がある以上、負けるのはそっちでしょ。それに私はなまけもののあんたの代わりに毎日ちゃんと掃除とかしてあげるんだから文句ないでしょ。空いてる部屋もあるみたいだし、この家に私を置きなさいよ」
 
 ◇

 今では保奈美は少しの食費だけでお手伝いさんを雇えてすっかり満足している。掃除はもちろん洗濯、料理までしてくれるうえに姑のように煩しいこともないのだ。
 一方、正隆は新たな不満に悩まされていた。
 ルン婆こと秋元ルンがなんとメイドコスプレするのだ。帰宅するとメイド服のミニスカートから生足を出したルン婆に「お帰りなさいませ、御主人様~」と気色悪い声で出迎えられ、それはもう我が家が冥土喫茶になった気分なのだ。南無~。


【“ルンバが家にやって来た!”の続きを読む】
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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