銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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映画「アメリ」についてネタバレを含みます。
アップ時現在、Gyaoの映画-コメディで公開されてるので暇があればそちらをどうぞ



 今やDVDや衛星放送に押されて風前の灯火となっているが、それでも巨大人口のおかげで東京にある名画座はなんとかやっている。
 銀河座はそんな名画座のひとつだ。
 その映写室には逆転装置すらない古色蒼然たる2台の映写機が並んでいる。今、左側の映写機が強力なキセノンランプでスクリーンに向かって映像を投射しているところだ。

 和樹は右側の映写機の上部マガジンにひと抱えあるフィルムを差し込んだ。
「ピントどう?」
 和樹は小声で聞いた。
 映写室はもちろん部外者立ち入り禁止だが、和樹が遅番の日は最終回にこっそり美佳を入れてやることがある。OLの美佳とは付き合いだして3ケ月、キスまでの関係だ。
 ワンカールボブの美佳はスクリーンを見詰めたまま、右側の映写機の向こうからオーケーを指で示した。
 今日の上映は「アメリ」。空想好きなアメリが恋に落ち、彼女らしいまわりくどいやり方で彼にアタックするという話だ。美佳は丸椅子に腰掛けて映写機横の小窓から映画を観ていて、時々、クスクス、フフとか笑っている。

 和樹は上部マガジンにセットしたフィルムの末端をするすると2メートルほど引き出して、映写機中央上部のギヤに通して適度な撓みをもたせる。
 続いて中央下部のギヤも通して、サウンドピックアップを通してギヤのカバーを噛ませて閉じると、ギヤを少しまわして送りが問題ないのを確認した。
 そして下に垂れている末端を下のマガジンの空リールにまきつけてさらに回して少し巻き取らせておく。
 最後にバズーカ砲のような長いレンズのついた中央部を引き寄せてバチンと閉めると、仕上げに手動のシャッターを開いておく。
 こうしておけば、左側の映写機のフィルムの終わり近くにつけてある銀紙がセンサーを通る時に信号が流れて、この右側の映写機が動き出し、左側のフィルムが終わると同時に右側の電動シャッターが開いて映像が途切れずにつながるという仕組みだ。
 もっとも今やこの忙しい交互映写をしているのはマガジンリールの小さい名画座ぐらいで、大きなロードショーの映画館(コヤ)では水平に巻き取る巨大なノンリワインド装置で全編つなげたフィルムを供給するので映写機は一台で済んでしまうのだ。

 フィルムのセットを終えた和樹はレターケースから板チョコを取り出し、銀紙を剥がすと丁寧に伸ばして引き出しに仕舞った。他所の映画館ではどうか知らないが、銀河座ではスイッチの役目をする銀紙は板チョコの包み紙を両面テープに貼って使う伝統なので棚にはいつも板チョコがあるのだ。
 割った板チョコを美佳の手前に差し出すと、美佳は「サンキュ」と言ってチョコを齧りながらスクリーンに観入った。

 和樹も面白そうだったのでこの「アメリ」は既に非番の時に客席で通しで観ていた。だが観終わった後に和樹は納得いかない感想を持っていた。
 もっとも美佳にはまだそのことを告げてない。今日、美佳が観終わったら言ってやるつもりでいる。
 
 映画の上映時間も残り15分を切ったところで、和樹が映写の終わったフィルムを棚にしまっていると、静かに事務室に通じるドアが開いた。
 やばい!
 和樹は真っ青になった。
 ドアから顔を突き入れて来たのはこの銀河座のオーナー支配人であり、映写技師長でもある織田さんだ。アルコールが入ってるようで少し頬が赤い。
「よっ、問題ないか」
「えっ、ええ」
 和樹が答えた時、織田さんは映写機の横の丸椅子に座る美佳を見つけて、短く会釈を交わした。
「ちょっと来い」
 和樹は織田さんに映写室の外に引っ張り出された。
 なにしろ織田さんは、みかじめ料を取りに来るヤクザを怒鳴りつけて返してしまうほどの怖いひとなのだ。部外者立ち入り禁止を破った和樹は近所に救急心臓マッサージの器械が置いてあるのはどこだったかと真剣に考えながら織田さんの顔色を窺った。
 すると織田さんは笑って言った。
「おい、あれ、ちゃんと持ってるか?」
「はあ?」
 和樹が何のことかと思っていると織田さんは財布を開いて、中からコンドームのパッケージを2個取りだすと和樹の手に握らせた。
「奥のソフアな、使っていいから。へへへ、頑張れよ」
 織田さんは手の甲で和樹の胸をポンとはたいて「戸締り気をつけろ」と台詞を吐いてすたすたと去って行った。

 和樹はコンドームをジーンズのポケットに仕舞うと、映写室に戻った。
「今の誰?」
 美佳が小声で聞いてきたので、和樹も小声で返す。
「支配人だよ。叱られると思ったら見逃してくれた」
「そう、よかった」
 和樹はスクリーンを見た。
 丁度、アメリとイケメンの彼が向き合っている。これからキスを交わそうという一番の山場だ。
 和樹は我慢できなくなって美佳に言ってしまう。
「おかしいだろ?」
「えっ?」
「最初、八百屋のうすのろが出てきた時にさ、アメリが恋する相手は絶対こいつだと思ったのに。いつのまにかイケメンが相手でさ。あんなの、うすのろが証明写真機の下からごそごそ写真を集めてても全然いいわけだろ」
 美佳は小首を傾げて言う。
「うーん。でも、だからといってイケメンがいけないとは思わないけど」
「だからさ。女性客の受けを狙ってイケメンにしたんだよ。しかも無理にイケメンにした後ろめたさがあるからちょっと近づき難いポルノショップの店員に設定してさ」
 和樹は自分でもしつこいかなと思いつつ口を閉じることができなかった。
 美佳は呆れたように普通の声で言い放った。
「それって僻みじゃないの」
 和樹もつい普通の大きさの声で返す。
「僻みじゃないさ。八百屋のうすのろでも十分美しい話になるのに、算盤をはじいてイケメンを持ってきたところに毒を感じるんだよ、実際それでヒットしたしね」
 映写室の窓は薄いガラスなので普通の話し声でも今みたいな静かなラブシーンでは声が漏れてしまう恐れがあるのだ。和樹がちらりと客席を見遣ると、こちらを振り返る人の頭がひとつ見えた。まずい。
 美佳も怒ったように言う。
「いいから黙ってて、私は今観てるんだから」
 まずい。和樹は黙り込んだ。

 なんで俺はこんなにムキになってしまったんだろう。しかも上映中なのに。
 そう思いつつスクリーンを見詰めていた和樹はうん?と疑問を感じて、急いでメモ用紙を一枚切り取り、リールに巻き取られていくフィルムに挟み込んだ。一瞬、イケメンの顔になにか違うものが映った気がしたのだ。ただ、映画は1秒に24枚のコマが流れているのでそれが何かはわからなかったが、確かに1コマは違う何かが映っている筈だ。
 映画はまもなく「ローマの休日」を思わせるようなバイクに乗ったアメリとイケメンが街を駆け抜けるシーンになり、クレジットに移った。
 
 スクリーンから目を上げた美佳は背伸びすると丸椅子から立ち上がった。そして棚のフィルムをチェックしている和樹の前に来て言った。
「面白かったよ」
 和樹は謝った。
「うん。さっきはごめん」
 美佳は首を横に振った。
「いいよ」
「さっきイケメンの顔に何かおかしなものがあったね」
「え、気がつかなかったよ」
「そう、確かめてみようか」

 映画が終わり、惰性で回るフィルムの末端がマガジンの底を打ってパタパタと音を立てている。
 和樹は映写機を止めると、すぐさまマガジンからフィルムを取り出して、巻き戻し機にセットする。フィルムの途中にメモ用紙が半分顔を出していた。
 巻き戻しのスイッチを入れ、メモ用紙が落ちる手前でスイッチを切り、手でまわしてゆくとメモ用紙がはらりと落ちた。フィルムを引き出して蛍光灯にかざしてチェックしてゆくと、不自然な一枚が見つかった。
 和樹は笑って美佳を振り返った。
「ふふふっ、どこかの映写技師がすり替えたみたいだよ」
「どういうこと?」
 和樹は美佳をそばに引き寄せ、すり替えられた一枚を見せた。
「何、これ」
 美佳は声を上げて笑みを浮かべた。
 1秒分に24コマだからイケメンのシーンではイケメンの連続の筈なのだが、その一枚だけ、ダースベイダーのアップのコマが割り込んでいたのだ。

「きっとすり替えた映写技師も僕と同じ意見だったんだな」
「映写技師には僻みっぽいひとが多いのね」
「僻みじゃないってば」
 和樹はまた腹を立てそうになった。
「でもね」と美佳は微笑んで続けた。
「私がアメリだったら、相手はイケメンじゃなくて和樹にする」
 美佳は目を閉じて唇を少し上げ、和樹は美佳を抱きしめてキスした。

 映写室の奥には土曜のオールナイト明けに仮眠するためのソフアがある。僕と美佳はそこで結ばれた。これがアメリイン銀河座だ。    了
 


映画のレビューを覗いたら「少女マンガみたい」と書いてあった。
そうか、それならイケメンでなきゃならないんだ。畏れ入りましたm(_ _)m
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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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