銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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これはヴァッキーノさんところの「穴」をテーマにしたショート企画で書いたものです。
ルールのようなものは
1 どこかの街に突然開いた穴に関すること。
2 大きな十字型の痣が手にある男がちょっとだけでも登場すること。
3 7月14日(水)まで募集! だそうです!


穴だけ売り

 朝の出勤時間帯。新宿の駅ビルを早足に抜けて会社へと急ぐOL倉本可奈の耳に竿竹売りのメロディーが聞こえてきた。

「……移動販売です。1回たったの百円。20年前と同じお値段です。はい、いらっしゃいませ」
 可奈は「こんな街中で竿竹売り?」と不思議に思った。さらに耳を澄ますとスピーカーから流れる竿竹売りのセリフは肝心な商品が違っていた。
「穴屋~、穴だけ~。穴屋~、穴だけ~。
 こちらは穴だけ売りの移動販売です。1回たったの百円。
 20年前と同じお値段です。はい、いらっしゃいませ」
 穴だけを売るってどういうこと?
 疑問符を抱えたまま可奈は、有名な占い師『新宿のママ』が昼頃から出店するビル前にさしかかった。
 すると新宿のママが出店する場所にボロをまとった中東系、長髪で口髭を生やした男が立っていた。背後の壁には大きな布がガムテープでカーテンのように貼り付けてある。穴だけ売りの呼び込みは男の足元のラジカセから流れているようだ。

 ふふッ、チョー胡散臭いなあ。
 可奈は微苦笑しながら脇を通り抜けようとした。
 すると長髪口髭の男が呼び止めた。

「そこを行く女優よ、待ちなさい。穴を買いなさい。穴に入る羊は幸いです」

 プッ、私が女優のわけないだろ。
 それでも可奈はちょっと嬉しくなって思わず足を止めてしまった。

「私は言われました。穴に入らない羊が幸せになる道は駱駝が針の穴を通るよりムツカシイだろう」
 長髪口髭の男は日焼けしており目ヂカラがあった。そして可奈を招くように差し出す手には大きな十字型の痣があった。
「穴ってどこにあるんですか?」
 可奈がなにげなく尋ねると長髪口髭の男はビルの壁に貼ってあるカーテンの裾を持ち上げて見せた。
 するとそこにはひと一人がすっぽり立って入れる穴が開いている。
「す、すごい! てか、ビルの人に叱られて捕まりますよ」
 長髪口髭の男は平然と言った。
「信じる者は救われます。穴に入った羊は魂の平穏と幸せを得るでしょう」

 そこへ可奈の背後から2年先輩の営業冴木匡男の声がした。
「倉本、こんなとこで何してるんだ?」
 可奈は冴木に説明する。
「あ、冴木さん、穴に入ると幸せになれるって言うんです」
「まさか!
 お前、インチキだろ?」
 冴木はハッキリと言ってやったが、長髪口髭の男は寂しそうに微笑んだ。
「信じる者は救われます。穴に入った羊は魂の平穏と幸せを得るでしょう」

 可奈は長髪口髭の男の寂しそうな顔にグッときて冴木に言った。
「どうせ百円だし、一回だけ入ってみます」
「やめとけよ」
 冴木が止める手を振り切って、可奈は長髪口髭の男に百円を払った。
 すると長髪口髭の男はカーテンの裾をめくって可奈の手を取って穴に入れた。

 なあんだ。
 中はただの暗い穴だ。
 だが、次の瞬間、可奈は気持ちが急に癒されるのを味わい思わず呟いた。

「なんだろう、これ、この癒される感じ!」
 
「はい、オシマイね」
 長髪口髭の男は可奈の手を引いて引っ張り出した。
「えーっ、もうおしまいなの?」
 そう不服を述べる可奈の顔には幸せそうな余韻が満ちていた。
「百円で1回5秒ね」
「もう1回」
 可奈がもう百円を払おうとすると長髪口髭の男は首を横にした。
「百円は最初のお試しだけ。2回目以降は30秒千円ね」
「ぼったくり」
 そう文句を言いながらも可奈は千円を財布から取り出そうとする。
「おい、倉本っ、どうかしてるぞ。お前、騙されてんだぞ」
 冴木は止めようとするが可奈は聞かない。
「ううん、中に入るとほんとに気持ちよくて幸せを感じるんです」
 
 千円を受け取った長髪口髭の男は再びカーテンの裾をめくって可奈を穴に入れた。

 そして30秒後に引っ張り出された可奈は癒されてうっとりしていた。
「ふわああ、幸せーっ。
 嘘じゃないから、冴木さんもちょっとだけ入ってみたら」

 そう言われた冴木も可奈のうっとりした顔を眺めながら、百円だけなら騙されてもいいかと決心して長髪口髭の男にお試し料金を払った。
 長髪口髭の男はカーテンの裾をめくって冴木の手を取って穴に入れる。

 中はただの暗い穴なのだが……。
「ははあ~、ほんとだあ、
 こりゃあいいな~」

 そう言いながら冴木は穴から引っ張り出された。
「温泉よりも癒される、どうしてだろ?」
 冴木が呟くと、長髪口髭の男は言った。
「迷える子羊よ、貴方は今まで恥ずかしい失敗をたくさん重ねました。
 恥ずかしい失敗の度に『穴があったら入りたい』と切実に思い、その気持ちが満たされないまま貴方の心に次々と溜まっていったのです。
 今、穴の中で、溜まりに溜まってた貴方の辛い思いが少しずつ溶けたのです。
 穴を与えられた羊は幸いです」
「そうか納得!」「素晴しい!」
 冴木と可奈は財布から千円札を取り出した。
「お兄さん、もう1回だ」「私ももう1回」
 すると長髪口髭の男は「オー、ゴメなさいよ」と断って「次のお客さんの番が来たのです。貴方たちは羊の列の最後に並びなさい」と後ろを指差した。 

 そこにはすでに50人ぐらいの行列が出来ている。
「オーマイゴッド! どうする冴木さん?」
「そろそろ会社行かないと遅刻だぞ」
「仕方ないですね」
 二人はあきらめようと決めたのだが、その直後、可奈は冴木の足元に目を止めた。

「あれ、冴木さんの靴、右は茶、左は黒って、根本的に違うよ!」 
「ワッ、やベーっ!」
 冴木は頬を染めて靴を手で覆い隠した。
「玄関の照明が切れててさ、暗いとこで手探りで履いたから間違ったんだな。俺ってこんなんでずっと歩いて来たのか、マジ恥ずかしッ、穴があったら入りたいッ!」
 そう叫んで冴木はハッとした。
「俺、やっぱり列に並んで癒された後に靴買ってから行くからさ。倉本は先に行ってっ、ていうか」
 そこで冴木は可奈の前髪についてるピンクのカーラーを指差した。
「倉本ったら頭にカーラーつけたままじゃないか」
 可奈は頭に手をあててカーラーの感触に悲鳴を上げた。
「キャーッ、今日はずっとイイ男たちに優しい笑顔で見つめられてラッキー、モテまくりと思ってたら、皆に笑われてたのね。
 もおー死にそーッ、穴があったら入りたいッ!」
 可奈は額から胸元まで真っ赤になってカーラーを取ると、携帯で上司に電話した。
「倉本です。おはようございます。さっき新宿駅は出たんですが途中に避けられない穴があって、ええ、なぜか穴があるんですよ。そこから出るのがすごい行列、じゃないや、ひどい渋滞してるんでかなり遅れると思います、あ、営業の冴木さんも穴にはまっててかなり遅れると思います、すみません」
 二人はいそいそと行列の最後尾に並んだ。

 この『穴だけ売り』はかなり好評らしい、近くで見かけたらお試しあれ。  了




企画のエントリーは次の皆さんです。まだ読んでない方は是非!

おさかさんの 『穴が開いた』
矢菱虎犇さんの 『穴』
りんさんさんの 『穴(サラリーマンの憂鬱)』
たろすけ(すけピン)さんの 『穴、はじめました。』
儚い預言者さんの 『穴』
ia.さんの 『穴 (怖そうで怖くない少し怖いホラー)』
レイバックさんの 『Hole』
ヴァッキーノさんの 『穴 ―The Hole― 』

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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