銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ
 水曜日、沢内愛美の誕生日がやって来た。
 カイワレ君が席にランドセルをかけると、教室の隅で女子が沢内愛美を囲んでいた。
 クラスの中でも男子並みに声が大きい厚川留美が「私も用が済んだら必ず愛美の誕生パーティーに行くからね」と言っている。
「ありがと、私、みんなにクッキー焼くから」と愛美の声が聞こえた。どういうわけか愛美の声は小さくてもカイワレ君の耳に届くのだ。
 そこへ猫じゃらし君が入ってきて、いきなりカイワレ君の肩を叩いた。
「よ、緊張すんなよ、きっとうまくいくって」
「な、何が?」
 カイワレ君が聞き返すと、猫じゃらし君は声をひそめた。
「沢内にプレゼント渡して告白すんだろ」
 カイワレ君は頷いた。
「あ、ああ。き、緊張なんかしてないよ」
「顔と声がもう緊張してんだよ。どこで渡す?」
「夕方、沢内の家に行って渡す」
「まあ、がんばれよ。大丈夫、俺がついているから」
「猫じゃらしもついて来てくれるの?」
「そうじゃない。離れたとこから見えないパワーでカイワレを応援するってことだ」
「う、うん」
 そう言いながら少し心細く思うカイワレ君であった。

 ◇

 カイワレ君が沢内愛美の家に着きチャイムを鳴らすと、愛美の母親らしきおばさんが玄関を開けてくれた。そしてカイワレ君を見て娘の同級生と悟ったのだろう親しそうに声をかけてきた。
「まあ、いらっしゃい」
 女子クラスメートたちの靴で踏み場もない玄関のスペースを見ながらカイワレ君は挨拶した。
「あのう、僕、同級生の櫛田です」
「ああ、あなたが櫛田君。いつも愛美がお世話になってます」
「いえ、お世話はしてないんですけど。あの、これ、渡したくて」
 カイワレはちらりと手の紙袋を見せた。
「まあ、誕生日プレゼントかしら、喜ぶわ。上がって渡す?」
「いえ、ここでいいです」
「そう、そうね。パーティーは女の子ばかりだから男の子一人じゃあ困るわよね。じゃあちょっと呼んで来るわね」
「はい」
 カイワレ君はここは愛美の吐いた息が濃いんだなと思って深呼吸した。そこへ現れた愛美はピンクの裾が広がったワンピースに、ほんのりと口紅をしているらしく唇がいつもより赤かった。
「櫛田君、お手紙どうもありがと」
 愛美はいきなりそう言ったが、カイワレ君は戸惑った。
「手紙って?」
「朝、うちのポストに入れてたでしょ」
「いや、手紙なんて。あっもしかして」
 カイワレ君はすぐに猫じゃらし君の仕業だと勘付いた。そんなことをするのはやつしかいない。
「じゃあそれきっと猫じゃらしのやつが僕の名前で置いてったのかもしれない」
「そうか! 猫じゃらしね。猫じゃらしはクラス中の女子に告白してるからね。学年の半分の女子は告白されたって噂だよ」
「へえー」
「そんなひとに告白されても誰も嬉しくないって」
 愛美は笑った。
「変だと思ったんだ。どっかで聞いたようなセリフばかり並べたラブレターでさ。櫛田君てそういう感じじゃないもん。それにプレゼント渡す時、言えないと困るからとか書いてあってさ。それも変でしょ」
 まったく、猫じゃらしときたら。カイワレ君はありがた迷惑って言葉がぴったりくる場面を初めて知った。
「じゃあその手紙はなかったことにしといてくれる」
「ええ」
「で、これ、誕生日プレゼント、受け取ってくれる?」
 カイワレ君はスーパーの小さな薄茶色の紙袋を差し出した。
「それって、スーパーで鯛焼きとか入れてくれる袋」
 愛美の声と目に落胆の気配が見えたので、カイワレ君は焦った。
「い、いけなかった?」
「ううん、いいの。ありがと」
 愛美は紙袋を受け取ると、作り笑顔を見せた。   
「あの鉛筆なんだ。本当は花束も買ったんだけど。俺、おっちょこちょいで枯らしちゃって。あの、俺は、ま、まな……」
 カイワレ君は告白しようとしたが、愛美は急いで言った。
「じゃあさ、私、みんなが待ってるから戻るね。櫛田君ありがと」
「あ、ああ。じゃあ」
 カイワレ君が仕方なくその場で手を振ると愛美は奥に消えた。
 すると奥の部屋から厚川留美の大きな声がした。
「カイワレ、まさかプレゼント持って来たの」
 カイワレ君は聞き耳を立てたが、愛美の声は聞こえなかった。
「え、忘れ物を届けに来たの、紛らわしいわね」
 女子たちが一斉に笑った。カイワレ君のプレゼントがちゃんとしたものなら愛美は皆に見せたのかもしれない。しかし、つまらない鉛筆だったから恥ずかしく感じて皆に隠したのだろう。
 カイワレ君は肩を落として、そっと玄関から出た。
 
 ◇ 

 その夜、猫じゃらし君からカイワレ君に電話があった。
『どうだったよ?』
 カイワレ君は少々自棄になって猫じゃらし君に言った。
『どうもこうもないよ。猫じゃらしが変な手紙入れるから白い目で見られたぞ』
『それはな、沢内のやつ、照れてるんだよ』
『おかげで俺のプレゼントまで忘れ物だって言われたんだぞ』
『それはカイワレの力不足だろ』
『……それもあるかもしれないけど』
『ま、しょげるなって』
『ひとつわかったよ』
『何が?』
『猫じゃらしは誰にでも好きだって言ってるみたいだな、女子にすごく評判悪いぞ』
 カイワレ君が言うと、珍しく猫じゃらし君はしょんぼりと言った。
『はあ、今さらおとなしくするのも変だしな。とにかくがっかりすんなよ。女子はいっぱいいるんだから』
『そこが俺と猫じゃらしで違うところなんだよ』
『とにかく、また学校でな』
『うん』 
 受話器を置いて5秒もしないうちにまた電話が鳴った。
 カイワレ君は受話器を上げるなり言った。
『なんだ、まだ何か言いたいのか』
 すると耳に聞こえてきたのは愛しい声だ。
『私、沢内愛美』
 カイワレ君はびっくりして電話に頭を下げた。
『あ、ごめん、猫じゃらしかと思った』
『うん。櫛田君、今日は誕生日プレゼントをどうもありがとう。鉛筆の箱を開けたら1本足りなくて、そこに手紙が丸めて入れてあったよ』
 愛美の声にカイワレ君はホッとした。忘れ物扱いされてもう捨てられたかもしれないと心配していたのだ。
『うん』
『手紙読んだよ。なんかとっても嬉しかった。櫛田君はいい人だなあって感動した』 
『ほんと?』
 言いながらカイワレ君はにやにやして急に顔がゆるんだ。
『うん。今まで男子からもらった手紙で一番よかった』
『ほんと?』
『これからもっていうか、これからはもっと仲良くしてね』
『うん』
 心の中でやったあと思った。
『うんだけ?』
 愛美にそう聞かれてカイワレ君は慌てて言った。
『す、好きです』
『ありがと。私もたぶん好き』
 カイワレ君は『あっ』と言ったきり嬉しさで固まって電話が切れた後もずっと受話器を握り締めていた。 

 ◇

 電話を切った愛美は再びカイワレ君の手紙を読み返した。


 沢内愛美さんへ。

 こんちは、櫛田悠樹です。

 11歳の誕生日、おめでとう! 

 ほんとは愛美さんんに似合うもっときれいなものを贈りたくて日曜日に花束を買ったんだけど、保存の仕方を知らなくて枯れてしまったんだ。

 で、鉛筆になったんだ。

 猫じゃらしのやつが愛美さんもシャープペンだからだめだと言ったけど、僕はだから鉛筆は使わずに取っておいてもらえそうだって考えました。でも鉛筆でゴメンナサイ。

 沢内愛美さんのことは2年生の時に廊下で電気の工事をしてた時に一人しか通れる幅がなくて、隣のクラスだった沢内愛美さんが笑顔で道を譲ってくれました。

 で、僕はその時の愛美さんの優しい笑顔がひと目で好きになってしまいました。

 それでクラス替えで一緒になりたいと思ってたら、5年で同じクラスになれて、僕はすごく幸せです。

 で、僕はこれからもずっと愛美さんのことを好きでいます。

 選び直したプレゼントはスーパーの文房具売り場を探してたら、この鉛筆がいいなあと思いました。

 だってちょうど12本だから、1年1本として今までの11年分の愛美さんの誕生日のお祝いになると思ったんだ。

 で、今回は11本。来年の誕生日にはもちろんもう1本、鉛筆を贈ります。

 そうやって僕は毎年毎年、愛美さんの誕生日に鉛筆を贈ります。

 だから愛美さんも使わないでとっておいてください。

 僕はこれからもずっと愛美さんのことを好きでいます。

 よかったら、いつか愛美さんも僕のことを好きになってくれたら、嬉しくてきっと僕は空も飛べると思います。

 PS. 鉛筆のHBはハッピーバースディのつもりです。   

  



カイワレ君の手紙でスピッツの「空も飛べるはず」を思い出しました。懐かしい方もいるんじゃないかな。






 ↓ おひとつ、お好みを、ポチお願いします
 プログ村

 ホーム トップへ




スポンサーサイト
このページのトップへ

FC2Ad

Information

gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

    ↓よろしければ、おひとつ、ポチお願いします

Calendar

07月 « 2017年08月 » 09月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

 

新着はこちら!New!

全小説 ツリーリスト

最近いただいたコメントなど

アクセスカウンター

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter小説

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

最近のトラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。