銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 職員室に入るとユーレイ先生は机で何か書いていた。猫じゃらし君はユーレイのそばに辿り着くと神妙な面持ちになった。その一歩後ろにカイワレ君が立つ。
「九重先生」
 猫じゃらし君が声をかけるとユーレイ先生が、そしてそのひとつ向こうの席のテング先生もがこっちを振り向いた。
「僕はまた猫じゃらしで女の子をくすぐりました。ごめんなさい」
「あら、そうなんだ、いけないな」
 ユーレイ先生は椅子を回転して、猫じゃらし君に向き直った。

「ごめんなさい。もうしませんから許してください」
 猫じゃらし君はそう言って謝るとこっそり肘でカイワレ君の脇腹を突いた。
 カイワレ君はちょっと猫じゃらし君をいじめてやろうと考えていた。そこでカイワレ君は右手のひらを胸の高さに上げて、あたかもカンニングでもするかのように覗き込んだ。いや、セリフは覚えてるからその振りだけだ。
 カイワレ君はわざと棒読みでつっかえながら言った。
「ほ、本人もだいぶ反省してるし、九重先生が、好き? 好きだから」
 ユーレイ先生はニヤニヤと笑っていた。
「気を引きたくて、イ、イタズラするんです。先生のび、美貌に免じて許してください」
 カイワレ君が言い終えるとユーレイ先生はまずカイワレ君に言った。
「櫛田君、ご苦労さま。無理に言わされて大変だったわね」
「いや、そういうわけじゃ」
 カイワレ君は頭を掻いた。
 続いてユーレイ先生は猫じゃらし君を睨んで言った。
「それに引き換え、真岡君は前に注意されたのに、また猫じゃらしを持って来るなんて。決まりごとや約束を守るのはとても大事なんだよ」
「はあい」
「わかった? 二度と学校に猫じゃらしを持って来たらダメだよ」
「はあい、大好きな九重先生が指切りゲンマンしてくれたら約束守ります」
「そんなの低学年じゃない。調子いいんだから」
 ユーレイ先生は笑った。
「その代わり給食の残りも食べます」
「そんなのしなくていいけど」
 ユーレイ先生は右手を差し出し小指を伸ばした。猫じゃらし君は餌に食いつく飢えたピラニアのようにユーレイ先生の小指に自分の小指を絡ませた。
「指切りゲンマン、嘘ついたら針千本飲ます。指切った」
 ユーレイ先生はスッポンのように指を離そうとしない猫じゃらし君から左手も使って指をほどいた。猫じゃらし君は自分の小指を見つめて左手で包むようにした。

 ユーレイ先生はテング先生に「ということです」と微笑みかけ、テング先生は猫じゃらしをユーレイ先生に手渡した。
「真岡君、約束守ってね」
 ユーレイ先生は、猫じゃらしを猫じゃらし君に差し出した。
「はい、先生」
 猫じゃらし君が猫じゃらしを受け取ると、隣の席からテング先生が言った。
「今度、持って来たらその指を切り落とすぞ、ハハハッ」
 猫じゃらし君は「ひゃあ」とうめいて笑ってるテング先生に頭を下げると、カイワレ君の背中を押して一目散に職員室から逃げるのだった。
 
 ◇

 校舎から出た猫じゃらし君は浮かれて言った。
「やったぞ、ユーレイと指切りしたぞ」
 カイワレ君には十歳も年上の先生を好きになるということ自体が解らなかったから、歩きながら聞いてみる。
「そんなに嬉しいのか?」
「当たり前じゃんか」
「ふうーん」
「ふうんて、カイワレだって好きな女いるだろう?」
 そう聞かれてカイワレ君の頭の中は水ピンさんの笑顔でいっぱいになった。水ピンさんというのは同じクラスの沢内愛美だ。右から流した髪が目に入らないようにいつも左のこめかみのあたりに水色のアクセントのついたヘアピンをしているので、カイワレ君は密かにそう呼んでいたのだ。

 いつの間にかカイワレ君の顔がデレーとしていたらしく、猫じゃらし君がニヤニヤしながら聞いた。
「誰だよ、親友なんだから教えろよ」
「いや、だって、本人にも言ってないのに、猫じゃらしなんかに言えるかよ」
「気の弱いお前だもの、放っておくとずーっと告白できずにいるんじゃないのか? 俺が作戦を考えてやるから言ってみろよ」
「うーん、どうしようかな?」
「大体、カイワレは俺の好きな女を知ってるのに、俺はカイワレのを知らないなんて不公平じゃんか」
 それは猫じゃらし君の惚れやすくて開けっぴろげな性格のせいであり、自分の水ピンさんへの恋はもっと強いから、簡単に打ち明けられないのだ。そうカイワレ君は思いながらも、放っておくとずーっと告白できないという猫じゃらし君の言葉が実現しそうな気もしてきた。

「いいから言えよ。もち親友だから秘密は守るぜ」
 猫じゃらし君の言葉にカイワレ君はここぞと念を押す。
「ぜ、絶対だな?」
「ああ、絶対だ」
「よし」
 猫じゃらし君は息を止めてカイワレ君の言葉を待ったが、カイワレ君は小さく唸りながら十歩、二十歩と歩くだけだ。
「おい、早く言えよ」
「言うよ」
「だから早く」
「ちょっと黙ってろ」
 カイワレ君はそう叱ると突然に二、三歩駆けて立ち止まった。そして振り向いて胸の前に上げた両手を握って小さく叫んだ。

「沢内愛美」

 猫じゃらし君はなぜか頷いた。そしてカイワレ君の顔が赤く染まっていることをけなしもせずに言った。
「なるほど。いいんじゃないの。じゃあ俺が作戦を考えてやるから」
「う、うん」
 カイワレ君はこいつは悪友じゃなくて親友なんだなと感動した。
 そこで猫じゃらし君は背負ってたランドセルを地面に置くと、中から一冊の帳面を取り出した。カイワレ君が覗くとそこにはクラスやたぶん近所の女の子の名前がずらりと並んでいた。
「なんだよ、それ」
「馬鹿だな、見ればわかるだろ、女子の誕生日の名簿だよ」
「そんなの調べてあるのか?」
「当たり前だ。父ちゃんがな冠婚葬祭は人生の基本だって言ってたんだぞ」
「へえー、誕生日って冠婚葬祭なのか?」
 猫じゃらし君はカイワレ君の勘違いを否定せず、とっておきの秘密でも打ち明けるように囁いた。
「あのな、女子ってやつは誕生日を覚えてる男の点数を五割増しにするんだ」
「へえー」
 カイワレ君は思い切り感心した。
「沢内のやつはと、おい、大変だ、来週の水曜日だぞ」
「へえ、そうなんだ」
「よし、今週中にプレゼントを考えて来週手渡しするんだ。予算はいくらある?」
「えっと、この前、ファミコンのソフト買ったから残りは二千円ちょっと」
「少ないな。まあ仕方ないや」
 猫じゃらし君はそう言うと帳面を仕舞ってランドセルを背負い歩き出した。
「プレゼントした方がいいの?」
「女子が喜ぶのは当たり前だろ。それにな」
「それに?」
「物によってはお前が告白できなくても相手に気持ちが伝わるじゃないか」
「あ、そうか」
「素人はこれだから困るよ。とにかく俺も考えるから、お前も考えろよ」
 猫じゃらし君はカイワレ君に言い放つと矢のように 走り 去っ た。
 
カイワレ 3花束は につづく



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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