銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 昔、ラジオでクロスオーバーイレブンという番組がありました。
 基本的に様々な音楽を流すのですが、その曲の合間にショートショートやルポルタージュ風の文章を声優&俳優の津嘉山正種さんがナレーションで紹介して独特の雰囲気がありました。
 特に終わりの部分は一音一音の間隔をゆっくりと空け、一話を締めくくるという形でとても趣がありました。
こちらに録音のアップがあるので雰囲気を知りたい方はどうぞ。



 その話の登場人物にモヤシ君や猫やなぎ君というのがあって、そのオマージュとして書いてみました。



カイワレ君の日々 1猫じゃらし

 5年4組の教室は給食時間の終わりに差し掛かっていた。
 本日のメニューはまずソフト麺、もうひとつの皿にひじきと五目豆をあえたもの、そしていつものパンとテトラパックの牛乳だった。
 そのメニューのせいか今日はおかずを残す生徒が多いようだ。

 ピンクのブラウス、グレーのスカートに白衣を羽織った担任の九重先生は大きな寸胴鍋に再びたまったひじきを覗いてそっと溜め息を吐いた。
 そこへたまたまやって来たカイワレ君が皿の三分の一ほど残したひじきと五目豆をそっと寸胴鍋に返すと九重先生は軽く叱る。
「せっかく作ってくれたんだからなるべく残さず食べるようにね」
「はあい」
 カイワレ君は仕方なく返事した。
 カイワレというのは櫛田ゆうきのニックネームだ。手も足も体もひょろひょろと細いからという単純な理由で親友の真岡しゅんいちにより付けられた渾名だ。その真岡しゅんいちの渾名は猫じゃらしである。

 続いてやって来た猫じゃらし君は九重先生に舐めたようにきれいな皿を見せた。
「えへへ」
 九重先生は笑顔になって猫じゃらし君の頭をゴシゴシと撫でた。
「真岡君、きれいに食べたね」
「えへへ、先生みたいな美人を泣かせたくないからさ」
 猫じゃらし君は言うが、もちろん九重先生は真に受けない。
「みんなが真岡君ぐらいに食べてくれるといいんだけどな」
 そう呟いて九重先生は給食当番に声をかけて教室から出て行った。

「見たか、カイワレ」
 猫じゃらし君はガッツポーズして勝ち誇った。
 するとカイワレ君は呟いた。
「ユーレイはわかってないな」
 誰でもひとつくらい得意科目がある。猫じゃらしはその得意科目が給食なだけなのだ。 ちなみにユーレイというのはいつも白衣を着ている九重先生の渾名である。
「そういうのを負け惜しみって言うんだよな」
 猫じゃらし君は腰に手を当ててスキッ歯を見せて笑った。
  
 それから猫じゃらし君は自分の席に戻ったと思ったら、まだ給食を食べていたヒロリンさんこと伊藤紘美の後ろにそっと立った。そしていつの間にか手にした猫じゃらしでヒロリンさんのうなじをくすぐった。
「キャー」
 ヒロリンさんが悲鳴を上げて振り返った。
「また、この猫じゃらしッ。ひとが食べてんだから邪魔しないでよ」
「えへへ、手伝ってやろうか」
 そう言われたヒロリンさんはあっさり断る。
「あんたにあげるぐらいなら捨てるもん」
「ひゃあ、そりゃあきついで」
 なぜか関西弁になって猫じゃらし君はターゲットを変更する。

「キャー」
「えへへ、逃げるな」
「キャー」
「えへへ、気持ちいいだろ?」
「キャー」
「えへへ、逃げるなって」
 中村美月、鈴木有紗、佐藤あゆみ、近藤弥生のうなじが次々に猫じゃらし攻撃に遭い、次々と悲鳴が上がった。猫じゃらし君は逃げ回る女子を追いかけて走り回る。
 男子はカイワレ君を含めて見慣れた光景に呆れているばかりだ。

 と突然、女子を追いかけていた猫じゃらし君の足がぴたりと止まった。
 いつの間にか教室の中に隣の担任テングこと石橋先生が入ってきて、あっという間に猫じゃらし君の進路を塞いだからだ。
「またお前か。そんなもん持って来てはいかんと前に注意しただろ」
 テング先生は猫じゃらし君の手から猫じゃらしを取り上げた。
 真っ青になった猫じゃらし君の顔を女子も男子もニヤニヤしながら眺めている。
 すると天狗の団扇のように大きく開いたテング先生の大きな掌が猫じゃらし君の頭をポオンと殴った。
「イッテエーッ」
 猫じゃらし君は頭を押えて呻いた。
「これは預かっておく。放課後、職員室に取りに来い」
 猫じゃらし君にそう言い渡すと、テング先生は教室から去った。

 ◇

 学校の一日の締めくくりの掃除が終わり、帰ろうとしたカイワレ君は猫じゃらし君に呼び止められた。
「お、カイワレ、ちょっと一緒に職員室に行こう」
「なんで俺が」
「親友だろ」
「お前があんなもん持ってくるから悪いんだよ」
「カイワレ、冷たいこと言うなよな」
 猫じゃらし君はぴょんとジャンプして自分より背の高いカイワレ君の頭を腕で抱え込んだ。そのまま着地すると自分の脇の下でカイワレ君の頭を締め上げる。プロレスでいうヘッドロックという技である。
「痛っ、痛い、行くって」
 
 廊下を歩きながら猫じゃらし君はカイワレ君に言った。
「職員室へ入ったらな、お前は俺の保護者みたいにしてろ。俺がユーレイに謝るから、そしたらお前は『まあ、本人もだいぶ反省してるようだし、九重先生が好きだから気を引きたくてイタズラするんです。先生の美貌に免じて許してあげてください』て言うんだ」
「え、テングに謝るんじゃないのか?」
「カイワレは馬鹿だな。テングに謝ったらまた軽く一発ぶたれるだけだろ。ユーレイが許してくれたらテングはあれを返すしかない。こういう駆け引きが歴史を生き抜く知恵なんだよなあ」
 猫じゃらし君は顎の先をつまむようにして言った。
 そのわりに社会も苦手なのはどういうわけだ。そう考えてカイワレは黙っていた。

 すると猫じゃらし君は言った。
「じゃ練習」
「何の?」
「お前のセリフだよ」
「ああ、本人も反省してるから許してあげてください」
「違うだろ。まったく近頃の若いもんはなんでも省略するから肝心なところが抜けてるんだ。もう一度言うからよく覚えろよ。『まあ、本人もだいぶ反省してるようだし、九重先生が好きだから気を引きたくてイタズラするんです。先生の美貌に免じて許してあげてください』だ」
「なんで俺がお前が先生を好きだからなんて言うんだ? 自分で言えよ」
「自分で言ったけど、反応がないからな」
「お前は誰にでも好きって言うからだよ」
「ひゃあ、ほんまきっついで。わてかてこれやというもんにしか告白せえへんで」
「そう見えないんもん」
「そうだって、せいぜい今年は六、七人や」
「だからあ」
 カイワレ君が突っ込もうとするのを遮るように猫じゃらし君は言った。
「で、練習は?」
 猫じゃらし君に言われて、カイワレ君は思い出しながらセリフを述べる。
「本人もだいぶ反省してるし、九重先生が好きだから。えーと、イタズラするんです。先生の美貌に免じて許してください」
「ま、大体いいや。ただ『えーと』は言うな」
 猫じゃらしは注文の多い親友だ。いや、悪友かもしれないなと カイワレ君 は 思っ た。

カイワレ 2好きな相手につづく



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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