銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 その晩は都会では珍しく雪が5センチ近く積もっていた。
 雪に弱い都会ではこんな夜は殆ど人通りも少ない。
 僕はアルコールのせいもあって、マフラーも取り、雪を踏みしめるザッザッという音を楽しみながら歩いていた。
 すると、どこかでタイヤが空回りする音がしてきた。
 雪の上ではいきなりアクセルを吹かせば吹かすほど、グリップがなくなり空回りするのだ。
 雪国生まれの僕は苦笑しながら歩みを進めて、軽自動車の窓ガラスを叩いた。
「大丈夫かい?」
「すみません、滑って動かないんです」
 運転パネルに目を落としたまま言ってきたのは、長い髪をカールさせた女性だ。
 美人の部類だ、目のシャドウが銀色で服はゆったりとしたドレスのようで少しケバい感じがする。
「そんなに踏み込んだら動かないよ」
 僕が代わりに運転席に座り、彼女は助手席に座った。
「雪道はね、静かに動き出さないと空回りするんだよ」
 僕は優しく静かにアクセルを踏んでやる。
 
 しかし、車は動かない。

「あれ、おかしいな」
 僕はハンドブレーキを引いた。
 と同時にバツンと音がしてヘッドライトが消えた。

「なんだか寒いね」
 僕はエアコンを入れてみた。
 しかし吹き出し口から出る風はいつまでたっても冷たいままだ。
 やがて今度はパネルの照明がダウンした。

「なんだこりゃ、まさか欠陥自動車じゃないよね?」
「すみません、私、よく知らないんです」
 女性はそう言って前を見つめるだけだ。
 
 僕はその時、ハッと気づいてしまった。
 女性の横顔の目はまるで氷で出来ているように黒目がないのだ。
 雪女だ。
 思わず叫び声を上げそうだったが、こちらが気づいたのがばれるのはまずいと声を息ごと噛み殺して呑み込んだ。

「そ、そうだ、ぼ、僕がJAFを呼んで来てあげるよ」
 僕は繕っても引き攣る笑みを無理に浮かべて、外に出ようとドアの取っ手をつかんだ。 しかし開けようとするが、びくともしない。まるで何トンもの氷に押さえつけられたみたいだ。
「おかしいな」
 焦って力を入れながら呟く僕に女が囁いた。
「フフフ、このままずっといましょうよ」
 ちらと振り向くと女の顔は全体が銀色だった。
「うあああああーッ」
 ドアの取っ手に手をかけたまま僕は絶叫して気を失った。

 ◇

 翌朝、気がつくとそこは病院のようだった。
「助かったぞ」
 僕はほっとして呟くと、看護師を呼んだ。
「看護師さーん」
 しばらくしてやって来たのは警察官だった。しかもそこに鉄格子がある。
「お、気がついたか?」
「あの、これは一体?」
「通称トラ箱。酔っ払いさんの宿泊場だ。
 覚えてないの? 
 あんたね、雑居ビルの階段に掴まって、大声出してたから110番通報されたんだよ」
 警察官は手を腰に当てて教えた。
「いや、僕は雪女の自動車に乗ってしまって」
「雪女?」
「ええ、間違いないです。長い髪がカールしてて銀色の顔だったんです」
 僕の言葉に警察官は爆笑した。
「そういや、あんたの掴まってた階段の反対側に銀色の顔した美容室のマネキンがあったなあ。あれが雪女に見えたか、ハハハッ」

 僕の間違った記憶はすっかり溶けて、気恥ずかしさだけが残った。
 警察官は笑いながら扉を開けてくれた。     了
  





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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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