銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 伊越屋デパートの更衣室で川村知美が制服を着ていると岡元明菜が入って来た。

「おはよう」
「あ、おはよう」
 二人は婦人服フロアーの同僚である。
「ねえ、明菜、ファンデ変えた?」
「変えてないわよ」
「なんかほっそり見えるから」
 明菜はここのところほっそりしてきて、すごくきれいになっているのだ。
「ダイエットうまくいってるかも」
 知美は羨ましくなって聞く。
「どういうダイエット?」
 知美はたびたび聞くのだが、明菜は「人それぞれ合うダイエットが違うのよ。じゃなきゃ、世の中にダイエット法なんてたくさんあるんだから成功してる人がどんどん増える筈でしょ」と言って教えてくれないのだった。

 代わりに明菜は衝撃的な発言をした。
「まだみんなには秘密なんだけどね、私、結婚するかも」
「えーっ」
「声が大きいよ」
「だ、誰と、店内?」
「お客さん。知美も知ってる人」
「もしかして毎月妹に買い物してゆく、あのアニキ?」
 知美が聞くと、明菜は嬉しそうに微笑んだ。
「それがね、妹はいなくてね、みんな私のためにとってあるんだって」
 おかしいと思っていた。
 スーツ姿が似合っているイケメン系のアニキは男性客の少ない婦人服フロアではちょっとした憧れと妄想の的だった。毎月、1、2回、妹に洋服を買ってゆくのだが、それが必ず明菜から買うのだ。知美が応対に出ても「ちょうど背格好が岡元さんと一緒だから」と言い訳して明菜に代わってもらうのだ。そして並んで明菜に服を当てて鏡を見てた顔はどうにも怪しいと思ってたのだが、やっぱり。
「いいなあ」
 知美は羨ましがった。

 そこへ例泉院忌美がやって来た。気配りはできないが、持ち物とプライドだけは高いフロアの嫌われ者である。
「ごきげんよう」
「「おはよう」」
 着替えを済ませた知美と明菜は更衣室の出口前まで行き足を止めた。
 そこには姿見と制服を着た見本役のマネキンが立っている。マネキンの名札には「いつも笑顔で」とあるので、マネキンは"いつエガ"と呼ばれている。金髪の先が外にカールして、口元の左に黒子をつけて、赤いルージュの口元に笑みを浮かべている。
「いつエガ、はいつも笑顔で大変ね」
 知美が言うと、明菜は「大丈夫なのよ」と返した。
 二人は服装をチェックすると売り場に向かった。

 ◇

「いけないっ」
 知美はダンボールから品出しをしていて、うっかり指を切ってしまった。
 知美はレジの下にある絆創膏を探したが生憎と品切れだ。仕方なく知美は更衣室に向かった。
 そして自分のロッカーから絆創膏を出して貼っていると、ふと更衣室のドアの開く気配がした。
 知美が覗くと、そこにはスタジオという暗号でトイレに行ったはずの明菜が来ていた。あれ、何してるのかな。知美がそっと見ていると、明菜はいつエガの前で合掌すると、何か祈って、自分のお腹をさすって、いつエガのお腹をさすった。
 知美は思わず声をかけた。
「明菜、何してるの?」
 振り返った明菜は笑みを浮かべた。
「見られちゃったか。知美はいつも助けてくれたから、知美にだけ私のダイエット法を教えてあげるよ」
「ホント、嬉しい」
 喜ぶ知美の耳を手で覆うようにして明菜はこっそり囁いた。それは信じられない話だった。
「誰も見ていない時を選んで、いつエガに『余分な脂肪の身代わりになって下さい』とお祈りしてから、気持ちの上で自分のお腹からいつエガのお腹に脂肪を移してやるの」
「え、それだけ?」
「うん、これだけ。大事なのは信念なのよ」
 明菜はその言葉を強調した。

 ◇

 明菜はそれから半年もしないうちに寿退社した。
 知美も明菜から教わった"いつエガ"ダイエット、というか、お祈りを欠かさずにするようになって、次第に体も心もすっきりしてきたから不思議だ。周囲からも明るくなったと褒められ、チーフやマネージャーにも礼を言われるから奇跡みたいなものである。
 ついには忌美まで猫撫で声ですり寄って聞く。
「知美、あんた、最近、きれいになったけどなんか秘密があるんでしょう」 
「うーん、特には」
「嘘っ、なんかある筈よ。知美は下地が悪いんだから」
 知美は心の中で、フンと言いつつ笑みを浮かべて返した。
「忌美さんは下地がいいから羨ましいですわ」
「私の持ち物で気に入ったものをあげるから教えてくんない?」
 おっ。忌美の持ち物は高級ブランドばかりだ。
「そうですわね、バッグと靴とドレスと3点ぐらいいただけるなら、教えて差し上げますわよ、オホホホ」
「いやですわねえ、貧乏人らしい浅ましさ。でも、わかりましたわ、好きなもの差し上げますから、私の宅に参りましょう」
 
 ◇

 忌美が一人で住む4LDKの高級マンションは、ひと部屋全体に棚が天井まであって、ちょっとした高級洋品店に来たようだった。
「すごいわー、まるでブティックみたい」 
 これだけあれば毎日のアイテム選びが楽しいだろうが、迷いがちな知美は時間がかかって大変だと考えてしまう。
「お好きなものをお選びなさい、オホホホ」
 忌美に言われて、プラダの大き目のショルダーバッグとフェラガモのローファーシューズ、ラファームのオフショルダーロングドレスを選んだ。
 そして"いつエガ"ダイエットを教えてやった。
「なによ、それ。まるで詐欺ね」
 忌美は怒ったようだった。
「詐欺とは失礼な。明菜がきれいになったのだって"いつエガ"ダイエットのおかげなんだから、信じてやってみればいいのよ。なんなら今、明菜に電話して確かめてみればいいのよ」
 知美が言って電話帳の明菜を選んで携帯を渡すと、忌美は実際に電話した。
 納得いかない顔だったが、明菜の言葉を聞いて忌美は一応頷いたようだった。

 ◇

 そして一ヶ月ほどたったある日、知美は更衣室を出ようとしたところ忌美に詰め寄られた。
「どういうことよ、逆に太ってきたじゃない」
 知美は平然と言い返した。
「そんなこと、私に言われても困りますわ。
 明菜が言ってたでしょ、大事なのは信念だって。おおかた忌美さんは信念が足らないんですわ。信念はお金じゃ買えないし、困りましたわね。オホホホ」
 忌美は悔しそうに唇を歪めると"いつエガ"のお腹にパンチを見舞った。しかし、拳の方が痛くなった忌美はそれを押さえて泣いた。
 "いつエガ"はいつものように変わらない笑顔だ。    了
 



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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