銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 トランプマンは黒いサングラスに野球帽といういつもの外出の格好で大きなショルダーバッグを下げて最寄り駅に降り立った。

 今日の依頼は地方の児童養護施設『春郷ビーホーム』だった。寄付があったらしく意外にギャラもよかったので、トランプマンは喜んで引き受けたのだった。
 タクシーで聞いていた住所に向かうと、一見すると幼稚園のようなクリーム色の建物が見えてきた。トランプマンがタクシーから降りるとまもなく、建物から白髪混じりの女性が出て早足に近寄って来た。
「こんにちは、トランプマンの太郎助です」
「わざわざありがとうございます。私は院長の重藤森子です。さ、こちらへ」
 トランプマンは院長の案内で8畳ぐらいしかない職員室に通された。
「こちらで生活してるのはどういうお子さんですか?」
「ええ、親を失くしたり、棄てられたり、経済的に養えないという18歳以下の児童を23名預かっています。中心は小学生ですね」
「そうですか。それでショーの前に少しメークしないといけないんですが」
「ここでどうぞ。メークしてる間は私がドアの前に立って誰も入れません」
「ありがとうございます」
 トランプマンは院長が出てゆくと、サングラスと帽子を取って、顔を白く塗り、唇に大きめに口紅を差して、金色の目開きのアイマスクをつけた。
 
 ショーの場所は体育室兼食堂の広い部屋だ。真ん中に子供の机がひとつあり、それに向かって椅子を並べて子供たちが座っている。
 トランプマンが登場すると子供たちは拍手と歓声で迎えた。
「みんな、こんにちは。トランプマンです。
 今日はね、みんなにトランプを使ったマジックを楽しんでもらうために来ました。
 さあ、さっそく始めようと思うんだけど、最初にみんなの中から一人、今日の僕の助手になってほしいんだけど、やりたい人はいるかな?」
 すると三分の二ぐらいの子供たちが「はい、はい」と叫びながら手を挙げる。
「じゃあ、そこの青いシャツのきみ」
 トランプマンはその中から一人の男の子を選んだ。
「きみの名前は?」
「陽太」
「よし、陽太君、じゃ僕の言う通りにトランプを動かしてくれるかい」
 陽太はトランプマンからトランプを受け取った。
「さあ、今度はそこの黄色いトレーナーの女の子、ちょっと前に来てくれるかな」
 女の子が前に来るとトランプマンが聞く。
「きみの名前は?」
「彩華」
「うん、じゃあ彩華ちゃんは今陽太君の持ってるトランプをよっつに分けてテーブルに置いてくれるかな」
 彩華は陽太のトランプをよっつに分けてテーブルに置いた。
「じゃあ、陽太君、まず一番左の山を全部持って、上から三枚を山があったところに戻して、他のみっつの山に一枚ずつ乗せよう。そうだ。それで手にあるのを全部一番左へ乗せる」
 陽太はトランプマンを見て「これでいいの?」と聞く。
「いいよ、次に、左から二番目の山を全部持って、上から三枚を山があったところに戻して、他のみっつの山に一枚ずつ乗せよう。そうだ。それで手にあるのを全部左から二番目へ乗せる」
 陽太はトランプマンに「できました」と報告する。
 同じように左から三番目の山と四番目の山も繰り返して陽太がやり終えるとトランプマンが言った。
「さあ、陽太君、ここでおまじないだ。トランプの上を手でまほすようにして呪文を唱える。ちちんぷいぷい、みんなエースになあれ」
 陽太は言われる通りに山の上空を手で撫でるようにして呪文を唱えた。
「ちちんぷいぷい、みんなエースになあれ」

「よし、よっつの山のてっぺんを一枚ずつひっくり返してみんなに見せよう」
 陽太は一番左の山のトランプを一枚めくって自分で驚いた。そしてみんなに見せる。
「スペードのエース」「すっごーい」「手品みたい」
 陽太は二番目の山のトランプを一枚めくって、みんなに見せる。
「ダイヤのエース」「すっごーい」
 拍手が起きた。
 陽太は三番目の山のトランプを一枚めくって、みんなに見せる。
「クラブのエース」「すごいよー」
 拍手が起きた。
 陽太は一番右の山のトランプを一枚めくって、余裕で笑みを浮かべて見せる。
「ハートのエース」「揃ったー」
 トランプマンは陽太の手を取って高く持ち上げた。
「助手の陽太君のマジックでしたあ、拍手」
 照れる陽太に、割れんばかりの拍手が送られた。
「じゃあ、陽太君は席に戻って続きを見ててくれ」

 いよいよトランプマンのマジックの始まりだ。
 腕の上に並んだトランプがを踊るよう動いたかと思うと、一瞬で赤い裏地が青くなる。 わあと歓声が上がる。
 次にトランプを一人の子供に渡してめちゃくちゃに切らせる。
 それをトランプマンは受け取ると腕の上に伏せて伸ばす。
 ちょっと端を跳ね上げると、ドミノ倒しならぬドミノ起こしのようになって、しかも順序よく赤マークのカードは赤の数字順、黒マークのカードは黒の数字順に並んだ。
 拍手と歓声の嵐だ。
 次に一人の子供にトランプを選ばせて切ったトランプを、目隠ししたまま放り投げ、ダーツの矢を投げる。
 するとストンと音が響いて、ダーツに一枚のトランプを串刺しにして矢が刺さる。
 選んだ子供が矢を引き抜くと、それは自分がさっき選んだ矢だ。
 大喝采が沸き起こった。 
 トランプマンのショーは子供たちに不思議と感動を与えて大成功の裡に終わった。

 トランプマンは帰り際に陽太を手招きした。
「陽太君、お疲れ様、何か出してほしいものがあるかい?」
 トランプマンのポケットには飴玉とミニカーとトランプがある。
 すると陽太は照れながら言った。
「お母さん」
 それはどんなマジッシャンでも不可能に思える。
「そうか、お母さんは僕も出せないけど、いつかお母さんに見せてあげれるように、トランプマジックの練習をするといいよ」
 そう言ってトランプマンがトランプをプレゼントすると陽太は嬉しそうに頷いた。
「うん、ありがと、トランプマン」

 ◇

 テレビ局のプロデューサーがトランプマンを呼んだ。
 数人のマジシャンが競演する特番に出演する、その打ち合わせだ。
「たろすけちゃん、出来たらさ、新しいネタが欲しいんだよね。他局でやってないようなやつ、なんかない?」
 なんとまあ我が侭な要求だが、トランプマンはあれをやろうと思いついた。
「じゃあ素人の男の子を一人使いたいんです。それと事前に予算をもらえますか?」
「うん、マネーカムヒア、面白いやつ頼むよ」
 プロデューサーは懐からポンと札束をひとつ出してトランプマンに渡した。

 ◇

 二ヵ月後、いよいよマジック特番の収録の時が来た。
 養護施設『春郷ビーホーム』から呼ばれた陽太はトランプマンの助手として、この前友達の前で見せた、みんなエースになるマジックを立派にしてみせた。
 それは知っているひとにはたいしたことないマジックなのだが、小学生の陽太が真剣にやり遂げたことはスタジオの観客の心を捉えて、ADが頭上でまわす台本以上の拍手を呼んだ。
「陽太君でした」
 トランプマンは陽太を紹介すると、インタビューする。
「陽太君には夢があるんだよな?」
「うん、僕は今は児童養護施設にいてお母さんはどこにいるかわからないけど、いつか本当のマジッシャンになってすごいマジックをお母さんに見せてあげたい」
 思わず観客が涙を浮かべて鼻をすすった。
「そうなるといいな」
 トランプマンはそう言って、ノートと同じぐらいの大きなトランプを取り出した。
「陽太君、このトランプから一枚選んで自分にも誰にも見せないように持っていて」
 陽太は一枚抜くと自分の胸に押し当てて誰にも見えないようにした。
「では、これから観客席にトランプを投げます。拾った方はステージに上がって来てください。行きますよ、イチ、ニの、サン」
 トランプマンの手からトランプが十数枚放り投げられ観客席の中にふわふわと舞い降りた。
 近くにトランプが来た観客はそれを拾って立ち上がり、ステージに集まった。
「さて、これはマジックじゃなくてゲームです。ハートのエースを引いた人はハートのクイーンを引いた人に願いを叶えてもらえるんです。さあ、ハートのエースを引いた人はトランプを頭の上に上げて見せてください」
 陽太が「あっ」と言ってハートのエースを頭の上に上げた。
「お、陽太君か、僕の隣においで。さあ次はハートのクイーンを引いた人はトランプを頭の上に上げてください」
 すると30ぐらいの女性が緊張のためか赤い顔をしてハートのクイーンを掲げた。
「さあ、こちらへどうぞ」
 女性がトランプマンのそばに来ると、トランプマンが言った。
「ようこそ。KYじゃないですよね?」
 トランプマンが聞くと客席から笑いが漏れ、女性は黙って頷いた。
「番組の流れは読めてますよね?」
 客席から笑いが漏れ、女性は再び頷いた。
「今から陽太君がお願いを言うので多少無理でも叶えてあげてください。はい、陽太君お願いをどうぞ」
「え、わかんないよ」
 何も教えられてないためただ戸惑う陽太に、女性が膝を床について抱き寄せた。
「陽太、ごめんなさい」
「どうしたの」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「陽太君、この人が陽太君のお母さんなんだよ。お母さんは大変なことがあって仕方なくまだ生後六ヶ月だった陽太君に手紙をつけて『春郷ビーホーム』の玄関に置いたんだよ。でも今までずっと後悔して心配してきたんだ」
 陽太は泣いている母親の顔を見て、伝染したように泣き出した。
「お母さん」
「陽太君、願いを言ってごらん」
「うん……もう僕を放さないで」
 二人はひしと抱き合った。     了




 まあ、もとが、ムチャ振りですからこれぐらいで(^^;

 ちょっと練習すればすぐできるマジック!
 ネットに公開されてた4枚エースのカードあてを少し難しそうに見えるよう工夫してみました。
 エースと3と5と7と9の5枚×4柄の20枚のカードをあらかじめ取り出す。そのうちダイヤの3と5と9は戻す。この17枚を真ん中あたりのマークで全て下向きに揃えてからシャッフルして元の山に乗せておく。あとは上の15枚程度をテーブルに並べてお客さんに一枚指差してもらいます。そしてその一枚を横向きに出してお客に向け上げる時にさらに半回転する。すると上向きでお客はカードを確認します。そこで「よく覚えて」と言って戻します。そして最初の15枚ぐらいは束にしたまま残りのカードを切ります。それを終えたらずらりと自分でカードを広げて問題のグループで一枚だけ上を向いているカードを見つけ、それがお客の引いたカードになります。
 52枚中15枚だけ残して切るのが無理なら最初の17枚だけのカードでしてもそこそこオーケーでしょう。
 ポイントはトランプは顔絵のある札の全てを始め、殆どが上下のないカードですから誰も上下なんて気にしないことです。17枚だけは上下があるんです。


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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