銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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「銀盤上の初恋はサイダー味だったのさ」 前編

 毎年、冬になると僕は女子フィギュアスケート中継に釘付けになる。
 2003年の全日本選手権、女子では前人未踏の安藤美姫の4回転サルコウジャンプを見て興奮した。トリノオリンピックではポイント加点されないにも拘らず荒川静香の見せてくれたイナバウアーにうっとりし、金メダルに歓喜した。浅田真央が舞った「仮面舞踏会」は高さのあるジャンプ、安定したスパイラルに加え、リズムに乗った激しいステップが圧巻で素晴しく完成度の高い、僕の見た範囲で最高のフィギュア演技だったと思う。
 僕がこんなにフィギュアスケートのファンになったのには理由がある。 

 ◇

 僕は田舎の中学2年だった。
 明日から三学期が始まるという1月のある日、雪は8センチほど積もっていた。
 夕方、僕はダッフルコートの襟に亀みたいに頭全体を引っ込められたらいいのになと思いながら歩いていた。風が冷たいのだ。 
 近くの公園にさしかかった時、見たことない紺の制服のブレザーとスカートの女の子が雪玉を転がしていた。たぶん雪だるまを作るつもりだ。
 彼女は手袋とブレザーの下にセーターは着けていたが、コートもマフラーもしない格好は見てるだけで寒くなりそうだが、女の子は微笑を浮かべてバレーボールぐらいになった雪玉を転がしていた。
 見たところ、雪玉はまだひとつだ。

 僕は公園に入って野球のボールサイズの雪玉を握ると、それを転がし始めた。
 女の子は雪だるま作りの協力者が現れたことに気づくと、さらに雪玉を転がした。
 僕が夢中になって雪玉を転がしていると、女の子が言った。
「早めにこっちに来て。大きくなりすぎると持ち上げられないよ」
「うん」
 僕は頷いて雪玉を女の子の雪玉に向けて転がして行った。
 僕が女の子の雪玉に辿り着くと、女の子の姿がなかった。
 だけど心配はいらない。
 僕はひとかかえある自分の雪玉を持ち上げた。そして女の子の雪玉の上に乗せる。
 下になった女の子の雪玉が、僕の雪玉より大きくてバランスはバッチリだった。
 僕は眺めて一人悦に入った。

 まもなく女の子が戻ってきた。
 女の子は雪だるまの顔に小枝で眉毛をつけ、枯れ葉で目をつけ、プリンの空容器で鼻をつけた。
「口はないの」
「キティも口がないのよ」
 ここで僕は初めてまじまじとと女の子と見つめ合った。髪は長めだけど前髪と脇の髪は工作用のはさみで適当に切ったような感じだ。目は切れ長で頬が少し赤らんで唇は小さかった。
「久しぶりに雪だるまを作ったよ、ありがとう」
 僕が言うと、女の子も言った。
「久しぶりに雪だるまを手伝ってもらったよ、ありがとう」
 僕は笑みを浮かべた。
「その格好で寒くないの?」
「私はもっと寒いとこにいたから平気なの」
「なるほど。家は近所なの?」
「うん。あなたも近所なの?」
「うん」
「手を出して」
 僕が手を出すと、彼女はブレザーのポケットから何かを取り出して乗せた。
「手伝ってくれたお礼よ」
 見ると包みにくるまれたキャンディーだった。
「ありがと」
 僕はそれをコートのポケットにしまった。
 そして、僕たちは名前も聞かずに別れた。
 
 ◇

 翌日は天気がよかった。
 教室に担任が女の子を連れてきた。紺の制服のブレザーとスカートのあの女の子だ。
 彼女は僕と目が合ったが、表情は変わらなかった。
 僕も驚かなかった。南国のひとは知らないと思うけど、子供用の手袋には、左右の毛糸の手袋が離れ離れにならないように毛糸でつないだりするのがあるのだ。つまり僕と彼女がそれだ。同じ毛糸でできていて、つながっている。運命ってやつだ。

「稲葉莉利です。よろしくお願いします」
 彼女はそう名乗った。
 用務員のおじさんが机を運び入れて僕の机の隣に置いて、莉利はその席に着いた。
「まだ溶けてないよ」
 莉利が囁いたので、僕も囁いた。
「枯れ葉、目が落ちてたからまたつけておいたよ」
 その時、気がついたが、僕は莉利相手だとすごく自然に喋れるのだ。他の女の子相手だといろいろ考えてからでなきゃ喋れないのに。やはり運命ってやつだ。でもそれは双子みたいなものなのかもしれない。

 体育前の休み時間、女子のいない体育館でガキ大将的存在の黒岩が僕に絡んできた。
「木原、お前、転校生のリリィとひそひそ話をしてるじゃねえか、なんだよ?」
 僕は困った。そして黒岩たちを莉利に近づけたくなかった。
 僕は嘘をでっちあげることにして、頭を回転させた。
「実は、あの子を、その、あの子が大学病院の特殊病棟に入るところを見かけたんだ」
「だからなんだよ?」
「絶対秘密を守るって誓えるか?」
 僕はわざと勿体をつけた。
「ああ、誓う。誓うから教えろ」
 僕は「絶対秘密だぞ」と言ってから、黒岩の耳にそっと囁いた。
「あの子は難病なんだ。セル、セル、セル破裂性タジ、ドゥヌスとかっていってな。これが辛いところなんだけど、エッチはもちろんキスしたり手を握ったりすると難病が感染する。しかも男がかかると細胞が連鎖的に壊死して72時間以内に全身が腐って死ぬ確率が高いんだ。だからあの子を好きになってはいけないんだ。わかったか?」
「そ、そうなのかよ、可愛いのにな」
「お互い、惚れてしまいそうで辛いよな」
 僕はがっくりと肩を落としてみせた。
「ば~か、俺は稲葉なんかに惚れねえよ」
 黒岩は疫病神から逃げるように僕の前から走り去った。
 ふっ、黒岩は腕力はあるが頭は弱いからな、これで莉利に近づくことはないだろう。
 僕は安堵した。

 ◇

 僕と莉利は毎日、登校前と下校後に公園の雪だるまの手入れをした。
 天気のよくなりそうな日は、コートを着せるように雪だるまの頭と体に新しい雪をくっつけて補強した。それで太陽に照らされても致命的なダメージを受けることなく、雪だるまはそこにい続けた。
 1月が終わり、2月になった。
 僕はバレンタイン・デーに密かに期待した。
 莉利は男では僕とだけ親しかったと思えた。莉利が他の男と話してるのを見たこともなかったし、莉利が他の男に見惚れているようなこともなかった。
 きっと莉利はこう言うのだ。
 こういうのって腐れ縁かもね、だけどいいの、貴方が好きだから。
 そう言って莉利は僕にプレゼントを渡し、僕はその手を離さないのだ。そしてセル破裂性タジドゥヌスもなんのその、莉利とキスする。
 その予定だった。

 だからその夕方、僕は公園でずっと雪だるまをメンテナンスしていた。
 莉利は普段通りにやってきて、いつものように雪だるまの少し窪んだところを見つけると雪を足して押し固めた。
 少し垂れ下がった眉毛の小枝をきちんと直して、僕に微笑んだ。
「これでいいよね」
「うん、いいね」
 僕がさあ来いと念じながら答えると、莉利は呆気なく言った。
「じゃあ、また明日ね」
「あっ」
 僕の驚きに気づきもせずに、莉利は公園から出て行った。
「莉利は行ってしまったよ、どうして?」
 僕は雪だるまに問いかけたが、返事はなかった。

[銀盤恋サイダー] 後編 に続く)



これは誰かさんの「フィギュアスケート」というムチャ振りで書いてます。
書き始めたら長くなっちゃったので前後半に分けますよ。

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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