銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。


 牛場刑事はその家の居間の押入れで息を殺してそいつが現れるのを待っていた。
 その犯人は既に判明しただけで百軒近くの家に不法侵入を繰り返しているのだ。
 最初はその犯人が家を選ぶ特定の理由はないと思われていた。地域もバラバラでいくつかの市や町を飛び歩いている。家主の年齢や職業にも法則性は見出せなかった。
 だが、ある几帳面な被害者の申告により、犯人が毎回、ささやかな窃盗を重ねていたことが判明したのだ。そして被害者の共通項も。

 そこで牛場刑事は次に狙われる確率の高いこの家の主と妻に事情を話して、押入れで張り込んでいる。
 
 台所のあたりで突然鍋らしき音がカタガタと鳴った。窓から侵入したのだろう。
 牛場刑事は心の中で「来やがったな」と呟いた。
 しばらくして床のきしむ音がひとつして、居間の襖が静かに開く音がした。
 そして箪笥の引き出しが引き出される音がする。
 引き出しの中をがさごそと探す気配が伝わる。

 牛場刑事はそっと押入れを開けて声をかけた。
「久早凪さん、そのまま動かないでくれ。ようやく会えて嬉しいよ」
 久早凪と呼ばれた男は両手を挙げてゆっくりと振り返った。もちろん別に拳銃で狙いをつけているわけではないから手を挙げるのは大げさだが、それで静かに観念してくれればとりあえず捕り物が崩れる心配は消える。
「もう逃げられないからな」
 牛場刑事がそう言う通り、他の刑事たちが廊下から、庭に面したサッシから踏み込んで来た。そして久早凪の手に手錠をかけた。

 ◇

 取調べ室に入ると久早凪純は落ち着いて見えた。
「茶でも飲もうや」
 牛場刑事が言うと、久早凪は「はあ」と返事した。
 もう一人の刑事が湯飲みを久早凪の前に差し出すと、久早凪は両手で湯飲みを持ち上げた。
「いただきます」
 久早凪は旨そうにお茶を飲むと言った。
「あの、俺の目的はばれたんですか?」
「ああ、条野内智恵子って知ってるか?」
「あ、同じクラスで、三つ編みの子でした。いつも机の定規で測ったみたいな位置に左に筆入れ、右に消しゴムとハンカチを並べていましたっけ」
「他の被害者は気づかなかったが、その条野内さんが盗まれたものに気づいた」
「几帳面な性格でしたからね、僕の野望は潰えたんですね」
「野望とはまた大げさだな」
 牛場刑事は笑った。
「でもどうしてこんなものなんか盗んで集めてたんだ?」
 牛場刑事は久早凪の部屋から押収したものを指差した。それは中学校の卒業文集だ。今は証拠物件としてビニール袋の中に入っている
 すると、久早凪は一気に告白した。
「僕は三ヶ月前に居酒屋の前で喧嘩してしまい人を殴りました。そしたらその人が倒れて翌日のニュースで死んだと知りました」
 牛場刑事はびっくりして訊き返した。
「それは何月何日の話だ?」
 久早凪が詳細を告白すると。一緒に聞いていた刑事が確認のために部屋の外に駆けて行った。
「で、それと卒業文集とどういう関係があるんだ?」
「だって、よくテレビや週刊誌なんかで殺人犯の卒業文集が出るじゃないですか。あれはどうしても避けたかったんです」
「そんなもんかな?」
 牛場刑事は手袋をはめてビニール袋から卒業文集を取り出し開いてみた。
「何組だ?」
「3組です」
 牛場刑事はページをめくって思わず笑った。

久早凪 純
 僕の将来の夢は、警察の捜査一家の刑事になって泥ぼうをつかまえることです。

「いろいろ夢と違いがあるみたいだな」
 牛場刑事が言うと、久早凪は頷いた。
「はい、刑事ドラマ好きの父親は『太陽にほえろ』とかいうドラマの刑事柴田純に憧れてしまい、僕に純なんて名前をつけて。中学生の頃はまだ僕もその気だったんです。でも高校に進み反抗期に入ると一気に反動で不良グループに入ったりしました。それでも極道まではいかなかったんすけど。
 あ、間違いは、課が家になってて、捜査一課は殺人傷害担当ですよね」
「まあ、それもあるがな」
 牛場刑事は久早凪の顔をじっと見詰めた。
「一番大きな間違いは、久早凪さんはたいした報道されないだろうってことだ。
 その場の酒の勢いで素手で喧嘩したなら傷害致死罪で、殺人にはならない可能性が高いだろうよ。
 世の中じゃ残念ながらそれよりずっと悪質な殺人が何件も起きてるんだ。わざわざあんたの卒業文集をひもといて報道するほどマスコミも暇じゃないぜ」
「そ、そんなあ、さんざん苦労して186部まで回収してたのに」 
 久早凪はどっと疲れたように机に頭を突っ伏した。    了


 


この話はある方のコメレスのお言葉を元にして作りました、ありがとうございます(^^;

ファンには有名なこのシーン、松田優作演じる刑事の名が柴田純だそうです


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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