銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

 探査機は青と緑に輝くその美しい惑星の重力圏に入った。

 探査機の人工知能は重力と大気の抵抗揚力を計算すると最適な面積に翼を開いた。
「鳥のように飛ぶってことを思い出したよ、大気があって翼で揚力に乗る」
 ドフォーヌ大佐が探査機のスピードを上げると、地上を眺めた助手席のメアリィア1等分析官が言った。
「素晴しいです、これだけ植物の繁栄している星はちょっと珍しい」
「ひゃっほーっ」
 ドフォーヌ大佐が探査機を横滑りさせて横九十度の態勢にしてはしゃぐと、助手席のメアリィア1等分析官が涙声で言った。
「大佐、気持ち悪いからまっすぐ飛んでください」
「失敬、君の重力耐性能力を忘れてた」
 そういうと重力に対してまっすぐに機を立て直した。しかし、天地が逆さまなので血が頭に集まり出す。
「ふざけないでください」
「わりぃな、久しぶりの揚力飛行だから感覚がな、今、直す」
 探査機は上下に大きく百八十度ターン、水平にも大きく百八十度ターンして上向き同方向になった。 

「約7千アルパン前方の緑の色がやや薄いところに降りてください」
「了解」
 探査機は広々とした草原の上で空中停止するとゆっくりと高度を下げて着陸した。
「なんだ、この大気は俺たちの母星に似てるじゃないか。気密服なしで歩けそうだ」
「だめですっ。もし危険なガスが発生したらどうするつもり?」
「ガスなんて俺を避けて通るさ」
 ドフォーヌ大佐はそう嘯いたが、制服の下の認識タグに埋め込まれたスピーカーが警告を発した。
「任務逸脱警告、任務逸脱警告、任務逸脱警告」
「うるさいな、一度言えばわかるよ」 
 ドフォーヌ大佐は渋々、メアリィア1等分析官同様に気密服にヘルメットを装備した。 二人はドアを開くと梯子を降りて地上に立った。

 ◇
 
「久しぶりの地面だな」
「この一面の植物は面白いですね。他の植物が殆ど侵生していない」
「よっぽど住みにくい土地なんだろ」
「いい勘かも」
 メアリィア1等分析官は背負ってきたボーリング銃の先端を地面につけると引き金を引いた。小さな衝撃音が響いた。彼女は銃の分析画面を注視する。
「755キュビットまで到達、深いですね、下は柔らかい砂のようです。なあんだ、深さ1キュビットほどにゲル状の化学物質層を確認。これは砂漠に作られた人工の草原ということです。もっとも化学物質はせいぜい二百年で劣化と予測」
「いきなり人工草原とは興ざめだな」
「でもいいじゃないですか、平和そうな星だもの」
「そうかね?」
 二人は再び探査機に乗り込み、星の大陸を飛行した。

 やがて大陸から離れた大きな島の洞窟に文明の遺跡を発見した。
 そのコロニーは楕円状の壁で包まれていた。ハッチを開けると800アルパンほどの空間に20キュビットほどの長さのカプセルがずらりと並んでいる。
 近づいてみるとどうやらカプセルの中に横たわるのはこの星の住人らしい。
「私たちそっくりですね」
「びっくりだな」
「こんなに似た宇宙人がいたなんて驚きです」
 その姿は大佐や1等分析官と同じに見える人種で男性も女性もいる。
「このカプセルは冬眠用か?」
「継続型生命維持装置が組み込まれてます。おそらくカプセルの中の人は天変地異によるシステムダウンは別として、テロメアの限界まで生きるでしょう」
「こんな棺桶の中で?」
「その方が文明の維持存続に都合がいいと判断したのかもしれません」
 ドフォーヌ大佐はカプセルの隅に浮き彫りになっているメーカーロゴをなぞった。
「古い文字がついてる、なんて発音するんだ?」
「そんな短い単語だけでは判断できません。こっちのマニュアルすべてを読み込んでみたら発音が推定できるかも」
 メアリィア1等分析官はカプセルの袖に乗せられていた分厚いマニュアルを立体スキャナーで一気に読み込ませた。
「分析結果が出ました、その文字の発音は、ト、ヨ、タですね」
「ふうーん、古風な響きだな」
「マニュアルの開発経緯によると、どうやら文明が崩壊しかけて、この生命維持装置で生き延びることに決めたようです」
「つまんないだろ、冬眠して生きるなんて」
「夢はリアルに見れるから、中の人は現実を生きてるか、夢を生きてるか区別がつかないはずだとマニュアルに書いてあります」
「なんだかなあ。
 しかし、待てよ。自分の好みの巨乳姉ちゃんと毎日エッチできるならそれもいいか」
「今の発言、セクハラです」
 ドフォーヌ大佐の認識タグのスピーカーが警告を発した。
「1等分析官の申告を認定。逸脱発言警告、逸脱発言警告、逸脱発言警告」
「うるせっちゅの」
 ひと通りコロニーの中を歩くと二人は探査機に帰った。

 ◇

 探査機の乗員は二人のみだ。
 操縦席の後方は居住区となっていて、真ん中のテーブルをはさんでシェードのついたベッドがあり、バストイレの共用個室がひとつある。
「大佐、ちょっと、またお湯を湯船の外にこぼしたでしょ」
 メアリィア1等分析官は個室から顔を出して怒るが、大佐は気にかけない。
「大丈夫だよ、床にこぼれた分はまた循環再利用される仕組みなんだから」
「いつも言うけど、足元がべちゃべちゃしてて気持ち悪いの」
「細かいな、それで君が風邪を引くってのなら気をつけるけどな、どうでもいいことに芽キャベツを炒めるなよ」
「たくっ、野蛮人」
「おたんこかぼちゃ」
 いつものように喧嘩が繰り広げられるが、認識タグのスピーカーが二人を宥める。
「どちらも任務に必要な優秀な人材、両者の建設的な和解を提案、両者の建設的な和解を提案、両者の建設的な和解を提案」
 そこで、二人はどちらからともなく暴言を収める。
 やがてメアリィアがバスローブをまとって出てくるとドフォーヌは謝る。
「ちょっと言い過ぎた」
「あ、私も」
 メアリィア1等分析官はそう言いながら照れくさそうにベッドに入りシェードをおろしてドライヤーで髪を乾かす。  
 ドフォーヌ大佐は半透明のシェードにぼんやりと映るメアリィアの姿を眺めると、自分もベッドに入って眠った。

 ◇

 翌朝、宇宙連合会議から特上級のアイコンのついた命令書が届いた。
「特上級なんて出港してから初めてだ」
「何かしらね」
 特上級の命令は暗号紙に印刷してみないと内容がわからない仕掛けになっている。
 プリンターから命令書を引き出すとドフォーヌ大佐は読み上げた。
「ドフォーヌ大佐、メアリィア1等分析官は直ちに探査を終了し」
 ドフォーヌ大佐は読むのをやめて、メアリィア1等分析官に命令書を手渡した。メアリィア1等分析官は続きを読んでショックを受けた。
「その星に永住し、その地で子孫の繁殖に努めるように命ずる、ってどういうことよ」
「俺と君でこの星に住んで子孫を増やせってことだろ」
「人権侵害も甚だしいわ。個人の人生をなんだと思ってんのよ」
「まったくだ。こうなったら連合を相手に一匹、じゃなかった二匹タイガーになって戦うか?」
「気分はそうなんだけど、戦うというより捕まってアルカトラズ星の処罰房に入れられるだけじゃないの?」
「まあな、こっちは探査機だから武装も線香花火みたいなレーザー銃一門だし、冷静に判断して勝ち目はない」
「仕方ないわね、涙を呑んで不潔な野蛮人の貴方と結婚してあげる」
「仕方ないな、俺は結婚相手は巨乳と決めてたんだが、特上級命令とあればおたんこかぼちゃでも我慢するか」
 ドフォーヌ大佐が言うと、メアリィア1等分析官は怒る。
「ひとをおたんこかぼちゃだなんて、そんな言い方ないでしょ」
「お前だって不潔な野蛮人って言ったじゃないか」
 するとそこで、認識タグのスピーカーが二人を宥める。
「どちらも任務に必要な優秀な人材、両者の建設的な和解を提案、両者の建設的な和解を提案、両者の建設的な和解を提案」
 二人は顔を見合わせて笑った。
 おもむろにドフォーヌ大佐が切り出した。
「あのな、実は出港前の訓練センターからその、なんだ、お前にひと目で惚れてた」
 メアリィア1等分析官は驚く。
「えっ、全然気づかなかった。いつも喧嘩ばかりだったから、好きなのは私の一方通行だとばっかり」
「何だよ、それ」
「もしかして、それをお見通しの人選だったりして」
「やられたな」
 二人が激しく抱擁したのは言うまでもない。

 かくして、ドフォーヌ・アダムとメアリィア・イブは彼らの先祖がそうであったようにその星の歴史を二人で再び始めることとなったのであった。  了




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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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