銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 不況のせいで動物園は危機に瀕していた。
 餌が減らされ、病気は治療されず、時には侵入者により誘拐され食糧にされる事件まで起きた。太平洋戦争の時、空襲の際に逃げ出すと危険だと殺された猛獣たちの例を見るまでもなく、人間たちはいつも身勝手だ。
 201X年、そんな動物たちを人間たちによる理不尽な被害、絶滅の危機から守るべく動物園保護法が成立、動物園防衛隊が組織されたのである。
 実はアメリカでも不況でアニマルポリスが大量解雇され日本でその就職口を提供してくれという外交圧力があったという生々しい側面もあるのだが、それはさて置き。

 これは伊賀忍者村における動物園防衛隊教育隊の特別訓練における女性二等哺乳類隊員横山悠の話である。なお動物園防衛隊では訓練生の階級は男女とも一律に二等哺乳類と呼ばれている。

 ◇

 忍者村での訓練は過酷だった。
 寒空の下、迷彩服に布一枚持たされ、石垣になりきれとか、地面に同化しろとか言われて、じっとして耐え続けなければならない。
 少しでも動いたりぼやいたりすれば、歩き回っている、顔はまあまあだが態度が鬼修羅という教官玉島の竹刀が振ってくる。ちなみに教官の階級は上等哺乳類である。
 手裏剣訓練ではなかなかきれいに的に刺さらず、ノルマを達成できない悠は昼ご飯抜きで手裏剣を投げ続けなければならなかった。

 しかし、一番過酷なのは水遁(すいとん)の術訓練だ。十メートルはある池の岸から岸までの平均深さ2メートルちょっとの水底を装備背嚢をつけ、動物園防衛隊の制式銃である麻酔銃を背負ったまま歩いて渡らなければならないのだ。しかも息継ぎは大き目の折り曲げストローだけだ。本当の忍者ではないのだから大変である。 
 それでも同僚の咲良、穂香、莉央たちはなんとか池の底を渡り終えて、向こう岸で座り込んで息をついている。

「よし、次、横山悠二等哺乳類、開始」
 教官の号令とともに、身長153センチの悠もここで負けてはいけないと、ジャバシャボと池に歩み入った。それに悠には他人より頑張る理由があった。教官玉島に惚れているのだ。

 池の底を半分ほど進んだ悠は足の下に岩があるのに気づき、ひと休みしようとした。
 ところが体重、もちろん水中だから普段よりずっと軽い体重だがそれをかけた途端、岩に苔がついていたのだろう、足が岩から滑ってしまい水を飲み込んだ。水が入ってくると悠はパニックになった。
 そこへいち早く気づいたのは教官玉島であった。
「いかん」
 教官玉島は颯爽と池に飛び込んだ。
 そして溺れている悠の背後にまわる。パニックの人間がつかみかかると救助者が泳げなくなるから、背後から助けるというのが水難救助の鉄則だ。
 教官玉島は悠の首を後ろから抱えるようにして陸に引き上げた。
 
 そして教官玉島は帽子と自分の首に巻いていたスカーフをまるめて悠の首の下に入れ、悠の鼻をつまんで口を近づけた。しかし、意識の残ってた悠は、好きな相手なのだからじっとしてればよいということに気づきもせず、反射的に教官玉島の顔を払いのけた。上体を崩した教官玉島は慌てて左手で悠の左胸を掴んでしまった。
「だ、大丈夫か、横山悠二等哺乳類」
「は、大丈夫であります」
 教官玉島はさりげなく左手を引っ込めた。
「無事でよかったな」
「はい」
 悠は襟を押さえて頷いた。 

 ◇

 忍者屋敷に隣接する宿舎。
 服を着替えた悠は教官室のドアをノックした。
「教官、横山悠二等哺乳類、入ります」
「よし」
 中から許可があり、悠は入室、敬礼をした。
 教官玉島は何かの書類を見たまま質問する。
「どうした?」
「教官はさっき、私に人工呼吸をされかけ私の胸をつかみましたよね」
「う、なんだ?」
 教官が目を上げた。
「日誌にセクハラと書いていいですか?」
 日誌は教官玉島の上官である教育隊特上等哺乳類の鮫虎管理官も目を通す。変なことを書かれると大問題なのだ。
 てっきり礼を述べに来たのだと思った教官玉島は立ち上がって怒鳴った。
「バカか、お前の命を助けてやってセクハラ呼ばわりとは天地がひっくり返るわ」
「だって、私が乳房を揉まれたのは初めてであります」
「いや、揉んではないだろ、偶然つかんだだけだ」
「偶然は重いセクハラであります」
「違うぞ。スケベで掴んだらセクハラだが、偶然は偶然で終わり」
「教官は勘違いしてます。偶然で掴まれるのはスケベのセクハラよりかなり悲しいセクハラなのです。まして私は貧乳で初体験、傷つきました。セクハラと書きます」
「自分で貧乳言うな。セクハラと書くな」
 教官玉島の顔に困惑が浮かんでいた。敵に隙が出来たと悠は勘違いした。
「ここで、すいとんの術という単語を繰り返してよいですか?」
「意味不明だが、発言を許す」
「すいとんの術。すいとんのジツ。すいとんのんジツ、ジツすいとるのん。実は、好いとるの、教官玉島雅人殿のこと。きゃはッ」
 悠は告ってやったと思うより、恥ずかしさの方がひどかった。おそらく今の自分は湯上りの仔豚のように赤くなってる筈だ。
 しかし、予想に反して教官玉島は反撃に出た。
「今の発言は俺に対するセクハラだな。彼女いない歴=在隊歴の上官の心を弄んだ」
「え、そうなんでありますか?」
 ということは6年ぐらいは彼女なしか、とにかく彼女なしだ。悠はやったと思った。いや、冷静に考えればすぐ振られるという結論かもしれないのだけど。
「俺の入隊動機は表向きは動物への愛だが、実態は失恋からの逃避だ」
 教官玉島はそこで目を伏せたかと思うと思い切り落ち込んだ。
「それはそれはご愁傷様で」
 悠は教官玉島の思いがけない告白に驚いたが、自分の意見も忘れてない。
「し、しかしひどいであります。自分は一号訓練塔から飛び降りるつもりで告ったのに、セクハラで片付けられるなんて」
 高さ30メートルの一号訓練塔からの降下は全訓練課程の最後に控える最も怖ろしい訓練として入隊直後から知れ渡っている。
「俺のセクハラとお前のセクハラでちゃらだ。絶対に日誌に書くなよ。書いたら不名誉除隊にしてやる」
 そんなことで悠の納得がいくはずもない。
「ずるい、断られるのを覚悟して勇気出して告ったのに返事がなくてセクハラだなんて、人権侵害です。最高裁に訴えてやる」
 教官玉島は怒鳴った。
「うるさい、口答えするな。そのまま足を踏ん張れ」
 教官玉島は開いた手を振り上げて悠の目の前にすごい勢いで踏み出してきた。
 ヒッ、ぶたれる。
 悠は思わず目をつぶった。
 しかし、手のひらは頬をぶつ代わりに悠の顎をそっと持ち、悠の唇に同質の柔らかいものがぺたっと触れた。
「あの、教官」
 悠が思わず聞くと教官玉島は答えてくれた。
「俺も貴様にすいとんの術だ」
「あっ」 
「今のはどっちがどっちにセクハラだ?」

 しばらく、悠と教官玉島は唇による相互セクハラに浸ったのであった。  了




 今回は長編書き終わった気の緩みで魔が差し、某リクエストに応えました(笑)
 どっかで聞いたような設定かもしれませんが、図書館シリーズは読んでません。男が買う内容としては微妙に高いし、図書館で予約しますかと聞かれ恥ずかしくて、いいですと断りましたから(笑)

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 f_02.gif プログ村

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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