銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。


「タツマキだあ」
「竜巻が来るぞお」
 自転車に乗った数人の小学生が口々に叫んで道を走ってゆく。

「うるさい、ガキどもだな」
 せっかくの日曜日、しかも天気は快晴だというのに。
 二階のベランダから妻の聖美も顔を出してきた。 
「竜巻なの?」
「いや、子供の遊びの話じゃないかな」
 そう言うと、妻は奥に引っ込んだ。

 こっちは娘のピンクの小さな自転車を磨き上げたところだ。ハンドルの前かごには女の子に人気らしいキューティーフラッシャーのイラストがはめ込んである。たぶんセーラームーンから派生したコスプレで戦隊モノの影響を受けつつ、猫のペットもメンバーに加えた正義の味方的少女たちのアニメと思われる。
 午前から自分の車を洗車していたら、3才になる娘の聖羅に
「パパァ、あたちのお車も洗ってくだしゃい」
 とお願いされちゃったのである。
 もちろん、わが天使の願いだから、早速取り掛かった。
 たいして汚れてなかったけれど、水洗いし、拭き取り、タイヤまでワックスをかけて磨き終わったところなのだ。
 
 そこへまた二階のベランダから妻の聖美が声をかけてきた。
「あなた、なんか西の空が急に曇ってきたわよ。
 ほんとに竜巻だと怖いから中に入って」
「まさか、そんなに急に来るかよ」
 そう言いながら西の空を見ると、さっきまで雲ひとつなかったところに確かに濃灰色の雲があり、かなり速い速度でこちらへ移動してくる。
「じゃあ、お前も念のためとりあえず地下室に入れよ」
 俺はベランダの妻に言って玄関の中に駆け込んだ。
 
 地下室といっても台所下の床下収納を広くしただけの三畳に満たない部屋だ。高さも1メートルちょっとしかないから立ったままではいられない。
 台所の床板を開いてはしごを使って降りると、非常用食糧と飲料水ペットボトルの入った段ボール箱が積まれている。あとは寝袋と簡易トイレ。そしてラジオとノートパソコンがある。
 降りてきた妻と娘も加わって三人で、膝を立てて座り向かい合う。

「ママ、ビスケットいたあ」
 娘は目ざとくクラッカーの缶を見つけてしまったのである。
「だめ、あれはいざという時のためにとってあるの」
「ママ、お腹、空いたあ」
 むずかる娘の声に俺が言う。
「いいじゃないか、少しぐらい。俺がまた補充しておくよ」
 すると妻は「まったくあんたは聖羅に甘いんだから」と言いながら、さっさと缶を開けると娘に与えるより早く自分でクラッカーに齧りつく。
 こうして三人で非常用のクラッカーを食べ出した。
 妻が飲料水を飲みながら文句をつける。
「こういう時のために、水だけでなくてジュースもあった方がいいわね」
「まあな、でも遠足じゃないんだぞ」
 妻は俺の言葉には答えず、思い出したように言う。 
「で、竜巻はどうなったんだろ?」
「待てよ、こういう時はネットで調べるのが一番だ」
 俺はノートパソコンを起ち上げて気象庁提供の地域別データを調べたが、この地域に異変が起きた跡は見られない。
「どうもガセみたいだな、まったく迷惑なガキどもだよ。
 念のため一応、様子を見てくるから待ってろよ」

 俺は地下室から台所に上がり、玄関の外に出てみた。
 ざっと見渡したところ竜巻が吹き荒れてるところはなさそうだ。
 しかし、玄関に引き返そうと体を回転させた時、異様な光景が目の隅から飛び込んで来た。

 家のすぐ真上の空中に巨大な上部緑で下が黄灰色の長い胴体がとぐろを巻いていたのだ。
 それは回転していて、長い角が二本見えたかと思うと、巨大なワニのような口が見え、鋭く血走った目がじろりと俺を睨んだ。
 竜だ。
 たしかに竜巻(タツマキ)。
 しかし、あのガキどもめ、この場合、発音はリュウマキだろ。それならこちらの準備が変わったかも。
 俺は余計なことに腹を立ててたぶん時間を0.4秒損した。
 なにしろ竜はものすごい速さで俺をめがけて口を伸ばしてくる。
 俺に迫りながらワニのような口が大きく開いた。口の内側にずらりと並ぶ尖った牙は俺の腕ぐらいの太さがある。開いた上顎の牙と下顎の牙の距離は2メートルぐらいありそうだ。
 あんなので噛みつかれたら、一瞬に骨ごと砕かれて死ぬぞ。
 俺は死の恐怖が電気のように全身を走るのを感じた。
 逃げろ。
 そう言い聞かせたのに、体の反応が遅い。あまりの恐怖に力が抜けてしまってる。
 逃げろ、死ぬぞ。
 やっとのことで一歩踏み出した。
 だめだ、この調子では玄関に入る前に殺やられてしまう。
 俺は咄嗟にそばにあった娘の自転車を盾にして目をつぶって身構えた。
 ゴォグォーン。
 形容しがたい轟音が響いて腕に強烈な振動がきた。だが、痛みはない。牙は俺の体にまでは達していないようだ。
 目を開けると娘の自転車がつッかえ棒になって竜の上顎と下顎を開いたままにとどめている。
 俺は急いで竜の牙で閉じられかけているその空間から地面に転げ出た。
 そして這うように玄関ポーチに入る。
 ドアを開けたところには妻が立ち、携帯で竜を撮影していた。
 俺が振り返ると、竜は半ばで鉄骨の折れかかった自転車を吐き出して、身を翻して空に戻ってゆくところだ。
 妻の後ろから娘が顔を出して、ぼろぼろにされ竜の涎だらけの自転車を見つけ、指さして「あたちのお車~」と号泣し出した。
 
「なんだよ、聖美、俺が殺されそうだったのに、呑気に携帯なんか」
「でも女の私に助けられる筈ないでしょ」
「それは、まあそうだが」
「それより、今撮影した動画、きっと高く売れるわ。本物の竜の動画なんて世界初じゃない? あなたも自力で脱出できたんだし、よかったじゃない」
「俺の自力じゃないぜ」
「えっ?」
 俺は泣いてる娘の体を持ち上げた。
「ありがとう、聖羅、お前のキューティーフラッシャーがパパを守ってくれたんだ。
 自転車なんかママが動画を売ったお金ですぐに十台ぐらい買ってくれるってさ」
 俺は自分が生きてる喜びごと娘を抱きしめた。  めでたし、めでたし





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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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